約束を果たしましょう   作:燈台

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リゼロの第二話やばかったですね…知ってはいたんですけど…。エルザのところよりもグロかった気がする。
今夜の第三話が一番怖い!


第一章  02「自称予知能力者ナツキ・スバル」

「予知能力者だ!」

 

 頭に血が上っていく熱とは裏腹に、周りの視線はどんどん冷たくなっていく。

 つまりは「――は? 何言ってんだよこいつ」状態である。

 能力を持つ人がいることが当然だったらしい地球では、予知能力を持っている人間がいたところで驚く要素はないはずなのだが、体感三日前――本当は一日前――の自己紹介で、能力を知らないような発言をしてしまったことが問題なのだろう。

 モグオはびびっていたが、多分そんなにすごい能力ではないと思っていたのだろう。

 

「は? 何言ってんだよお前」

 

 おそらく後ろにいた生徒全員の心を代弁したであろうモグオに、スバルの心拍数は上がっていく。

 『死に戻り』とはいえ、スバルが違う行動をしたのなら、未来は、スバルが知っている未来からずれていく。すべて予知能力を持っているように振舞うのは不可能だ。

 

「あー。ごめんごめん、モグっち。あんときゃ、俺がびびって能力知らねぇフリしちまった」

 

 頭を掻きながら誤魔化す。その言葉に、モグオは「…嘘つくのやめろよ」と苛つきを撒き散らしながら戻って行った。

 確かに、嘘と言えば嘘だが、ここで引き下がっては先の発言をした意味がない。

 

「……菜月さん」

 

 ナナが、スバルの制服の裾を引っ張る。

 能力でナナは、スバルの能力が予知ではなく『死に戻り』ということは知っているはずだが、今はそれを言わないでほしい。

 

「しー」

 

 口の前に人差し指を立て、言わないでくれとサインをすると、ナナは笑う。どうやらわかってくれたようだ。

 

「なぁー、お前ら。俺の能力が、予知能力だなんて信じられないと思ってるだろ?」

 

 後ろを振り向く。わざと挑発するように生徒達に言った。

 

「なら菜月! お前本当に予知できんのかよ!」

 

 生徒の一人が立ち上がって怒鳴ったが、これも予想通り。

 生徒たちは一度スバルが予知をしないと、信じてくれないと思ったから。

 

「あーできるぜ。ナツキ・スバル様のスーパ予知タイムにご期待ください!」

 

 鼻から吸って、口から吐いて。深呼吸をしてから、立ち上がった生徒の目と合わせる。

 ここからが本番。ここで失敗してしまっては、きっとナナたちは救えないから。

 

「――今から数十秒後、後ろにでっかい火球が出る。それを、ナナオが防ぐ」

 

「「「――は?」」」

 

 後ろに座っていた生徒全員が声を揃えて言った。

 

「ぷはっ。中島がそんなことできるわけねーだろ!」

 

 立っている生徒がナナオを馬鹿にしたようなことを言うが、内心スバルは言ってろ、という気持ちだった。

 実際、ナナオはすごい。それを認められないのは可哀想なことだ。

 

 生徒の困惑が続いてまだ数十秒。校庭から熱風が生徒たちを襲った。

 二度見た通り、校庭の真ん中に巨大な火球が出現し、出した本人のモグオですら操作不能の状態に陥っている。

 こちらへ向かってくる火球、生徒たちが死を覚悟したとき、ナナオが前に立って、火球を打ち消した。

 

「――ごめん。言ってなかったよね。僕、人の能力を無効にできるんだ。それだけなんだよ」

 

 その光景を見た生徒たちが、口をポカンと開けていた。今の予言は、本当だったのかと。

 

「――ほらな」

 

「――え?」

 

 教師でもナナオでもない。この場でただ一人、この光景を知っているスバルだけが自慢気に立ち尽くしていた。

 

 

  * * *

 

 

 昼休み。何となく食堂に行ってみようと思い席を立ち上がったスバルは、生徒達に引き留められる。物理的にではなく、言葉で。

 

「菜月、予知能力者ってすげえな」

 

 ナナオを小馬鹿にした生徒がスバルを褒め称える。褒められることはスバル自身嬉しいが、あまりの手の平返しにその感情はない。

 

「…ん? あ、まぁ」

 

「菜月くんって、どんな感じに予知ができるの?」

 

