術式【適応】   作:雨曝し

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特異点

 

 

 

 呪術界御三家の一角、禪院家。

 京都に本拠を構えるその家で一人の赤子が産声を上げた。

 その子の名前は禪院勇義。純白の翼を持って生まれた異形の子供である。

 

 勇義の内包する圧倒的な呪力に禪院家の者達は確信する。

 勇義は禪院家を導く存在になるという絶対的な確信である。

 才能が八割を占める呪術界では持って生まれた呪力量は絶対的な判断基準となる。

 勇義が持つ呪力は既に禪院家当主直毘人のそれを遥かに超えている。

 呪力量だけで見るならば今の時点でトップに君臨している。

 それ程の才能を前にして全員が期待に胸を膨らませた。

 

 そしてその期待は勇義が五歳なった時に応えられる。

 勇義が持って生まれた術式は【適応】。あらゆる事象へ適応する術式である。

 それは禪院家の相伝術式、十種影法術に於ける最後の式神八握剣異戒神将魔虚羅が持っている術式と同様のものである。

 しかし勇義の場合術式の発動に方陣の回転を必要とせず、時間経過で適応を終える。

 

 勇義の才能はそれだけに留まらない。

 五歳を超えた勇義は禪院家の習わしに従い術師としての鍛錬を開始した。

 そして指導役の直毘人の呪力操作を目で視認したことで呪力操作を覚え、更に呪力同士を掛け合わせる高度な技術である反転術式をも習得した。

 その圧倒的な才能を目にした直毘人は勇義に結界術の基礎を教える。

 教えられてから九日が経過した時、勇義は遂に呪術の極地領域展開を習得した。

 

 そうして禪院家史上最高の才能を開花させた勇義は順調に術師としての道を進み始めたのだった。

 

 

 

 

 そして勇義が誕生してから十五年以上が経過した2018年3月。

 最高の才能を持って生まれた勇義は現在、ゲーム廃人になっていた。

 

 狭い室内の端にある机の上にPCを二台、モニターを二枚置き、部屋一杯にゲーム機やカセットを敷き詰め、モニターに向き合ってゲームにのめり込んでいた。

 

 キーボードとマウスを忙しなく動かし、画面の中のキャラを巧みに操っている。

 現れる相手のプレイヤーを次々に倒し、勝利を飾る。

 そんな作業を繰り返して二十七時間。

 休憩を取ることもなくゲームに熱中していた勇義は一度PCの電源を落とす。

 そして久々の休憩を取る。

 カロリーメイトを手に取り、袋を破って中身を齧る。

 乾いた口内を潤す為に水の入ったペットボトルを手に取り、中身を流し込む。

 

 そうして休めたとは言えない休憩を取った勇義は一息吐いてもう一度画面に向き合った。

 その時、勇義の耳が自身の部屋へ向かう足音を敏感に聞き取った。

 

 足音は部屋の前で止まり、扉越しに声が掛かる。

 

「勇義様。当主様がお呼びです」

「はーい。すぐ行きます」

 

 勇義は画面から顔を逸らし、立ち上がって軽く伸びをする。

 凝りを解した勇義は歩き出す。

 そして二十七時間振りに部屋の外へと出る。

 

 女中と共に当主の部屋へと向かう足取りは重い。

 ゲーム廃人として日々を過ごす勇義に直毘人が用があると言う時は大抵が面倒事だからである。

 例えば一級案件の任務へ駆り出されたり、禪院家男児の教育を任せられたりである。

 ゲームがしたい勇義にはこれ程面倒なことはない。

 

 故に憂鬱な面持ちで当主の元へと向かう。

 当主の部屋に辿り着くと女中が扉を開ける。

 勇義は軽く礼を言って室内に入る。

 

 部屋の最奥には直毘人が座り、酒の入った瓢箪を呷っていた。

 直毘人は勇義を一目見る。その目元の隈の濃さで寝ていないことを悟り溜め息を吐いた。

 

「人の顔見て溜め息なんて吐かないでよ」

「お前がだらしないからだ。全く、またゲームばかりしていたな?」

「新作のFPSが楽しくてね。何と二十三連勝中だよ」

「そんなことはどうでも良い。それよりお前に話がある」

 

 勇義の自慢をどうでも良いと切って捨てた直毘人は真剣な表情だ口を開く。

 

「お前には東京の呪術高専に通って貰う」

「え゛!マジ?」

「マジだ」

「うへぇ〜…今更通って何を学ぶのさ?」

 

 嫌がりはしつつも拒絶はしない勇義を見て直毘人は頷いて話を続ける。

 

「お前は社会を知らなさ過ぎる。高専に行って人付き合いやら色々学んでこい」

「分かったよ……ゲームは持ってって良い?」

「まあ、良いだろう」

「よっし!」

 

