好き好き大好きソニアさん!!   作:灰色付

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ハーメルンで初めて投稿しました。
規約違反していたら教えていただけると嬉しいです。
舞台とメンツは代えず、日常を描く1話完結短編集です。


プロローグ的な

 

 画面の向こうで無数に流れるコメント。

 一応、これも私の仕事の一部だから、できるだけ丁寧に拾ってあげたいけれど、広大なワイルドエリアを歩きながらだとそれも限界がある。

 

 湿った風が運んでくる土と草の匂い。遠くで聞こえる複数のポケモンの鳴き声。それら全てが私の五感とスマホロトムを通してデータ化されていく。

 

「……聞こえましたか? 遠くで微かに響いている地鳴り。あそこに見える足跡の深さと歩幅からして、おそらくこの辺を縄張りにしている『ぬし』のキテルグマですね。遭遇したくなければ、このルートは避けてください。それから、私のヤクデがちょっと熱を持ってきたので一雨来るかもしれません。雨具の用意を忘れないでくださいね」

 

 ドクターとして研磨してきた観察眼による分析と視聴者への気遣いを交えて話していると、ロトムは浮遊しながら見やすいアングルで私の動きを追ってくれる。

 

 コメント欄には相変わらず色んな人がいる。

 

 専門知識が必要な質問にはできるだけ答えたいし、複数のセクハラに該当するコメントに紛れている「一人で大丈夫?」なんて心配してくれる優しいアカウントには、思わず笑みがこぼれてしまう。

 

 大丈夫ですよ、私はそれなりに強いですからと答えている時、目の前の草むらが大きく揺れて、苛立った様子のストライクが飛び出してきた。私目掛けて鋭い鎌を振り下ろそうとしている。"きりさく"攻撃ですね。

 

「チュルッ!」

 

 チリ、と胸ポケットで小さな電気が弾けると、目の前で緑色の障壁が展開されていた。内ポケットでゆったりしていたバチュルの"まもる"。ナイス判断です!今日の夜ご飯はバチュルの好物に決まりですね。

 

 鎌が弾かれ、態勢を崩した隙をスマホロトムは見逃さない。

 至近距離から放たれた"エレキボール"がストライクを吹き飛ばす。追い討ちをかけるように、空中のストライクに''ラスターカノン"を放つと、ストライクは目をぐるぐる回して気絶した。

 

 ふう、少しびっくりしましたね。一瞬動揺したシーンは後でカットするとして、ちゃんと冷静に対処してる所は映りました。ソニアさんもたまに見ていると言っていたので、できるだけかっこよく映りたいですし。あわよくばそれで惚れてくれたら……、なんて考えながら歩めを進めていく。

 

「さて、次は最近ロゼリアが大量発生しているらしい場所へーー」

 

 言いかけたところで、けたたましい着信音がロトムから鳴り響く。

 

「もう、配信中なのに……誰なんですか?」

 

 少し困った顔で画面を確認する。

 

 けれど、そこに表示された名前を見た瞬間、寸前の気持ちはどこかに飛んでいき、私の顔は自分でも分かるくらい一気に輝いた。

 

 『ソニアさん』

 

「あ、……えっと、皆さんごめんなさい! ちょっと緊急の、すごく大事な用件が入ったので配信は一旦ここで切らせていただきます。続きはまた後ほど絶対やりますからね!」

 

 慌てて配信を中止して、通話ボタンを押す。

 声が上ずらないように、精一杯の笑顔で。

 

「もしもし、ソニアさん! どうしたんですか、こんな時間に珍しいですね!いやいや、迷惑ではなくて嬉しいんですよ!?ただ気になっただけで!」

『あ、レイナ! ごめんね配信中だった? 今度さ、私の家の近くにあるカフェに行かない? 珍しいのが入ったって聞いたから、レイナと一緒に飲みたくて』

 

 画面の向こうで、ソニアさんがいつもの明るい笑顔で首を傾げる。その言葉だけで、今日の疲れなんて全部吹き飛んじゃいます。ソニアさんと2人きりでお茶!

 

「もちろんです! ソニアさんのお誘いなら、どんなスケジュールでもこじ開けてでも行きますよ! いつにしますか? 今すぐでも飛んでいきますよ!」

『良かった〜! レイナは忙しいから断られないか心配だったの。あ、ちなみに『当然、私もいるから。あんたの好きにはさせないわよ』

 

「……は?」

 

 ソニアさんの声を堪能していたのに、突然、この世で一番聞きたくない最悪な声が割り込んできた。

 

 画面の端から、見覚えのある無駄に整った顔でニヤニヤと現れる女、ルリナ。

 

 どうしてこの女がそこにいるんですか。せっかくのソニアさんとの時間が。

 

「なんであなたがいるんですか。私はソニアさんと二人でって」

 

『ソニアがカフェに行きたいって言った時、隣で相談に乗ってあげてたのは私。あんたみたいに野生ポケモン追い回してる暇人とは違うの。ソニアには私とお揃いの紅茶が一番合うんだから、あんたは端っこで白湯でも飲んでなさいよ』

「誰が暇人ですか! あなたの選ぶ紅茶なんて、渋くてソニアさんの味覚には合いません! ソニアさんの好みを一番理解してるのは、長年隣で健康管理をしてるこの私です!」

 

『健康管理って……ただのストーカーじゃない。ソニア、こいつやっぱり危ないわよ、私がガードしてあげないと』

「ストーカーじゃないです! 愛ですよ愛! あなたこそ、モデルの仕事が暇だからってソニアさんに粘着しないでください!」

 

 画面越しにバチバチと火花が散る。

 ソニアさんとの甘いお茶会のはずが、このデカ女によって一瞬で空気を変えられた。

 

『あはは……二人とも、そこまでにしなよ。言っとくけど、前みたいにお店の人に迷惑かけちゃダメだからね?』

 

 ソニアさんの困ったような、でもどこか楽しげな声が仲裁に入る。その瞬間、私とルリナの視線が、画面越しのソニアさんへと同時に向かう。

 

 そこに浮かぶのは、言葉にできない、でも確かにそこにある複雑な感情。

 

 ──ソニアさん。

 今は超優秀な博士と、ただのドクター。釣り合ってないと言われるかもしれない。でも、私にとっては憧れの人で、世界で一番大切な人。

 

 大好きだけど、彼女からすれば今の私は、仲の良い友人としか思われていないはず。でも、モデル崩れのジムリーダーだって、私より長い付き合いのはずなのに、ちっとも進展していない。

 

 現状は、私とルリナが牽制し合って足踏みし、友人の枠に収まっている。

 

 けれど、いつかこの関係が変わる日が来るのなら。

 その時彼女の隣に立っているのは───私だ。

 絶対にこの女にだけは譲らない。

 

 画面の中のルリナを殺意のこもった視線で睨みつけながら、内心で静かに、けれど強くそう決意した。




百合三角関係って良いですよね……。矢印を向けてる女の子同士がいがみ合ってるところとか、矢印を向けられる女の子がどう動くのかもすごく気になる。百合はやっぱり一対一の純愛が多いから、女同士の取り合いがあまり見つけられなくて寂しいから書きました。
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