 今度は女子生徒に声を掛けられた。

 

「ええと、頭の中にほわほわ浮かんでくる感じ……?」

 

 無論、この言葉はいい加減だ。スバルの能力は『死に戻り』で、予知能力を持っている気持ちはわからない。

 

「そうだ、皆に聞いてほしいことがあるんだ」

 

 生徒の言葉を振り切って、真ん中の教壇の後ろに立った。これを伝えなければ、明日にでもこの学校にいるもの全員が死んでしまうかもしれない。

 

「今から約六時間後…くらいか? 『人類の敵』が襲って来る」

 

 言葉を発したとき、生徒たちの声が騒めいた。

 無理もない、『人類の敵』の訓練をしてはいるが、いきなり『人類の敵』が襲って来るなんて実感は湧かないのだろう。ましてや、一度も『人類の敵』を見たことない彼らには。

 

「ほな、菜月はん。その『人類の敵』っちゅうんは、どんな格好しとったん?」

 

 手を挙げて、先ほどナナオを馬鹿にした生徒とは別の男子生徒がスバルに問うた。

 

「……悪い。『人類の敵』の見た目はわかんねぇ。『人類の敵』の声を聞いて、囲まれてるってナナが教えてくれたから」

 

「――柊はん?」

 

 名前を出したばかりに、ナナの方に注目を向けてしまった。

 ナナは驚きつつも頷いている。

 

「『人類の敵』に襲われた後、お前さんはどうなったんだ?」

 

 今度はキョウヤから声を投げられる。

 勿論答えは、「殺された」が正解だが、今スバルがそれを言えば、何故予知なのに殺されたかどうかがわかる、と言われてしまうかもしれない。それを危惧し――、

 

「……悪い。それもわかんねぇ。――けど、『人類の敵』を見る前に、視界が暗くなった。たぶん、『人類の敵』に突き落とされたんだと思う」

 

 前の周回とその前の周回で起こったことがごちゃ混ぜになり、それに気付いたのはその言葉を言い終わってからだったので、多少焦る。

 

「嘘つくなって、おめえ」

 

 今度はモグオから睨まれ、心の中でその通りだと肯定してから、また話へ戻った。

 

「だから、そうなる前に、皆で『人類の敵』を倒さねぇ――」

 

 か、と言い終わる前に教室のドアがスライドされる。

 

「みんな、午後の授業を始めますって、菜月くん? 教壇の前に立ってどうしたの?」

 

「――そうだ」

 

「菜月くん?」

 

 皆で倒す――それは勿論能力を用いての戦闘をイメージしていた。

 それには、変わりない。ただ、子供だけで統率のとれた行動をするのは無理だろう。教師たちが指揮を出来る、ともあまり考えられない。

 

 なら、いたじゃないか。

 

 ――それにー、まず軍の許可をとらないとー。

 

「先生!」

 

 軍の許可、と言ったあとにあの女性教師は電話に出た。おそらくその相手が軍の誰かなのだろう。ならば、学校と軍は常に連絡が取れるのではないか。

 

「ぶわっ!? どうしたんだい、いきなり」

 

 急に顔を上げたスバルに教師はビクッと肩を震わせる。

 

「今日、『人類の敵』が来るんだ! 軍の人と連絡取れませんか?」

 

「『人類の敵』? いきなり来るわけないでしょう。それに、軍と簡単に連絡を取れるわけ――」

 

「お願いします!」

 

 スバルの目つきの悪さにまた肩を震わせるが、今度はその驚きに押し負けず教師は眉間にシワをよせた。

 

「大体、『人類の敵』が来るなんて…」

 

「黙っててすみません! 俺の能力は予知なんだ! ――だから、『人類の敵』が来るってわかった」

 

 頭を下げ、土下座とまではいかないが、スバルは精一杯願う。

 どうか軍に協力を要請してくれと、生徒たちを一時避難させ、体制を整えてから『人類の敵』を倒そうと。

 

「……わかったよ。できたらみんなを軍の船に避難させたいけど、先生たちに報告しに行ってきます」

 

 懇願したスバルの願いが届いたのか、教師は眉を下げて教室から出ていく。

 それを見届けてから、スバルは「バリケードを作るぞ!」と生徒たちに向けて声を上げた。

 

 

  * * *

 

 

