科(化)学系チート持ち転生者のお話   作:金属粘性生命体

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転生後七の手

 

 

 ナノマシン、今回作成するにあたり原始的な挙動しかできないがシンプルな行動には強い特性を持つ。所謂力仕事系には強く、掘削作業や一時的な装甲として扱ったりすることもできる。単純な命令しか聞かないがそれでも革新的な代物だ、マザーマシンに投入する材料により強度や機能が多少変わるが大抵の金属ならナノマシンに加工ができる。

 

 その上でナノマシンを用いて更なる次世代のナノマシンを作成する必要がある。

 

 自室のベッドに寝転がり、俺は改造スマホの画面に次世代型マザーマシンの設計図を描き出していた。

 

 現在稼働している第一世代はあくまで単純な物理作業に特化した使い捨ての工具に過ぎない。俺が次に作ろうとしている次世代型は、より精密な工作を可能とするためのものだ。だが、それは決して魔法のような万能の粒子ではない。極小の歯車、シリンダー、モーター、そして演算用の微細な回路を組み合わせた、あくまで「機械的な構造物」である。

 

 分子レベルで物質を削り出し、指定されたプログラム通りに組み立てる極小の工業ロボット。それが俺の想定する次世代ナノマシンだ。当然ながら物理法則を無視することはできず、熱による摩耗もあれば、可動部の物理的な劣化も起こる。万能ではないからこそ、それらを効率よく製造し、破損した個体を回収・再利用するための新たなマザーマシンと、綿密な制御用プログラムが必要不可欠だった。

 

 俺の脳内には、人類がこれから到達するであろう数百世紀分もの科学技術知識が刻み込まれている。

 

 別に誰かに頼まれたわけでも、世界を裏から操ってやろうというような大層な使命感があるわけでもない。ただ単に「作れるから作る」「楽しいから作る」、ただそれだけだ。圧倒的な技術の数々を現実に落とし込み、自分の手で形にしていく過程は、最高にスリリングで極上の遊びだった。何十万もの微小な機械部品が噛み合う複雑な構造を、俺はパズルを組み立てるような感覚で画面上に配置し続けた。

 

 ふと、一階からかすかな話し声が聞こえてきた。

 

 まな板を叩く音に混じって、両親がひそひそと何かを話している。俺はスマホの画面を暗号化してスリープ状態にし、そっとベッドを降りてドアに耳を押し当てた。

 

「ねえ、あなた……学の様子、やっぱり急に変わりすぎじゃないかしら。毎日が夢みたいで幸せなんだけど、時々すごく怖くなるの。また昔みたいに、急に静かになってしまうんじゃないかって」

「お前の気持ちはわかるよ、由紀江。俺だって同じだ。でも……あいつが俺たちに『おはよう』って笑いかけてくれた時のこと、思い出すだけで今でも涙が出そうになる。本当に、愛おしくてたまらないんだ。だから今はただ、あいつが元気になってくれた奇跡を信じて、思い切り愛情を注いでやろう」

 

 階段越しに聞こえてきたその言葉に、俺は小さく息を吐いた。

 

 無理もない。俺が五歳児としての意識を完全に覚醒させてから、すでに数週間が経過していた。転生した直後、数百世紀分の知識と創作上の技術という膨大すぎる情報量がこの肉体に馴染むまで、俺はずっと自我を表に出せず、まるで反応の鈍い人形のような状態だったのだ。

 

 両親からすれば、何年も感情を見せず言葉も発さなかった愛する息子が、数週間前に突然笑いかけ、今では流暢に話し、活発に動き回っているのだ。ただでさえ溺愛してくれている二人のことだから、その喜びは計り知れないだろう。だが同時に、またあの虚ろな息子に戻ってしまうのではないかという恐怖を、彼らはこの数週間、笑顔の裏にずっと隠し持っている。

 

 本当に、どこまでも温かくて、俺のことを第一に考えてくれる人たちだ。

 

 この二度目の人生は、俺の好きなように、ただ楽しく生きられればそれでいい。だが、この大好きな両親にこれ以上の心配をかけることだけは避けたかった。もう二度と、あんな不安に満ちた声を出させたくはない。

 

 俺は両手で自分の頬を軽く叩き、表情筋を緩めた。

 

