時計の針が刻む音が、まるで私を急かすカウントダウンみたいで本当に癪に障る。
廊下を右に十歩、左に十歩、もう何度往復したか分からない。足元の絨毯が擦り切れてしまいそうだし、ポケットのバチュルだって「いい加減にして」と言わんばかりにモゾモゾ動いているけれど、私の思考はちっとも答えを見つけられない。
行くべきか、行かざるべきか。
普通に考えて行動すれば、答えは「行かない」の一択のはず。
そもそも、私があの女に塩を送って二人っきりの時間を作ってあげたんですから、これ以上の慈悲なんて必要ない。誕生日当日に、わざわざ寒い夜風に吹かれながら、嫌いな女の顔を見に行くなんて正気の沙汰じゃないし、そんな暇があったら未読の資料の一本でも読むべきだ。
でも、ソニアさんが言っていた。
「お祝いには顔を出してね」って。あの困ったような、それでも期待を含んだような笑顔。
もし私がこのまま行かなかったら、ソニアさんは「レイナ、やっぱり来なかったか」って少しだけ寂しそうに笑うかもしれない。そんなのは耐えられない。ソニアさんを悲しませるなんて未来のお嫁さん失格だし、何より私の行動でソニアさんが傷つく事は許されない。
でも、簡単に想像につく。
あの高慢ちきなルリナが、私の差し出したプレゼントを見てどんな顔をするかが。
「あら、あんた私にお祝いなんてしたかったわけ? 素直じゃないわね」なんて調子に乗って嘲笑ってくるか、あるいは「こんな日にまで邪魔しに来るなんて、本当に空気読めないわね」って冷たく拒否されるか、どっちに転んでも最悪な二択しか存在しない。
あー、もう、なんでこんなもの用意しちゃったんですか、私は!
手に持った包みが、まるで毒物か何かみたいに重たく感じる。いつもは口汚く罵り合ってる相手に、今更「おめでとう」なんて、どの口が言えるっていうんですか。気恥ずかしすぎて、想像しただけで顔が熱くなる。
だいたい、あの女だって誕生日に私みたいな天敵と顔を合わせたくないはず。せっかくソニアさんと二人でいい雰囲気になってるかもしれないのに。そこに私がノコノコ現れるなんて、その瞬間の空気なんて気まずくて想像すらしたくない。
……いや、でも、だからこそ行かないと。
二人があんまりにも良い雰囲気になりすぎて、明日から私が入り込めないくらいの空気を作られたら困る。牽制、そう、これはお祝いじゃなくて、あくまで「私もいる事を忘れないでくださいね」っていう牽制――。
「……っ、もうっ!」
自分の理屈の苦しさに、思わず廊下で頭を抱える。
時計を見る。午後11時30分。もう、今すぐオンバーンを飛ばさないと日付が変わってしまう。
行くのも地獄、行かないのも地獄。
だったら、さっさと行って、プレゼントを投げつけて、そのまま直ぐに立ち去ればいい。
それなら私のメンツも保てるし、ソニアさんとの約束も果たせるし、ルリナに余計な隙を見せずに済む。
「……オンバーン! 超特急で行きますよ!」
私は半分ヤケクソでボールを投げた。
玄関を出て夜の冷たい空気に飛び込めば、少しはこの熱くなった頭も冷えると思ったのに、胸の鼓動は早くなるばかり。