科(化)学系チート持ち転生者のお話   作:金属粘性生命体

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転生後闇堕ちの四十一手

 

 

 

 巨大ラボのメインコンソールルーム。

 壁一面を覆う大型モニターには、『サグラダ・メディカル』の特設サイトへのアクセス数と、事前予約の数字が恐ろしい勢いで跳ね上がっていく様子が映し出されていた。

 

 革張りのソファに深く腰掛け、モニターの数字を眺めながら喉の奥で愉快に笑う。

 

「いやはや、すさまじい反響だね。発表会からまだ二十四時間も経っていないのに、サーバーが悲鳴を上げているよ」

 

 向かいの席では、金庫番のリカルドが注文書のデータが入ったタブレットを抱え、興奮で顔を紅潮させていた。

 

「当然だ。手足の欠損を完璧に補う義手(ぎしゅ)と、百キロの鉄骨を素手で運べる外骨格だぞ。世界中の医療機関や建設会社が、目の色を変えて群がってきやがる。……で、結局どれを第一号商品として市場に流すんだ?」

「結論から言うと、軍事用や警備用のアピールは一切しない。まずは医療用義肢と産業用軽量外骨格の二本柱を、徹底的にクリーンな福祉と労働支援の器具として売り出す」

 

 ストローでオレンジジュースを啜りながら、即答する。

 

「なんだ、せっかくの圧倒的な技術だっていうのに。各国の軍隊や傭兵崩れに兵器として売りつければ、今の十倍の値段でも飛ぶように売れるはずだぞ?」

「リカルドさん、それは三流の悪党の考え方だよ。最初から牙を剥き出しにして軍事市場にしゃしゃり出れば、絶対にどこかの大国の諜報機関や軍需産業に目をつけられて、面倒な横槍を入れられる」

 

 タブレットの画面を切り替え、平和的な笑顔で握手をする医療従事者や作業員のフリー素材を表示させる。

 

「まず得るべきなのは、目先の小銭じゃない。『サグラダ・メディカルの技術は、人類を豊かにする奇跡だ』という、絶対的な社会的信用とブランド力だ。福祉や労働環境の改善に貢献する素晴らしい企業。そうやって世界中から()()()()を被った絶賛を集めておけば、誰も裏の顔を疑えなくなる」

「なるほどな。正義の味方の皮を被って、まずは市場のど真ん中に堂々と陣取るってわけか」

 

 リカルドがニヤリと悪い笑みを浮かべ、タブレットを指先で弾いた。

 

「それに、産業用外骨格が市場に溢れれば、警察や消防も災害救助用とかいう建前で必ず導入したがるはずだ。一度その便利さを味わわせれば、あとはこっちのペースで『より高出力な治安維持モデル』を売り込める」

「ご名答。相手から『どうか売ってください』と頭を下げてくる状況を作るのが、一番スマートな商売だからね。……それにしても、素晴らしい利益率だ」

 

 画面に表示された製造コストと販売価格の差額を見て、口角が自然と吊り上がる。

 

 普通の企業なら数十億ドルの予算と長い年月をかけるであろう研究開発費が、この帳簿上ではほぼゼロに等しい。

 なぜなら、その膨大なコストはすべて、スラムの底辺のジャンキーや敵対するギャングたちの命と肉体で支払われているからだ。彼らが泣き叫びながら腐り落ちていった死体の山の上に、この美しく洗練されたクリーンな商品が成り立っている。

 

「初期ロットの製造ラインは、すでにカルロスさんの部隊が警備する地下工場で稼働を始めている。世界をひっくり返す魔法のアイテムの初出荷だ。リカルドさんは表の顔として、最高に胡散臭い笑顔でメディアに対応してきてよ」

「任せておけ。スラムのゴロツキが、世界の救世主様として振る舞ってやるさ」

 

 高笑いするリカルドを見送りながら、手元のモニターに視線を戻す。

 

 画面の端では、路地裏に放った試作品の暴走データが静かに処理され続けている。

 表社会は希望と奇跡に熱狂し、裏社会は絶望と理不尽な暴力に沈んでいく。そのすべてを、盤石なシステムとして完璧にコントロールする。

 

「さあ、世界中のお金持ちども。自分の首を絞めるための最高級の鎖を、争って買い求めてくれ」

 

 冷たい照明の下、未来の技術を詰め込んだ頭脳をフル回転させながら、愉快でたまらないといった様子で一人ごちた。

 

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