 ゲームの持ち込み許可に勇義はガッツポーズを取る。

 それを見て呆れた直毘人は再度溜め息を吐いた。

 

「話は終わりだ。戻って良いぞ」

「了解」

「あ、風呂には入れよ」

「分かってるよ」

 

 勇義はそう言って当主の部屋を出る。

 そして律儀に待っていた女中を連れて風呂場へ向かう。

 禪院家は人数が多い関係上風呂も大きい。

 しかし基本的に皆で入る為、昼間は空いていることが多い。

 

 だが今回は先客がいた。

 直毘人の息子の一人である禪院直哉である。

 直哉は脱衣所で服を脱いでその鍛えられた体を晒していた。

 

「勇義君やん。珍し。顔暗いけど、どうしたん?」

「いやぁ、それが当主からの命令で東京の高専に通うことになっちゃって」

「それは災難やね。でも、悟君が教師やっとるとこやろ?そこそこ楽しめるんやない?」

「そうかなぁ。あの性格だよ?絶対に自分の任務とか押し付けて来るよ」

「確かになぁ」

 

 会話しながら勇義も服を脱ぎ、浴場へと入る。

 そして体を洗っていく。

 勇義の肉体は引き篭もりの割に鍛えられており、程良く筋肉が付いている。

 傷もなく、色白な肌は湯を浴びて艶やかに輝く。

 実戦を数多く熟して来た筈の勇義の肉体に傷がないのは反転で治していることや術式が理由ではない。

 そもそも傷を負う程の相手がいないからである。

 

 術師として任務を与えられるようになってから十年。

 その間勇義は一度も傷を負ったことはない。

 圧倒的な呪力出力による身体強化は肉体を鋼に変え、勇義を護り続けた。

 半端な攻撃では勇義に傷一つ与えることはできない。

 

 体を洗い終えた勇義は湯船に浸かる。

 そして息を吐いて疲れを取る。

 一日と数時間に及ぶゲームでの激闘は勇義の体に疲労を蓄積させていた。

 それが湯船に溶けるように消えていく。

 

 直哉も勇義に続いて浴槽に入る。

 そして何の気無しに勇義に話し掛ける。

 

「勇義君が高専に通うってことは真希ちゃんが先輩になるんか」

「そうだね。百鬼夜行振りだなぁ。強くなってるかなぁ…」

「まだそんな経ってないから変わらんやろ」

 

 直哉は辛辣な言葉を放つ。

 それに勇義が反論する。

 

「男子三日会わざれば活目して見よって言うじゃん」

「男子の話やろ」

「まあまあ。そこは女子でも大差ないでしょ。兎に角、強くなってるかも知れないじゃん」

「ま、真希ちゃんはどうでもええわ」

「酷っ…流石ドブカス」

「誰がドブカスや。殺すぞ」

 

 直哉は本気の殺気を飛ばすが勇義はどこ吹く風だ。

 直哉は既に五歳の勇義に喧嘩を売ってボコボコにされているので勇義にとっては怖い存在ではないのだ。

 そもそも勇義にとって怖い存在など五条悟くらいであるからして、凄んだところで意味はない。

 

「じゃ、お先に失礼」

 

 勇義は風呂から上がって浴場を出て行く。

 そして体を拭いて女中が用意した服に着替えると自分の部屋へと戻っていった。

 

 そうして再度ゲームに熱中するのであった。

 

 

 

 

 2018年4月。

 勇義は呪術高専東京校へと足を運んでいた。

 面談は既に終えて入学が確定している。

 荷物も京都の本拠から高専の寮へと移してある。

 

 後は他の一年生と顔合わせをするだけである。

 勇義は呪術高専の門の前で待機していた。

 

 そこに白髪の真っ黒な眼帯を付けた男がやって来る。

 現代最強の呪術師五条悟である。

 

「や!百鬼夜行振りだね!」

「どうも。これからよろしくお願いします」

「お堅いねー。いつも通りで良いよ」

「そう?じゃあいつも通りで」

 

 勇義は五条悟相手にフラットに接する。

 小さい頃から面識がある二人はそこそこ仲が良く、お互いにタメ口で話す関係である。

 

 五条の案内を受けて勇義は高専の校舎へ足を運ぶ。

 そして一年生の教室に入ると、一人の生徒が出迎えた。

 黒髪に無愛想な表情の男子生徒である。

 

「初めまして。俺は禪院勇義。君は?」

「伏黒恵」

「伏黒ね。よろしく」

「挨拶も終えたところで早速今日の予定を発表します!今日は新宿に呪いを祓いに行くよ!」

 

 五条悟は気軽にそう口にする。

 勇義は面倒そうな、伏黒は相変わらず無愛想な顔で答えたのだった。

 

 

 





・オリ主
外見は白髪に黒目。
ゲーム廃人。
常にゲーム機を携帯している。
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