科(化)学系チート持ち転生者のお話   作:金属粘性生命体

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転生後闇堕ちの五手

 

 

 

 ノートパソコンの薄暗いモニターが、不規則なノイズと共に明滅(めいめつ)した。

 

 俺がジャンク品から組み上げた動体検知センサーが、廃ビルの周辺をうろつく複数の熱源を捉えたのだ。数日前に処理したゴロツキ三人組の仲間たちが、ようやく俺の(ねぐら)を見つけ出したらしい。

 

 画面には、赤錆びた山刀や、手入れの行き届いていない安物の拳銃を手にした男たちが五人、廃ビルの入り口に集まっている姿が映し出されていた。

 

「おや、お客さんか。予定より少し遅かったな」

 

 俺は冷たいコンクリートの床に寝転がったまま、手元の自作コントローラー(壊れたテレビのリモコンを改造したもの)を弄りながら独りごちた。

 

 恐怖や焦りは全くない。むしろ、自分が仕掛けた防衛設備がどこまで実戦で通用するのかという、技術者としての()()()()()()が胸を満たしていた。

 

「さて、スラムの害虫駆除、第一フェーズの開始といこうか」

 

 男たちは用心深く……というよりは、獲物を探す野犬のような粗暴な足取りで、廃ビルの一階へと足を踏み入れた。

 

 雨漏りで腐りかけた木材や、不法投棄されたゴミが散乱する薄暗い空間。彼らは懐中電灯の光を頼りに、消えた仲間の痕跡を探している。

 

「おい、気をつけろよ。床が抜けそうだぞ」

「ビビってんじゃねえよ。どうせヤク中のホームレスが勝手に死んでるだけだろ」

 

 下劣な会話が、あちこちに仕掛けた集音マイクを通して俺の耳に届く。

 

 俺はモニターを見つめながら、彼らの歩くルートを完璧に予測していた。入り口から真っ直ぐ進み、最も広い中央のホールを抜けるルート。そこには、俺が数日がかりで()()した特等席が用意されている。

 

 先頭を歩いていた大柄な男が、ホールの中心に差し掛かった瞬間。

 

 俺はリモコンのボタンを一つ、ポチッと押し込んだ。

 

 バキィッ!!

 

 けたたましい木材の破断音(はだんおん)と共に、男の足元の床がぽっかりと口を開けた。

 

「えっ……うわあああああっ!?」

 

 男の巨体が、重力に従って一階の床から地下空間へと真っ逆さまに落下していく。

 

 そこは俺の居住区ではなく、あらかじめ廃材の鉄パイプを斜めに削って作った、無数の()びた鉄串が上を向いて植えられている落とし穴だ。

 

 グチャリ、という生々しい肉の潰れる音。次いで、鼓膜を(つんざ)くような絶叫が廃ビルに響き渡った。

 

「ぎゃあああああっ!! 足が、俺の足がああああっ!!」

 

 見事なクリティカルヒットだ。鉄串は男の太ももや腹部を無慈悲に貫き、完全にその動きを封じている。

 

 モニター越しにその凄惨な光景を眺めながら、俺は冷静に罠の殺傷力を評価していた。五歳の貧弱な筋力で削った鉄パイプにしては、なかなかの貫通力である。

 

「おい! どうした!?」

「罠だ! 誰かが罠を仕掛けてやがる!」

 

 残された四人の男たちが、パニックに陥りながら穴の周囲を囲む。彼らは拳銃を構え、見えない敵に向かって闇雲に銃口を向けていた。

 

 だが、その位置取りこそが俺の()()のトラップへの誘導だ。

 

 彼らが穴を覗き込もうと密集したタイミングを見計らい、俺は二つ目のボタンを押した。

 

 ホールの上部、天井の鉄骨に固定されていたバケツの底が開き、中身が真下の男たちに向かって勢いよく降り注ぐ。

 

 それはただの水ではない。漂白剤と、スラムのゴミ山から抽出した強酸性の廃液を絶妙なブレンドで混ぜ合わせた、お手製の化学薬品(アシッド)だ。

 

「なんだこり……ぎゃあああああっ!!?」

「目が、目がぁあっ!! 熱い、痛ええええっ!!」

 

 酸の雨を頭から浴びた男たちが、顔を押さえてのたうち回る。皮膚を焼き焦がす嫌な臭いと、白煙がモニター越しにも伝わってくるようだった。

 

 強力な酸は瞬く間に彼らの視力を奪い、呼吸器を焼き、戦闘能力を完全に剥奪(はくだつ)した。

 

「うーん、ブレンドの比率は完璧だったな。即効性も申し分ない」

 

 俺はまるで理科の実験結果を観察するような冷徹な視線で、阿鼻叫喚の地獄絵図と化したホールを見下ろしていた。

 

 たった二つの仕掛け。材料費はほぼゼロのゴミ屑トラップで、五人のうち三人が完全に無力化された。圧倒的な知識による暴力は、物理的な数の優位など容易く覆してしまう。

 

 しかし、酸の直撃を免れた二人の男が、恐怖と激怒で顔を歪ませながら、ついに地下へと続く階段の扉を見つけ出していた。

 

「ふざけやがって……ぶっ殺してやる! 絶対に見つけ出して、八つ裂きにしてやるぞ!」

「この下にいんのか!? どこのクソ野郎か知らねえが、出てきやがれっ!!」

 

 彼らは銃を構えたまま、狂ったように地下への階段を駆け下りてくる。

 

 俺のいる安全地帯、地下室の鉄の扉まであと十メートル。

 

 だが、俺の心に焦りはない。むしろ、彼らが自ら()()()()()を省いてくれることに感謝すらしていた。

 

「さて、前座はここまでだ。お次はメインディッシュの毒見といこうか」

 

 俺はノートパソコンを閉じ、傍らに置いてあったペットボトル製のガスマスクをゆっくりと顔に被った。

 

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