 無駄に広くなったように感じる教室。

 その端にはスバルの予知を半分信じないで半分信じているモグオたち、

 全て信じて蹲っている生徒数名、

 信じているのか信じていないのかわからないキョウヤ、様々だ。

 

 黒板に近い方の扉の位置だけ開け、気休め程度のバリケードが完成してから少し経った。気を抜きかけていたスバルの近くで、ナナが口を開く。

 

「――ちょっと先生たちを見てきますね!」

 

 そういえば、いくらなんでも遅すぎる。簡単に軍と連絡がとれるわけないと言いかけていたような気もするから、電波などの問題だろうか。

 『人類の敵』に見られるかもしれないから、カーテンを閉めるべきだったと思い、スバルは動き始める。 

 もし姿でも見られていたら、『人類の敵』は一目散に襲って来るに決まっている――と、

 

「おわ!?」

 

 走り出したナナの足と、カーテンを閉めようと歩き出したスバルの足がぶつかり、スバルは後ろによろける。

 

「ごめんなさい!! 大丈夫ですか?」

 

 ナナが伸ばしてくれた手を取り、スバルは後頭部に少し痛みを感じながら「だいじょび、だいじょび」と返した。

 

「すみません! では、行ってきます」

 

「―――。おう」

 

 ナナに手を振ってから、スバルは止まっていた手を動かし始める。

 カーテンを閉めてから、後ろを振り返ると――、

 

「――ナナオ?」

 

 床に置いて何かをしていたと思ったら、ナナオはバッグを肩にかけ、立ち上がってドアから出ていく。それはナナの方に向かったとも思えない。まるで、寮に帰ろうとしているようで――、

 

「ナナオ! おい、待て!」

 

 

 慌てて走り、教室の窓――ちょうどバリケードで塞がってこちらが見えない位置でナナオの右手を掴んで引き留める。

 

「外には『人類の敵』がいるっていってん――」

 

 だろ、と、そう言い切る前にナナオがこちらに振り返った。

 

「―――ぇ」

 

 ナナオは、泣きそうな顔をしていた。

 目尻に涙が浮かんでいる気がする。知りたくないようなことを知ってしまったような、そんな子供の顔だ。

 

「嘘なんだよね? 嘘で、全部嘘で、『人類の敵』が来るってのも全部ドッキリ。僕たちを楽しませるための嘘で――」

 

「馬鹿野郎! そんなわけねぇだろ! 誰がそんな変な嘘つくかよ!」

 

 ナナオの言葉に腹が立って、思わず本気で睨みつけてしまう。それに罪悪感を覚えながら、しかしスバルの目つきは悪くなるばかりだった。

 

 『人類の敵』が来るというのが嘘と、なぜ言われなければいけない。

 嘘ではない、嘘じゃない。

 ナナが教えてくれたのだ、『人類の敵』が来ていると。そして事実、最初の周回で、スバルとナナオは冷酷な双眸の『敵』に突き落とされた。

 

「じゃあ、僕を嗤ってたの……?」

 

「――え」

 

 何に嗤っていたと問われたのか、わからない。心当たりがないから、謝れない。 

 

「だって、君の能力は予知なんでしょ。僕の能力と違って、すごい能力じゃないか。言ってよ。さっきのは嘘で、今朝言ってたことが本当だって」

 

 嘆くように、あるいは縋るようにナナオは顔を歪める。

 

 ―――自覚してないだけで、もしかしたらすごい能力が眠ってるんじゃないの? そういうこともあるだろうし。

 

 ―――やっぱり思い当たらねぇな。まぁ、いいや。制服に着替えるから先行っててくれ。

 

「―――っ」

 

 思い出すと、胸が締め付けられた。

 そうじゃないか。あのやり取りは、ナナオ達にとって”今日”なのだ。なのに、ナナオに『無能力者』だと言った後、すぐに自分は『能力者』だと発言した。

 予知能力者だと自称した。ナナオからすれば、裏切られているのと同じだ。

 

 ナナオの言葉で、スバルの心はズタズタに引き裂かれる。――否、自分で引き裂いた。

 結果を求めすぎたせいで、周りの心を一度も考えなかったせいで、いらぬ不信感をかった。

 前回よりも進んだけれど、

 前回よりも、最初よりも、ずっと、

 

 ――失敗しているじゃないか。

 

 でも、スバルの能力をすごい能力だと言うのなら、ナナオの能力だって。

 

「……でも、ナナオの能力だって、」

 

「――それに」

 

 そのまま続けようとした。続けようとしたのに、ナナオの声に遮られて言えなかった。もし、このまま言えていたのなら、どれほどよかっただろう。

 

 

「――昨日の約束を、破って」

 

「―――ぁ」

 

 掠れた声が、漏れた。

 

 ――三人で『人類の敵』を倒すって言ったのに。

 

 無理だ、三人じゃ倒せない。俺が足を引っ張るから、倒せない。

 

 ――なら、なんでその前に、言ってくれなかったの?

