デジモンアドベンチャー02 THE BEGINNING -Outside the screen is shadow-   作:通りすがりのヌメモンA

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はじめまして!
もしくはお久しぶりです!
ヌメモンらしく生き足掻いております!

画面外でこんなことがあれば良いなと妄想した小説です。
なるべく設定には忠実ですが、タグ通りの独自設定と解釈が多分に含まれますのでご注意下さい。
以前、供養として投函した活動報告にあった、黒ゲンナイ羂索概念が元になってます!…より邪悪にしてごめんね。

尚、念の為に言っておきますが作者はtriに関してはやや否定派ですが、設定さえ整理すればまだギリギリ救いがあるのでは、と思っております。
ラスエボで芽衣子とメイクーモンいたしね!
…公式が黒歴史と自覚してようが、一応は正史なんでしょう。
もしくは、あの混沌としたストーリーを後の名作家たる高石タケル先生がよりライトに仕上げてくれたんだろう!と自分の文章力と構成力を棚に上げて期待しています。

尚、本作の最初の短文に関しましては、皆様の脳内にいらっしゃいます、某平田氏の素敵なナレーションボイスで再生していただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。



デジモンアドベンチャー02 THE BEGINNING -Outside the screen is shadow-

 

 

 

かくして、長い夜は明けた。

デジモンと人間のパートナー関係、その始まりとなった願いは光の中に消えていく。

しかし、これまでに築いた友情が消え去った訳では無い。

これは始まりだ。

デジモンと人間が新たなる関係を築いていく為、そして新たな未来へ向けて進んでいく為の希望に満ちた物語の1ページ目。

 

 

「…なぁんちゃって、ね」

 

高石タケルならこんな言葉で締めくくるかな。

そう独言る男は風が吹きすさぶ遠いビルの屋上から、朝日を背にその光景を眺める。

都心の大型交差点、振り積もった雪の上で戯れる青年とデジモンたちの姿を。

 

「楽しそうにしちゃって…まぁ結果がどっちに転ぼうとも面白いものが見れたわけだし」

 

朝日が差した気温差でより強い風が吹くが、男は微動だにしない。

人間がこんな高所に装備も持たずに登れる訳も無く、命綱無しで直立を行うことも出来る筈がない。

この男、人間ではない。

彼はエージェント、デジタルワールドの案内人にして、世界の管理者ホメオスタシスの忠実な僕…だったものだ。

 

「まさか、過去にさかのぼって特定の事実だけを点で消し去った上、現在との辻褄合わせのアフターサービスとは…想像以上の権能だ」

 

男が視点を空に向ければ、そこかしこから立ち上る光の粒が道となって地上から続いていた。

やや気怠げに、今度は足元に目線を下げた先には、無造作に置かれた麻袋。

そしてその中には、いくつかのデジヴァイスが…。

しかし例外はないと言う様に、その全てから光が漏れ出て消え去ろうとしていた。

 

「せっかく手間暇かけて手に入れた小道具も使わずじまいか」

 

男は中身の入った麻袋を無造作に蹴り上げた。

こぼれ落ちた中身は一瞬で光へ変わり、重しの無くなった袋だけが風に囚われてどこかへ消えていった。

 

「とはいえ、これからはこの手の道具を使わずとも手駒を増やせるとなれば…中々に夢が広がるじゃないか!」

 

どこか無機質な男の声に、僅かながら喜楽の感情が乗る。口元には笑み。

しかしその口角は鋭く吊り上がり、目付きの悪さも相まって残忍な狂相にしか感じられない。

 

「改めて実にいい朝だ。未来で起きるだろう、更なる混沌が実に楽しみだ」

 

男は気持ち良さげに手を組み、うーんと伸びをする。

身体を戻すと、突如として大きな影が男をすっぽりと覆い隠した。

 

「…君もそう思わないかい?」

 

男が唐突に投げかけた問いは空に消え、変わりに突き出された剣が男の首筋を撫でる。

太陽を背にした男の更に後ろ、人間ではないヒトガタが剣と一体化した左腕を突き出していた。

ヒトガタを包んでいた大仰なローブが風にはためき、一瞬だけその正体を覗かせた。

視線だけ後ろに向けていた男は、その姿を認識して驚いた様に眉根を上げる。

 

