科(化)学系チート持ち転生者のお話   作:金属粘性生命体

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 なんかランキング上に来てて草、なんでやねん


転生後闇堕ちの二十一手

 

 

 

 翌朝。スラムの東区画にある第七廃工場は、最悪の空気に包まれていた。

 

 麻薬部門のトップであるベンジャミンは、自身の工房(アトリエ)の中を落ち着きなく歩き回っていた。彼の目の前には、昨夜徹夜で仕込んだ自称『最高傑作』の粗悪な粉薬が、巨大な製造タンクの中にたっぷりと詰まっている。

 

「遅え……ザックの奴ら、まだ戻ってこねえのか。たかが五歳のガキ一匹殺すのにどんだけ手間取ってやがる」

 

 ベンジャミンが苛立ち任せに爪を噛んでいると、工場の重い鉄扉がギギィッと不快な音を立てて開いた。

 

「ベ、ベンジャミンさん! ザックが……ザックが帰ってきました!」

「おお! やっとか! で、あのクソガキの首は獲ってきたんだろうな!?」

 

 見張りの部下に連れられて入ってきたザックの姿を見て、ベンジャミンは思わず眉をひそめた。

 

 ザックの様子は、明らかに異常だった。

 一緒に行ったはずの仲間はおらず、彼一人だけ。しかも、まるで糸の切れたマリオネットのように足取りが覚束なく、目は虚ろで焦点が全く合っていない。

 

「おい、どうしたザック。他の奴らはどうした? まさかカルロスの部隊に見つかって、お前一人だけ逃げてきたんじゃねえだろうな?」

「……サイエンの首は……獲れなかった……。だが、代わりに……奴のラボから面白い薬を盗んできた……」

 

 ザックは機械のように抑揚のない声でそう呟くと、ポケットから『青い液体が入った小瓶』を取り出し、ベンジャミンに向かって差し出した。

 

 それは、ザック自身が「盗んできたと思い込まされている」だけの、ただの食塩水だったが、ベンジャミンはその青い色を見た瞬間に歓喜の声を上げた。

 

「おっ! でかしたぞザック! ガキの首は逃したが、こいつがあればあの『ブルー・ドロップ』の秘密を完全に暴ける! 俺の天才的な頭脳でリバースエンジニアリングしてやれば、あのクソガキの市場は完全に俺のモノだ!」

 

 ベンジャミンはザックの手から小瓶をひったくり、光に透かしてウキウキと眺め始めた。

 彼が完全に「青い小瓶」に気を取られ、ザックから目を離した、その数秒の隙。

 

 ザックは無言のまま、フラフラとした足取りで部屋の中央にある『巨大な製造タンク』へと近づいていった。

 そして、もう一つのポケットから、サイエンに持たされていた()()()()()が入った瓶を取り出し、その中身を躊躇いなくタンクの粉薬の山へとぶちまけた。

 

「……任務……完了……」

「あ? おいザック、てめえ今、俺のタンクに何を……」

 

 ベンジャミンが振り返り、怒鳴りかけようとした瞬間だった。

 

 ドクンッ、と。

 ザックの体内で、十時間のタイムリミットを迎えた『赤い核』が破裂した。

 

「ガ……ア、ァァァァァァァッ!!?」

 

 ザックは突如として眼球が飛び出しそうなほど目を見開き、口から凄まじい量の血と泡を吹き出した。

 全身の神経が完全に焼き切れる凄まじい激痛。彼は喉を掻きむしりながら床に倒れ込み、バタン、バタンと陸に上がった魚のように跳ね回った後、完全に絶命した。

 

「ひぃっ!? な、なんだ!? 急に死にやがったぞ!?」

「お、おい! タンクの中身もヤバいですよベンジャミンさん!」

 

 部下の悲鳴に釣られ、ベンジャミンがタンクを覗き込むと、そこには地獄が広がっていた。

 

 ザックがぶちまけた透明な触媒液が、ベンジャミンの作った粗悪な粉薬――大量の殺鼠剤や漂白剤などの不純物――と急激な化学反応を起こし、ドス黒いヘドロのような液体へと変質してブクブクと泡を立てていたのだ。

 そして、それと同時に。

 

「オエェェェェェッ!? な、なんだこの臭いはッ!!」

「ごほっ、げぇぇっ! 目が、目が痛えっ!」

 

 工場内に、この世の物とは思えない凄まじい悪臭が充満した。

 腐った生ゴミと大便を煮詰めて、さらに硫黄をぶち込んだような、人間の生存本能(せいぞんほんのう)を直接削り取ってくる最悪の激臭である。

 

 同じ頃。

 遠く離れた俺の巨大ラボでは、俺とレオンがモニター室のスピーカーから流れてくる『阿鼻叫喚の地獄絵図』の音声を、優雅な気分で鑑賞していた。

 ザックの服の襟元に仕込んでおいた極小の盗聴器が、ベンジャミンたちの嘔吐する音をバッチリと拾い上げている。

 

「おぇぇ……。聞いてるこっちまで吐き気がしてきそうッスよ、サイエンの坊主……。あれ、一体タンクに何を入れさせたんだ?」

 

 顔を青ざめさせているレオンに、俺はスピーカーの音量を少し下げて解説してやった。

 

「ベンジャミンの作った薬には、漂白剤やら劣化したバッテリー液やらの不純物がたっぷり入っているだろ? 俺がザックに持たせた触媒は、それらの不純物と激しく化合して、『強烈な催吐作用(さいとさよう)』と『スカトール(大便の臭い成分)』を爆発的に発生させる特殊なエステル化合物さ」

「だ、大便の臭い……!?」

「ああ。あいつのタンクに入っていた数万回分のクスリは、今や『摂取した瞬間、三日三晩自分の胃液と排泄物の臭いに悶え苦しむ最悪の汚物』にクラスチェンジした。おまけに工場全体にあの臭いが染み付いて、二度と使い物にならないだろうね。……これで、彼の市場価値は完全にゼロだ」

 

 俺がニッコリと笑って説明すると、レオンは心底恐ろしいものを見る目で俺を見つめた。

 

 銃弾を一発も撃つことなく、敵の主力商品を、物理的にも精神的にも二度と触りたくない()()()()()()()へと変質させる。

 これこそが、暴力などよりも遥かに残酷で確実な、理不尽極まりない科学の暴力だ。

 

『く、クソガキがああああああっ!! 俺の、俺の最高傑作がああああっ!!』

 

 スピーカーの向こうから、全てを失って発狂したベンジャミンの絶叫が響いてくる。

 

「さあ、これで彼のプライドも商品も消し飛んだ。完全に後がなくなった無能な猿が、最後にどんな自暴自棄なアクションを起こすか……。レオン、お前たちもそろそろ実戦の準備をしておいてくれよ」

「へ、へいっ! いつでもやれるように部隊を待機させときますッ!」

 

 俺の冷酷な指示に、レオンは弾かれたように敬礼した。

 彼らカルロスの部隊も、今や俺の命令で動く完璧な手足へと変わりつつある。

 

 盤面の駒は、俺の描いた図面通りに美しく動いている。

 底辺のプライドを砕かれた麻薬部門トップの命日が、いよいよすぐそこまで迫っていた。

 

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