術式【適応】   作:雨曝し

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両面宿儺

 

 

 

 勇義達は新宿にある廃病院へとやって来ていた。

 五条が病院の前に立ち、勇義達へと任務の概要を説明する。

 

「ここは結構前に潰れたんだけど、事故の多発で解体が中止されてんだよね。理由は分かるよね?」

「呪いの発生ですね」

「その通り。窓が複数の二級呪霊の発生を確認してる。勇義は大丈夫だと思うけど、恵にはちょっと荷が重いかもね。だからって勇義が全部祓っちゃ駄目だよ。それじゃ恵の為にならないから」

「じゃ、適度に祓えば良いんだ?」

「そゆこと。まあ、恵も活躍できるように気を遣ってあげて」

 

 勇義は憂鬱な表情を隠しもしない。

 勇義からすれば目に見える呪いを全て祓えという方が楽なのである。

 

「じゃ頑張ってね」

 

 五条はそう言うと呪詞を詠唱して帳を下ろす。

 勇義達は帳の中に入り、廃病院へと足を進める。

 

 そう言えばと伏黒が話を切り出した。

 

「お前のその翼どうなってんだ?」

「背中から生えてる。生まれ付きだよ。空も飛べる。まあ翼なくても飛べるけど」

 

 勇義は空を面で捉えることで空を蹴り、空を飛ぶことが可能である。

 勿論、飛行能力という面では翼の方が有用なので滅多に使うことはない。

 

「それで良く一級に収まってるな」

「流石に単独で国家転覆はまだ無理だからね。その内できるようになると思うけど」

 

 あらゆる事象へ適応する勇義の術式は現代兵器すら無効化して見せる。

 単独での国家転覆が可能になるのもそう遠い未来の話ではない。

 

 伏黒が先行して病院内へと入る。

 病院はあちこち崩壊しており、建物の体を成していない。

 実際に勇義が足を踏み込んだ床が崩れた。

 

「こりゃ気を付けなきゃ足場が崩壊するな」

「あぁ。慎重に進むぞ」

 

 そうして二人で病院内の探索を進める。

 しかし一向に呪霊が現れる気配がない。

 それを怪訝に思った伏黒が疑問を口にする。

 

「どういうことだ?なんで呪霊が出て来ない?いや、これは……呪霊が怯えているのか?」

「あぁー…多分俺の所為だ。俺の呪力の気配がデカすぎてビビってんだと思う」

「じゃあ呪力を抑えろ。これじゃ任務にならねえ」

 

 勇義は言われた通りに呪力の気配を極力抑える。

 するとわらわらと低級呪霊が姿を現した。

 

「邪魔」

 

 勇義は腕の一振りでそれら全てを薙ぎ払う。

 呪霊が消滅反応を起こして消えていく。

 

 伏黒がその光景を見て一言。

 

「もうお前に任せて良いか?」

「駄目に決まってるでしょ。悟君が言ってたでしょ。伏黒の為にも適当な呪霊しか祓わないって」

 

 そう言えば伏黒は渋々受け入れたようだった。

 勇義は病院の奥へと向かって歩き出す。

 

 電灯もない真っ暗な病院の中をすいすいと進む。

 残穢があるので比較的道順に困ることなく建物内を進むことが可能だ。

 

 勇義達は道すがら呪霊を祓いながら建物内を進んでいく。

 伏黒は式神である玉犬二体を呼び出して戦闘をしている。

 二体の玉犬が呪霊に噛み付き喰らっていく。

 勇義は腕の一振りで呪霊を祓う。

 

 順調な二人の歩みを止める者がいた。

 巨大な芋虫型の呪霊が二体である。

 呪霊は勇義達を視認すると陰険な笑いを溢した。

 勇義は伏黒の方を見て口を開いた。

 

「手始めにこいつらは伏黒に任せる。頑張って祓ったら今日の仕事は終わりで良いよ。後は俺が祓うから」

「分かった」

 

 伏黒は短く了承の返事をすると呪霊に向かって駆け出した。

 玉犬も負けじと呪霊に向かって駆け、噛み付く。

 しかし呪霊が大きすぎて大して意味を成さない。

 この芋虫型の呪霊を祓うには大きな一撃が必要になるだろう。

 

 そう判断した伏黒は掌印を結んで式神を呼び出す。

 肉体が電気の性質を帯びている式神鵺だ。

 鵺は呪霊へ突撃すると翼による打撃を与え、呪霊を一時的に行動不能に陥らせる。

 その隙を逃すことなく伏黒が畳み掛ける。

 

 呪霊は動きを封じられている間に伏黒の猛攻を受け、肉体が砕け散る。

 二体共祓ったところで勇義が拍手をした。

 

「ひゅー!やるじゃん伏黒!二級呪霊を物ともしないとは!」

「まあ、一応二級だからな」

「いやぁ、中々できることじゃないよ?ウチの家は男児は全員術師にされるんだけど、十五歳で二級呪霊を二体相手にして楽々祓える奴はそういないんじゃないかな?」

「あくまでも十五歳ならって話だろ?」

「まあね。今の伏黒と同じかそれ以上の実力を持つ術師は多いよ。伊達に御三家名乗ってないってこと」

 