「…おや、君が来るとはね。

まさかとは思うけど、追いかけっこで負け続きの新人は首になったのかな?」

 

白き聖騎士は答えない。

デジ文字の刻まれた聖剣を冷たく突きつけたまま、鋭い目付きで男を睨む。

 

「つれないね…まあいいさ。

それにしても目覚めたばかりの大型新人に2年目で大仕事を任せるなんてホメオスタシスも人手不足というか何というか…」

 

命を脅かされる事実に対して、男の表情に変化は無い。

それどころか、かつて仕えていた記録のある上司への悪口と共に、聖騎士への同情とも取れる感情を表出させた。

しかし、その表情が唐突に反転し、溟い悪意に染め上げられる。

 

「おっと…目覚めたというよりも、"眠りについたばかり"とでも言うべきだったかな?

なにせ"君達"は2年前に…!」

 

途中まで口にした瞬間、思わず言葉を止めて男は両手をゆっくりと上に挙げた。

僅かに刃が掠めたのか、男の首筋からデータのカケラが粒子の様に舞う。

 

『そこまでだ』

 

怒りに震える聖騎士を言葉で諌め、新たな乱入者が男の後方へスルリと不自然に姿を現した。

男の黒い服とは正反対の、純白の法衣を思わせる服の男性の様だった。

フードと陽光によって隠されていた顔が、強風によって剥がされて顕になる。

 

二人の男が向かい合う。

同じ顔、同じ声、あらゆる全てが相似どころではない瓜二つ。

違うのは服の色と、表情。

特に目だ。

片や無機質な、よく言えば純粋そうな穢れの無い真っ直ぐな目。

片や仄暗く、欲望や悪意の渦巻く様な底知れない闇を宿した澱んだ目。

 

「今、何より驚いてるのはお前がここにやって来たことだよ」

 

黒い男は蔑むような視線を向けて白い男と相対する。

その首筋に剣が添えられたままにも関わらず、その言葉は嫌悪と共に淡々と発せられた。

 

「今更になって感傷でも思い出したか?」

 

ーーゲンナイ

 

 

 

 

エージェント・ゲンナイはデジタルワールドを維持する高位存在・ホメオスタシスに仕える存在である。

今から13年前、選ばれし子供である八神太一たちの戦いでは手厚いサポートや度々の助言を行った。

デジタルワールドが救われた後も、人間界のネットに誕生したディアボロモンを倒す為、太一や泉光子郎に再び力を貸している。

 

そこから3年後、今から10年前には本宮大輔たち新たな選ばれし子供達に、戦う為の更なる力:ジョグレス進化のきっかけを陰ながら与えるなどのサポートを行っていた。

更には、自身がデータ体であることを活かして、人間界の世界各国政府への干渉も行っていたのだが…そこはまた別の話(02本編参照!)

 

…その記録を辿れば、デジタルワールド創世記、かつて人間界と時間の流れの異なっていた時代を含めた遠い過去にまで遡る。

内部時間で数百年前、ゲンナイはデジタルワールドを支配しようとする闇の勢力を撃ち倒す為の研究を行っていた。

しかし自らを脅かす力の情報を聞きつけた闇の勢力:ダークマスターズからの襲撃に遭い、ゲンナイは研究所から命からがら脱出し、サーバ大陸の片隅に身を潜めることとなる。

その後、初代選ばれし子供達とホメオスタシスの干渉によって、四聖獣が誕生。

その力によってダークマスターズは一時的に封印されることとなり、ゲンナイたちは新たな世代に力を託す為の僅かな猶予を得ることが出来た。

 

…だがしかし、ゲンナイを襲ったイレギュラーが二つ。

一つは逃走中に攻撃を受けた際、デジタマを一つ紛失してしまった事。

これはさしたる問題では無かった。

太一達を初めてデジタルワールドに招いた際には、距離や縁の問題から出会うことは無かったものの、後にヴァンデモンが人間界へ進出した時、テイルモンとヒカリは運命的な出会いを果たしている。

 

