科(化)学系チート持ち転生者のお話   作:金属粘性生命体

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転生後闇堕ちの二十三手

 

 

 

 

 スラムのさらに外側、悪臭漂う廃棄コンテナヤード。

 深夜の冷たい風が吹き抜ける中、ベンジャミンは一台の黒いバンの前で、震える手でアタッシュケースを差し出していた。

 

「……これで全部だ。ウチの組織の裏帳簿から引っ張り出してきた、正真正銘の全財産(ぜんざいさん)だぞ」

「確認した。確かに受け取ったぜ、麻薬部門のトップさんよ」

 

 アタッシュケースを受け取ったのは、タクティカルベストに身を包み、暗視ゴーグルを装備した完全武装の男だ。

 彼はスラムのゴロツキではない。金次第で汚れ仕事を引き受ける、プロの非合法傭兵(ようへい)部隊のリーダーだった。

 

「ターゲットは五歳のガキと、その取り巻きのギャング部隊だな? 安心しろ。スラムのチンピラがいくら集まろうが、最新装備の俺たちの敵じゃねえ」

「頼むぞ……! あのラボの機材を完全にぶっ壊して、ガキの首を獲ってこい! あいつさえ死ねば、俺の()()は再びスラムを支配できるんだ!」

 

 完全に狂気に呑まれたベンジャミンを残し、黒いバンは俺のラボへ向けて発進した。

 彼らプロの傭兵からすれば、スラムのギャングを制圧するのなど赤子の手を捻るようなものだ。誰もが、数十分後には終わる簡単な仕事だと信じて疑わなかった。

 

 一方、その頃。

 俺の巨大ラボでは、いつものように防弾ガラスに囲まれたモニター室で、俺とレオンがコーヒー片手にくつろいでいた。

 

『ブブッ、ブブッ』

 

 モニターの端で、外周に仕掛けておいた熱源探知センサーが赤い警告音を鳴らした。

 

「おや、いらっしゃったね。予定通りの強襲だ。……人数は十人。動きに無駄がないし、熱源の形からしてボディアーマーを着込んでいる。どうやらベンジャミンは、最後のなけなしの金でスラム外のプロを雇ったみたいだな」

「プ、プロの傭兵部隊だと!? マズいですよサイエンの坊主! ウチの部隊はスラムじゃ負け知らずですが、本職が相手じゃ……」

 

 レオンが慌ててインカムを掴もうとするが、俺はにっこりと笑って彼を制止した。

 

「慌てるなよ、レオン。ただの銃の撃ち合いをするなら、確かにプロには勝てないかもしれない。……でもね、俺たちは今日、銃なんていう野蛮で遅れた武器は使わないんだ」

 

 俺は椅子の後ろに置いてあった、プラスチック製の奇妙なケースをポンと叩いた。

 

「さあ、俺の可愛い手足たちに()()()()()()()を配ってあげてくれ。今日は楽しいペイントボール大会だ」

 

 数分後。

 ラボの入り口にある分厚いシャッターの前に、十人の傭兵たちが音もなく展開していた。

 

「……警備が薄いな。やはりスラムのギャングか。素人同然だな」

「リーダー、ブリーチングの準備完了しました」

「よし、閃光弾を放り込んで一気に制圧する。民間人はいない、動くものはすべて撃て」

 

 傭兵のリーダーがハンドサインを出し、部下の一人がシャッターの電子ロックにハッキングデバイスを接続する。

 ガコンッ、とシャッターが持ち上がり始めた瞬間、彼らは閃光弾をラボの中へと投げ込んだ。

 

 カァァァンッ!!

 

 凄まじい閃光と轟音が入り口付近を制圧する。

 完璧な突入タイミング。傭兵たちは暗視ゴーグルを素早く切り替え、アサルトライフルを構えてラボの中へと雪崩れ込んだ。

 

「クリア! ……なっ!?」

 

 だが、突入した彼らの目に飛び込んできたのは、怯えて逃げ惑うギャングたちの姿ではなかった。

 そこには、俺が支給した『特殊な遮光ゴーグル』と『防毒マスク』を完璧に装備し、まるでおもちゃのようなど派手な蛍光グリーンの(ランチャー)を構えたレオンの部隊が、横一列に並んで待ち構えていたのだ。

 

『さあ、ゲームスタートだ。撃ちまくれ』

 

 モニター室から俺の愉快なアナウンスが響き渡った瞬間。

 ポンッ! ポンッ! と、間抜けな音を立てて、レオンの部隊から無数のカプセル弾が撃ち出された。

 

「なんだ!? ペイント弾だと!? ふざけやがって、撃てェッ!」

 

 傭兵たちがアサルトライフルの引き金を引こうとした、まさにその時。

 彼らのボディアーマーや足元に着弾したカプセルが割れ、中から無色透明な液体が飛び散った。

 

 その液体は、空気に触れた瞬間に凄まじい勢いで膨張し、わずか一秒でカチカチの()()()()()()()()()()()()()へと変質したのである。

 

「な、なんだこれは!? うおっ、足が……足が床から離れねえッ!?」

「銃が、銃が固まって……くそっ、引き金が引けねえぞッ!!」

 

 突入してきた傭兵たちは、まるでもこもこの泡に包まれた雪だるまのような、あるいは巨大な鳥モチに引っかかった虫ケラのような、極めて滑稽な姿でその場に完全に固定されてしまった。

 彼らが誇っていた最新のボディアーマーも、高い貫通力を持つアサルトライフルも、指一本動かせないほどに硬化する特殊粘性泡の前では、文字通りただの重りでしかなかった。

 

「ひははははっ!! すげえ!! なんだこりゃあ、プロの傭兵サマが揃いも揃ってオブジェに早変わりだぜ!!」

 

 おもちゃのランチャーを撃ち切ったレオンの部下が、泡まみれで身動きが取れなくなった傭兵たちの顔をペチペチと叩きながら大笑いしている。

 

「お、おのれスラムのチンピラ風情が……っ! こんなふざけた真似をして、タダで済むと……」

「タダで済まないのはそっちだろ、プロフェッショナルさん?」

 

 スピーカー越しに、俺は愉快な声で言葉を投げかけた。

 

「高い金を払って雇われたんだろうけど、君たちみたいな有能な人材をこんなしょうもない小競り合いで浪費するなんて、本当に勿体ない話だ。……ベンジャミンの奴、投資のセンスが絶望的に欠けてるね」

 

 安全圏のモニター室で、俺は化学兵器の圧倒的な蹂躙(じゅうりん)劇を心ゆくまで楽しんでいた。

 銃弾など一発も使わずに、最新装備のプロを『おもちゃの銃』で完全無力化する。これぞ、理不尽極まりない科学の暴力である。

 

「さて、レオン。身動きの取れない彼らの武装を丁寧に解除してあげてくれ。せっかくのプロの装備だ、傷をつけずに回収すれば高く売れるからね」

「了解ッス、サイエンの坊主!! おいお前ら、プロの身ぐるみ剥がしてやれぇっ!」

 

 レオンたちが嬉々として傭兵たちの武装を剥ぎ取る中、俺は冷たい笑みを浮かべながらコンソールの画面を切り替えた。

 

 さあ、手駒をすべて失った無能な猿が、次にどんな絶望の表情を見せてくれるのか。

 『侵食の正当化』のための、最後の仕上げの時間がやってきた。

 

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