科(化)学系チート持ち転生者のお話   作:金属粘性生命体

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転生後闇堕ちの四十二手

 

 

 

 巨大ラボの最奥に設けられた、カルロス専用のVIPルーム。

 最高級の葉巻の香りが漂う部屋のテーブルに、黒塗りのアタッシュケースをドンと置いた。

 

 中に入っているのは、サグラダ・メディカルの表のカタログには絶対に載らない、一点物の特注品たちだ。

 

「……こいつはまた、随分と値が張りそうなオモチャだな」

「オモチャじゃないよ。カルロスさんのための、特注の生存パックさ」

 

 ケースの中身を一つずつ取り出し、説明を始める。

 まずは、仕立ての良いイタリア製の高級スーツ……に見せかけた、極薄の軽量防護服だ。

 

「裏地に特殊な防弾繊維と、非ニュートン流体の衝撃吸収ジェルが編み込んである。至近距離からアサルトライフルで撃たれても、肋骨にヒビが入る程度で済むよ。ついでに、姿勢制御と反動を殺す極小の射撃補助フレームも仕込んであるから、大型の銃を片手でフルオート連射してもピタリと狙いが定まる」

「ほう。こいつはありがたい。最近はどうも肩が凝ってな」

 

 葉巻を咥えたまま、カルロスがスーツの生地を興味深そうに撫でる。

 

「次はこれ。カルロスさんの左目に入っている義眼の、アップデートパーツだ」

 

 小さなカプセルに入った、仄かに青光りする眼球型のデバイスを差し出す。

 

「視神経に直接繋ぐことで、ラボのデータベースと常時リンクする。熱源探知、暗視機能はもちろん、敵の銃口の向きから弾道を予測して、視界に赤いラインで表示する機能付きだ。これで、後ろから不意打ちされる心配もなくなる」

「……ハッ。俺の視界を、サイバーパンクのゲームみたいにする気か?」

「まだまだあるよ。スーツの襟元には、自動投薬システムが組み込んである」

 

 スーツの首元の裏側を指差す。そこには、極小の注射針が隠されていた。

 

「もしカルロスさんの心拍数や血圧が危険域に落ちた瞬間、即座に強力な戦闘用興奮剤と緊急止血剤が首筋から打ち込まれる。心臓が止まりかけても、無理やり三十分は戦い続けられるだけの劇薬だ。……まあ、これを使うような事態にはならないのが一番だけどね」

 

 説明を終え、ソファにどっかと腰を下ろす。

 

 テーブルの上に並んだ、一個人のためだけに作られたオーバースペックすぎる装備群。それを眺めながら、カルロスが唯一の右目を細めて楽しそうに笑った。

 

「レオンたちに配った装備も大概だったが……俺だけさらに特別扱いか?」

「当然だよ。一番の恩人を雑に扱うなんて、最高に趣味が悪いからね」

 

 肩をすくめて、さらりと返す。

 

 実際、このスラムで一番の権力と武力を持つカルロスが死ねば、安全で快適な研究環境も一瞬で崩壊する。彼を絶対に死なせないための防衛投資は、極めて合理的で正しい選択だ。

 ……それに、ただのゴロツキの子供だった自分を拾い上げ、ここまで好き勝手にさせてくれた彼には、前世の言葉で言うところの()()がある。

 

 この狂ったスラムで冷徹なバケモノを演じ続ける中で、唯一残った人間らしい感情の拠り所。それを守るためなら、どんなオーバーテクノロジーを注ぎ込んでも惜しくはない。

 

「ハッハッハ! 違いねえ。恩に着るぜ、坊主。こいつは最高の土産だ」

 

 カルロスが豪快に笑い、分厚い手でこちらの頭を乱暴に撫で回ってきた。

 葉巻と硝煙の匂いがするその手は相変わらず重いが、なぜか居心地の悪さは感じない。

 

「さて、と。身内の安全は完璧に確保したし、そろそろ次のフェーズに進もうか」

 

 乱れた髪を手ぐしで直し、コンソールパネルを操作してラボ全体の稼働状況を呼び出す。

 裏では絶望的なモルモットの消費が進み、表では美しい医療器具の販売が始まっている。そして、絶対の安全を確保した身内の武力は、すでに一国の軍隊すら凌駕しつつあった。

 

「手始めに、マニラ市警の連中に魔法の道具の味を教えてあげよう」

 

 この国そのものを掌握するための、悪魔の侵食が本格的に幕を開けようとしていた。

 

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