もう一つの問題、それは"暗黒の種"であった。

元々が悪性情報の塊であり、種と名付けられたように人間の悪感情などを餌に成長し、より強力な闇のエネルギーを生み出す半物質半霊的な特異存在。

ダークマスターズの襲撃時、ゲンナイはピエモンからこの種を植え付けられていた。

本来、人間では無いゲンナイへの効果は薄いように見える。

しかしながら、データで構築されたデジタルワールドという環境、ダークマスターズが封印されて尚、活性化している闇の勢力の影響。

これらが更に特異な変異を齎らし、内側から成長してゲンナイを食い破ろうとしたのだ。

 

ゲンナイは暗黒の種に対処する為、封印という形を取った。

戦闘能力を含めた大部分のリソースを費やすことでようやく、といったところだったが。

アバターに関しても、なるべく省エネルギーとする為に老化した姿へと変貌していた程だ。

余りにも成長が凄まじかった故、一部の記録領域(メモリ)までもを使用することになってしまったが、そこはご愛嬌(本当にボケ老人地味た...)

 

そういった事情もあり、太一達二代目の選ばれし子供達が出会った頃のゲンナイは、肉体的にも精神的にもいっぱいいっぱいだったといえる。

そこからデビモン、エテモンに続いてヴァンデモン、ダークマスターズの撃破。

そして、デジタルワールドの歪みの元凶であるアポカリモンの打倒によって、デジタルワールドが再編し、平和を取り戻してから…。

二代目選ばれし子供達が、紋章の力を使って四聖獣の封印を解き、そこから2年後に新たな闇の力が世界を脅かすまでの僅かな期間、そこでようやくゲンナイは、体内に巣食う暗黒の種を取り除く為に動き出した。

 

切り離しは比較的容易に成功した。

ケンタルモンやアンドロモンといった協力者、復旧したホメオスタシスからのバックアップもあり、ゲンナイは自身のリソース・メモリーに食い付いた暗黒の種を、人間でいう癌切除のように取り除いたのだ。

…しかし、取り除いた"暗黒の種"を研究対象として隔離・保管したのがまずかった。

 

敵勢力の研究の為に残された種だったがそこには、ゲンナイのデータ・メモリーが残っていた。

新たな闇の勢力の活性、暗黒の海の接近とデジモンカイザーの誕生、そしてデーモンの侵出とベリアルヴァンデモン復活の際に齎された巨大な闇のエネルギー。

ベリアルヴァンデモンの復活に際して、開花した"暗黒の花"の発生と、"想像を具現化する世界"との接触が起こったこと、ゲンナイがホーリーリングを返還の為に持ち出したことも影響した。

 

様々な要素で活性化した種は、急激に成長を遂げる。

自身が寄生しているゲンナイの残骸から知性を獲得し、一時的に増していた力によってゲンナイと同期することで、現代までの様々な情報を吸い上げた。

暗黒の力に満ちていたその時勢の影響で、ゲンナイは自身の内側から手繰る干渉に気づかなかった。

種は若き身体へと戻ったゲンナイの姿を模した姿へと変貌した。

そして、その肉体は暗黒の種と同じ、器子と霊子の属性に加えて、模倣した対象なら電子としての性質、エージェントとしての基本能力までもを受け継いでいた。

 

ベリアルヴァンデモンの事件が解決し、ゲンナイが拠点に戻った時には遅かった。

一部のデータは破壊され、持ち出された形跡があった。

…留守を任せていたケンタルモンを始めとするデジモンたちは消えていた。

必要時に応じてインストールする為の、デジモンに干渉する能力や権限、特殊なプログラムなど、悪用されては不味い多くのデータが奪われた。

 

…そして、それから3年間、黒い服を纏ったゲンナイを模した男は文字通り暗躍し続けた。

休眠中のイグドラシルへ接触し、一部ロイヤルナイツへの命令権を奪取、リブートシステムの一部起動。

各国政府の前に現れて惑わし、第一世代の選ばれし子供だった姫川マキ、西島大吾とも接触。

更には、アポカリモンと関わりの深いメイクーモンと、そのパートナーである望月芽衣子へ干渉。

その時分で出来る、やりたい様にやるという精神で、男は世界に混沌を撒き散らした。

まるで、全能を持って産まれた子供が、無秩序に遊んだような結果だった。

 

