好き好き大好きソニアさん!!   作:灰色付

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 2月も半ばを過ぎると、スクールの敷地を通り抜ける風の冷たさの中にも、どこか落ち着かない空気が混ざり始めていた。

 

 講堂の周りでは卒業式の予行練習の準備が始まっていて、私とソニアがこの場所で過ごす時間も、残りわずかになっていた。さらに、下級生のレイナは進級に伴って学業が一気に忙しくなるらしく、来期からは本格的な実習とやらで、今までみたいに毎日のようにソニアにべったり引っ付いている時間なんてゼロになるはずだ。

 

「……ま、最後の数週間くらいは、大人しくソニアを独占させてあげてもいいでしょ」

 

 だから、先輩としての度量というものを見せて、あえて突っかからずに見逃してあげることにしたのだ。我ながら、なんて後輩に情けをかける優しい先輩なのだろうと自画自賛したいくらいだった。

 

 ところが、あの生意気なチビの脳みそは、私の配慮をこれっぽっちも理解していなかった。

 

 一日目。

 中庭のベンチでソニアに抱きつくレイナを引き離さずに泳がせてやったら、あいつは「今日は私に突っかかってくる元気もないんですか? 都合が良いので、ソニアさんの匂いを堪能させてもらいますね」と、これみよがしにソニアの肩に頭を預けてすりすりと甘え始めた。私が反応しない事にきょとんとした眼で見てきたけど、身体はソニアから動いていなかった。

 

 二日目。

 食堂でソニアと2人でいるところを通りかかった際も、私はあえて声をかけずに通り過ぎてやった。すると放課後、廊下ですれ違いざまに「ルリナ、最近は私に言い返す言葉も見つからないくらい、卒業前のセンチメンタルに浸っているんですか? 弱々しくて笑っちゃいます」と、勝ち誇った顔で煽ってきた。

 

 三日目も四日目もそう。私が大人の余裕でスルーしてあげているのを、あいつは「自分がルリナに勝っているから大人しいのだ」と浅はかな勘違いを起こして調子に乗り続けていた。

 

 そして五日目の今日。中庭のベンチで、ついに限界が訪れてしまった。

 

「ソニアさん、見てください! 図書室の帰りに購買に寄ったら、最後の一個だった限定のベリータルトが買えたんですよ! ルリナみたいな大食いがいなかったおかげですね」

 

 ソニアの隣に座ったレイナは、わざとらしく私の方をチラチラと見ながら、勝ち誇ったようにふんす、と鼻を鳴らした。

 私が無視して視線をスマホに戻すと、レイナはさらに調子に乗って言葉を重ねてくる。

 

「最近のルリナは大人しいですね。ようやく幼馴染は負けフラグだって理解して敗北を認めたんですか?」

「……あのさぁ、あんたほんっっっとうにいい度胸してんのね。誰が誰に負けたって?」

 

 こいつ、私がまさか自分たちのために気を利かせて、わざわざ邪魔をしないように一歩引いてあげているなんて夢にも思っていないのだ。クソチビの脳内では、私の優しさが元気がないだの言い返せないだのに変換されているに違いない。本当に、どこまでおめでたい頭をしているのか。

 

 数日間、ずっとその態度を大人の余裕でスルーしてあげていたけれど、さすがにこうも調子に乗られると、私の堪忍袋の緒が音を立てて弾け飛んだ。

 私はスマホをポケットに押し込み、ベンチから立ち上がってレイナの前に影を落とす。

 

「何ですか。図星だからって威圧感を出そうとしても無駄ですよ。あなたが私とソニアさんの間に入れないのは事実ですからね」

「私が何も言わずに泳がせてあげてたのはね、もうすぐ卒業してソニアと離れ離れになる上に、来期から勉強漬けで忙しくなる予定の哀れな女に、最後の慈悲をかけてあげてたからよ」

 

 私が冷ややかな笑みを浮かべて暴露してやると、レイナは一瞬だけ怯んだものの、すぐに呆れたような顔で私を睨んできた。

 

