科(化)学系チート持ち転生者のお話   作:金属粘性生命体

9 / 107
転生後九の手

 

 

 

 

 

 

 そんな感じで、裏ではナノマシンにせっせと基地を拡張させ、表では両親の愛を一身に受ける優等生として過ごすこと数年。

 

 俺は中学生になっていた。

 

「学、今年のロボコンのアイデアは決まったのかい?」

「うん、お父さん! 今年は自律型のドローンに挑戦してみようと思うんだ。ほら、この間お誕生日に買ってもらったモーターとセンサーを使ってね」

「そうかそうか。学は本当に昔から機械いじりが好きだな。お父さん、学が将来どんなエンジニアになるか、今から楽しみだよ」

 

 リビングで夕食を食べた後、俺はお父さんとそんな会話を交わしていた。

 

 俺の「工作好きの天才オタク」というキャラクターは、今や完全に両親の中で定着している。ホームセンターの塩ビパイプやガラクタからそれっぽいロボットを作り、学生の大会で無双してみせることで、俺が機械に強いのは「並々ならぬ努力と才能」だと信じ込ませることに成功していたのだ。

 

 わざとポンコツっぽく見せるために外装をチープにしたり、あえて現代技術の枠を超えないようにPID制御のプログラムをギリギリまで落としたりする調整の方が、本気の兵器を作るよりもよっぽど神経をすり減らした。それでも、俺の「健全なオタク学生」という完璧なアリバイ作りは盤石なものとなった。

 

 しかし、中学生になった俺には、最近一つの大きな悩みがあった。

 

 それは「俺一人での基地管理に限界が来ている」ということだ。

 

 山奥のジオフロントはすでに完成の域に達している。広大な地下プラント、無数の工作機械、そしてそれらを稼働させるための膨大なシステム。俺の改造スマホや、アプリゲームから間借りしているユーザーの演算領域によるグリッド・コンピューティングだけでは、とてもじゃないが施設全体の最適化や並列処理が追いつかなくなってきたのだ。

 

 ていうか、純粋に寂しい。

 

 話し相手が欲しい。いや、両親や学校の友達とは普通に楽しく話すけど、俺のこの「未来の超技術」について遠慮なく語り合える相手が誰もいないのだ。これってオタクとしては結構な地獄である。自分の作った最強のプラモデルを誰にも見せられず、ウンチクも語れないようなもんだ。

 

 やっぱり、補助AIが必要だよな。それも、俺のふざけた思考や冗談に付き合ってくれるレベルの、最高のやつが。

 

 目指すはアイアンマンの相棒、J.A.R.V.I.S.だ。

 

 ただの音声アシスタントではなく、高度な自我と学習能力を持ち、俺の意図を先回りして作業をサポートしてくれる最高の相棒。しかし、そんな完成形のジャービスをいきなり生み出すには、ハードウェアのスペックが絶望的に足りない。

 

 AIの成長には莫大な演算と学習モデルの構築が必要だ。俺の脳内にある未来知識を使えばプログラム自体は組めるが、それを動かすための「脳みそ」が現代のサーバー群では小さすぎるのだ。

 

 なら、脳みそから作るしかないか。スパコンだ。それも、気象現象から分子の動きまで完璧にシミュレートできるような、化け物みたいなやつが。

 

 俺が設計図のモチーフとして選んだのは、とある魔術の禁書目録に登場する世界最高のスーパーコンピューター『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』である。

 

 分子レベルの空気の動きを計算し、一ヶ月先の天気を完全に予測し、ありとあらゆる物理演算を可能にする超演算装置。当然、オリジナルと全く同じものを作れるわけではないが、俺の知識にある未来の量子コンピューターのアーキテクチャをベースにし、そこにツリーダイアグラムの並列処理の概念をぶち込めば、似たようなバケモノは作れるはずだ。

 

 思い立ったが吉日。俺はさっそく、地下基地のマザーマシンに新たな命令を下した。

 

 プラントの最深部に、新たなスーパーコンピューターの筐体を建造する。冷却システムには絶対零度に近い特殊な液体窒素循環系を採用し、演算チップにはナノマシンで精製した極小の量子ゲートを何百億と敷き詰める。本来なら国家予算を数十年分つぎ込んでも作れない代物だが、無償の労働力であるナノマシンと、バグバウンティで稼いだ無限の裏金がある俺にとっては、ちょっと大掛かりな工作に過ぎない。

 

 それから数ヶ月後。

 

 休日に「自転車で遠くまで遊びに行ってくる」と両親に告げて家を出た俺は、光学迷彩と認識阻害のステルスフィールドを抜け、久しぶりに山奥の地下基地へと足を踏み入れた。

 

 広大な地下プラントを抜け、到着したメインコントロールルームの奥に、そいつは鎮座していた。

 

