科(化)学系チート持ち転生者のお話   作:金属粘性生命体

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転生後闇堕ちの二手

 

 

 ゴミ山から拾い集めた戦利品を抱え、俺は(ねぐら)としている廃ビルの地下室へと戻ってきた。

 

 じめじめとしたカビの臭いが充満する、太陽の光すら届かない密閉空間。スラムの中でも特に劣悪な環境だが、人目につかないという一点においてのみ優れている。

 

 俺は持ち帰ったスクラップを床に広げ、すぐさま作業に取り掛かった。

 まずは、液漏れしたバッテリーと廃モーターのコイルを用いた高圧スタンガンの製作だ。

 

 前世の知識を引き出し、頭の中の設計図通りに回路を組み上げていく。だが、悲しいかな、素材の質が圧倒的に低すぎる。ショートを防ぐための絶縁材はゴミ山で拾った劣化したゴムの切れ端であり、導線も赤黒く錆び付いている。

 

 計算上、このスタンガンは数回……いや、精々(せいぜい)三回の放電で回路が焼き切れ、完全に稼働しなくなるだろう。

 

「まあ、使い捨ての護身用と割り切れば悪くない」

 

 俺は完成した不格好なスタンガンを腰に吊るし、残りの資材で塒の防衛設備を構築し始めた。

 

 入り口の扉には、開けた瞬間に上から錆びた鉄板が落ちてくる物理トラップ。さらに、床の特定の板を踏むと、先ほどのバッテリーの残渣から引いた導線がスパークし、侵入者の足に高圧電流を浴びせる簡易的な電気罠だ。

 

 どれも数回作動すれば壊れるようなチープな代物だが、このスラムに蔓延る知能の低いゴロツキどもを追い払うには十分すぎる防衛設備だった。

 

 次に俺が手を付けたのは、(てつ)パイプを用いた密造銃の製作である。

 

 スタンガンや罠はあくまで自衛の手段。俺がこれから行うのは、自らの生存圏を脅かす害虫の()()だ。そのためには、確実に相手の命を奪い取るための火力が不可欠だった。

 

 太さの合う二本の鉄パイプを組み合わせ、撃鉄には弾力を残した傘のバネを利用する。問題は火薬と弾丸だが、これもスラムのゴミ山から拾ったマッチの頭薬や、家庭用洗剤の残骸から抽出した化学物質を慎重に調合することでクリアした。

 

 弾丸にするための鉛の破片や太いボルトを加工するには、当然ながら熱源がいる。

 俺はゴミ山から拾ってきていた太めの空き缶と耐火煉瓦の破片を組み合わせ、部屋の換気口の下に極小の簡易炉(かんいろ)を作った。着火には、先ほどスタンガンに使わなかったもう一つの液漏れバッテリーの残滓を利用する。剥き出しにした導線をショートさせて火花を散らし、油の染み込んだウエスへと引火させるのだ。

 

 小さく燃え上がった火種に、よく乾燥した廃材や、燃焼温度を上げるためのプラスチック片をくべて火力を安定させる。

 

 赤々と燃える炎の中にボルトを突っ込み、熱で赤熱したところを、分厚い鉄の塊をハンマー代わりにして叩き潰す。

 鉛の破片であれば空き缶の中でドロドロに融解させ、固く踏み固めた土に開けた窪みへ流し込んで冷却し、冷えた後にヤスリがけをして強引に弾丸の形へと成型していく。

 

 一つ作るだけでひどく指が痛んだが、俺の心に躊躇(ちゅうちょ)は一切なかった。

 

 俺の脳内には、数百世紀先の宇宙戦艦の主砲の設計図すら眠っているというのに、今の俺が作れるのは、暴発の危険すらある原始的な鉄パイプ銃だけだ。その圧倒的な落差に、スラムの理不尽に対する冷たい憎悪(ぞうお)が静かに燃え上がっていく。

 

「……これで準備は整った」

 

