科(化)学系チート持ち転生者のお話   作:金属粘性生命体

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転生後闇堕ちの外伝 他から見た主人公その2

 

 

 

 

■ 取立て管理部門トップ・ゴンザレスから見た主人公

(評価:暴力の無意味さを叩き込んできた『歩く災害』であり、絶対に逆らってはいけない絶対者)

 

 俺は「狂犬」と呼ばれていた。いや、今でもスラムの下っ端どもからはそう呼ばれて恐れられている。

 愛用の金属(きんぞく)バット一本で、俺は誰の頭だろうがカチ割ってきた。みかじめ料を渋る店主、シマを荒らすヨソのチンピラ、生意気な口を利くジャンキー。どんな理屈を並べ立てようが、俺がバットをフルスイングして膝の皿を砕いてやれば、どいつもこいつも涙と鼻水を流して地面に這いつくばる。

 このスラムにおいて、暴力はすべての答えだった。言葉よりも、金よりも、暴力こそが一番早く、確実に相手を屈服させる最強のツールだと信じ切っていた。

 

 だが、あの地下酒場での夜。俺のそのちっぽけな信念は、おしゃぶりを咥えたような五歳のクソガキによって、木端微塵に打ち砕かれた。

 

 俺はあの時、確かにバットを振り上げ、あの生意気なガキの頭をカチ割るつもりだった。

 だが、あいつは顔色一つ変えずに、親指にかけた起爆スイッチを見せびらかしてきた。五十キロの爆薬と、塩素ガス。俺たち全員を巻き込んで自爆するという狂気の選択肢を、まるで「今日の晩飯は肉にするか魚にするか」程度の気楽さで突きつけてきたのだ。

 ハッタリだと思いたかった。だが、あいつの底知れぬ真っ黒な瞳を見た瞬間、俺の全身の細胞が「こいつは本当にやる」と警鐘を鳴らした。

 

 俺の暴力は、自分の命を天秤にかける覚悟があって初めて成立する。

 だが、あいつは自分の命すらも「交渉のカード」として切り捨てていた。暴力で脅すことすら不可能な、文字通りの()()だった。

 俺がバットを振り下ろすより早く、俺たちの体は木端微塵に吹き飛び、スラムのゴミクズと混ざって消滅する。その圧倒的な『死の理不尽』を前にして、俺の狂犬としてのプライドは、キャンキャン吠えるだけのチワワに成り下がってしまった。

 

 それからのあいつの躍進は、もはや恐怖を通り越して吐き気を催すレベルだ。

 特に、あのベンジャミンの工場を『最悪の汚物』に変えた手口。あれを知った時、俺は本気で小便をちびりそうになった。

 自分は安全なラボから一歩も出ず、敵の送り込んできた暗殺者を『生きた時限爆弾』に洗脳して送り返す。銃弾を一発も使わずに、敵の商売道具を大便の臭いがするゴミに変え、組織での立場も、プライドも、すべてを根こそぎ奪い取った。

 あんなバケモノと、どうやって戦えっていうんだ。バットで殴りかかる前に、俺の肺の中は毒ガスで満たされ、内臓をドロドロに溶かされて笑い者にされるのがオチだ。

 

 カルロスさんは「極上の手駒だ」なんて笑っているが、俺にはとてもそんな風には思えない。

 あれは、俺たちギャングが扱っていい代物じゃない。スラムの泥水の中から突然変異で生まれた、暴力という概念を過去の遺物にしてしまう『新種の神様』みたいなもんだ。

 

 俺はもう、絶対にあのガキ……いや、サイエン様には逆らわない。

 バットを振る相手は俺が決めるんじゃない。あの青い悪魔が指差した先にあるゴミを、ただ言われた通りに片付けるだけの、従順な清掃員でいい。

 俺の命と尊厳が『五十キロの爆薬』や『大便の臭いのする毒薬』で消し飛ばされないなら、狂犬だろうがチワワだろうが、いくらでも尻尾を振ってやるさ。

 

 

■ 警備部隊長・レオンから見た主人公

(評価:常軌を逸した『マッドサイエンティスト』であり、意外と面倒見のいい最悪の雇い主)

