とりあえず、よくわからない男の尊厳を賭けた戦いは、ウイナーはルナリアで決着です。
アイアムチャンピオンです!
あちらで、オークジェネラルが、「お嬢さまを不幸にしたら承知せんぞ!」とか言って、シャムロックに絡んでます。
そんな心配は無用です!
なぜならばチャンピオンは、わたしです。
だからお嬢さまは、あげません! わたしのです!
そうだ、忘れるところでした。
「セバス様、こちらをお返しいたします」
「ルナリア、それは、おまえが持っておけ」
「はい?」
メイドに刀をわたしてどうするんです。無駄ですよ。ネコに小判、メイドに刀ですよ。
「王都にいくお前達への、餞別代りだとでも思っておけ」
「セバス様、ありがとうございます。大事にしますね」
セバス様からのプレゼントです。お返しは、わたしでどうでしょう? きゃっ! 恥ずかしい!
「おいおい、それセシリア鋼の太刀だろう。餞別代わりに人にあげられるもんじゃないぞ」
くだらない妄想をしてたら、シャムロックの接近に気づかなかったわ。
「高価なものなのですか?」
「聖剣、魔剣とかの類いだぞ。その長さなら国でも買えるんじゃないか」
「マジですか! どうしましょう、お返しに私が何体必要でしょう?」
「増えれるのメイドさん?」
「あっ! いえなんでもないです! 忘れて!」
あぶない。驚いて妄想が口に出ちゃったわ。
「ルナリア、それはわたしの私物だから気にするな。確かにセシリア鋼の太刀だが、そこまでの価値はない」
「嘘だろ。帝国にある始祖皇帝の小太刀でさえ聖剣扱いの国宝だぞ」
「それは、小太刀だからだ。この長さで重心が変化する太刀なんぞ使いこなせる人間がいないのだよ。使えぬ剣に価値は無い」
「そんな、ものなのですか?」
「うむ、そんなものだ。おまえなら、初撃は使えるだろう」
セバス様がわたしの方に向き優しく微笑む。
「戦わぬ、おまえとセシリア様の守りにはちょうどいいだろう、持っていけ」
なんか意味はわからないけど、断れないのですね。
「では、お言葉に甘えてお借りしていきますね」
ありったけのいい顔を作ってお礼のお辞儀です。
「うむ、息災でな。さて、そろそろリー将軍を止めねば、セシリア様が壊れるな」
見れば、お嬢さまが、オークジェネラルに「たかいたかい」でジャイアントスイングされてます。
セバス様がにこやかにそちらに向かいます。
「なあ、メイドさん。その刀ちょと見せてくんない?」
「はい、いいですよ」
簡単に答えちゃだけど良かったのかしら、まあ減るわけじゃないからいいよね。シャムロックに長刀を手わたした。
「うおっ、なにこれ軽すぎ、切れるのかこれ?
あれ、おい抜けきらないぞコレ」
そうか、シャムロックは日本刀みたいなソリの入った刀はあんまり使わないのか?
おまけにこの長さだもんね。手をハイっと出してシャムロックから刀を受け取る。わたしでも、勢いつけて抜かないと抜けないけどね。
リーン!
