巨大ラボの地下に増設された射撃訓練場。
鼓膜を叩くような激しい銃声が鳴り響いているが、射手の姿勢は岩のように微動だにしない。
「すげえ……。アサルトライフルをフルオートで撃ち切ったのに、銃口が数ミリも跳ねねえぞ」
「当たり前だよ。その右腕のサポートフレームが、反動のエネルギーを物理的に相殺して逃がしているんだから」
呆然と自身の右腕を見つめるレオンに、特注の防音イヤーマフを外しながら声をかける。
彼らが装着しているのは、先日サグラダ・メディカルの発表会でお披露目されたばかりの『産業用軽量外骨格』だ。ただし、モーターの出力制限を解除し、銃器の反動制御と戦術動作に特化させた軍用カスタマイズ版である。
皮膚の下に機械を埋め込むような野蛮なインプラントではなく、服の上から着脱できる極めて安全な外付けモデルだ。
「それに、すごいのは腕力だけじゃないぜ」
レオンの隣で銃を構えていた部下の一人が、顔に装着したゴーグルを指差した。
「さっきから、レオンさんがどこを見て、どの標的を狙っているのかが、俺の視界にも赤いマーカーで共有されてる。おまけに壁の向こうの熱源まで丸見えだ。……反則だろ、これ」
「視界共有による部隊間のネットワーク・リンクと、熱源探知機能付きの暗視ゴーグル。暗闇での連携なら、アメリカの特殊部隊でも君たちには勝てないよ」
得意げに胸を張り、訓練場の机に広げた残りの装備品を軽く叩く。
そこには、一見するとただの黒い長袖シャツのようなインナーと、手のひらサイズの医療用パッチが並べられていた。
「このインナーには微小なセンサーが編み込まれていて、着ている人間の心拍数や血圧、負傷箇所をリアルタイムで俺のラボへ送信し続ける。もし銃弾を貰ったら、すぐさまその止血フォームを傷口に押し当ててくれ。数秒で泡が硬化して、致命傷でも強引に血を止めるから」
「……」
「どうしたの、二人とも。あまりのオーバースペックに声も出ない?」
呆けたように口を開けているレオンたちを覗き込むと、彼は深く息を吐き出し、乱暴に頭を掻き毟った。
「いや、そりゃ声も出ねえよ。俺たちはスラムの薄汚いギャングだぞ。それがなんで、SF映画のエリート部隊みたいな装備で身を固めてるんだ」
「あの薬漬けのバケモノどもの相手をさせるのに、旧式のライフル一本じゃ割に合わないでしょう。君たちは俺の護衛なんだから、最高水準の安全を保証するのは雇い主として当然の義務だ」
机に腰掛け、足をぶらぶらと揺らしながら告げる。
レオンは複雑そうな顔でサポートフレームの金属装甲を撫でた。
「……前は、街で暴れているあのバケモノたちを見て、いつか俺たちもああやって腕を切り落とされて、薬漬けの兵器にされるんじゃないかって、本気でビビってたんだぜ」
「バカ言っちゃいけない。あんな欠陥だらけの試作品、カルロスさんの大事な部下に使うわけがない」
肩をすくめ、はっきりと明言する。
「いいかい。人体に直接手を加える初期実験や、暴走リスクのある危険な技術は、全部『外部のゴミ』でテストする。君たちに配備するのは、完全にバグを取り除いて、安全性と対処マニュアルが確立された完成品だけだ」
身内には絶対の安全と、洗練された力を。
敵対者と債務者には、理不尽な実験と終わらない薬物依存の地獄を。
その残酷なまでの扱いの差は、レオンたちの心に「この五歳児には絶対に逆らってはいけない」という恐怖と同時に、「味方でいる限り絶対に守られる」という狂信的な安堵を植え付ける。
「お前たちはただのモルモットじゃない。優秀な戦力を雑に壊すほど、俺は非合理的な人間じゃないからね」
「……ああ。恩に着るぜ、サイエンの旦那」
レオンが深く頭を下げ、他の部下たちもそれに倣って無言で頭を垂れた。
その忠誠心はもはや、麻薬王カルロスに対するそれに匹敵するほど強固なものに仕上がっている。
彼らの姿を見下ろしながら、喉の奥で静かに息を漏らす。
恩人の部下を、使い捨ての実験動物と同じようには扱えない。
それは冷徹な合理性から導き出した答えであると同時に、前世の倫理観がギリギリのところで機能している証拠でもあった。身内を守るためなら、スラムの住人がどれだけ血を流そうが構わない。そうやって極端な線引きをしなければ、自分の中の『何か』が決定的に壊れてしまうと分かっているのだ。
「さて。装備の使い方が分かったら、さっそく実地テストといこうか」
微かな自己嫌悪を振り払うように、パンッと軽く手を叩いた。
「今日の夜、また少し元気のいい試作品が街に逃げ出す予定になっているんだ。新しいオモチャの使い心地、存分に確かめてきてよ」
「了解した。……おら、行くぞお前ら! 旦那の最高のお節介に、最高の仕事で報いてやれ!」
レオンの檄が飛び、黒い最新鋭の装備に身を包んだ部隊が、足並みを揃えて地下訓練場を出ていく。
その頼もしい背中を見送りながら、次の商品展開のスケジュールを計算し始めた。
話が終わらねぇ、他の作品も書きたいんだけど……いいかな……