なんかいつの間にか日間ランキングの上位の方に来てて草なのだわ、恐らく19日以降は少し投稿頻度上がるというか元に戻るかも?
巨大ラボの化学調合室。
遠心分離機にかけた琥珀色の劇薬から、致死性の成分と肉体的な依存物質を徹底的に除去していく。抽出されたのは、神経伝達速度を一時的に引き上げる上澄み液だけだ。
これを、経皮吸収型の特殊なジェルシートに染み込ませる。
危険なサイバーウェア用の制御薬から生まれた、安全な副産物である。
完成した数枚のパッチをテーブルに放り投げると、向かいに座る金庫番のリカルドが怪訝そうな顔でそれを摘み上げた。
「……歩行補助フレームの次は、湿布薬か?」
「首筋に貼るだけで中枢神経に作用して、集中力と反射速度が上がる合法パッチだ」
各国の厳しい規制当局が成分表を解析しても、結果はただの少し効き目の強い栄養補給パッチとしか出ない。そういうデチューンを施してある。
「テスト勉強に徹夜する学生から、長距離トラックの運転手まで、あらゆる層がターゲットになる。ちょっとすごいエナジードリンクみたいなものさ」
「なるほど。依存性のない合法品なら、堂々と世界中の薬局で売り捌けるってわけだ」
リカルドが感心したように頷き、パッチをアタッシュケースへとしまった。
肉体的な依存性がないというのは事実だ。
だが、一度このパッチを使って限界以上の全能感を味わってしまえば、精神は二度と元の場所には戻れない。
薬効が切れた後の、本来の自分の鈍さと遅さに耐えきれなくなるのだ。身体は依存しなくとも、心はその加速を求めて狂い始める。麻薬よりもタチの悪い、合法的な精神依存の完成だった。
数週間後。マニラ首都圏にある工科大学の学生寮。
電子工学を専攻するレイモンドは、学内の売店で常に品薄状態の新作『ニューロ・フォーカス・パッチ』を手に入れ、自らの首筋に貼り付けた。
ヒヤリとした冷感が皮膚を突き抜ける。
直後、視界の端のわずかなブレが消失した。
窓の外から聞こえていた車のエンジン音や雑踏のノイズが、ピタリと遠のいていく。
まるで、世界全体の再生速度が一段階落ちたかのようだった。
レイモンドは通話アプリで繋がっている友人たちに向け、震える指でキーボードを叩いた。
『おい、これヤバいぞ。ただの合法パッチなんかじゃない。世界がスローモーションに見える』
『俺もさっき貼ったけど、なんだこれ。思考がクリアになるとかそういうレベルじゃねえ。……挙動がおかしすぎるだろ』
友人たちの反応は、驚愕と不信に分かれていた。
サイバーパンクやSFゲームを愛好する彼らにとって、この強烈な知覚加速はあまりにも見覚えがあったのだ。
『おい、これ……完全にサンデヴィスタンの入り口じゃないか……!』
誰かが書き込んだその単語に、通話チャンネルが一気に沸騰する。
歩行補助という名目で軍事用外骨格の基礎をバラ撒き、今度は神経加速のプロトタイプを市販し始めた謎の企業、サグラダ・メディカル。
『絶対に裏にヤバい天才がいる。この国の技術ツリー、明らかにおかしい方向にバグり始めてるぞ!』
熱狂するオタクたちの声は、奇跡のパッチを称賛する一般大衆の声に呆気なくかき消されていく。
誰も気づかない。
世界を狂わせる未来技術の断片は、合法的に、そして静かに人々の日常へと溶け込んでいく。