 

「あー、サイエンの坊主。今日のコーヒー……じゃねえや、特製栄養剤、淹れときましたぜ」

 

 俺はカルロスの旦那の命令で、この最悪の化け物――サイエンの専属警備部隊の隊長を命じられた。

 最初は、なんでウチの精鋭部隊が五歳のガキのお守りなんかさせられなきゃならねえんだと、部下たちと酒場で愚痴をこぼしていたもんだ。スラムの最前線でドンパチやるのが俺たちの仕事だったのに、裏に引っ込んで工場の警備なんて左遷もいいところだと思っていた。

 

 だが、俺はすぐに思い知ることになった。

 ここが、スラムのどの抗争地域よりも血生臭く、そしてイカれた()()()であるということを。

 

 あのラボに仕掛けられた防衛トラップの数々。

 ちょっと壁のスイッチを押すだけで、致死性の毒ガスが噴き出し、床には一万ボルトの電流が流れ、強酸のシャワーが降り注ぐ。俺たち警備部隊の仕事は、「侵入者を撃ち殺すこと」じゃない。「サイエンの坊主のトラップで原型を留めなくなった侵入者のゴミ掃除」だった。

 服が擦れるだけで絶叫するガスを吸わされた傭兵の処理をした時は、三日連続で飯が喉を通らなかった。

 

 一番トラウマになっているのは、あのザックの一件だ。

 無造作にカプセルを飲ませて、大脳皮質を破壊して言いなりのロボットにしちまう。しかも十時間後には時限爆弾で即死するおまけ付き。

 あんなもんを見せられたら、俺たちだっていつ「不要な部品」として処分されるか分かったもんじゃない。毎日、坊主が淹れてくれる怪しげな薬を「ただのビタミン剤だよ」と渡されるたびに、俺たちは遺書を書く覚悟で飲み込んでいる。

 

 だが……おかしな話なんだが、俺たち部隊の連中は、次第にこの異常なガキに対して、奇妙な『愛着』と『忠誠心』を抱くようになっていった。

 

 その決定打になったのが、プロの傭兵部隊が強襲してきた時のことだ。

 俺たちは坊主から支給されたペイント弾みたいなランチャーで、ガチガチのプロ軍人をモコモコの泡まみれにして無力化した。あれは最高に痛快だった。スラムのチンピラが、科学の力一つでエリートのプロサマを一方的に蹂躙したんだからな。

 そして、人質に取られたウチの若いのが『平衡感覚破壊ガス』に巻き込まれた時。

 

『俺はちゃんと従業員の労災にも配慮するホワイトな雇い主だろう?』

 

 そう言って、坊主はちゃんと解毒剤(拮抗薬)の注射器を用意してくれていた。

 あのガキは、冷酷で、人間をモルモットとしか思っていないイカれたサイコパスだ。敵に回せば、尊厳から何からすべてを徹底的に破壊される。

 だが、その計算式において『有用な手足(味方)』と認識されている限り、奴は絶対に俺たちを無駄死にさせない。暴力で使い捨てるカルロスの旦那やガルシアのボスよりも、よっぽど合理的で、確実に俺たちの命を生存させてくれる()()()()()()なのだ。

 

「レオン、あのゴミどもを片付けておいてくれ」

「へいへい、了解ッスよサイエンの坊主。すぐに綺麗にしときます」

 

 最近じゃ、俺たちもすっかりこの狂った職場環境に馴染んじまった。

 防毒マスクをつけて、坊主のばら撒いた理不尽な化学兵器の片付けをするのも悪くない。少なくとも、鉛玉が飛び交うスラムの抗争でハチの巣にされるよりは、ずっと生存率が高いんだからな。

 

 サイエン・ローファー。俺にとってあいつは、絶対に敵に回してはいけない最悪の悪魔であり、同時に、機嫌を損ねない限りはこの上なく頼もしい()()()()()()だ。

 坊主が次に見せてくれる狂った発明品が、今は少しだけ楽しみになっている自分がいる。俺もすっかり、この毒気に当てられちまったらしい。

 

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