お嬢さまが、ちびっ子可愛い悪役令嬢   作:デチャウ

12 / 39
第三話 その六 激おこ変態ユニコーン

 泉に落とされました。

 

 「ブクブクブク……」

  

 お、溺れる!

 

 《水深1.3mです》

 

 ザバッ!ハァーハァー

 足、着きました。

 

「お嬢さまは!」

 先程投げ飛ばされた方向を見る。

 

 お嬢さまが、ピンチじゃないですか!

 

 何かの拍子に転んだ?

 

 尻もちをついた体勢で逃げようと必死に後退りしていた。

 

 それをゆっくりと追い詰めていくユニコーン。

 

 ブフフフン♡!

 ってもう完全に変態おじさんムーブです。

 

 あの駄馬――!

 

* * *

 

 ユニコーンから逃れようと必死に後ずさっていたセシリア。

 

 背中に、ドンと木が当たる感触。

 

 もう下がれない!

 

 ユニコーンがジワジワと近づいてくる。獲物を追い詰めるのをまるで楽しんでいるようだ。

 

「この変態駄馬!」

 

 それでも、虚勢を張って威嚇するセシリア。

 

「わたくしに何かしようものなら、地獄の果てまででも追い詰めて復讐しますわよ」

 

 ユニコーンは、意にも介さず、顔を近づけブッフフっと鼻息を吹きかける。

 

 さすがのセシリアも嫌悪で顔を歪める。

 

 その顔を見て、満足げに鼻を再び鳴らす。

 

 ブフフン!!

 

 『いただきます!』みたいな下品な(いなな)きを上げて、いきなりセシリアのチュニックのスカートの裾に噛みついた。

 

「なっ!なにする気ですの。わたくしの高貴な服に手を……いえ、口をつけるなど許しませんよ!」

 

 必死に足をばたつかせ、手で押さえ抵抗する。

 

「今すぐその口をお放しなさい、この変態!!」

 

 文句こそ言ってはいるが、その顔は恐怖で硬直していた。

 

 ユニコーンの目が興奮で充血している。もはや、犯罪者のそれである。

 

 そのままセシリアのスカートを、引きちぎろうと顎に力が入る。

 

「イヤ!やめなさい!やめて!」

 

 必死で引き剥がそうと暴れ抵抗するが、スカートごと地面を引き摺られる。

 

「助けて! ルナリア!」

 

 ドガッ!!

 

 スカートを引きちぎろうとしていた力がふっと消えた。

 

 セシリアが音のした方向に目をやる。

 

 ユニコーンの鼻先を踏みつける編み上げのブーツ。

 

 そして額の下品なピンクのツノにピタリと当てられた、白刃が視界に飛び込んできた。

 

 その刃の元へと視線を走らせる。

 

 野太刀を構えたルナリアが立っていた。

 

 濡れたメイド服は漆黒! 刃を思わせる銀髪に水滴の煌めき。

 

 量子光が流れる紺碧の瞳は感情を消し、ただ冷たい殺意のみを湛えていた。

 

 見慣れた彼女のメイドとは、明らかに異質な雰囲気を纏っていた。 

 

 セシリアは息を飲み、その姿に魂を奪われた。

 

「間に合いました? お嬢さま」

 

 ルナリアからふっと殺意が抜ける。そしていつもの間の抜けたメイドの声が響く。

 

 セシリアは安堵で少し瞳が潤むのを感じた。

 

「る、ルナリア――」

 

 * * *

 

 よかった間に合ったみたいです。

 

 お嬢さまも、わたしのタイミングを読み切った。絶妙な登場に目を潤ませて歓喜しております。

 

 ヒーローはこうじゃなきゃね。

 

 うーん、満足!!

 

 でもね、もうダメです。

 

 腕がプルプルしてきそうです野太刀重すぎです。メイドにこんなの扱えません。無理です。無茶です。

 

 でももうちょっとよ、頑張れわたし!

 

 そうわたしには勝算があるのだ!