鞘を滑らすように刀の行きたいほうに任せて抜ききる。
リーンってこの刀、独特の澄んだ鈴音。
確かに変な感覚の刀だな? 軽すぎるのに妙な手ごたえがあるのよね。
刀を回して柄をシャムロックに向ける。シャムロックが、受け取って刀身を覗き込む。
「この刀よくみてみな。コイツは単なる鋼じゃなくて織り込まれた鋼の布で形成されてるんだよ。そして、中に鈴って呼ばれる重りが仕込まれてるんだ」
よくみてみれば確かに漆黒の刀身は細かい織り目状の文が見てとれた。なるほど、それで重心が変わるのか……
《セシリア鋼、この時代では製造できない古代文明のアーティファクトですね。その刀身に使用されるのは植物由来のファイバーセルロースを……》
頭の中で、プラムが得意気に解説してるけど、理解できないから聞き流しておこう。
「なんでも切れて刃こぼれ無く折れず曲がらずそして羽のように軽い! これがセシリア鋼の謳い文句だよ。でもなコイツは人が作ったモンじゃなくてギフトと一緒に出てくるって噂だけどな」
「ギフトが持つものなのですか?」
刀をわたしに返しながら、シャムロックがうーんと考えてから語り出す。
「そうだな。オレの爺さん、始祖皇帝のギフト妖狐がセシリア鋼の小太刀を使ってたのは、割と有名だぜ。対の長刀もあるとか言われてたけど、案外この刀がそうだったりしてな」
「へー! 始祖皇帝のギフトですか、強そうですね。すぐ切れて、頑なで折れなくて超軽量でめちゃくちゃ扱いづらい
言った瞬間、いきなり視界が戦闘モードになった。自動予知モードが作動して何か飛んできた物を一刀両断で切り落とした。
えっ、グラス? と思った瞬間また体が自動で今度は投げナイフを二本を切り落とした。それも刃先から二枚開きです。その向こうで、フンヌ! とジェネラルの掛け声。同時にカフェテーブルが視界を塞いだ。
「なんてモン投げるんですか!」
自動で迎撃です。
けど今度は五連撃です。体が悲鳴をあげそうです。目の前でわたしにぶつる部分だけが切り落とされた。
ドガンと後ろの地面に残りのテーブルが刺さってます。
「なんか、いま失礼なこと言われたみたいで」
「ナイフをそぎ切るか」
「コイツは大したモンだ!何回切った見えんかったぞ!」
お嬢さまとセバス様とオークジェネラルがそれぞれ感想を口にしてます。
試したみたいに言ってますけど、戦闘モードが起動したってことはみなさま本気で殺りにきてますよね。
ダメだ。わたしいつか殺されます。
「すごいね、メイドさん、相変わらず殺気ひとつ出さず切るんだね」
そんなシャムロックの言葉を後ろに、お嬢さま方にまずは文句です。
「なにするんですか! わたしが死んじゃいますよ!」
あっ、みんな目を逸らした、もうセバス様まで一緒になって!
「あっあー、そうだ。セシリア様、学園入学お喜びもうすぞ!」
「あっ、ハイ! そうね、ありがとう」
あからさまに、話逸らしたましたね。もう、いいですよーだ!
タッタッターってお嬢さまが、こちらに走ってくる。
「わたしにも、その刀を見せてちょうだい」
刀身を両平に乗せて、お嬢さまに奉納です。受け取った刀の刀身をお嬢さまが覗き込む。
「初めてみましたわ。これがセシリア鋼の刀なんですね。漆黒で織り成された、全てを斬り伏せる剣…」
お嬢さまが、刀を眺めながら遠く懐かしものを見るような優しい表情を浮かべる。
「お父様が、わたしに送ってくれた名の由来なんですのよ」
「軽くて、キレて、扱いが難しいとか、願い通りに育ってるじゃん」
「黙らっしやい! ゴートマン!」
刀を振ろうとして、変化する重心にふらついてくるっと回って、わたしにズバッ!!
あっ危なかった……
「おー! すげーメイドさん」
「お見事!」
咄嗟に、手のひらに挟んで止めた、白刃取りに賞賛の声が上がる。
「びっくりしましたわ。でも、さすがは、わたくしのギフトですわ」
いけない、この人達といると本当に死んじゃいそうです。
「コホン! セバス、この刀には、名はあるの?」
セバス様が自分の口髭を撫でながらちょっと思案。
「いえ、無名の太刀でございます」
「そう、ならばわたくしが、ピッタリな名前を名付けてあげるわ!」
えっ! ちょっとお嬢さま、やめてー!
「スーパー ストロング ソード!」
「どう、強そうでかっこいいでしょう!」
あー! やられちゃった。また、どストレートなネーミングがきました。
「すげーかっこいい!」
「うむ、強そうであるな!」
「お見事な名前です。感服いたしました」
皆様も、本気なのか、冗談なのかわからないリアクションを返してる。
わたしの感性が正常かわからなくなるから、やめて!
『
そうして、この美しい国宝級の妖刀は、長刀らしからぬ、SSSというお嬢さまにピッタリなサイズ感を連想させる微妙なお名前を拝命されました。