…それから暫くして、ゲンナイは感情や心に類するデータを切り離し、自らのプログラムを一部初期化した。

メモリー:記録や意味はそのままに、それに対応する感情のみを消し去ったのだ。

……その理由は、当の本人の中から忘れ去られている。

 

黒い男がたまたま使えそうなデータをサルベージしていたのもその時だった。

自らの成長の為に貪欲な男が見つけたのは、かつて己だった存在であり、生みの親とも兄弟ともいえる存在のメモリーだった。

自身のアップデートの為、嬉々として男はそのデータを飲み込んだ。

 

……取り込んで後悔したデータは、後にも先にもそれだけだったと、今も男は思っている。

 

 

 

 

男とゲンナイが向かい合う。

片や嫌悪を、片や使命を瞳に宿して。

ゲンナイが鋭く言葉をぶつける。

 

『お前の存在は私の罪。故にその責任を果たしに来ただけのこと』

 

「よく言うよ、最早"心"なんて無い癖に」

 

プログラミングされた使命感のみを言葉に乗せるゲンナイに対して、男は呆れたように嘆息した。

目の前のエージェントは、かつて捨てた筈の執着に基づいて、意味の無い行動を取っているに過ぎない。

男はそう吐き捨てた。

 

「私を消したところで、産み出した罪咎とやらが消える訳でも無し。わざわざお前がここに来るなんて"無駄"だろう」

 

ゲンナイに対して、中途半端であると男は告げる。

感情を初期化し、純粋にエージェントの職務のみに準じるのであれば、ゲンナイは聖騎士へと指示を出すだけで良かった筈だ。

にも関わらず、ゲンナイはここに来た。

ホメオスタシスからは、"男の始末"しか命令されていない筈だというのに。

 

『かつての私は、目の前で消滅を見届けなかったばかりにお前を見逃した。今度は過ちを犯さない』

 

「ハハハ!これは傑作だ!!

"心"を捨て去りながらも"不安"は消せなかったらしいね」

 

ゲンナイの言葉に男は哄笑する。

目の前の男の歪さと矛盾に、己だけが気づいている。

元より心無きホメオスタシスに期待などしていなかったが、流石に一分の同情程度は湧いていた。

男は首筋に添えられた殺気が強まったのを感じてか、ほんの少しだけ気分を落ち着かせると、ゲンナイに対して言葉をぶつける。

 

「なーにが見逃した過ちだよ。

…お前の唯一の過ちは、己の意思で自分自身を初期化したことだよ」

 

『何を…』

 

ゲンナイは戸惑った顔でーー内心は本当に戸惑っているのだろうーー探るように男を見る。

対して男はゲンナイの反応にどうでも良さそうな、それでいて害虫でも目にしたかのように、鬱陶しげに視線を返した。

ゲンナイは、自身を切り離してから感じていた全てを、悪きものとして更に切り離した結果、己がここに来た理由すらわかっていない。

それでいて、敵である筈の自分にまるで子供の様に答えを求めようとしている。

男にとっては、今のゲンナイよりも幼い頃の選ばれし子供の方が、余程マシな存在に見えていた。

 

「この問答に意味ある?

もはや情動なんて無い癖に、一丁前に表情を模倣する機能なんて残してるからバグがまた積み重なるんだよ」

 

続けて男は嘲った。

元々は人間とのコミュニケーションの為だったか、デフォルトで備わっている機能。

それをコントロール出来ないまでに、ゲンナイの挙動は矛盾に溢れている。

目の前にいるこの男の前だからこそ起こる事態ではあったが、それ故にゲンナイは混乱する。

しかし、今のゲンナイはバグを抱えてもエージェント。

男の言葉を振り払い、その顔に無機質な使命だけを貼り付ける。

 

『…もういい、確かに時間の無駄だ』

 

「無駄を感じるだけの知性があるなら、問答無用で殺しにかかるべきだったと思うがね」

 

