お嬢さまが、ちびっ子可愛い悪役令嬢   作:デチャウ

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第四話 その三 ゴートマンってどう?

「はい、お嬢さまジンジャースカッシュです」

「ありがとう、ルナリア」

 

「さあ、始まりますわよ。ほら、ルナリアも座って、座って!」

「失礼いたします」

 

 お嬢さまの横に腰を下ろす。

 

 すかさずお嬢さまが特製の超酸っぱいレモンスカッシュをわたしの前に差し出す。イジワル!

 

「ねえ、ルナリア。『ゴートマン』って良くない?」

「はっ? ゴート(ヤギ)……マン(おとこ)……山羊男(ゴートマン)ですか? それがどうしたのです?」

 

「召喚獣の名前よ、名前! ねっ! すごくイイじゃありません。「戦え!ゴートマン!」とか素敵ですわ!」

「はあ、左様ですね。素敵です……ね……」

 

 捻りひとつなくド直球ですね。お嬢さまの、センスが理解できません!

 

 シャムロックが、聴いたらなんて顔するんだろ?帝国の皇子さまにつける名前じゃないですよね。

 

「すげー! イイじゃんそれ! 「ゴートマン」最高!」

 

 聞こえてるし!? 気にいってるし!?

 

「ぐぬぬ、セシリア様にそんなかっこいい名前つけてもらうなぞ! クソ羨ましいのである!」

「良き、名前をいただきましたな!」

 

 オークジェネラルとセバス様まで……

 

 もしかして、ゴートマンってカッコイイの?

 

 横を見たらお嬢さまが、口を押さえてめちゃくちゃ驚いてる。

 

「そ、そうですわね。気にいってもらえてなによりですわ、オホホ……」

 

 お嬢さまが、わたしの耳元でコソコソ囁く。

 

「マズイですわ。あいつら、頭まで筋肉ですわ」

「言い出した本人が、驚いてどうするんですか!」

 

 良かった。わたしの感性は、狂ってなかったわ。

 

「ワシも、セシリア様にステキな名前を貰うぞ。オークマン? それじゃあオークじゃな。んー? おー! リーマンどうじゃ、リーマン! カッコイイじゃろ」

 

 いや、それ社畜っぽいですよ。リー将軍。

 

「そのためにも、ゴートマン、貴公をぶっ飛ばさねばならぬな」

「そんなかっこいい、名前名乗らせてたまるかよ!」

 

 あいつら、バカです。

 

 あたま痛くなってきた。ジュースでも飲んで落ち着こう。

 

 ぶっ! スッパッ!

 

「もう、おしゃべりはいいから、来いよ! オッサン! なんなら全員でも、いいぜ!」

 

「吠えるなよ! 小僧!」

 

 オークジェネラルが、気合い一発力を入れる。隆起した筋肉で衣服が破け散りました。

 

「お嬢さま、すごいです!! 現実にできる人いるのですね。ルナリア、感動です」

「相変わらず、暑苦しいのですわ」

 

「初撃でくたばってくれるなよ、小僧!」

「大道芸かよ。おもしれぇな!」 

 

 オークジェネラルが、腰を落として一気に突進!タックルといより、相撲のぶちかましです。

 

 ゴガァァン!!

 

 人の出す音とは思えない、衝撃音!

 

 受け止めたのは、瞬時に変化した大山羊の頭突き(リアークラッシュ)

 

 オークジェネラルと大山羊が額を突き合わせて睨みあってる。

 

 さっと、魔族形態に戻ると小さくなった分を利用してスルッと懐に潜り込む。ジェネラルの股と首に手をかけて一気に担ぎ上げた!

 

「うぉりゃああ!!」

 

 ジェネラルを担いだまま、片腕を上げて吠える!

 

「いっけーゴートマン!」

 

 お嬢さまの、グラスとシンクロしながら、ジェネラルを地面に叩き付ける!

 

 ドォン!!

 

「グォッ!」

 ジェネラルが呻く!

 

 ドン!

 

「きゃっ!」

 わたしが叫ぶ!

 

「お嬢さま、飛沫飛んできましたよ!」

「ルナリア、おかわり!」

 

「力と力のぶつかり合い! やっぱり、殿方の戦いはこうでなきゃですわ! わたくしも、男に生まれてれば、きっと……」

 

「首根っこ掴まれてポイですか?」

 

 ドン!

