科(化)学系チート持ち転生者のお話   作:金属粘性生命体

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転生後闇堕ちの外伝 他から見た主人公

 

 

 

 

■ ボス・ガルシアから見た主人公

(評価:無尽蔵の富を生む『黄金のガチョウ』であり、底知れぬ『毒を持った化け物』)

 

 俺は、この巨大なスラムで自身の拳と暴力だけを頼りに生き抜き、血みどろの抗争を制して今の地位を築き上げた。

 『ボス・ガルシア』。この名前を聞けば、泣く子も黙り、裏社会のゴロツキどもは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。俺はスラムの王であり、この縄張りは俺の庭だ。俺の決めたルールが法律であり、俺のメンツを潰す者は例外なくドラム缶に詰めて海へ沈めてきた。

 暴力による恐怖の支配。それこそがギャングの絶対的な真理だと、俺は五十年の人生で信じて疑わなかった。

 

 だが、あの『五歳のガキ』が俺のVIPルームに足を踏み入れた日を境に、俺の築き上げた常識は根本から歪み始めた。

 

 最初は、カルロスがトチ狂ったのかと思った。西区画の経済をたった数日で崩壊させた未知の麻薬のクックが、おしゃぶりを咥えるような年齢の貧相な子供だったからだ。

 ベンジャミンもエドガーも腹を抱えて笑った。俺自身も、ただの悪い冗談だと鼻で笑い飛ばそうとした。

 

「誰かに言わされてあんな最高品質のクスリが作れるなら、今頃あんたの組織は世界を牛耳っているはずだが?」

 

 だが、あのガキ――サイエンの口から紡がれたその一言と、一切の感情を宿していない冷酷な瞳を見た瞬間、俺の背筋に冷たいものが走った。

 あいつは、俺というスラムの王を前にして、一ミリも怯えていなかった。むしろ、路傍の石っころか、檻の中の猿でも観察するような、絶対的な()()()の目をして俺を見下ろしていたのだ。

 

 そして、あいつが提示した『ブルー・ドロップ』の利益計算。

 原価一ペソ未満の色水が、千倍の値段で飛ぶように売れ、スラムのすべての富を吸い上げる。リカルドが弾き出したその天文学的な数字に、俺は自身の暴力がひどくちっぽけなものに思えてしまった。

 俺が何十人もの部下を失い、血と汗を流して数ヶ月かけて奪い取ってきたシマの利益を、あのガキは安全なラボで指先一つ動かすだけで、たった一日で稼ぎ出してしまう。

 俺は、暴力の王である俺は、その『圧倒的な金の力』の前に屈するしかなかった。自身のプライドを飲み込み、五歳のガキを特別顧問として迎え入れるという決断を下したのだ。

 

 だが、俺があのガキに本当の恐怖を抱いたのは、その莫大な利益を生み出す頭脳に対してではない。

 ベンジャミンが反逆した時の、あのガキの『異常なまでの冷徹さと政治力』に対してだ。

 

 ベンジャミンが外部の傭兵を雇ってラボを襲撃したと知った時、俺は怒りで我を忘れた。俺の財産を傷つけようとした裏切り者を、今すぐ八つ裂きにしてやろうと思った。

 だが、サイエンは違った。あいつは自身の命が狙われたというのに、一ミリも感情を乱さず、完璧な『証拠』だけを俺のテーブルに並べてみせた。

 そして、組織のルールと俺の怒りを巧みに誘導し、「ベンジャミンを始末する大義名分」と「自身の生体兵器の実験体として再利用する許可」を、極めて合法的に、俺の口から引き出してみせたのだ。

 

 相手を力でねじ伏せるのではない。相手を罠にハメて自滅させ、組織のルールを逆手にとって()()()すべてを奪い取る。

 それは、スラムのギャングなどという次元を遥かに超えた、国を動かす政治家や巨大企業のトップが使うような、血も涙もない悪魔の手法だった。

 

 今、俺の組織はかつてないほどの巨大な力と資金を手に入れている。

 あのガキがいる限り、俺たちはフィリピン最大のシンジケートに成り上がるだろう。だが、時折、強烈な不安に襲われることがある。

 俺はあの黄金のガチョウを飼い慣らしているつもりだが、本当は……俺自身が、あのガキの巨大な実験場という鳥籠の中で踊らされている『無知な猿』の一匹に過ぎないのではないか、と。

