好き好き大好きソニアさん!!   作:灰色付

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五話②

 パルデアの夜風はガラルのものより少しだけ乾燥していて、ホテルのバルコニーから見下ろす夜景は綺麗で、退屈しのぎにはちょうどよかった。……はずなのに、今の私の頭にはそんな景色を楽しむ余裕なんて一ミリも残っていなかった。

 

「ちょっと、何これ……! なんなのよこれ、ふざけないでよ……っ!!」

 

 ベットの上でふわふわ浮遊しているスマホロトムの画面を睨みつけながら、私は危うく手に持っていた高級なハーブティーをシーツにぶちまけそうになっていた。

 

 画面に表示されているのは、SNSのタイムライン。そこに、ソニアに言われて嫌々フォローした見覚えがありすぎるレイナのアイコン。ソニアから貰ったらしい帽子を、態々見せつけるようにトプ画にまでしてるらしく、見るだけで虫唾が走る。

 

 パルデアに出張してきてからというもの、あいつ――レイナの投稿頻度が異常な程増えている。それも、

 

『今日のランチはソニアさんと2人で新しくできたパスタ屋さん。……話は変わりますがホシガリスって可愛いですよね(ソニアがピザを口いっぱいに頬張っている写真)』

 

『ソニアさんが研究で行き詰まっていたので、気分転換もかねてドライブに行きました(ハンドルを握ってるレイナと助手席でピースしてるソニアのツーショット』

 

『ソニアさんの髪、私が新しく買ってきたヘアオイルで綺麗にセットしてあげたんですよ。こういうソニアさんもありですね!(2人で並んで顔を寄せ合っている自撮り写真)』

 

 ピキッ…と、自分の額に青筋が浮き上がる音が聞こえた。

 あいつ、私がガラルにいないのをいいことに、ここぞとばかりにソニアに接近しまくっている。しかも、わざわざ私に見せつけるかのごとく画像や動画をこれでもかと投稿し、タイムラインをで埋め尽くしているのだ。

 

 絶対、絶っっ対に私への当て付けだ。私が距離的に手も足も出せない事を分かっていて、安全圏から一方的にマウントを取りにきている。

 

「あー、もう、めちゃくちゃムカつく……っ!!」

 

 やり返したい。今すぐソニアから引き離してやりたいのに、私とあいつの間には飛行機で何時間もかかる物理的な距離がある。最悪!仕事の合間にこんなストレスを溜めさせられるなんて、本当に割に合わない。

 

 我慢の限界を迎えた私は、あっちの都合なんてお構いなしに、通話アプリからレイナのアイコンを狂ったようにタップした。数回の呼び出し音の後、驚くほど緊張感のない、気の抜けた声がスピーカーから聞こえてくる。

 

『……こんな夜中になんなんですかー?さっきまで寝てたんですけど』

「用があるからに決まってるでしょ! 何よあの品性のない投稿は! あんた仕事はどうしたのよ、忙しい忙しいって散々言ってたじゃない!ソニアのストーカーに転職でもしたわけ!?」

『はあ? 何を人聞きの悪いことを言っているんですか。私はただ、ガラルでソニアさんのお手伝いをしているだけですよ。ルリナみたいに、ソニアさんを置いて遠くへ行ってしまう薄情な人とは違いますから』

 

 受話器の向こうで、気怠げそうなレイナがフフンと鼻で笑う気配が伝わってきて、さらに血圧が跳ね上がる。

 

『ああ、そういえば。明日はソニアさんと一緒にベリータルトを作る約束をしているんです。ルリナは一人寂しくホテルの高いディナーでも食べていてくださいね』

「あんたねぇ……っっ!!」

 

 これ以上聞いていたらスマホを床に叩きつけて壊してしまいそうだった。私はそれ以上の自慢話を遮るように、通話終了の赤いボタンを親指で思いきりぶち抜いた。ガチャ切りだ。

 

 ハァハァと荒い息を吐きながらベッドに倒れ込む。悔しい。一方的に負けたみたいで死ぬほど腹が立つ。何か、何かあいつの生意気な鼻っ柱をへし折るような、手段は無いわけ――?