男の軽口には答えず、ゲンナイが手を挙げると同時に、聖騎士の右腕から冷気が迸る。

左腕の剣は添えられたまま、冷気が充填された砲塔がその背中に突き立てられた。

 

『やれ、オメガモン!』

 

聖騎士:オメガモンのガルルキャノンが炸裂しようとしたその瞬間、当のオメガモンの姿が消えた。

 

『ーーは?』

 

否、その表現は正確ではない。

突如として空を割いて現れた巨腕によって、人形の様に掴み上げられていたのだ。

そしてノーモーションでその姿が雲を割いて、空の中へと消えていく。

 

「まぁ、その無駄な時間のお陰で助かった訳だけど」

 

ゲンナイの混乱を他所に、男はケラケラと笑いながら楽しげな表情を浮かべている。

男の背後から、ひび割れた空間が広がっていく。

腕だけが出ていたそれが緩やかにその姿を現す。

空をなぞる様に、或いは舐めるようにして、右腕から肩、肩から胴体、左腕、下半身、足、そういったパーツが出揃ってから漸く、その全貌が明らかになる。

 

腕は4本、足は2本で直立、しかし副腕であろう2本が前脚のように地面に突き立てられている。

肉体は全体的に黒く、スマートかつしなやかな筋肉に覆われ、その背中からはサイボーグ型のデジモンを思わせる金属製の巨大な砲塔が歪に突き出している。

歪とはいったものの、機械自体は洗練された機能美が美しく現れており、まるで生体と機械の優れた部分を無理やり合成させたかの様に思わせる。

 

「私という存在に惹かれたのかな?

暗黒の海で見つけたのは良いけれど、ボロボロのデータのカケラでしかなかったんだ」

 

その存在は、記録と共に抹消された筈だった。

かつて停止した時の中で、何度となく蘇り続け、憎悪のままに暴れ続けた災厄。

存在そのものが時空を捻じ曲げる程の強大なエネルギーを持つ合成型の究極体デジモンである。

 

「いやー、苦労したよ。

素体になるようなデジモンを喰わせて、ようやくどうにか駒として使えるように調整できたのがついこの前さ」

 

何度も繰り返される闘いの中で、それでも寄り添い続けたとある少年に惹かれる形で、漸く己の居場所へ還っていったその存在が、かつての邪悪な力そのままに、何故存在しているのか…!

 

「君たち、コイツの消滅時に分解されたデータの行き先を確認しなかったろ?

中身はともかくとして、肉体のデータは暗黒の海にたどり着いていた訳さ。

やはり隣り合う世界としては、暗黒の海には警戒と監視をするべきだと具申したいね」

 

男はしみじみと苦労話の様に語っているが、ゲンナイに聞く余裕など無い。

目の前の存在に対して本能的な恐怖を覚えてしまっていた。

先程男に指摘されたようなバグ…身体の震えを隠すようにしながら、ゲンナイはそれでも震えたままの声を絞り出した。

 

『馬鹿な…!ミレニアモンだと…!?』

 

未だ動くことができないゲンナイに対して、男は再び嘲笑う。

そして、ある意味では自分の頑張りのご褒美だとでも言いたげに堂々と胸を張った。

 

「あの半端なリブートの影響かなぁ?

よくわからない復活だけれど、最上級の手駒だし重宝していこうと思っているよ」

 

そうして、男の後ろに顕現したミレニアモンは、上空からの数発の砲撃を左腕を翳すことで防ぎ切る。

続くグレイソードの一撃は右手の爪で白刃取ると、ムゲンキャノンの射角へと弾き飛ばし、オメガモンへ一撃を放った。

オメガモンは躱そうとして射角上、自身の後方に存在するゲンナイに気付き、マントと左肩のブレイブシールドで防御姿勢を取った。

衝撃と爆風、ガチャリと膝を突く音。

それを聞き流しながら、男はミレニアモンがこじ開けた空間の穴へ向かっていく。

 

「だから、悪いけどまだ君みたいな強いのとドンパチやり合うつもりは無いんだ。

もっと手駒も増やしたいしね」

 

ゲンナイを懐に抱えてもいたオメガモンは、傷だらけで悔しげに睨みつけながら、右腕のガルルキャノンを構えた。

しかし、それをゲンナイが止める。

目を向けるオメガモンに対して、ゲンナイは首を横に振った。

 