 

「痛っ!」

 

「今度は氷が飛んできましたよ! お嬢さま、グラスをドンするの禁止です!」

 

 そんな、姑息な攻防はさておいて、満を持してセバス様の参戦です。

 

「油断しすぎだ、リー将軍。相手は予知持ちだぞ」

「うむ、担ぎあげられたのなど、久しぶりだわい!  口だけのガキじゃなくて安心したわ」

 

 ジェネラルが立ち上がり、血混じりの唾を吐く。

 

「さすがですな。シャムロック・グラリス殿下」

 

 セバスが、深々と礼を決める。

 

「当主不在の際は家令を務めさせていただいてるセバスと申し上げます。どうぞお見知りおきを」

 

「ご丁寧にどうも。で、セバスさんもやるのかい?」

 

 不適な顔でシャムロックがセバス様まで煽ってるけど大丈夫?

 

「相手の技量も計れぬうえに、ノクスリアも名乗れてないガキが調子にのるなよ! 多数で攻めるは貴公に対する慈悲と知れ!」

 

 うわーセバス様が怒った。

 

 でも、あれは多分、相手を怒らせて判断鈍らせる手だよね。目が怒ってないもの。

 

「ハッハハ! なるほどな。セバス様は優しいな。 魔族の皇子が人間ひとり相手に負けたら帝国に戻れんものな!」

 

 シャムロックが、ようやく理解して激昂する。

 

「ふざけるなよ! 一対一(サシ)でも、負けねーし全員まとめてぶっ飛ばしてやんよ!」

 

「威勢が良くて結構!」

 

 ジェネラルの叩き付けるようなパンチが飛ぶ!

セバスの後ろの黒装束が、散開したかと思ったら姿を消した。

 

 シャムロックがヒョイと後ろに飛んでパンチを避ける。

 

 避けた方向には、すでに隠密が放った苦無(クナイ)が飛んでる。シャムロックが、腕だけ魔獣化して蹄で弾く。

 

 すかさず苦無の飛んできた方向へと攻撃に転じるが、そこにも、別方向からの苦無が飛んでくる。

 

「チッ、めんどくぜーな」

 

 舌打ちして、逃げた場所に隠密が姿を現し切り掛かる、体を躱して避ければそこにまた隠密の剣撃。

 

 シャムロックが咄嗟に後ろに飛んで逃げる。

 

 ぞくっとする殺気。真後ろから首筋にセバスのコンバットナイフが襲いかかる。

 

「メェー!」

 

 すんでのところで身体を低くして山羊のツノで受け止めた。

 

 すかさず、頭突きで反撃しようとするがもうセバスの姿はなく、代わりにジェネラルのパンチが飛んできた。

 

 額のツノで受け止めながら、全身魔獣化して踏ん張る。

 

「あぶっねー」

 

「イヤー!!」

 

 お嬢さまにしがみつく! 怖いから、人面山羊禁止!

 

「ゴートマン、マズイわね。嵌められてますわ」

 

 お嬢さまが、イライラしてる。

 

「そうですね。隠密さんとセバス様が、シャムロックを逆に誘導してますものね。ほら、あの木の影とこっちの草むらにも隠れてますよ」

 

「ルナリア、隠密の位置がわかるのですか?」

 

「はい、ルナリアは、新たな力に目覚めました! ジャジャーン! これです!」

 

 悪魔モードのピョコンと生えたツノを指差してドヤ顔です。

 

「プッ! 何それツノ生えてますわよ」

「これが新たな力、シックスセンスセンサーこと、第六感感知装置です」

 

 プラムが、地磁気とか力場とか説明してたけど、難ししくてわからないのですが、要は五感以外のものを感知してくれる便利グッズです。

 

「これがあれば、ビビっと隠密さんの位置なんか丸わかりなのです」

「へー便利ですわね。なら、第六感でこの後の勝負の行方もわかるのかしら?」

 

 そっちは、第六感より、確実なシミュレーションマニアに聞いてみますね。

 

 プラム、わかる?

