Muvluv The New Order   作:不凍港

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咆哮

ソヴィエト社会主義共和国連邦 オムスク北部航空基地(Омск-Северный)地下第740特別区画——指揮統制室

 

「旅団規模のBETA群、南南西方向より侵攻継続中!コールサイン〈Объект740〉との接触まで——残り80秒!」

 

通信士の怒鳴り声が、薄暗い地下指揮統制室に硬く反響した。戦術情報表示装置の青白い光が、居並ぶ参謀たちの顔を無機質に照らし上げる。電子地図の上で、BETAの侵攻を示す赤い点群が刻一刻と収縮していた。

 

「……ついに来たか。」

 

壁際に立つ一人の男が、低く呟いた。肩章に光る二本の金線と一つ星——中佐の階級章。その目は戦術表示から離れなかった。

 

「部隊長はアヴタンディル・ラトロフ少佐だったな?」

 

「はい。」

傍らの参謀が即座に答えた。

「グルジア出身の彼は、先のロシア統一戦争において、戦車4輌・戦闘機14機を撃破した記録を持ちます。第740独立近衛戦術機甲中隊の指揮官として着任しており、空軍・陸軍を問わず多くの将官が彼の活躍に期待を寄せています。」

 

「……多くの将官、か。」

 

中佐は静かに、苦い笑みを浮かべた。

 

「それは―――我が国『だけ』の将官ではないな?」

 

参謀の口元が一瞬固まる。

 

「……はい。軍参謀本部情報総局が入手した第三帝国内部文書によれば―――ラトロフ少佐は、帝国保安本部の特定排除対象リストに記載されていました。現時点で確認された対象は全17名。彼はその中の1人です。」

 

「それと……もう一点。」

参謀は声を低め、一段慎重な口調になった。

「ここ数日、領空の状況が不穏です。」

「領空だと?」

 

中佐の眉が鋭く寄る。

 

光線(レーザー)級の出現以来、ドイツ軍機による領空侵犯は劇的に減少した。それにここはモスクワから直線距離で2,700km東だぞ。この期に及んで、奴らに何ができると言うんだ?」

 

「それが……電波情報部が、西方から断続的な暗号通信を傍受しています。解析は未了ですが、使用された通信プロトコルが帝国保安本部の規格と酷似しているとの―――」

 

「―――前方BETA群との接敵まで残り30秒!全機、戦闘態勢(コンバット・レディ)に移行!」

別の通信士の怒鳴り声が、参謀の言葉を断ち切った。中佐はゆっくりと、タクティカル・ディスプレイへ歩み寄る。赤い点群が、じわじわと収縮してゆく。

「……我が国初の、純国産戦術機「Mig-27」の実戦か。」

呟きは、誰の耳にも届かなかった。

「Объект740——期待しているぞ。」

 

―――

 

―――

 

―――

 

オムスク郊外 南南西30km地点

高度50m Mig-27【アリゲートル】先導機コックピット内

 

「各機、敵味方識別装置(IFF)確認。機動制限(ガバナー)解除―――マニューバ・モードへ移行。」

ラトロフ少佐の声は、乱気流の中でも揺れなかった。

防塵フィルターを透かして見える地平は、すでに茶色く濁っていた。砂塵ではない。BETA群の大移動が巻き上げる、赤褐色の土煙だ。

「ラトロフ1よりОбъект740全機へ。アクティブ・センサーは接敵まで封印。光線(レーザー)級に位置を晒すな。パッシブ・センサーのみで進め―――地上データリンクを最大活用しろ。」

「―――了解!」

僚機群から応答が返り、Mig-27が6機、低空飛行を保ちながら楔形(ウェッジ)隊形を組んだ。戦術リンク情報が、ヘッドアップディスプレイに重畳表示される―――突撃(デストロイヤー)級、推定380体。その後背に控える要塞(フォート)級が8体。そして―――

光線(レーザー)級の反応、なし。」

ラトロフは短く確認した。

「……今日は、動けるぞ。」

右手がスロットルを押し込む。速度、マッハ0.9。

地平線の向こうに、赤黒い奔流が姿を現し始めた。

 

「この大地に根を張って生きる人間がいる。年老いた母が、帰りを待つ子供が―――そいつらに、BETAの爪を届かせるな!」

「―――我々は歴史の証人だ!これより始まる戦いは、ソヴィエトの最新鋭戦術機が初めて実戦の血を浴びる瞬間となるッ!その記録に、お前たちの名が刻まれる!」

 声が、上がった。

「——Объект740!各機エンジン全開、全機——行くぞ―――」

「Урааааааааааааа!」

 

―――を操る人間たちの咆哮が広大な大地に響いた。

 

―――

 

―――

 

―――




Mig27アリゲートル

マブラヴ世界と同じMig23の後継機。この世界のソヴィエトは第三帝国によって大地や都市がボコボコにボッコボコされてるので、生産数は少ない。

アリゲートルはソ連初の純国産戦術機と知られているが実際は米ソ共同開発である。この米ソ共同開発という事実は、1982年時点においてソ連とアメリカの最高首脳部・情報機関幹部・開発担当の極少数のみが知る最高機密である。この秘密が露見した場合の政治的影響は計り知れない。アメリカ国内では「ソ連への技術漏洩」として激しい批判を受けることが予想され、ドイツはこれをゲルマニア会談体制への重大な背信行為と見なすであろう。日本もまた、自由国家機構の盟主であるアメリカが自分たちに無断でソ連と密約を結んでいたことに強い反発を示すことが確実だった。

ソ連首脳部内においても、「国産機」という建前が崩れることは体制の正統性を傷つける問題として認識されており、関係者への口封じは徹底されていた。

なお1982年の時点で世界で6カ国が第2世代戦術機を実用化している。

アメリカ F-14 「トムキャット」
日本 82式戦術歩行戦闘機 「天海」
第三帝国 EW-45 「ジークルート」
ブラジル MB-326 「アエルマッキ」
ソ連 Mig-27 「アリゲートル」
イタリア AI-82「アクイラ」
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