挽歌
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女性の歌声が聞こえる。この曲はよく……子供の頃にお袋が歌ってくれていた曲だ。
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そしてこの歌は、俺の綺麗な奥さんが、育ち盛りの息子によく歌っていた曲でもある。
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舞台はかつてヨーロッパに多大な影響を及ぼした
ロシア
1942年に奴らの裏切りによって始まった戦争に屈辱的な敗北を喫した
終戦から1963年まで、ドイツ軍から定期的に行われる空爆によって、インフラも教育施設も病院も完全に破壊され続けた。
「ユーラシアは人の住む場所ではない」と、他国から言われ続け20年。事態が変化したのは、1963年。ドイツで起きた内戦によって、我々はようやく動けるようになった。各地の軍閥を支配・吸収し、かつての統一国家を目指して兵士たちが戦いに行った。
そう―――大ゲルマン帝国への復讐のために。
1973年、統一を完了させたソビエト社会主義共和国連邦は、モスクワを奪還を目指し、狂気的とも取れる軍拡を開始した。
だが―――1973年、奴らが来た。
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1982年
アヴタンディル・ラトロフは、35歳になった今でも、カチューシャを聴くと母親の顔を思い出す。片隅の小さなアパルトメントの台所から漂うボルシチの匂い。窓の外は廃墟だったが、部屋の中は温かかった。数年前に結婚した妻はよく、鍋をかき混ぜながら、低い声でカチューシャを歌っていた。生活は苦しくても、妻の歌声だけは消えなかった。
今、アヴタンディルがいるのはオムスク辺境の草原だ。地平線まで続く枯れ草の平原。そして、風が吹き抜けるたびに、体温を持っていく。衛士強化装備を着ていても、首筋から冷気が入り込む。そんなことを考えていると通信機から声が響いた―――
『アヴタンディル少佐』
通信機から声が来た。副官のセルゲイ・グリゴリエヴィチ・マカロフ大尉だ。26歳。まだ顔に少年の面影がある。しかし目だけは、この一年で別物になった。
「前方BETA群、東進を継続中。先鋒の突撃級が陣地まで30km」
地獄のような戦争から私達は抜け出せなかった。