Muvluv The New Order   作:不凍港

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喀什
閃光


空というものは青い。

 

それは、当たり前のことだ。雲があろうと、嵐が来ようと、夜が明ければ、必ず青い空が戻ってきた。

 

俺は、空が好きだった。そして俺は、帝國海軍航空隊に所属していた父の話が好きだった。

 

真珠湾を攻撃した日の話。

 

ミッドウェーで米國(アメリカ)の航空母艦を轟沈させた話

 

ハワイに投下された独逸(ドイツ)が作った爆弾の話

 

その全てが、当時の俺にとっては、すごく面白く、惹き込まれ、俺は空軍パイロットを目指した。

 

そして今、高度8000mで、*疾風*の操縦桿を握りながら、空の青さを呼吸するように感じていた。

 

四八式戦闘機《疾風》。大日本帝國初の純国産ジェット戦闘機。細身の胴体、鋭角の後退翼、最高速度マッハ一・八。俺が、仲間が、テストパイロットとして何度も限界まで追い込んだ機体だ。しかし、今日は試験飛行ではない。

 

実戦だ。喀什落着地球侵攻から三週間が経っていた。

 

 

人類に敵対的な地球外起源種―――またの名をBETA。

 

 

【挿絵表示】

 

 

1958年、日本の火星探査機が初めて()()を発見した時、当時の人々は喜びに満ちていた。だが奴らの本質を知った時、人類は奴らの、恐ろしさを身にしみて知った。

 

1967年に始まった、月面戦争。米・独・日宇宙総軍を相手にしても、侵攻する勢いが一切衰えず。結局月は放棄された。だがそれは過酷な環境そして、兵站事情が人類には合わなかったからだ。

 

そして1973年に始まった地球侵攻。

 

誰もが思った。

 

「月では勝てなかったが、地球では勝てる。

 

実際、開戦してから3週間。俺たちは奴らの基地(ハイブ)数km前までは奪還できている。地上では帝國陸軍がちょっとずつ前線を押し上げ。空では俺たち帝國空軍が、奴らを標的に爆撃を繰り返している。

 

『第三航空団、隊形確認』

無線から指揮官機の声が届いた。

『目標地点まで二十分。高度を維持せよ』

「了解」

 

俺は右翼を見た。《疾風》が三機、編隊を組んで飛んでいる。左翼にも三機。後方に四九式《迅雷》の部隊。合計四十一機。帝國空軍の精鋭が、この作戦に集められていた。

 

(タチバナ)、見えるか?』

 

無線に割り込んできた声は、同期の永瀬だった。今日は機材トラブルで出撃が遅れ、後続の増援として別の航路を取っている。

 

眼下には砂漠が広がっている。かつては黄土色の大地だったはずのそこに、爆撃痕とは違う、奇妙な痕跡がある。まるで何かが這い回ったような跡。ところどころ、地面が盛り上がっている。だが、砂漠と言うには……すこし違和感がある。土地が慣らされているのだ。BETA共が、やっていることは、今でも一切解明されていない。一体奴らは何をしようとしているのだろうか?

 

 

「あぁ……見えてる」

橘は答えた。

『地上部隊は相当押されているな』

「あぁ。地面を覆うような赤色の化け物に加え、呉爾羅(ゴジラ)のようなデカブツの対処に手を焼いているのだろう。」

 

60mを超える巨大な怪物。虫のように湧く赤色の妖怪。鎌のような腕を持つ化け物。そのどれもが陸軍にとって対処が難しい。歩兵は遅く、攻撃力が低いため、奴らに大した傷はつけられず、戦車は攻撃力こそあるが、攻撃速度、移動速度が遅い。唯一効果的と言えるのは攻撃翼機ぐらいだろうか?

