約束を果たしましょう   作:燈台

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遅刻いたしました。先週投稿できると思ってたのに!
職員室が一階にあったかどうかは覚えていないので、もしかしたら間違っているかもしれません。
二階にあったらごめんなさい! それと、家庭科室なんて原作で出てきてないのであるかもわかりません。
先週ぐらいに気付いたんですが、昇降口出た後校庭じゃなかったですね。自分は何を見ていたんだ。直せていないのでそのままになってます。
解像度が低いかもしれませんがどうか最後まで読んでいただけると嬉しいです!
改善点などはコメントで教えてくれると助かります!


第一章  04「見失った道標」

 緑髪の少年――ナナオがいる方へ走ると、そのまま職員室の外へ飛び出し、廊下の端の方で止まった。

 

「――ナナが職員室(ここ)に来てないかって、ナナがいなくなっ「そうだよ」」

 

 ナナオに問おうとして遮られてしまう。ナナオの視線は鋭く冷たいもので、やはり約三時間前に起こった出来事は許してくれないらしいが、それは普通のことだ。むしろ、まだ話をしてくれている時点でナナオはとても優しい。

 

「――菜月くん、急に走ってどうしたんだい?」

 

 スバルの元まで走って来た教師に、スバルは「ナナが居なくなったみたいです」と表情をこわばらせながら答えると、教師は目を見開いた。

 

「え!? 居なくなった!? 探さないと……」

 

「先生、でも軍との連絡も取らないといけねぇ。だから電話は掛け続けてくれませんか」

 

 スバルの願いに、教師はしぶしぶ「うん」と答えて、またパーテーションの奥に戻って行った。

 

 ナナオは冷たい視線を緩めぬまま、職員室に来た理由を説明し始める。

 ナナオが――否、クラスの全員がそれに気付いたのは、ついさっきのことらしい。

 軍との連絡の結果を伝えてから、彼女はまた職員室に行くと言ってそのまま教室を去った。――それから、三時間。異変に気付くまでに経ってしまった時間はそれほどまでになり、クラスの大半がナナの行方に気付かなかったのは『人類の敵』のことばかりを考えていたからだろう。

 

「――――」 

 

 ナナオが気付かなかったことを問い詰めようとしたが、スバルは口を噤んだ。――おそらく、それはスバルとのやり取りがあったせいではないかと思ったためだ。

 

 ナナオの首筋には汗が浮かんでいる。彼がナナのことを必死に探していた証拠だ。

 

「ナナオ、今ナナを探しているのはお前だけか?」

 

 スバルの問いにナナオは首を横に振り、「クラスの三分の一くらいだよ」と口を開いた。

 

 ――三分の一。

 クラスの半分もナナのことを探していない。

 もし、制限時間以内にナナを見つけられなかったら、『人類の敵』に襲われてしまう可能性が高くなる――もしかしたら行動を起こすのが六時すぎというだけで、もう襲われているかもしれない。

 

「―――っ」

 

 考えて、スバルは奥歯を噛んだ。

 

 想像したくもないし、第一、今それを想像してなにになる。探さない理由を見つけたいだけで、本当は自分だって『人類の敵』に怯えているだけではないのか。

 そんなもの、三分の二と同じではないか。

 

「君はこのまま一階を探して。僕は二階を探すよ」

 

 ナナオはそう言って、階段の方に向かっていった。

 

 

  * * *

 

 

走って、走って、家庭科室。走って、保健室。引き返して走って走って下駄箱を通り過ぎ、職員室の前へ。

 家庭科室、保健室、その他全ての教室を探し回る。

 

「ナナ、ナナ―――っ!」

 

 ――ナナの返事はない。静寂が充満し、自分の声だけが反響して耳に戻ってくる。

 

 何故、どこにもいない。

 端から端まで見たか? 話しかけてくる生徒の声を無視したのは悪手だったのではないか? 溜まっていく疲労のあまり、手を抜いたのではないか?