 

 いままでのこの駄馬(ユニコーン)の行動とあのホログラムで映し出された「BAD GIRL」の文字。

 

 そう、この駄馬は間違いなく人の言葉を理解してる。

 

 言葉が通じるということは、演出が効く。いやこの場合、はったりが効く!

 

「わたしの言うことを理解できますね。ユニコーン!」

 

 ユニコーンがわたしの足の下で、肯定するように小さく(いなな)く。

 

「これ以上の狼藉を働くならその自慢のツノを叩き切りますよ」

 

 ユニコーンの目に恐怖が宿った! 

 

 わたしは勝利を確信した。

 

 本当はもう腕プルプルでガーンと叩き折るとか絶対無理なんだけどね。

 

 やったわ、わたし。ハッタリの勝利!!

 

  

 ガーン!!

 

 

 ガーン?

 …………?

 

 刀に衝撃を受けて思考が中断された。

 

 衝撃の原因が何かと刀を見ると、刀はすでに振り下ろされた状態。

 

 ユニコーンのツノがポッキリ地面に転がってる。そして、メロンパンぐらいの岩を持ってるドヤ顔のお嬢さま。

 

 ツノに当てていた刀の峰に、持ってる岩を思いっきり叩きつけて、ツノを折っちゃったのね。

 

「あの下品な鼻先をへし折ってやろうかと、隠し持ってた岩が最後に役に立ちましたわ!」

 

 ドヤ顔で、凶器の岩を自慢する。

 

「あの―― お嬢さま、何をなさっていらっしゃるのでしょう?」

「何って、この変態駄馬に報復ですわ。我がアーネスト家は受けた屈辱は倍返しが家訓よ!」

 

 さっきまで半べそかいていても、復讐心だけは忘れないのね。

 

「ルナリア、助かりましたわ感謝いたします。でも、どうせ刃を当てるならツノなんて半端な所で無く首筋に当てなさい」

 

 得意気に恐ろしいこと言ってるし、多分そっちでも躊躇(ちゅうちょ)なく岩を叩きつけますよね。

 

 驚いてカチーンと止まってたのは、ユニコーンが我に返る。

 

 地面に転がるご自慢のツノを見つけ、再びカチンコチンに固まった。

 

「どうですか?ご自慢のツノ落とされた気分は?」

 

 嘲るような微笑を浮かべてます。

 

「あはっ、これじゃ馬と違いがわかりませんわね」

 

「その派手な七色のタテガミの下品さ。同じだなんて、あらやだわ。わたくしとしたことが、馬に失礼でしたわね」

 

 煽る煽る!

 

 溺れたメイドをさらに棒で叩くような容赦ない煽りです。

 

 ダメですよその駄馬、ちゃんと言葉分かるんですから激怒しますよ。

 

案の定、激おこです。

 

 煽られたユニコーンが怒りマックス!

 

 血管がさらに浮き上がってついにこめかみから血がブッシュー!

 

「ルナリア、は、早くその駄馬を斬り伏せなさい!」

 

 流石にまずいと思ったのか、お嬢様から即座に指示が飛ぶ。

 

「無理ですー! もう腕プルプルです。それに血とか吹いたら、わたしがショック死しますぅ!」

 

「先程の勇姿もまたハッタリでしたの!」

 

「少しときめいた、わたくしの純情を今すぐ返しなさい。この駄メイド!」

「また、駄メイドって言った。ひどいです」

「泣き言言わないの!」

 

「そうだ。ルナリア汚名返上のチャンスをあげますわ」

 

 なぜか、汚名を着せられてます。理不尽!

 

「あの変態駄馬をここで足止めしなさい。わたくしがここから逃げる時間を作るのよ」

 

 見事なクズっぷりですお嬢様。

 

 そうこう言い合ってるうちに、変態駄馬が変態してた。

 

 尾もタテガミも燃えあがってるし、折れたツノから紅蓮の炎が吹き出し。鼻と口からも息を吐くたびに、チョロチョロと火を吹いてる。

 

 《ユニコーン完全戦闘モードに変態完了》

 《戦闘シミュレーション解析……完了》

 《予測確率82% 戦闘開始後約3分で当躯体炎上し戦闘不能》

 

 いやもうねそんな予想を聞く前から無理でしょこんなの。離れててもすでに熱いもの。

 

 とにかくお嬢さまだけでもなんとか逃がさなきゃ!

