科(化)学系チート持ち転生者のお話   作:金属粘性生命体

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 明日明後日(4/12 4/13)は多分更新できないかも〜


転生後闇堕ちの三十四手

 

 

 

 隔離実験室の隣に併設された機械工作専用のオペ室。

 外付けの強化外骨格のデータ収集は順調に進んでいた。だが、外付けという構造上、どうしても物理的な限界が存在する。

 

 衣服や皮膚の上から筋肉の動きを補助するだけでは、装具との間に摩擦や僅かなズレが生じ、コンマ数秒のラグが生まれてしまう。また、フレームの重量や体積が人間の動作の邪魔になることも多い。

 真の戦闘用サイバーウェアを目指すなら、人体という脆弱なインターフェースそのものを削り落とす必要がある。

 

「さて、ここからが本番だ。外付けのオモチャ遊びは終わりにして、肉体に直接機械を埋め込む研究に移行しよう」

 

 ガラスの向こう側の無菌手術室。チタン製の拘束台には、新たな検体が縛り付けられている。麻薬の借金で売られてきた男だ。

 彼は恐怖で目を見開いているが、首から下の右半身はピクリとも動かない。

 

「無麻酔で暴れられて、精密な切削ラインがズレたら素材の無駄になるからね。今回は加工部分である右腕から肩にかけての運動神経と痛覚だけを、特殊な薬で完全に遮断してある。脳はハッキリと起きているから、中枢神経からの信号はクリアに読み取れるというわけだ」

 

 タブレットを操作し、自動制御のレーザーメスを起動する。

 赤い光線が、男の右肩から一直線に皮膚と肉を焼き切っていく。男は自分の右腕が丸ごと切断されていく光景を、痛みを感じないまま、ただ目を剥いて見つめることしかできない。心理的な恐怖としては、無麻酔よりもこちらの方がずっと効果的だろう。

 

 腕を切断し、神経の束をむき出しにして、そこにチタン合金製のジョイントと生体接続用の端子を直接埋め込む。

 そして、あらかじめ組み上げておいた無骨な機械の義腕を、男の肩のジョイントに接続した。

 

 ガコンッ、という重い金属音が鳴り、神経を繋ぐ微細なワイヤーが自動で生体組織に食い込んでいく。

 

 直後、男の身体が海老のように跳ね上がった。

 

「が、はっ!? あ、ガ、ガガガガッ……!」

 

 男の目は白黒に反転し、口から大量の泡を吹き出した。麻痺させていたはずの右腕が、本人の意思とは無関係にメチャクチャに暴れ回り、拘束台をガンガンと殴りつけている。

 

「ふむ。激しい拒絶反応だ。中枢神経と機械の直結による情報量のオーバーフロー。それに、免疫系がチタン合金の端子を強烈な異物として攻撃している」

 

 タブレットに弾き出されるエラーログの山を眺めながら、冷静にデータを記録していく。

 生きたままの手足を切り落とし、機械を埋め込む。当然ながら、人体はそれを容易には許容しない。術後の感染症、神経の壊死、拒絶反応による発熱とショック死。課題は山積みだ。

 

「やはり、神経直結型のインプラントは危険度が高すぎる。定着率を上げるための免疫抑制剤や、脳の負荷を和らげる制御薬の開発が急務だな」

 

 もがき苦しんでいた男は、わずか数分で脳の血管が焼き切れ、ピクリとも動かなくなった。

 また一つ、貴重なデータを残して素材がゴミへと変わった。

 

 スピーカー越しに、防護壁の外で警備に当たっているレオンの息を呑む音が聞こえる。

 

「おい、レオン。見ているか」

『……あ、ああ。見てるッスよ、サイエンの旦那。またすげえエグいことやってんな……』

 

 レオンの声は、恐怖と畏敬がないまぜになって震えていた。

 

「だから言っただろう。こんな生存率の低い、欠陥だらけの埋め込み手術を、カルロスさんの大事な部下に施すわけにはいかないってね。お前たちには、絶対に皮膚の下に機械を埋め込むような真似はさせない」

『旦那……』

 

 通信の向こうで、レオンが安堵と感謝の入り混じったような、重い溜め息をつくのが分かった。

 決して危険な実験の被検体にはしないという約束。それをこうして残酷な失敗例を見せつけることで何度でも強調し、彼らの忠誠心を磐石なものにしていく。

 

「とはいえ、収穫ゼロというわけじゃない」

 

 焼却炉へ運ばれていく検体を一瞥し、別のモニターに視線を移す。

 

「この失敗データを反面教師にして、出力を極限まで抑え、神経への直結を避けた安全な義肢の設計図を引くことができる。手足を失った欠損者向けの、高性能な義足や義腕の基礎モデルだ」

 

 軍事用の危険なサイバーウェアを作る過程で生じる膨大な失敗データ。それらを綺麗にフィルタリングし、安全基準を満たした部分だけを抽出して外売りの商品ラインに乗せる。

 これなら、拒絶反応のリスクも極めて低く、あのフロント企業であるサグラダ・メディカルの新たな主力商品として世界中に売りさばくことができるだろう。

 

「裏では血みどろのモルモット実験。表では希望の医療メーカー。最高に合理的で、笑いが止まらないビジネスモデルだ。……これじゃあ、まんまバイオハザードのアンブレラ社だな」

 

 無機質なラボの冷たい照明の下で、前世の記憶にある巨大悪徳企業を思い出しながら、静かに喉の奥で笑い声を転がした。

 

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