 

 何度も何度も往復しては、成果もなしにまた職員室の前。ナナオが来ていないか階段を見上げ、下りてくる生徒の気配もなく、とどまっているのも罪悪感があり、また家庭科室の方に足を向ける。

 自分が探している間に職員室に戻ってきているのではないかと前に踏み出そうとした足を戻し、様子を見るが、ナナオと別れた時と同様に何の変化もなかった。

 

 ナナが居なくて、軍の救援も来ない。希望が遠のいていく現実に俯きながら、それでもどこか諦められず、スバルは歩く。

 

 

 やはり、いない。往復して、意味があるのだろうか。今からでも二階を探しに行った方がいいのではないか。

 葛藤して、下駄箱を通り過ぎて――。

 

「――お前さん、柊がどこに行ったか知ってるか?」

 

 後ろから肩を男に叩かれたのは、そのときだった。

 

 

  * * *

 

 

「……キョウヤ?」

 

 男――小野寺キョウヤが声を掛けてきたのだと、理解するまでに時間が掛かった。

 

 冷たく感じるような声。ナナオ、モグオ、セイヤの三人の決闘のときも応援することなく、ただ二階の教室からじっと見下ろしていただけで、三人――否、生徒も教師にも、この学校にすらも関心がないように思えていたのに、彼がナナを探してくれている三分の一に含まれているだなんて考えもしなかった。

 

 「わからねぇ」と少し乱暴に言うと、キョウヤは「そうか」と顔を顰めて呟いた。

 何故、スバルにそれを聞いてきたのだろう。スバルが知っているはずもなく、探し回っていることなど一目見ればわかるだろうに、彼は問うてきた。その不自然さにスバルも顔を顰めるが、今はそんなことをやっている暇ではないということを思い出して保健室の方に走り出そうとする。

 が、キョウヤに制服の襟を掴まれた。

 

「何すんだよ! 今、ナナが行方不明になってるのに捜索をやめたら、『人類の敵』に一人で襲われるかもしれねぇんだぞ!」

 

 スバルだって一度、ナナが『人類の敵』に襲われた痕跡を見ている。この世界でまだ起こっていなくとも、『人類の敵』が来ていることは確定しているのだ。だから、今探さなくてはいけないのに――、

 

「――約一時間、二階を探し続けてもいなかった。一階に下りて探し始めようとしたら、探し回っても見つけられなかったお前さんと会ったんだ」

 

「――っ」

 

 否定できない事実を言われ、スバルは思わず押し黙った。でも、一時間で諦めるのはまだ早いのではないか。何時間でも、探し続けるべきだ。

 

「もし、どこかにいたとしても、それを探している余裕はないんだろう? 『人類の敵』への対策をすべきだ。何時何分何秒に『人類の敵』が来たのかわかるのか、予知能力者」

 

 そう呼ばれ、スバルはピクリと眉を上げる。予知能力者と皆を守りたいと思い嘘をついて、予知できるのかと聞かれ答えられない。だが、何故言ってしまったんだろうと嘆く暇もなかった。

 

「そもそも、未来で突き落とされたとき、お前さんは本当に『人類の敵』に――、」

 

 キョウヤが言いかけて、口を噤んだ。何があったのかわからず、「なんだよ」と聞いても、返答はない。彼はすのこの上に乗り、『柊 ナナ』というシールが貼ってあるロッカーのとってを手前に引っ張った。

 

「――は?」 

 

 今、今今今今今。

 

 それを、見て、一瞬の空白が生まれ、スバルはすぐに走り出した。

 

 ――ロッカーの中に入っていたのは、外履きではなく上履きだった。

 

 

 今、見たものが事実とすれば、分かりたくないものが現実に起こってしまったとすれば、ナナは今、外にいる!

 

「待て、菜月――!」

 

 後ろからキョウヤの叫び声が聞こえても、振り返らず走り続ける。

 昇降口のドアを押して、走る。今まで出せたことのないスピードで、一人の少女の無事を願う。

 彼女が行く場所は分かっている。一番最初に『人類の敵』が現れるはずの崖で、一人戦っているはずだ。

 

 息が上がっても、それは足を止める理由にならない。

 

 

  * * *

 

 

 校門を出て、食堂の暖簾(のれん)を横目で見て、何度も通ったはずの崖へ続く一本道へと辿り着いた。

 道のど真ん中で、スバルは減速し始める。

 ここまで『人類の敵』が襲ってこなかったということは、ナナが引き付けてくれているか、それとも『人類の敵』がスバルを誘き寄せているのか、どちらかはわからない。

 

 ただし、今減速したのはそれが理由ではない。

 

「――は?」

 

 スバルの二メートルほど先に――、

 

「……なんでここに」

 