 

 だって、だってだってだって、言う暇なんてどこにも。

 

 ――なんで、予知能力者って、最初に言ってくれなかったの?

 

 そんなの、知らなかった。だって俺は――。

 

 

「本当なんだね。なら、もういいよ」

 

 ナナオは引き返して、そのまま教室へ入って行く。

 

 十数秒、冷たく問われた問いは、自問自答していたものなのだと引き戻される。

 自問自答している暇があったら、すぐにでも、ナナオに弁明すべきだったのに、そのチャンスを自分で放り出して。

 

 

 心の中で、誰かが言った。

 お前は何をしているんだ、と。

 

 

  * * *

 

 

 ナナオの背中が見えなくなってしばらく経った頃、スバルは力が抜けそのばにへたり込む。

 やっと、ナナオに突き放されたことに気付いたのかもしれない。

 

 周りを見渡すと、他の教室も全てバリケードで覆われている。なるほど、教師たちが伝えてくれたんだなと理解する。

 

 どこに目を逸らそうとも、密閉感はなくならない。

 壁で塞がれて、閉じ込められているような錯覚に陥る。すぐ近くで、壁を挟んでいるだけで聞こえている生徒の声が、遠ざかっていく。

 引きこもっていたときと同じ、頭では動かなければならないと思っているのに、どんどん動くきが失せていく。そのうち――、

 

「――ぉ、え」

 

 吐き気がする。吐いてはいない。吐く資格などない。

 

「……どうして、こんな」

 

 ――目に。その問いに答えてくれるのは誰もいない。

 

 

「―――あ」

 

 気づいてしまった。

 

 一度気づいたらもう止まらない。あらゆる後悔が、『濁流』となってスバルに流れ込む。

 

 

 あのとき、立ち去ったナナオに、自分はどう思った。

 

 ――あのまま、寮に帰ってほしかった。

 『人類の敵』がいるはずの外に、行ってほしいと思った。

 予知能力を嘘だと思って、『無能力者』の方を信じてほしいと思ってしまった。

 自分が予知能力者だと自称して、でも信じないでほしかった。『無能力者』だった方が、『能力者』であるのに能力に自信がないナナオと、対等な関係でいられたかもしれないから。

 

 

 ――友達になりたかった。

 『人類の敵』をナナオと、ナナとで倒したくて。倒せないなら、二人に、一度相談すればよかった。

  

 

 その全てが叶えられないなら、せめて叫びたかった。

 心に溜まった自分への憤りを、何処かへ吐き出してしまいたい。

 

「―――。――」

 

 なのに、喉に何かが詰まったように声が出ない。

 誰かがスバルに、叫ぶ資格もないと告げているようで。

 俯いて、神に謝るような姿勢になって。

 

 床に手をついて、下を向いて、自分の影を睨みつけた。

 救おうと思って嘘をついて、結局傷つけただけじゃないか。

 噓つきめ。いい加減、嘘をつくのはやめろ。

 自分を嘘で塗り固めたハリボテめ。

 

 動く気がない――否、動けない、動く資格などない。

 

「――菜月、さん?」

 

 その廊下を、その少年を、孤独にしなかったのは。

 透き通って、淡く、脆く、鈴を転がすような声音を響かせ、ハリボテへ問うたのは――。




最後まで読んでくださりありがとうございます!
念のため。地の文でスバルの悪口みたいなのがいっぱい書いてありますが、あれは燈台がスバルを嫌っているわけじゃないですからね! むしろ、一番好きなキャラなので!

次の第三話も来週の同じ時刻投稿予定なのですが…執筆が終わっていないのでもしかしたらずれるかもしれません。ずれるとしたら、再来週でしょうか。それでもなかったら、また次の週かもしれません。
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