 数百世紀先の科学技術を弄ぶ技術オタクとしての「俺」の思考を奥底に沈め、両親のことが大好きな普通の元気な男の子としての「僕」へとスイッチを切り替える。

 

 わざとバタバタと大きな足音を立てながら、階段を駆け下りた。

 

「お母さん、お父さん! 夕ご飯、なあに?」

 

 リビングに飛び込むと、キッチンに立っていた両親はビクッと肩を震わせ、慌てて俺の方を振り向いた。母さんは目元をエプロンの袖で素早く拭い、とびきり優しい笑顔を向けた。

 

「あ、学……! ええとね、今日は学の好きなハンバーグよ。いっぱい食べる?」

「ほんと!? やったぁ! 僕、お腹ペコペコだよ。お母さんのハンバーグ、世界で一番好き!」

 

 満面の笑みを浮かべ、キッチンのカウンターから身を乗り出す。大げさなほどに目を輝かせ、子供らしい無邪気さを全身で表現した。母さんは愛おしそうに目を細め、父さんはしゃがみ込んで俺を優しく抱きしめた。

 

「そうかそうか。学がいっぱい食べてくれると、お父さんたちも本当に嬉しいよ。……何か、手伝うことはあるか?」

「うん! 僕、お皿並べるよ! あとね、お箸も出せるし、冷蔵庫からお茶も持っていけるよ!」

「ほんと? 助かるなぁ。でも、危ないからゆっくりでいいんだぞ?」

 

 父さんの大きな手が俺の頭を愛情たっぷりに撫でる。

 

 俺は食器棚へと小走りで向かった。人形のように動かなかった息子が、自ら率先して家事を手伝おうとしている。食器を落とさないように、わざと少し危なっかしい足取りでテーブルへと運ぶ。完璧なバランス感覚で運ぶことなど容易いが、それをしてしまえば不自然さが際立ってしまう。あくまで「頑張っている可愛い五歳児」の挙動だ。

 

「見て見て、お母さん! きれいに並べられたでしょ?」

「ええ……ええ、とっても上手よ、学。本当に……ありがとうね」

 

 振り返ると、フライ返しを持ったままの母さんの瞳から、とうとう大粒の涙がこぼれ落ちていた。俺は小首を傾げ、わざと不思議そうな顔を作る。

 

「お母さん、どうして泣いてるの? 玉ねぎ切ったから?」

「ううん、違うのよ。玉ねぎじゃなくて……お母さん、学が可愛くて、嬉しくて泣いちゃったの。学がこうやって、元気にお手伝いしてくれるのが、夢みたいに幸せで……」

「夢じゃないよ! 僕、ずっと元気だもん。これからも、ずーっとお母さんとお父さんのそばにいて、いーっぱいお手伝いするからね!」

 

 そう言って、母さんの腰にぎゅっと抱きついた。小さな腕で、精一杯の力を込めて。

 

 父さんも立ち上がり、俺と母さんをまとめて包み込むように強く抱きしめてくれた。温かい体温、少し焦げたデミグラスソースの匂い、そして両親の涙の匂い。息が詰まるほどの深い愛情が、俺の全身を満たしていく。

 

 親を騙している罪悪感は少しだけある。だが、俺は絶対にこの平和で楽しい生活を維持し続ける。あんたたちが、もう二度と俺のことで不安な夜を過ごさなくていいように。俺の中にある途方もない知識も、趣味で作っているおもちゃみたいな超技術も、すべては完璧に隠し通してみせる。

 

「おいしい! お母さんのハンバーグ、最高だよ!」

「ふふっ、そう? たくさん作ったから、おかわりもあるわよ。いっぱい食べてね」

「うんっ! 僕、いっぱい食べて、早くお父さんみたいに大きくなるんだ!」

 

 夕食の席につき、不格好にフォークを握りながらハンバーグを口に運ぶ。

 

 表面的にはキャッキャと笑い声を上げながら、俺の思考の裏側では、純粋な好奇心を満たすための次世代マザーマシンの機械的な構造計算が楽しげに続けられていた。

 

 この温かい食卓と、俺の最高にエキサイティングな技術者としての遊び。その両方を完璧に両立させるための二重生活は、まだ始まったばかりだった。

 






なんか誤字修正してくれたようですけどSimulationの読み方はシミュレーションであってますからね
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