 

『なぁ?戦車の砲声が聞こえるか?』

「お前……ここは8000m上空だぞ?酒でも飲んでるのか?」

『―――お前達、私語は慎めよ』

「―――は、申し訳ございません」

『この作戦が無事終わるまで待てないのか?全く……』

隊長から叱責が飛ぶ。事実高度8000mでは何も聞こえない。しかし眼下に、小さな光の点が散っていた。砲火だ。戦車砲と野砲。今でも地上の仲間(人間)達が命をかけて必死に戦っている。

 

『今日の爆撃でケリをつけるぞ。』

隊長機が言った。

「目標地点に接近を開始。爆装機は投弾準備——」

 

そしてそれが、隊長の最後の言葉だった。

 

が来た。

 

地上から、青い光の柱が立った。一本ではない。十本。二十本の光の柱が一斉に我々に()()に向かって光が伸びた。

 

《疾風》が6機、一斉に消えた。

 

いや違う……()()されたのだ。BETA共によって。爆発音すら届く前に、味方の機体がなくなった。光に触れた瞬間、そこにあった機体は爆散し、あとは何も残らなかった。

 

「な、なんだ―――何が起きて―――」

 

誰かの声。橘は反射的に操縦桿を倒した。急降下。右隣の機が消えた。後方で閃光。前方でも。四十一機の編隊が、一分も経たないうちに炎の散る空になった。

 

橘は叫んだ。

 

「全機散開! 高度を下げろ! 高度を―――」

 

光が左翼をかすめた。

 

コクピットの計器が異常を示す。火災警告。橘はエンジン出力を絞り、機体を横転させ、錐揉み降下に入った。操縦桿が重い。すでに左翼の揚力が完全に死んでおり、高度がどんどんと落ちていく。地面が迫ってくる。砂漠が目の前に広がった瞬間、橘は強引に機首を引き起こした。Gが全身を潰しにくる。視界が赤くなる。それでも引き続けた。

 

機体が水平に戻った。高度百メートル。地面すれすれ。

 

橘は後ろを振り返った。空に、帝國空軍はいなかった。

 

フィリピンで、アフリカで、インドネシアで勇猛果敢に戦ったあの帝國空軍が一瞬で壊滅したのだ。俺たちが居たいちにあったのは煙だった。37本の煙の柱が、青い空に向かって立ち昇っていた。橘は数えた。おかしな話だが、数えた。37。41機のうち37機が、一瞬で空から消えたのだ。

 

「……タチ……バナ……」

無線に声がした。永瀬だ。別航路を取っていたため、光線の射程外にいたのだろう。

 

『……橘、生きてるか』

 

「あぁ……生きてる」

 

『他は……野郎共は?』

 

誰も答えなかった。しばらく待ったが、一機だけ、損傷した機体が低空を這っているのが見えた。

 

「……他はいない。多分ほとんどがあの光線に……」

橘は言った。永瀬が何か言おうとして、止まった。橘は上を見た。青い空。光の柱はもう消えていた。あの青い光は何だったのか。地上から発射された何か。月面では一度も確認されていなかった種別、と後に報告書は書くことになる。人類が「光線級(レーザー級)」と呼ぶようになるまで、もう少し時間がかかった。

 

そしてその日を境に、航空作戦の前線運用は終わった。

 

空が、奪われたからだ。

 

橘は低空を飛びながら、燃料の残量を確認した。基地まで戻れる。機体はまだ飛べる。それだけを確認して、彼は帰路についた。37本の煙が、青い空に黒い傷跡を引いていた。

 

―――

 

―――

 

―――

 

三ヶ月後 帝國陸軍技術本部・東京

 

「乗ってみますか」

 

室田耕三技術士官が言った。当時二十八歳。眼鏡をかけた細身の男。声は静かだったが、目だけが燃えているようだった。格納庫の中に、

 

 

 

それは立っていた。

 

 

 

全高18メートル。頭部に相当するユニットには複合センサーが詰め込まれている。腕は二本。脚も二本。背中には跳躍ユニット——ジェット推進装置が取り付けられている。形は人間に似ている。しかし人間ではない。

 

「三四式戦術歩行戦闘機《閃光》」

 

と室田は言った。

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