 自分が作ったはずの、ナナオの父親を模した人形が転がっていたからだ。

 何故外に落ちているのか。その人形は、ナナオが持っているはずではなかったか。

 

「あのとき、ナナがナナオに渡したはずだったよな……っ!?」

 

 人形に向かって走り、近づこうとして、浮遊感。スバルの足を妨害したナニカによってスバルの片足は前面に倒れようと傾いた。転ぶのを避けようとして、もう一方の足で支えようとしたが、丁度足を上げた位置にナニカがあった。

 

 前に、転ぶ。

 

「……っ」

 

 体全体に痛みが走った。衝動的に声を上げ、立ち上がろうと両手に力を入れる。

 今、こんなことをしている場合ではないのに。早く、速くナナの元へ向かわなければならないのに。

 

 

 ――瞬間、微かな空を切る音が耳に届いたのはそのときだった。

 

「―――ッ!?」

 

 鋭いものが自分を貫いた感覚があり、下を向くと胸に「ああぁぁぁああぁぁぁ!?」矢が突き刺さっているのを自覚した途端、信じられないほどの痛みがスバルを襲う。後ろから、誰かに射抜かれた。

 

「かふっ、げほっ」

 

 体内からせり上がってくる血で呼吸ができなくなり、何度も咳き込んで吐き出した。立ち上がることなんて出来るわけもなく、うつ伏せになる。横にある人形に向けて血を吐き出してしまわなかったのがせめてもの救いだった。

 目の前が吐き出した血と、胸から零れていく血で地面が染まる。血の匂いが鼻腔を通り抜け、不快感が溜まる。

 

 こんなに痛いなら、もういっそすぐに死んでしまえば楽なのかもしれない。

 

 そう思ったとき、視界が歪んだ。血が、森が、道が、崖が、人形が、星空が、視界に入る全てのものが、曲がってねじれて形を保たなくなる。

 

 耳鳴りがして、視界の歪みはさらに加速していく。

 

 何故、こんなに痛いのだ。何故、自分は殺されるのだろうか。何故、ナナを助けられない。

 かく、かくと、自由の利かない体を動かして、矢が飛んできた方向を向く。――けれど、人の姿はどこにもない。『人類の敵』とみられる者の姿もなかった。何も、進歩していない。

 

 仰向けになろうと体の向きを変えた時だった。スバルを転ばせたと思われる何かが反射する。糸――否、透明のワイヤーが姿を現した。

 これのせいで、スバルは今倒れているのか。こんなもの、なかったはずだ。絶対に。前の周回でも、前々回の周回でもなかった。今回張られた巧妙な罠で、『人類の敵』にしてはあまりに慎重だった。

 

 そもそも何故、こんなところに人形が転がっているのだ。ナナオが持っていたはずで、でもナナオはナナのことを探しているはずだからあるわけがない。

 ナナがナナオに渡したときは、スバルが倉庫に布団を取りに行く前のことで――。

 この周回に、そんな余裕などあっただろうか。スバルが予知能力者だと偽り、『人類の敵』が来るからと対策を急がせて、ナナオと喧嘩をして、ナナが職員室に行って、行方不明になって。ナナオに渡せる機会など、あったのだろうか。行方不明になったとき、皆が気付くよりもずっと前に『人類の敵』に連れていかれていたとしたら。この人形が、ナナが最後に残した物だったとしたら。

 

 ――もう、手遅れだろう。

 

 救えたはずだったのではないか。もっと上手く行動できていれば。予知能力者だなんて偽らず、『死に戻り』で見たのだと、言っていれば。ナナオと喧嘩なんてしなかったら。もっと早く気付けていれば。

 救えたと思っても、取りこぼして。

 

 手を伸ばした。暗い空に、明るく輝く恒星に向かって、手を伸ばした。

 いつも引っ張ってくれていた父のように。天然だけれど、ちゃんと見てくれていた母のように。あなた達はいつも自分にとっての道標で、あなた達についていけばなんでもできると思っていた。

 

 視界が暗くなり、燦燦と輝いていた星々も光を失い、消えていく。

 

「―――ぅ」

 

 ――奪わないでください。

 

 そんな小さな願いも、叶えてはくれないらしい。

 視界が暗くなって、何もかも見えなくなる。

 

 

「――――」

 

 

 生まれてからずっと導いてくれていた標は、この瞬間、見失った。 




最後まで読んでくださりありがとうございます。
次回:また遅刻の予感。
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