 

《シミュレーション完了してます。あと23回の攻防でシャムロック側の敗北です、確率98%、結果リンクします》

 

 ふーん。

 

「お嬢さま、ぴーふーみーと、あと20回の攻防でゴートマンの敗北です」

「回数までわかるのすごいわね。でも、そんな感じですわね。ゴートマンってば、付き合いが良すぎですものね」

 

 ため息混じりでお嬢さまがシャムロックを見てる。勝って欲しかったのかな?

 

 なんとなく、寂しげなお嬢さまを見ながら、プラムのリンクしてくれたシミュレーション結果に目を通す。

 

 ふーん、予知を逆手に取って、相手を誘導して追い込むのね。

 

 さすがセバス様、虚と実の使いわけにアーネストの訓練された連携のなせる技ですね。

 

 でも、セバス様、このまま勝ったらシャムロックがショボンとしちゃいません?

 何か、双方丸く収まる落としどころは……

 

 シミュレーションの最後の一手を見る。

 

「えっ! わたし!?」

 

 ドガン!!

 

 すぐ近くでジェネラルパンチが地面をえぐってる。

 

 いつの間にか戦闘が側まできてた!

 

 慌ててテーブルから立ち上がる。

 

「ルナリア! 受け取れ!」

 

 セバス様の声に思わず手を伸ばす。

 

 セバス様が長刀を放り投げてきた。伸ばしたわたしの手に寸分の狂いもなく収まる。

 

「えっ、なにこれ軽っ!」

 

「ルナリア、抜刀(ぬけ)!」

 

 逆らえぬ気迫で声が飛んできた。

 

 言われるままに、長刀の柄を握る。

 カチンと鍔を切り、刀身を滑らせ、鞘を走らせる!

 

 現れた(やいば)は自身の重ささえ吸い込んだような漆黒!

 

 あまりに軽い刀……でも違う!

 重心が変化する? けど、この感覚、心地良い!

 

 そう思った瞬間、わたしと刀が完全に同期した。

 

 鞘をカタパルトに刀身が一気に加速する!

 

 リーン!と高く澄んだ鈴音を響かせ漆黒が抜き放たれた。

 

「うんギャァ!!」

「おわっ!」

 

 乙女にあるまじき絶叫で刀を制止させる。

 あれだけの剣速なのに思ったとおりの位置でピタリと止まった。

 

 シャムロックの首の皮……良かったあー! 切れてない。

 

「ヒュー! お見事メイドさん。殺気もなくよくこれだけの業を、使えるよね」

 

シャムロックが刀の前に小さく手を挙げる。

 

「はい、降参」

 

 わたしも、ヘニョヘニョとその場で膝を崩し座り込む。

 

「あっ、危なかったー! 人の首飛ばすとこだったわ」

 

「よく、やったルナリア。使えるとは、隠密から報告を受けてはいたがこれほどとはな、ウム」

 

「セバスさま〜! もうやめてくださいよ心臓に悪いです」

 

「まあ、これでおまえのひとり勝ちだ。いい落とし所だろ」

 

 セバス様がイタズラっ子のような笑みでウインクを投げてきた。

 

 ズルいです、セバス様。そんな顔されたら、もう何にも言えないじゃないですか。

 

「お嬢さま、悪い負けちまったわ」

 

 あちらで、シャムロックがお嬢さまにそう声をかけた。

 

「優しすぎますわ、皇子殿下」

 

「バレてた?」

 

「ええ、みなさんもわかってると思いますわよ。魔族は、もうひとつ形態があるのですわよね。魔人形態でしたか? なぜやらなかったのかしら?」

 

「いや、お嬢さまの家の者を殺しちゃまずいだろ」

「それが奢りですわよ。皇子様」

 

「殺るときは殺る、全力で! でないと寝首をかかれますわよ」

 

 お嬢さまが、拳を握り締めて熱く語ってます。その様子を見てクスリと微笑む。

 

「さすが、セシリア様だね。じゃあ、寝首をかいてもらうためにまずは、一緒に寝ることを目指そうかな。」

 

「なっなにを言ってますの……この変態山羊!」

 

 お嬢さまが頬を赤らめ怒ってます……ラブコメ!?

 

 なに、わたしのお嬢さまにラブコメ波動出してるんですか、あのヤロー!

 

 やっぱり、切っとくべきでしたね。残念!

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