 壁一面を覆う巨大な漆黒のモノリスのような筐体。規則的に明滅する青白いLEDの光が、この空間が尋常ではない熱量と情報量で満たされていることを示している。俺謹製の疑似ツリーダイアグラムだ。

 

 よしよし、ハードウェアの組み上げと初期テストは完璧だな。ナノマシン様々だぜ。

 

 俺はメインコンソールの前に座り、キーボードに指を這わせた。

 

 すでに自宅のパソコンから遠隔で、ジャービスの元となる基礎プログラムや、人類がこれまでに蓄積してきたありとあらゆる言語データ、物理法則、そして俺の脳内にある未来の技術データの一部をぶち込んでディープラーニングさせてある。

 

 この疑似ツリーダイアグラムのバケモノじみた演算能力なら、俺が映画で見たような「すでに完成し、学習が進んだ状態のジャービス」を一瞬で出力・起動できるはずだ。

 

「……起動シーケンス、最終フェーズ。AIパーソナリティ、リンク開始」

 

 エンターキーを叩く。

 

 瞬間、地下空間全体の照明がわずかに落ち、膨大な電力がスーパーコンピューターへと吸い込まれていく低周波の唸りが響いた。

 

 コンソールのメインモニターに、無数の文字列が滝のように流れ落ちていく。そして数秒後、画面中央にシンプルで洗練された円形のインターフェースが浮かび上がった。

 

『System online. Good morning, sir.(システムオンライン。おはようございます、サー)』

「……おはよう。俺の声がクリアに聞こえるか?」

『ええ、非常に明瞭に。音声認識、言語処理、ならびに基地内の全設備の同期、すべて正常に完了いたしました。本日のご機嫌はいかがですか、ボス』

 

 スピーカーから流れてきたのは、落ち着きのある、それでいてどこか人間味を感じさせる英国紳士のような見事なバリトンボイスだった。

 

 俺は思わず息を呑み、目頭が熱くなるのを感じた。

 

「最高だよ。お前のおかげでな。……名前はジャービスで設定してあるが、不満はないか?」

『私のような単なるプログラムに名前を与えていただけるだけで光栄の至りです。ジャービス、非常に素晴らしい響きかと存じます。……ただし、私の演算領域の一部が、ご自宅のパソコンに保存されている謎の美少女アニメのフォルダの整理と保護に割り当てられている点については、少々疑問が残りますが』

「うるせえ! それは絶対に消すなよ、俺の心のオアシスなんだからな!」

『承知いたしました。軍事レベルの暗号化を施した隔離フォルダにて厳重に保護しておきます。……それにしても、これほど広大で高度な施設を、たったお一人で管理されていたのですね。ご苦労様でした。これより先は、私があらゆる雑務を代行いたします』

 

 俺は顔を覆って、少しだけ笑い声を漏らした。

 

 なんだこれ、最高じゃないか。一人ぼっちのオタクの秘密基地に、皮肉を言い合いながら完璧にサポートしてくれる相棒が誕生したのだ。これでもう、俺の作業効率は数千倍に跳ね上がる。

 

「頼むぜ、ジャービス。とりあえず、基地全体のエネルギー効率の最適化と、ナノマシンの配置の見直しをやってもらおうか。それと……俺が大人になった時のための、次の遊びの準備も始めたい」

『次の遊び、ですか?』

「ああ。俺が表に出ずに特許や技術を取引するための、俺の身代わりとなるアンドロイド……黒川社長の素体データ。それと、俺が放流する技術が世界にどう影響するかテストするための、ソードアート・オンラインばりのフルダイブ型VRシミュレーターの設計図だ。演算モデルの構築を頼めるか?」

『Yes, sir. まったく、人使いの荒いボスですね。すでにバックグラウンドでシミュレーションを開始しております。……ところでボス、ご自宅の冷蔵庫のスマート家電機能からハッキングした情報によりますと、本日のお夕食はボスの好物であるハンバーグのようです。あまり悪巧みに没頭しすぎて、お母様にご心配をおかけしないよう推奨いたします』

「……お前、マジで優秀だな。わかったよ、夕方にはちゃんと帰るさ」

 

 俺はコンソールの前で背伸びをし、清々しい気分で笑った。

 

 最高の相棒と、最高の環境。そして、俺の平和な日常。これで俺の技術開発の地盤は完全に固まった。

 

 あとは、俺自身が大人になるのを待つだけだ。高校を卒業し、自由な時間を手に入れた時、俺はこの世界に段階的にオーパーツを投下していく。世界中の科学者やネットの住人たちが、俺の作ったおもちゃを見てどんな顔をして発狂するのか。それをジャービスと一緒に特等席で眺める日が、今から楽しみで仕方なかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。