術式【適応】   作:雨曝し

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妖怪

 

 

 

 釘崎の高専入学から二週間後。

 勇義は広島県三次市で単独で任務に当たっていた。

 任務の概要は三次市の端にある廃館で発生した一級呪霊の祓除である。

 廃館には一級の他にも複数の二級呪霊が確認されており、それらを含めた廃館に存在する全ての呪霊の祓除が任務である。

 

 勇義は館の中に入り順調に呪いを祓って行っていた。

 所々内装が壊れている館の中を進む。

 薄暗さと呪霊の気配が相まって不気味な雰囲気を醸し出す館を気にすることもなく勇義は歩く。

 

 圧倒的な呪力を内包する勇義にとってこの程度の呪いの気配などそよ風にもならない。

 まるで普通の館を歩くように足を進めていた。

 

 そして遂に館の最奥の部屋へと辿り着く。

 ドアノブを捻って扉を開き、中に足を踏み入れる。

 先ず腐臭が鼻につく。部屋の中では人間の遺体が机を囲うように置かれていた。

 遺体はどれも損壊が激しく、呪霊に弄ばれた形跡が見える。

 机の上にはティーカップなどが置かれており、対象の呪霊が遺体で飯事をしていたのが伺える。

 

 腐臭に顔を顰めながら勇義は部屋の中央に鎮座する巨大な人形の呪霊と対峙する。

 呪霊は一昔前の女児用の人形のような姿をしている。

 

「趣味悪いね。ま、呪霊なんてそんなものか」

 

 凄惨な現場に慣れている勇義は軽口を叩く。

 呪霊はケタケタと悪辣に笑う。

 

 呪霊が徐に手を動かす。

 すると連動しているのか遺体が動き始めた。

 呪霊は遺体の口を操って言葉を紡ぐ。

 

「た…すけ…てぇ…」

「そういう揺さぶり意味ないよ」

 

 勇義は気を悪くした様子も見せずヘラヘラと笑う。

 遺体を前にして笑えるのは生来の胆力故か、性格が破綻しているのか。

 どちらせよ、呪霊にしてみれば面白くはない。

 

 呪霊は激昂して術式を発動する。

 部屋に置かれていた無数の人形が動き出す。

 そのどれもに呪力が籠っていた。

 

「人形を操るのか。らしくて良いね」

 

 勇義は尚も余裕を崩さない。

 そして向かって来た一級呪霊の呪力で強化された人形を容易く粉々に砕いた。

 動揺した呪霊の隙を突いて勇義が接近する。

 そのまま懐に入り、一撃で呪霊の頭を砕いた。

 

「はい。ゲームオーバー」

 

 勇義は軽快な口調でそう言うと部屋を出ようとする。

 その瞬間。

 天井が崩壊し、巨大な掌が接近する。

 

「っ…!」

 

 勇義は咄嗟に腕を上に構えて防御態勢を取る。

 掌は勇義を押し潰さんと迫る。

 腕と掌が衝突し、呪力が火花ように散る。

 互いの呪力がギシギシと音を立てて削り合う。

 

「うぉっ…らぁ!!!」

 

 勇義は呪力出力を上げて一気に掌を押し返す。

 掌は天井を超えて押し上げられる。

 勇義が天井を見上げると、そこには巨大な穴が空いていた。

 そしてその先に巨大な一つ目の化け物がいた。

 

「呪霊……違うな。何だこの違和感…!」

 

 正体不明の化け物に勇義は初めて動揺を見せる。

 一度距離を取る為に勇義は部屋を飛び出して館の外へ出た。

 住宅街から離れている為に帳は下ろされていない。

 昼間故の明るさで化け物の姿も鮮明に映る。

 

 化け物は和服を着ており、黒い肌をしている。

 全長は館よりも遥かに大きく、ビル程もあった。

 勇義は先ず補助監督の新田明に避難の指示を出す。

 

「明さん!全力で逃げて下さい!アレは特級相当です!」

「は、はいっす!」

 

 新田は車に乗り込み、急いでその場を離れる。

 勇義はそれを確認して未だに動きを見せない化け物に視線を向ける。

 

「正体不明か…ワクワクして来ちゃったな…!」

 

 自分の知らない未知の敵の出現に勇義は武者震いをする。

 未知を探求するゲーマー精神が興奮に拍車を掛けていた。

 

 勇義は化け物の元へと駆け出す。

 先程の押し合いで相手が図体だけじゃないことは把握している。

 見た目に見合った膂力。しかし呪力出力の高い勇義ならば充分に対抗できる。

 

「歯ぁ食いしばれ!!」

 

 勇義は翼を打って空を飛ぶ。

 そして化け物の顔面へ迫る。飛んでいる勢いを乗せて右の大振りを顔面に喰らわせる。

 

「ぐうぅっ…!」

 

 化け物は呻き声を上げながら仰け反った。

 しかし倒れるまではいかない。

 勇義は着地して思考する。

 