 

 サイエン・ローファー。

 あいつは俺に無限の富をもたらす最高のビジネスパートナーであり、同時に、いつか俺の寝首を理不尽な科学力で掻き切るかもしれない、最悪の化け物だ。

 だが、もう後戻りはできない。俺はこの甘い毒に、組織ごと完全に依存してしまったのだから。

 

 

■ アンダーボス・リカルドから見た主人公

(評価:常識の通じない『恐怖の神』であり、胃を破壊し尽くす劇薬)

 

「痛え……また胃の粘膜が剥がれ落ちるような激痛が……っ。おい、胃薬のストックはまだあるだろうな!?」

 

 俺はアンダーボスであり、この大規模ギャングの金庫番だ。

 ボスのガルシアが暴力でシマを広げ、俺がそのシマから吸い上げた金を管理し、税務署や警察の目を誤魔化して組織の血肉とする。それが俺の仕事であり、長年このスラムで生き抜いてきた自負でもあった。

 小銭を数え、みかじめ料の滞納を取り立て、時には悪徳警官に賄賂を渡す。ストレスの溜まる泥臭い仕事だが、俺の計算の範疇で組織が回っているうちは、まだ胃薬を数錠噛み砕けば耐えられるレベルだった。

 

 だが、あの『サイエン』というバケモノが組織に入り込んでから、俺の胃袋は完全に崩壊した。

 

 奴がもたらした『ブルー・ドロップ』の利益は、文字通り桁が違った。

 最初は、金庫に溢れ返る札束と小銭の山を見て、俺も狂ったように歓喜した。隣のシマのクラブハウスごと買い取れるほどの圧倒的な現金。金庫番として、これほど嬉しい悲鳴はないはずだった。

 だが、その歓喜はわずか数日で『絶望』へと変わった。

 

 金が、多すぎるのだ。

 スラムのジャンキーどもが持ち込んでくる汚い小銭の山を、ウチが持っているダミー会社や表の店舗の売上として偽装(資金洗浄)するには、物理的な限界がある。俺は毎日毎日、電卓を叩き壊しそうな勢いで数字と格闘し、税務署の目を誤魔化すために奔走しなければならなかった。

 

 さらに俺を恐怖させたのは、サイエンの『人間を人間として見ていない』冷酷な思考回路だ。

 

 隣接するギャングたちが客を奪われて激怒し、抗争になりかけた時。

 俺が胃を痛めて報告すると、あのガキは「彼らを俺たちの薬の販売代理店にしてしまえばいい」と平然と言い放った。

 敵対組織を、武力ではなく『経済と依存』で完全に傘下に組み込む。その悪魔的な発想に、俺は背筋が凍る思いだった。奴にとっては、人間の感情や組織のメンツなど計算式の一部に過ぎない。需要がないなら、薬で脳をハックして強制的に需要(買い手)を作り出せばいい。そうやって、市場そのものを自ら錬成してしまうのだ。

 

 俺は見た。あの巨大ラボで、スラムの底辺どもが防護服を着せられ、薬の快楽だけを報酬にして、文句一つ言わずに機械のように働き続けている光景を。

 あれはもはや工場ではない。人間という有機パーツを消費して金を産み出す、狂った永久機関だ。

 

 そして極めつきは、あのベンジャミンの末路だ。

 同じ幹部として席を並べていた男が、奴の怒りを買った結果、組織のルールに則って社会的に抹殺され、あげくの果てに「生体兵器の実験体(モルモット)」として生き地獄を味わわされている。

 

 俺は、心の底からサイエンが恐ろしい。

 ガルシアの暴力なら、土下座して靴を舐めれば許してもらえるかもしれない。だが、サイエンの『理不尽な科学力と合理性』の前では、謝罪や感情など一切無意味だ。計算式において「不要」と判断された瞬間、俺もベンジャミンと同じように、なんの感情も交えずにスクラップにされるだろう。

 