『…すまない。だがこれ以上無理をさせる訳にもいかない』

 

オメガモンはその言葉を聞いて、砲塔を右腕に格納した。

既にゲートへ半分以上身体を飲み込ませていた男は、その姿を見て口角を吊り上げた。

 

「懸命だね。

…足手纏いがいなければ、また結果は違っていたと思うよ」

 

男の言葉にゲンナイは言葉が出ない。

そして、心を失った筈の胸に去来するグツグツとした黒いナニカ。

それを自覚しようとした瞬間、鋭く吊り上がっていたゲンナイの目が一瞬で無機質に戻る。

その様子を見て、男はげんなりとした表情になった。

 

「本当、人の心が無いね」

 

『お前が人を語るのか…』

 

「ああ、語るとも。時には騙ることだってある」

 

僅かな応酬をするも、ゲンナイには最早再び言葉を返す余力が無かった。

一方の男は余力を残したまま、踵を返してひび割れたゲートの奥へと消えていく。

 

「さようなら、かつて私だった存在よ。

そしてさようなら、八神太一と石田ヤマトのパートナーデジモン。

次は、ディアボロモンかデーモンか…その辺りを手駒にしたらまた遊びに来るよ」

 

男の言葉を最後に、ひび割れた空間が閉じ、ゲートは跡形もなく消えた。

残ったのはゲンナイと傷ついたオメガモンのみ。

そしてその二人も、ややあって風と共に姿を消した。

誰かがいた痕跡は残っていない。

せいぜいが、風に攫われた麻袋くらいーーー。

 

 

 

 

「わぷっ!?」

「一乗寺くん!?

「賢ちゃん!?大丈夫!?」

 

青年の頭へ唐突に被さった麻袋。

空からやって来たそれを見て、周囲の賑やかな仲間たちは心配する声と笑う声に分かれた。

 

「なーにやってんだよ、賢!」

「ボーッとしてると危ないぞ!」

 

「ちょっと賢くん大丈夫?」

「立ち止まった瞬間に袋が飛んで来るなんて…運が悪いですね」

 

「タイミングバッチリだぎゃ!」

「どこから飛んできたんでしょう…危ないな」

 

「うわイケメンの頭から麻袋が…って、今流行りのライトノベルでありそう」

「むしろアニメじゃない?ほら、空から女の子がーってヤツ!!」

 

「ふふっ、でも本当にギャグみたいなことってあるのね」

「とりあえず、怪我は無いようだな」

 

青年は麻袋を外すと困った様な顔を露わにし、手の中の袋を見つめた。

足元で心配そうに見上げる相棒に笑いかけながら、麻袋を近くの可燃物のゴミ箱に入れる。

 

「大丈夫。こんなことあるんだね」

「いや、コンビニ袋ならともかく麻袋って…かなりレアじゃね?」

 

その言葉で再び場に笑いが巻き起こる。

そして彼らは連れ立って歩いていく。

おそらく後で、戦いの疲労と遊びの疲れで、死んだ様に眠るだろうことは想像に難く無いが、今だけは…。

 

 

 

 

これは、闘いを終えた彼らの知らない、もしかしたらあったかもしれない、裏側の出来事…。

 




お読みいただきありがとうございました。

実は一度書き上げた話を、手前のミスで全削除したという経歴がありまして…。
それでも残る悔しさから、記憶よりサルベージした作品です。
本来はもっと会話文のテンポ良くしたり、triの掘り下げや02メンバーに対する印象も入れてたのですが、全部は思い出せずボツに…。

それは何より、今作のゲンナイと黒ゲンナイについてです。
一部設定に関しては、だいぶ前に見た上に参考資料が散逸しているので、怪しい部分が多々あることをお許しください…。
とりあえず、triを含めた時系列を色々と考慮したらこんな形になりました。

もしも余裕があれば、書ききれなかった裏設定(妄想)や、言葉不足の内容について、活動報告にでも放り投げられるように頑張ります!

批評、感想などはいっぱい貰えると嬉しいです!
改めてお読みいただきありがとうございました!
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