 

「……、……あ」

 

 天井を見つめていた私の脳裏に、ふと、昼間にパルデアのリーグスタッフや学生達と繰り繰り広げたバトルの光景が浮かんだ。

 

 パルデアのトレーナーは、ガラルの奴らとは一風変わった戦術を使うし、そのうち何人かはリベンジ精神が異常に強い。私はニヤリと、自分で自覚する程意地の悪い笑みを浮かべていた。距離が離れているなら、向こうから勝手に刺客が届くように仕向けてやればいいのよ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「あ、あぶ、危なかった……! 危なかったです、本当に……っっ!!」

 

 目の前の土煙が引いていく中、私は思わず胸元をぎゅっと掴んで、その場にへたり込みそうになっていた。

 土煙から出てきたヘルガーも、心なしかいつもよりヘトヘトになっていて、慌ててモンスターボールへと戻す。

 

「おーよしよし、レイナちゃんお疲れ様! 相手の技が3連続で急所に当たるなんて、ちょっと運が悪かったね。でもよく巻き返したよ、さすが!」

 

 ベンチで見守ってくれていたソニアさんが、駆け寄ってきて私の頭を優しく撫でててくれる。その温もりにホッと息をつきつつも、私の背中には嫌な汗がびっしょりと滲んでいた。

 

 最近、本当に不思議なことばかりが起きている。

 ルリナがパルデアへ出張に行ってからというものの、なぜかワイルドエリアやそこら辺の路上で、野良トレーナーから突然バトルを挑まれる機会が異常に増えたのだ。

 

 最初は、ソニアさんと一緒にいる時にカッコいいところを見せる絶好のチャンスだと思って、私は「いいですよ、相手をしてあげます」なんて嬉々として受けて立っていた。ソニアさんに「今のバトルすごかったね!」なんて褒められるのは、この上ない快感だったから。

 

 だけど、日が経つにつれて、挑んでくるトレーナーの質が明らかに変化していた。

 

 単純にレベルが上がっているだけじゃない。まるで、私のよく使用する戦術や、交代の癖、好む連携やコンボのタイミングを、最初から知っているかのような、嫌な立ち回りを仕掛けてくるのだ。今日のバトルなんて、本当にあと一歩で負けるところだった。

 

「くっ……これだけっ、これだけ完璧な情報をもらったのに、それでも勝てないというのか……っ!」

 

 地面に膝をつき、悔しそうに拳を握りしめているのは、今しがた私に負けたばかりのパルデア地方にあるアカデミーの制服を着た男の子――カルロというトレーナーだった。

 

 私はソニアさんと顔を見合わせる。今、この子の口から不穏すぎる単語が聞こえてきた。

 

「ちょっと、あなた。情報って言いましたか? それはどういう意味ですか、詳しく聞かせて下さい」

「そうだよ、君。レイナちゃんとのバトルの対応、なんだかチグハグで変だったし。誰に何を聞いてここに来たの?」

 

 ソニアさんが少し真面目な顔になってカルロを問い詰めると、彼は私の姿を凝視した後に白状し始めた。

 

「……アカデミーで水タイプのジムリーダーにバトルを挑んだら、木っ端微塵に負かされて……! 悔しくてリベンジを申し込んでも、彼女は『私も仕事で来ててあんまり余裕がないから、お互い強くなったらまたやりましょう』ってやんわり断られたんだ」

 

 その特徴を聞いた瞬間、私の脳裏にあの不愉快な顔が鮮烈にフラッシュバックした。

 

「それで、その女がなんて言ったんですか」

「『もし、どうしても私とバトルがしたいのなら、ガラルにいるこのチビ女に勝ってきて。こいつの戦術のクセや弱点のデータも教えてあげるし、勝てたらあなたの為にバトルする時間を作ってあげる』って、お、俺に教えてくれたんです……hey、ロトム」

 

 カルロが呼び出したスマホロトムの画面には、私の写真がデカデカと表示されており、その下には私のバトルの癖や、手持ちの特性やよく使用する技、交代のタイミングなどが、恐しいほど詳細に書かれていた。

 

「ルリナァァァァァァッッ!!!!」

 

 私は街のど真ん中で、我を忘れて絶叫してしまった。

 

 なんなんだあの女は! 自分がパルデアで負かした凶暴なバトルジャンキー勢を、私のバトルの弱点データ付きでガラルへ大量に横流ししていただなんて!

 嫌がらせのためだけに、こんな手の込んだ刺客のシステムを作り上げるなんて、本当にどこまで性格がねじ曲がっているんだ。

 

 隣でソニアさんが「相変わらずこの2人は……」と呆れたように笑っているけれど、今の私は一切笑えない。

 スマホの画面の向こうで、これ以上ないくらい意地悪くニヤニヤと笑っているルリナの顔がはっきりと見えた気がした。

 

「いい度胸です……。送られてくる刺客を何百人だろうと全員返り討ちにして、ソニアさんの前で私の評価を上げる踏み台にしてやりますよ! そして、ガラルひ帰ってきたら、絶対にただじゃおきませんからね……!!」

 

 私はカルロのスマホを睨みつけながら、怒りで拳を震わせて、ガラルから遥か遠いパルデアの空へと向かって、届くはずのない怒号を何度も何度もぶちまけるのだった。

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