 高専資格条件で準一級以上の術師のみで構成される柄は勿論、その下部組織である灯や躯倶留隊も殆どが現在の伏黒と同等程度の実力を有している。

 故に御三家である。

 

「でも伏黒は才能あるしもっと上いくかもね。ポテンシャルは一級に相当するでしょ」

「そうか?」

「特に影を媒介してるってのが良いね。色んな使い方できそう」

 

 伏黒は勇義の発言に疑問を露わにする。

 だが勇義は発言の意図を明確にしないまま歩き出した。

 伏黒は渋々勇義に付き従う。

 

 病院の奥までやって来ると巨大な赤子の呪霊が姿を現す。

 その呪力は到底二級のものではない。

 

「少なく見積もって準一級。面倒だなぁ…」

 

 勇義はそう言いながらも呪霊に接近し、頭部に触れる。

 そして呪霊に触れている掌から反転術式を流し込んで一瞬で祓う。

 

「良し。後は雑魚だけでしょ。さっさと祓って帰るよ」

「今何したんだ?」

「ん?反転術式で生み出した正の力を直接流し込んだの。呪霊はこれで一発よ」

「反転か。俺にはまだ無理そうだ」

 

 伏黒はそう言って肩を落とす。

 自分の実力不足を痛感しているのだ。

 

 落ち込んでいる伏黒を見て勇義が口を開く。

 

「入学初日だし、折角なら焼肉行こ。悟君の奢りで」

「そうするか」

 

 勇義達は勝手に五条の金で焼肉を食べることを決めて病院を出て行くのだった。

 

 

 

 

 勇義達の入学から二ヶ月が経過した。

 勇義達は特級呪物、両面宿儺の指を回収する為に仙台市まで来ていた。

 

 そして夜の杉沢第三高校にて宿儺の指を探していた。

 二人して空っぽの百葉箱を前に立ち尽くす。

 

「ないね。指」

「五条先生に確認取る」

 

 伏黒は五条に電話を掛ける。

 そして宿儺の指がないことを伝えると返ってきた言葉に伏黒が激昂する。

 

「なんて?」

「回収するまで帰れないだとさ」

「うわぁ…最悪だ。誰かに持ち出された上に探さなきゃ帰れないって?対象が特級呪物だからって扱い酷くない?」

「仕方ない。五条先生だからな」

 

 五条の横暴さに二人して溜め息を吐く。

 勇義は頰を叩いて意識を切り替える。

 

 

「残穢とか宿儺の気配から指持ってる奴探すか」

「先ずは高校に潜入だな」

「二手に分かれて行動しよう。目星を付けたら各自連絡で」

 

 そうして二人は昼の杉沢第三高校に潜入して指を探す。

 勇義は虱潰しに生徒に聞き込みをして、女子生徒に絡まれて逃げる羽目になる。

 対して伏黒は呪物の気配を感じ取り、虎杖悠仁を追い掛ける。

 

 そして夜になった頃、伏黒から連絡のない勇義は宿泊してるホテルでPSPを開いていた。

 やってるゲームはモンハンである。

 

 そうして時間を潰していると勇義のスマホがメールの新着を示す音を鳴らす。

 勇義がスマホを取り出してメールを確認すると、そこには一言こう書かれていた。

 

「呪物は今杉沢第三高校にある、か。随分とざっくりした内容だな。何か焦ってんのか?」

 

 そう予測した勇義は急いでホテルを後にする。

 そして杉沢第三高校に向かう。

 

 そして校門まで来たところで勇義は伏黒を視認する。

 校舎の渡り廊下の上で昼に確認した二級呪霊と相対している。

 そしてその隣にはピンク髪の青年がいた。

 

 青年は宿儺の指らしき物を飲み込む。

 それを見て勇義は焦って駆け出す。

 渡り廊下の上まで来ると既に呪霊は祓われていた。

 そして不気味に笑う先程の青年がいた。

 勇義はボロボロの伏黒に確認を取る。

 

「伏黒、現況は?」

「虎杖悠仁が呪物を飲み込んだ。そして…」

「両面宿儺が受肉した、と」

「あぁ。対処を頼む」

「任された」

 

 勇義は受肉した両面宿儺と対面する。

 しかしそこで奇妙なことが起こる。

 突然両面宿儺の右腕が自身の首を掴んだのだ。

 そして宿儺ではない者が話す。

 

「人の体で何してんだよ。返せ」

「お前、何で動ける」

「?いや、俺の体だし。あしゅら男爵みたいになってない?」

 

 器である筈の虎杖悠仁は宿儺を抑え込んで肉体の主導権を得る。

 それは本来なら有り得ないことである。

 呪物が受肉する際は基本的に器の意識は呪物に飲み込まれる。

 本来なら死んでいる筈なのだ。

 それが虎杖悠仁の場合は意識を保つどころか肉体の主導権を持っている。

 