 

 あれ?

 ……?

 …………?

 

 もうとっくに、わたしを置いて逃げてらっしゃいました。

 

「お嬢さまの裏切り者ー! 置いてかないでー」

 

 なんとかお嬢さまに追いついたけど、もう、すぐ後ろに燃え上がる怒りの駄馬!

 

「お嬢さま―」

「ルナリア、アレ!」

 

 急にお嬢さまが横を指差した。

 わたしもつられてそちらを見る。

 

 ズッテーン!

 

 この状況で足を引っかけられた!?

 

「ルナリア、後は任せましたよ!」 

 

 メイド転ばせて、ひとりで逃げるとか! 信じられない?!

 

 あの性悪お嬢さま。悪役令嬢どころか、ひとでなしのド畜生でした。

  

「こっ、このー!」

 

 近くにあった木の枝を拾いながら素早く立ち上がった。

 《軌道計算 完了》

 《投擲シーケンス開始》

 ヒュンと投げた木の枝は計算どおり回転しながら、お嬢さまの足に絡みつく。

 

 「びきゃっ!」

 とお嬢さまを転がした。

 

 これが転生ものの醍醐味「ざまぁ」なのね。

 

 んー気持ちいい!

 

 『違うと思うけど 透香、後ろ大変』

 

 VR空間でルナリアが叫ぶ。

 後ろ!?

 

 ユニコーンが口から火を吐こうと大きく息を吸い込んでた。

 

「うんきゃっ――!」

 

 危機一髪で回避!

 

 火を吹いたとこ地面ごと溶けて穴が空いてるじゃない。あんなの食らったら燃えるどころか溶ける!

 

 これ無理かも。

 

 転んだお嬢さまも今の火を見たみたいで青ざめてる。

 

 火吹き変態駄馬を引き連れてお嬢さまへと走る。

 

「お嬢さま、わたしお嬢さまのメイドになれて幸せでした」

「変なこと言いながらこっちこないで!」

 

 お嬢さま、絶叫です。死なば諸共ですよ!

 

「そんな――最後は一緒です」

「バカ言ってないであっちいって!」

「い・や・で・す―」

 

 とおバカなやりとりしているのと同時進行で脳内VRルームではちょっとした事件が起こってた。

 

 (これはさすがに、無理かもしれないわね)

 《逃走成功確率計算しますか》

 (低そうだし聞きたくないわ)

 

 突然、プラムが鳴り出した。

 《トゥルルル! アカシック経由で通信です。トゥルルル》

 

 通信?

 

 ネコ耳ルナリアがプラムの頭の三角帽子を取って耳に当てる。

 

『はい、もしもし ルナリアだよ』

 

 そこ電話だったのプラムロボ。

 

 『あ、ハクタクくんですか……はい、初めまして…… えっ!お昼寝? うるさい うん、うん』

 

 ルナリアがこっち見て

 

『あのね、透香。ハクタクくんがこっちにきてくれるって』

 (ハクタクくんって誰?)

 『ハクタクくんはね、アカシックに直接アクセスできるヤギさんなの』

 (でそのヤギがどうするって)

 『うん、うん。わかった。ありがとう。じゃあね』

 

 三角帽子をプラムの頭に戻して

 

 『あと8秒で出るからお嬢さまと一緒に伏せろって』

 《カウントダウン始めます 8……》

 

 (ハクタクくん……? 白択? それってあのキャラのギフトの白択!)

 

 《7……》

 

 『多分そのハクタクくん。でもねお嬢さまには内緒にしてねって言ってた』

 

 ルナリアが頭の上で手を丸にした。

 

 《6……》

 

 お嬢さま!なんか助かるかもですけど、また問題発生ですよー。

 

 《5……》

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。