スラムのさらに底辺、赤錆とカビの臭いが染み付いた地下の
そこは、この周辺の数ブロックを
薄暗い裸電球の下で、組織のリーダーである男は、苛立たしげに安葉巻の煙を吐き出した。
「……で? リックの馬鹿どもは、まだ戻ってこねえのか」
「へ、へえ。昨日、外縁部のゴミ山周辺でショバ代の回収に向かったきり、足取りが掴めません。いつもなら、とっくに
部下の報告を聞き、リーダーは舌打ちをして手元のグラスをテーブルに叩きつけた。
スラムにおいて、下っ端の三人が行方不明になること自体は珍しい話ではない。薬物の過剰摂取で野垂れ死んだか、質の悪い病気にかかって路地裏でくたばったか。命の価値など、ここではゴミ山に転がる空き缶よりも軽い。
だが、問題は彼らの命ではなく、彼らが持っているはずの
「あいつら、昨日の回収分で三千ペソは持ってたはずだ。俺たちの酒代と、上の組織に納める大事な上納金だぞ。それを持ち逃げしたか……あるいは、どこかの野良犬に噛み殺されて奪われたかだ」
「ど、どうしますか? 隣のシマの連中が、ちょっかいを出してきたんでしょうか」
「いや、あいつらがたかだか数千ペソで抗争の火種を作るわけがねえ。十中八九、外縁部をうろついてる命知らずのチンピラか、頭のおかしい薬物中毒者の仕業だろうよ」
リーダーは立ち上がり、酒場にたむろしている屈強な部下たちを見回した。
彼らはスラムの底辺とはいえ、錆びた山刀や、実弾の入った本物の拳銃で武装した「暴力のプロ」気取りの集団だ。
「おい、お前ら。五、六人見繕って、リックたちが消えた廃ビル周辺のブロックを洗ってこい」
「へい! 見つけたらどうします?」
「決まってんだろ。リックどもが生きてたら半殺しにして金を取り上げろ。もし誰かに殺されて金が奪われてたら……その野良犬の腹をかっ捌いてでも、三千ペソをきっちり回収してこい」
命令を受けた五人の男たちが、下劣な笑い声を上げながら立ち上がる。
彼らの目に、緊張感や恐怖は微塵もなかった。
相手が誰であろうと、数と武装で勝る自分たちが負けるはずがない。彼らにとって、これはちょっとした憂さ晴らしの『狩り』でしかなかった。
「任せてくだせえ。俺たちのシマを荒らしたバカに、スラムのルールをたっぷりと教えてやりますよ」
「ああ、頼んだぞ。さっさと片付けて、夜には美味い酒を飲ませろ」
リーダーは男たちを見送り、再び安葉巻をくわえた。
彼らは知る由もなかった。
その外縁部の廃ビルには、スラムのルールどころか、現代の物理法則すら嘲笑う
そして、獲物を狩りに行ったはずの彼ら自身が、ただの哀れなモルモットとして解体される運命にあるということを。