 もはや、この組織の真の支配者はガルシアではない。

 天文学的な金を生み出し、敵を指先一つで完全消滅させる、あの五歳の子供の皮を被った神――いや、悪魔だ。

 俺は胃薬をボリボリと噛み砕きながら、今日も金庫室で札束の山に埋もれている。この黄金のロケットから降りることは、もう一生できないのだという絶望と共に。

 

 

■ 戦闘部門トップ・カルロスから見た主人公

(評価:無聊を慰める最高の『相棒』であり、世界を呑み込む『歩く災害』)

 

 五十年の人生。その大半を、俺は裏社会の泥水と血の臭いの中で過ごしてきた。

 片目を失い、顔の半分に火傷を負いながらも、俺は数え切れないほどの修羅場を暴力でねじ伏せてきた。ギャングの抗争、裏切り、拷問。あらゆる残虐な行為を見てきたし、自らも手を下してきた。

 だからこそ、俺は最近、このスラムのチンピラどもの争いに酷く退屈していた。

 

 どいつもこいつも、短絡的な暴力とチャチなプライドだけで動く単細胞ばかり。ボスのガルシアでさえ、規模が大きくなっただけで、本質的には縄張りに固執するスラムの番犬と変わらない。

 そんな無聊を持て余していた俺の前に現れたのが、あの『サイエン』だった。

 

 西区画の地下酒場で、十数人の重武装した狂犬の部隊を前に、たった五歳の子供が起爆スイッチを片手に堂々と交渉を仕掛けてきた時の衝撃。俺は今でも、あの時の震え上がるような()()を忘れられない。

 ハッタリではない。五十キロの爆薬と化学兵器で、自分自身も含めたその場にいる全員を吹き飛ばすという選択肢を、奴は本当にただの「合理的な手段の一つ」として握りしめていた。

 俺が五十年かけて辿り着いた『死への達観』を、あのおしゃぶりを咥えたようなガキは、生まれながらに持っていたのだ。

 

 俺は迷わず、奴の頭脳に俺の武力と権力を全力で投資することに決めた。

 そして、その投資は俺の想像を遥かに超える極上のエンターテインメントとして返ってきた。

 

 ベンジャミンが暗殺者を差し向けてきた時の、あの完璧なカウンター。

 自身は安全なラボの椅子に座ったまま、侵入者を化学トラップで弄び、捕らえた男に『洗脳と遅効性の毒(二層構造のカプセル)』を仕込んでベンジャミンの工場へ送り返した。

 銃弾を一発も使わず、敵の懐深くに生きた時限爆弾を送り込み、主力商品をすべて『最悪の汚物』へと変質させる。

 暴力しか知らない俺たちギャングにとって、それは魔法よりもタチが悪い、理不尽極まりない科学の暴力だった。

 

 さらに、傭兵部隊が強襲してきた時の『超硬質ポリウレタンフォーム』と『平衡感覚破壊ガス』。

 最新装備のプロフェッショナルたちを、おもちゃのランチャーとガス一つで完全に無力化し、嘔吐物にまみれた滑稽なオブジェに変えてしまった。

 そして最後は、ベンジャミンの反逆の証拠を握り、ボスの怒りを利用して合法的に奴を社会抹殺する。

 

 最高だ。本当に最高にイカれてやがる。

 サイエンのやる事なす事すべてが、俺の想像の斜め上を行く強烈な『芸術』だった。

 

 俺はあの時、サイエンの身体の動きに違和感を覚え、「大人の頭蓋骨を素手で叩き割れる」という異常なステロイド強化の話を聞かされた。

 あのガキは、頭脳が異常なだけでなく、自身の肉体すらも実験台にして強制的に進化を遂げようとしている。もはや人間としての枠組みを完全に外れた、別の何かだ。

 

 俺は、サイエンの手駒として使われることに何の抵抗もない。

 むしろ、この巨大な『歩く災害』が、これからこのスラムを、いや、この国全体をどうやって侵食し、破壊し、作り変えていくのか。その特等席に座って眺められるなら、俺の命など安いものだ。

 俺にとってサイエンは、ただのクックでも顧問でもない。退屈な世界を終わらせてくれる、最高の相棒であり、俺が仕えるべき真の『王』なのだ。

 

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