お嬢さまが、ちびっ子可愛い悪役令嬢   作:デチャウ

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第四話 その五 制服とリボンとゾンビアタック

 話はちょこっと進んで、学園入学までもう一月を切りました。

 

 「ふふーん! 今日の予行練習は、上出来ね」

 

 自室で机に向かいながら、セシリアがそんな独り言を呟いている。

 

 ドアをノックする音と、いつもの間の抜けた駄メイドの声。

 

「お嬢さまー、ついに届きましたよ! お嬢さまの学園の制服!」

 

 両手いっぱいの荷物で手が塞がっているので、足で失礼。ドアを体で押し開けながら、お嬢さまの部屋に入る。

 

「本当ですの! 早く! 早くこっちに持ってらっしゃい」

「はーい、ちょっと待ってください」

 

 ティーテーブルの椅子を引いて、両手に抱えた荷物を降ろす。

 

 たまらずお嬢さまが書き机からこちらにやってきて、もう一つの椅子を引いて座った。

 

「えーと、まずはこれ……」

 

 ひとつ目の箱を開けて中身を取り出す。

 

「ジャーン! スカートですね」

 

 スカートを広げてお嬢さまに見せてから、側のベッドの上に置く。

 

 その後も箱を開け、ベッドの上に制服を着たお嬢さまを模して並べてみせる。

 

「素敵、素敵ですわ!」

 お嬢さまの目がもう釘付けです。

 

 ベッドの上にコーディネートされた制服。

 

 黒の膝丈プリーツスカートには、裾に赤のラインで縁取り。プリーツの左右に赤色のステッチ。それに黒のニーソックスが合わさります。

 

 上は真っ白なブラウス、腕の部分はふんわり大きく作られ、指先が綺麗に見えるよう手首でキュッと絞られています。

 

 特徴的なのがその上に着るケープ。

 

 黒い厚めの布で作られたケープ。マントに近いけれどそこまで長くなく、腰くらいの丈。これもスカートと同じ赤のラインで縁取りされています。

 

 最後は大きな黒いトンガリ帽子。

 

 魔女のトンガリ帽子のイメージより、もっと素朴でストンとしたシルエット。儀礼的な時に被るものっぽい。

 

「可愛いわ! この学年で正解よね。黒髪には青ラインとか似合わないもの」

 

 お嬢さま、黒髪の上級生を敵に回されましたよ。まあ、わたしもそう思うけどね。

 

「あとこちら、『王立サピエンティア・プラム学園』からも荷物が届いてますよ」

「えっ! 早く言いなさい。ほら開けて、すぐ開けて!」

 

 小さめな小包を開けると、中からいくつかの書簡と、何やら布系のものを包んだ手触りの紙袋が出てきました。

 

「早く、早く!」

 

 犬みたいに腕に縋って急かすお嬢さま。

 

「お嬢さま、ステイです!」となだめながら、紙袋を開ける。

 

 中から出てきたのは、学園の校章が刺繍された胸章。

 

 そして、すでに蝶々型に縫い付けてある大きな赤いリボン。

 

「きましたわー! 『大リボン』ですわ! ルナリア、わたくしやりましたわ!」

「おめでとうございます、お嬢さま。頑張ってらっしゃいましたものね。本当に、よかったですね」

 

 そう言われて、ちょっと気恥ずかしくなったのか、お嬢さまはふいと顔を背けました。

 

「いえ、当然ですわ。驚くことじゃなくってよ。このセシリア・フォン・アーネストにかかれば、学年首席なんてお茶の子さいさいですわ」

 

 お嬢さまったら舞い上がっちゃって……ご令嬢は「お茶の子さいさい」なんて使いませんよ。

 

 お嬢さまが何を喜んでいるかというと、学園では入学前にクラス編成のための筆記試験があるのです。

 

 そこで一番良い成績を取った生徒――すなわち首席には、学年代表の任が与えられます。

 

 最初の使命は入学式での新入生代表挨拶。

 

 お嬢さまが大好きなお目立ちイベントですものね。頑張るわけです。

 

 学年代表には証として、男性なら大きな金の襟章、女子には他の生徒より一回り大きなリボンが与えられます。

 

 リボンは大きいほど正義とは言うけどね。

 

 お嬢さま小さいから、ちょっとオーバーサイズすぎません? リボンに着られちゃってますよー。

 

 そういえば一緒に入っていた書簡は何だろう?それらを手に取って見る。

 

 入学までの手続きや準備関係の要は入学のしおりですね。

 

 あとは……

 

 「重要」のタグ付きで『成績優秀者について』と書かれた紙が入っていました。

 

 内容を読んでみる。フムフム……

 

 これはマズイわ。いきなり接触イベントとか、急すぎる……

 

「ルナリア、どうしました。何か書いていましたの?」

 

 紙を持って固まっているわたしに気づいて、お嬢さまが声をかけてきました。

 

「ヒャい!」

 びっくりした!