「重いな…単純な力押しじゃ意味がない。ならば…」

 

 勇義は既に術式を発動している。

 図体のデカく重い化け物への対処法は術式が編み出してくれた。

 

「お前、呪霊じゃなくてもそれに似た出自だろ?なら、これは効くよな」

 

 勇義は化け物の足に触れる。

 触れた掌から反転術式で生み出した正の力を化け物に流し込む。

 化け物の足は膨れ上がって爆発した。

 

「ビンゴ!!」

 

 足を失った化け物は態勢を崩す。

 しかし負けじと化け物は拳を振り下ろした。

 

 勇義は咄嗟に横に飛ぶことでその拳を避ける。

 空振りした拳は地面と衝突し、土が舞い上がる。

 

 勇義は翼を使って飛ぶことで土を被らずに済む。

 化け物は地面に倒れ込んだ。

 館が巻き込まれて崩壊する。

 

 地響きを起こしながら倒れた化け物の頭へ向かい、掌で触れる。

 正の力を流し込んで頭の一部を爆発させた。

 

「流石にこれだけやりゃ死ぬだろ」

 

 化け物の体はピクリとも動かない。

 確実に息の根を止めたか確認する為に勇義は死体をつつく。

 それでも化け物は反応しない。

 勇義は漸く一息吐く。

 

「はぁー…楽しかった。にしても何なんだこいつ?呪霊じゃねえよなぁ…」

 

 勇義は死体を見ながら呟く。

 ふと疑問が湧いた。

 

「何で消えねえんだ…?」

 

 呪霊に近い存在ならば実体は持たないと予想していた勇義。

 有り得ない推論が脳を駆け巡る。

 

「実体がある生命体…?それも呪霊に近い…?」

 

 勇義は一先ず思考を落ち着かせる為にスマホを取り出した。

 そして高専に所属する医者である家入硝子に電話を掛けた。

 

「もしもし、家入さん。すぐに来て欲しい案件があるんですが…はい。ありがとうございます」

 

 家入を呼ぶことに成功したら勇義は電話を切る。

 そうして化け物の死体を眺めるのだった。

 

 

 

 

 勇義から少し離れた山の崖に腰掛ける人物がいた。

 裃を着て武士のような格好をしており、厳つい顔立ちは見る者に時代錯誤な印象を与える。

 

 男は崩壊した館の上に倒れる化け物の死体を見つめていた。

 そこにもう一人の人物が加わる。

 五条袈裟を着た額に縫い目のある男である。

 袈裟を着た男は武士のような男に問い掛ける。

 

「どうだった?」

「夏油。凄まじいな。呪術師は。私の手駒が容易く屠られてしまった」

「禪院勇義は五条悟と同様、例外的な立ち位置にある。あまり基準にはしない方が良いよ?」

「それにしてもだ。まさか大道がやられてしまうとは」

 

 夏油はニヤリと不気味な笑みを浮かべる。

 

「じゃ、答えは決まったかな?」

「あぁ。貴様の作戦に協力しよう。私は呪術師を皆殺しにし、魔王となる」

「良かったよ。これからよろしくね。山本五郎左衛門」

 

 夏油はそう言って背を向けた。

 対して山本五郎左衛門と呼ばれた男は尚も館の方を見ていた。

 その視線の先には勇義がいるのだった。

 

 

 

 

「家入さん。なんか分かりました?」

 

 勇義は現場に来て、化け物を解剖する家入にそう質問する。

 家入は少し悩んだ末に語り出した。

 

「これは生物で間違いないよ。ただ、これが何かまでは分からない。肉体の構造自体は人間に近いけど、肝心の脳が人間のそれじゃない。つまり正体不明ってこと」

「正体不明の生物か。UMAか、妖怪か。どちらにせよ、新しい勢力が現れたことは間違いないですね」

「そうだね。これが複数体いるって想定すると一級でも手に余るかもしれない」

「ま、取り敢えずこの化け物は仮称・妖怪で。一つ目だし」

 

 そう勝手に決めて勇義は現場を離れる。

 近くで見ていた新田のところへと向かう。

 

「新田さん。避難区域はどこまで広げました?」

「半径10kmっす。それと上から今回の案件は特級相当と認められました」

「まあ当然か…」

 

 勇義は渋い顔をする。

 特級相当の案件を単独で遂行したとなると特級術師への昇格も有り得る。

 しかしそうなると仕事が増えて面倒なのである。

 

 勇義は憂鬱な顔をして取り敢えずPSPを開いたのだった。

 

 

 





・オリ主
未知を探求することが楽しみ。
疲れた時や悩んだ時はゲームをして脳をリセットする。

・新田明
オリ主とは長い付き合い。
初めて監督したのがオリ主の任務だった。
それからそこそこ連絡を取り合う関係になった。
結構な頻度で弟のことで相談している。
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