「どういうこと?」

「いや、それは俺にも分からん。てかアンタ誰?」

「禪院勇義。伏黒と同じ呪術高専の生徒だよ」

「へえー…じゃあ禪院も指探しに来たの?」

「そうなんだけど…飲み込んじゃったんだ?」

「助かる為に仕方なく…これヤバい?」

「規定に則るなら死刑だね」

 

 死刑という言葉に虎杖が息を呑む。

 呪術も知ったばかりの一般人がいきなり死刑宣告されればそうもなるだろう。

 

 そこに割り込む人物がいた。

 二人の担任である五条である。

 

「今どういう状況?」

「なっ。五条先生!どうしてここに!」

「や。来る気なかったんだけどさ。流石に特級呪物が行方不明となると上が五月蝿くてね。観光がてら馳せ参じたって訳。で?見つかった?」

「あのーごめん。俺それ食べちゃった」

 

 虎杖の発言に五条が一瞬言葉に詰まる。

 そして一応の確認をした。

 

「マジ?」

「「「マジ」」」

 

 三人の返答を聞いて五条は虎杖に近寄る。

 そして顔を近付けて何かを確認する。

 

「んー?ハハっ。本当だ。混じってるよ。体に異常は?」

「特に…」

「宿儺と代われるかい?」

「あぁ、うん。多分できるけど」

「じゃあ十秒だ。十秒経ったら戻っておいで」

「でも…」

「大丈夫。僕最強だから。あ、戦うのは勇義ね」

「は?」

 

 突然の無茶振りに勇義がドスの効いた声を出す。

 しかし五条は取り合わない。

 それに勇義が諦めて溜め息を吐きながら虎杖に視線を寄越す。

 

 虎杖は宿儺に代わり、宿儺は代わった瞬間に勇義に向かって突撃した。

 宿儺の大振りの一撃を躱した勇義はカウンターを決める。

 顔面に裏拳を喰らった宿儺は面食らう。

 そして怒りに任せて斬撃を放った。

 しかし斬撃は勇義に衝突して無効化される。

 

「あぁ、もうそれ喰らったことあるから。意味ないよ」

「いつの時代も厄介なものだな。呪術師は!」

 

 宿儺は虎杖に代わる前に最後の一撃を勇義に当てる。

 しかしその打撃も意味を成すことはなかった。

 それは勇義が斬撃と打撃を無効化するように呪力を変質させているからである。

 既に斬撃も打撃も適応済みなのである。

 

 勇義の術式は魔虚羅と同様に一度適応しても段階的に対応が進み、時間が経つごとにより有効な対処法を生み出す。

 それにより遥か昔に斬撃と打撃は無効化されるように適応されていたのだった。

 

 宿儺が虎杖に抑え込まれ、肉体の主導権が代わる。

 

「おっ。大丈夫だった?」

「驚いた。本当に制御できてるよ」

「でもちょっとうるせーんだよな」

「それで済んでるのが奇跡だよ」

 

 五条は虎杖の額に指を当てて気絶させる。

 伏黒が疑問を口にする。

 

「何したんですか?」

「気絶させたの。これで目覚めた時、宿儺に体を奪われていなかったら彼には器の可能性がある。さて、ここでクエスチョン。彼をどうするべきかな?」

「……仮に器だとしても呪術規定に則れば虎杖は処刑対象です。でも死なせたくありません」

「…私情?」

「私情です。何とかして下さい」

「クックックッ。可愛い生徒の頼みだ。任せなさい」

 

 五条はそう言って虎杖を連れて瞬間移動する。

 勇義は伏黒に問い掛けた。

 

「随分と絆されてね?」

「……五月蝿え。負傷者がいるから病院に連れてけ」

「伏黒は?」

「自分でホテルまで帰る」

「無理すんなよ」

 

 勇義はそう言って破壊された壁から校舎の中へと入る。

 そして寝かされている負傷者を抱えて歩き始めた。

 

 

 

 

 翌日、寮の自室でゲームに熱中していた勇義は外の騒がしさを聞き取り、ゲームを中断して部屋の外に出る。

 そこには五条、虎杖、伏黒がいた。

 

「何の騒ぎ?」

「虎杖の高専入学が決まったんだ。部屋は俺の隣な」

「男三人並んでんの?女子が欲しいんですけど」

「そんな勇義に朗報だよ!明日はお出掛け。四人目の一年生を迎えに行きます」

「やっと男だらけの高専に真希ちゃん以外の女子が!?」

「その通り!楽しみにしててね!」

 

 勇義はガッツポーズを取って喜ぶ。

 高専入学以来、真希とですらまともに会話できていない勇義には喜ばしいことである。

 テンション高く雄叫びを上げる勇義に他の二人は冷めた視線を送るのだった。

 

 

 

 





・オリ主
斬撃、打撃、炎に適応済み。
体に流れる呪力が無効化するように変質している。
大体扇の所為。

・宿儺
ボコボコにされるのが確定している。
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