 

「いえ、お嬢さま、今回の学年首席についてのお知らせなのですが……」

「なんですの?」

 

「読みますね。『今回のテストにて、セシリア・フォン・アーネスト、リリィ・レインの両2名が共に満点の回答に付き、今学年の代表は異例だが2名とする』です」

 

 それを聞いたお嬢さまが、すぐさま机に向かうと一冊のスクラップ帖を取り出しました。ペラペラとページをめくって手を止めます。

 

「ありましたわ、これですわ!」

 

 そう言ってスクラップ帖の1枚の新聞記事をこちらに向けました。タイトルは『南に聖女現る!』。

 

「この記事の聖女こそが、さっき言ってた『リリィ・レイン』ですわ」

 

 そうなのです。南の聖女「リリィ・レイン」。

 

 彼女こそわたしが作った乙女ゲーム『聖女と薔薇の刻証 ~Rose et Sainte~』の正規ヒロイン。

 

 こんなに早く接触することは、なかったはずなのに――

 

「いいわね。こんなに早く会えるなんて嬉しいわ。しかも一緒に学年代表とか、お近づきになるチャンスだわ!」

 

 お嬢さまが、なぜか攻略キャラを見つけた主人公ムーブです。

 

 おかしいですね? 

 

 学年代表が二人とか、目立ちたがり屋の自己承認欲求モンスターのお嬢さまは嫌いそうなものなのに。

 

「お嬢さま、学年代表ふたりとか、お嫌じゃないんですか?」

「なんで? ふたりいれば仕事は2倍できるし、嫌な仕事はやってもらえるからいい事ずくめじゃない。」  

 

「それに、わたくしこの娘『リリィ・レイン』狙ってますのよ。まずは、お友達になることからですね」

 

 まさかのお嬢さまがヒロイン攻略?

 

「あの、お嬢さま、その南の聖女様に何か思い入れがあるのですか?」

 

「あっ、そうねルナリアは知らないのね。大きな声では言えないけどね……我がアーネスト家には絶対無敵と言われる、秘伝『無限転生陣』という究極の戦術があるのよ」

 

 いかにも「秘密ですわよ」みたいなもったいぶった小声ですが、自慢気に耳元で囁きます。自慢したかったのですね。

 

「その戦術には、優秀な治癒能力者(ヒーラー)が絶対不可欠なのよね」

 

「でもアーネスト家は現在、聖女だった母様(かあさま)が教会に幽閉状態だから、治癒能力者が不足してるのよね」

 

 お嬢さま、お母様が聖女で幽閉とか、すごい秘密をサラッと流さないでください。

 

「リリィ・レインは商家出身で貴族でもないみたいですし、あわよくばこの娘をうちで雇えないかなって思ってますのよ」

 

 なんか色々驚愕の話ばかりですけど、とりあえずお嬢さまにお聞きしたいのは……

 

「お嬢さま、その『無限転生陣』って戦術って、治癒能力者の他に転移魔法が必要ですか?」

「あらよく知ってるわね。セバスにでも聞いてました? 転移魔法の方は兄様が得意だから大丈夫よ」

 

 ……。

 

 あっ! もうわかっちゃいました。

 

『無限転生陣』それって、ゲームでいう『ゾンビアタック』ですよね、絶対!

 

 倒れても何度でも蘇生を繰り返し、相手のHPを削り切る戦術。

 

 可能でも、現実でやっちゃいけない戦術ですよ。人としてどうなのってレベルです。

 

 でもアーネスト家の誇る戦闘民族どもなら嬉々としてやりそうだな。

 イッテー。足取れちゃったぜ。治療ヨロ! とか笑って言いそう……

 

 やだなあ、見たくないなー

 

 『フラグ立ててどうするの?』ってプレートを、VR空間でネコ耳ルナリアがこちらに向けました……

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