好き好き大好きソニアさん!!   作:灰色付

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五①

「じゃあね、ルリナ! パルデアに行っても遊びすぎないでしっかりお仕事してくるんだよー!」

 

 ガラルの空港ロビーにて、愛しいソニアがちぎれんばかりに両手を振っている。その周りには、ジムのトレーナーやスタッフ等の顔馴染み、モデル事務所のマネージャー。それから、ローズ委員長の手配したマクロコスモスの社員さんに、どこから噂を聞きつけたのかメディアの人なんかも集まっていて、ちょっとした騒ぎになっていた。

 

 今回のパルデア地方への長期出張は、ローズ委員長からの直々の指名だった。

 

 ガラルとパルデアの新たなビジネスおよび異文化交流の一環として、向こうの著名人であるリップと、仕事を通じて交流のあった私に白羽の矢が立ったのだ。

 

 委員長直々の頼みとあっては断れるはずもないし、モデルとしてもジムリーダーとしても、パルデアの市場や独自のバトルスタイルに触れるのは大きなプラスになる。だから、話が決まった時はそれなりにモチベーションだって高かったはず……なのに。

 

「ありがと、ソニア。そんなに心配しなくても、ただの出張なんだからすぐに戻ってくるわよ」

 

 笑顔でソニアに応えながら、私は無意識のうちに、集まった人の波の中へ何度も何度も視線を泳がせていた。

 

 ……いない。

 どこを探しても、あの鬱陶しいくらいに長い銀髪女の姿は見当たらなかった。 「せいせいします」とか「二度と帰ってこないでください」とか、一言くらい毒を吐きに来ると思っていたのに。

 

「どうかした? 誰か探してるの?」

「……別に。何もないから。ただ、ちょっと人が多いなと思っただけ」

 

 ソニアの鋭い指摘を誤魔化すように、私はわざとらしく肩をすくめてみせる。だけど、胸の奥に澱のように溜まっていくこのモヤモヤとした不快な感情の正体までは誤魔化しきれなかった。

 

 何よ、あいつ。結局、ほんとに最後まで来ないわけ?

 

 私がガラルを離れてしばらく戻ってこないっていうのに、見送りにすら顔を出さないなんていい度胸じゃない。いつもならソニアのストーカーみたく引っ付いてくるくせに、今日に限って「仕事が忙しい」という伝言をソニアに残して欠席だなんて、本当に可愛げがない。

 

 どうしてこんなに苛立っているのか、自分でもよく分からない。 ……ああ、そうか。ソニアと長期間離れるのが、想像以上に寂しいからか。

 

 あのチビがいないから、余計に大好きなソニアとの時間が失われることが強調されて、それで腹が立っているだけ。そうよ、それ以外に理由なんてあるわけがない。 私は自分に言い聞かせるように、一つ大きなため息をついた。

 

「ルリナ様、そろそろ搭乗手続きのお時間です」

「ええ、今行きます……じゃあね、ソニア。行ってくる」

「うん! お土産話、楽しみにしてるからねー!」

 

 集まってくれた人たちに最後の一礼をして、私はきびすを返した。自動ドアをくぐり、手続きへと進む。パスポートを提示し、手荷物検査を終えて、出発ロビーの静かなベンチに腰を下ろした。

 

 搭乗開始を告げるアナウンスが流れるまでの数分間、私は何をするでもなく、ポケットからスマホロトムを取り出した。

 パルデアに着いたらすぐにリップや現地のスタッフに連絡を入れなきゃいけないし、一応通知のチェックでもしておこうと思ったその時、ピコン、と小気味いい電子音が鳴って、画面の上部にメールの着信通知が表示された。

 

 件名はなし。アドレスは、アドレス帳に登録されている『バカレイナ』の五文字。

 

「……なによ、今更」

 

 仕事の都合で見送りに行けなくてすみませんって、そういう中身のない謝罪メールかしら。

 鼻で笑いながら画面をタップして、メールの詳細を開いた私の指先が、次の瞬間にピキッと止まった。

 

 そこには、文章なんて一行もなかった。

 代わりにぽつんと貼り付けられていたのは、やたらと生意気な顔をしたマスコットポケモンが、バカにするようにベロをべーっと突き出して指を差して笑っている、そんなふざけたスタンプだった。

 

要するに挑発しているのだろう。一瞬で頭に血が上るのがわかった。 最後の最後まで一言のまともな挨拶も、寂しがる素振りも見せずに……!

 

「……っ、あいつ、ほんとうに…!!」

 

 さっきまでの、ソニアと離れるから寂しいんだと思い込もうとしていた神妙な気持ちが、たった一枚のスタンプによって跡形もなく木っ端微塵に吹き飛ばされた。

 

 見送りに来ないくせに、こんなところでまで私を煽って、マウントを取ってこようとするなんて本当にどこまで意地が悪いわけ!?

 パルデアに行く私を少しでも見送る気があるなら、もっと他に送り方があるでしょうが!

 

「待ってなさいよレイナ……! この仕事を一瞬で終わらせて、帰ってきたらその生意気な口を二度と開けないように叩き潰してあげる!」

 

 スマホを握りしめる手に力がこもる。 イライラは最高潮に達したはずなのに。 どうしてか、さっきまで胸に居座っていた謎の違和感だけは、この最低なスタンプ一枚で、綺麗さっぱり消し飛んでいた。

 

「ルリナ様、搭乗のご案内です」

「すぐ行きます!」

 

 私は乱暴にカバンを掴むと、スマホをポケットに押し込み、力強い足取りで搭乗ゲートへと歩き出す。

 

 搭乗ゲートの向こう側、まだ見ぬ異国の空よりも、私は今、ガラルに残してきたあいつのことばかりを考えていた。

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