「……何が慈悲ですか。どうせいつもの口から出まかせの負け惜しみでしょう。あなたがそんな、私にに配慮できるような殊勝な人間なわけがありませんから」

「へぇ、あんた、本当に自分の置かれた状況が分かってないみたいね。来期からのスケジュール、知らないわけでもないでしょ?」

「スケジュール……? 実習とかで少し忙しくなるだけです。ここから抜け出してソニアさんに会いに行く時間くらい、いくらでも作れます!」

「作れるわけないでしょ、あの鬼みたいなカリキュラムで。じゃあ、あんたがこれから、実習室の片隅で分厚い教科書と睨み合って泣きそうになってる頃に、私たちが何をしてるか教えてあげましょうか?」

 

 何日も我慢して溜め込んでいた分を発散するように、一気に、そして猛烈な勢いで口を回し始めた。

 

「あーあ、卒業したら何しようかしら! まずはソニアと二人でホウエンの観光に行って、そのままアローラで卒業旅行もしなきゃいけないし! ああ、ソニアの水着が早く見たくて堪らないわ〜! それに、ガラルに戻ったらソニアと一緒に謝恩会のドレスを選びに行って、パーティもしないといけないし、もう信じられないくらい忙しくなっちゃうなぁ!」

 

 わざとらしく声を弾ませて、これでもかと今後のきらびやかな予定を捲し立ててやる。案の定、レイナの顔からさっきまでの余裕がみるみるうちに消えていくのが分かって、最高に気分が良い。

 

「あ、ごっめーん! そういえばあんたは、お勉強と実習で予定がギチギチに詰まってて、敷地から一歩も出られないんだったわよね〜~! かわいそーに! ま、もし私が気が向いてて?? あんたの存在を忘れてなければ?? アローラでお土産くらいは買ってきてあげるわよ。アハハハ!」

 

 これまでの鬱憤を全てぶちまけるような私の高笑いが、中庭に響き渡る。

 

 一方のレイナは、完全に呆気にとられたまま口を半開きにして固まっていた。

 そう、私は卒業しても、ずっとソニアの隣にいる事が出来る。それに対してレイナは、スクールに残って孤独に勉強漬けの日々を送り、ソニアとも気軽に会えなくなる――その残酷な未来の格差に、今更になってようやく気がついたらしい。みるみるうちにその大きな目が焦りに染まっていく。

 

「そ、そんな……ちょっと待ってください、ルリナ……っっ!!」

 

 ガタッと立ち上がったレイナの顔は青く染まっていて、今までに見たことがないような必死の形相で私に詰め寄ってきた。

 

「そ、卒業したからって、そんな風にソニアさんの予定を全部独占するなんて横暴です! これからも、私とソニアさんが会う時間は残しておいてください! お願いです……っ!」

 

 さっきまで私を煽り散らしていたくせに、未来予想図がよほど恐ろしいのか、必死になって懇願し始める姿が最高に滑稽だった。そんな焦りまくっているチビを、私は上からこれみよがしに見下ろして笑っててやった。

 

「えー、どうしよっかな〜? 私はソニアの幼馴染だし、ソニアも私と旅行に行くのをすっごく楽しみにしてるし。あんたみたいなクソ生意気な年下のために、わざわざ貴重なスケジュールを空けてあげるメリットがどこにあるわけ?」

「う、うぐぐ……っ、あなたは本当に、どこまで性格が悪いんですか……っっ!!」

 

 これ以上ないくらい恨めしげに、涙目で私をキッと睨みつけてくるレイナ。けれど、そんなチビの精一杯の威嚇なんて、今の私には心地いい負け犬の遠吠えにしか聞こえなかった。

 

「あはは、悔しかったらさっさとその実習とやらを終わらせて、私に頭でも下げにきなさいよね!」

 

 私はレイナの視線を全く気にも留めず、完全な勝利の余韻に浸りながら、中庭の青空に向かって勝ち誇った高笑いをいつまでも響かせるのだった。

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