 完成した一丁の密造銃と、数発の歪な手作り弾丸。

 たったこれだけの武装だが、俺にとっては十分すぎる『牙』だった。

 

 重たい雨が降りしきる夜。俺は塒を抜け出し、スラムの裏通りを音もなく歩いていた。

 

 狙うのは、数日前に俺を袋叩きにし、なけなしの食料を奪い去っていった三人のゴロツキだ。

 奴らの行動パターンと根城は、既に数日間の観察で完全に把握している。

 

 雨だれを避けるようにして崩れかけた廃屋の陰に身を潜めていると、やがて目的の三人組が、酒の入った瓶を回し飲みしながら下劣な笑い声を上げて歩いてきた。

 

 俺は感情の機微(きび)を一切排した冷徹な思考で、最適な射撃位置とタイミングを計算する。

 風向き、雨の音、奴らの視線、そして俺の密造銃の有効射程。すべてが完璧に合致した瞬間、俺は廃屋の陰から音もなく(おど)り出た。

 

「あ? なんだこのガキ……」

 

 先頭の男が俺に気づき、眉をひそめた瞬間。

 俺は男の顔面に向けて、躊躇いなく鉄パイプ銃の引き金を引いた。

 

 バァンッ!!

 

 湿った夜気を切り裂く、乾いた破裂音(はれつおん)

 手作りの歪な鉛弾は、火薬の爆発力に押し出され、男の右目を正確に撃ち抜いて後頭部へと貫けた。

 

「がっ……!?」

 

 男は悲鳴を上げる間もなく、崩れ落ちるように泥水の中に倒れ伏す。

 

「なっ!? てめえ!」

 

 残る二人が状況を理解し、怒声と共に懐からナイフを取り出そうとする。

 だが、遅い。

 一発撃てばリロードに時間がかかる密造銃を俺は即座に放り捨て、腰のスタンガンを引き抜いていた。

 

 突進してくる二人目の男の腹部にスタンガンを押し当て、スイッチを入れる。

 

「ぎゃああっ!!」

 

 規格外の高圧電流が男の神経を焼き切り、白目を剥いて痙攣しながら倒れ込む。同時にスタンガンからは嫌な焦げ臭い匂いが漂い、完全に回路が焼き切れて機能停止した。事前の計算通りだ。

 

「この、クソガキがあああ!!」

 

 最後の一人が、恐怖と怒りで顔を歪ませながらナイフを振り下ろしてくる。

 俺はそれを最小限の動きで躱し、壊れたスタンガンを男の顔面に全力で叩きつけた。

 

 鈍い音と共に男が怯んだ隙を突き、泥水に落ちていた先ほどの男のナイフを拾い上げる。そして、バランスを崩した男の頸動脈へ、淀みない動作で刃を突き立て、深く横へと引き裂いた。

 

 どくどくと溢れ出す鮮血が、冷たい雨に混じって足元を赤く染めていく。

 喉を押さえて泥の中でのたうち回る男を、俺は感情の抜け落ちた目で見下ろしていた。

 

 数分後、三人の男は完全に物言わぬ死体へと変わった。

 

 死という事象に対する恐れも、人を殺したという罪悪感も、俺の心には微塵も湧き上がってこない。ただ、「生存競争における障害を排除した」という客観的な事実があるだけだ。

 

 俺は手早く死体を漁り、奴らがため込んでいた紙幣、小銭、そして数日分の食料を奪い尽くした。

 

 血と泥に塗れた戦利品を抱え、俺は再び雨の降る闇の中へと歩き出す。

 

 これが、俺の選んだ戦い方だ。

 如何に知識があろうと、力が無ければ無力である。ならば、知識を使って力を生み出し、俺を脅かす()()どもをすべて駆逐するまでだ。

 

「さて……この資金で、次はもう少しマシな薬品を揃えるとしよう」

 

 俺の足取りは、スラムの泥濘を踏みしめながらも、極めて合理的で力強いものへと変わっていた。

 

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