話はちょこっと進んで、学園入学までもう一月を切りました。
「ふふーん! 今日の予行練習は、上出来ね」
自室で机に向かいながら、セシリアがそんな独り言を呟いている。
ドアをノックする音と、いつもの間の抜けた駄メイドの声。
「お嬢さまー、ついに届きましたよ! お嬢さまの学園の制服!」
両手いっぱいの荷物で手が塞がっているので、足で失礼。ドアを体で押し開けながら、お嬢さまの部屋に入る。
「本当ですの! 早く! 早くこっちに持ってらっしゃい」
「はーい、ちょっと待ってください」
ティーテーブルの椅子を引いて、両手に抱えた荷物を降ろす。
たまらずお嬢さまが書き机からこちらにやってきて、もう一つの椅子を引いて座った。
「えーと、まずはこれ……」
ひとつ目の箱を開けて中身を取り出す。
「ジャーン! スカートですね」
スカートを広げてお嬢さまに見せてから、側のベッドの上に置く。
その後も箱を開け、ベッドの上に制服を着たお嬢さまを模して並べてみせる。
「素敵、素敵ですわ!」
お嬢さまの目がもう釘付けです。
ベッドの上にコーディネートされた制服。
黒の膝丈プリーツスカートには、裾に赤のラインで縁取り。プリーツの左右に赤色のステッチ。それに黒のニーソックスが合わさります。
上は真っ白なブラウス、腕の部分はふんわり大きく作られ、指先が綺麗に見えるよう手首でキュッと絞られています。
特徴的なのがその上に着るケープ。
黒い厚めの布で作られたケープ。マントに近いけれどそこまで長くなく、腰くらいの丈。これもスカートと同じ赤のラインで縁取りされています。
最後は大きな黒いトンガリ帽子。
魔女のトンガリ帽子のイメージより、もっと素朴でストンとしたシルエット。儀礼的な時に被るものっぽい。
「可愛いわ! この学年で正解よね。黒髪には青ラインとか似合わないもの」
お嬢さま、黒髪の上級生を敵に回されましたよ。まあ、わたしもそう思うけどね。
「あとこちら、『王立サピエンティア・プラム学園』からも荷物が届いてますよ」
「えっ! 早く言いなさい。ほら開けて、すぐ開けて!」
小さめな小包を開けると、中からいくつかの書簡と、何やら布系のものを包んだ手触りの紙袋が出てきました。
「早く、早く!」
犬みたいに腕に縋って急かすお嬢さま。
「お嬢さま、ステイです!」となだめながら、紙袋を開ける。
中から出てきたのは、学園の校章が刺繍された胸章。
そして、すでに蝶々型に縫い付けてある大きな赤いリボン。
「きましたわー! 『大リボン』ですわ! ルナリア、わたくしやりましたわ!」
「おめでとうございます、お嬢さま。頑張ってらっしゃいましたものね。本当に、よかったですね」
そう言われて、ちょっと気恥ずかしくなったのか、お嬢さまはふいと顔を背けました。
「いえ、当然ですわ。驚くことじゃなくってよ。このセシリア・フォン・アーネストにかかれば、学年首席なんてお茶の子さいさいですわ」
お嬢さまったら舞い上がっちゃって……ご令嬢は「お茶の子さいさい」なんて使いませんよ。
お嬢さまが何を喜んでいるかというと、学園では入学前にクラス編成のための筆記試験があるのです。
そこで一番良い成績を取った生徒――すなわち首席には、学年代表の任が与えられます。
最初の使命は入学式での新入生代表挨拶。
お嬢さまが大好きなお目立ちイベントですものね。頑張るわけです。
学年代表には証として、男性なら大きな金の襟章、女子には他の生徒より一回り大きなリボンが与えられます。
リボンは大きいほど正義とは言うけどね。
お嬢さま小さいから、ちょっとオーバーサイズすぎません? リボンに着られちゃってますよー。
そういえば一緒に入っていた書簡は何だろう?それらを手に取って見る。
入学までの手続きや準備関係の要は入学のしおりですね。
あとは……
「重要」のタグ付きで『成績優秀者について』と書かれた紙が入っていました。
内容を読んでみる。フムフム……
これはマズイわ。いきなり接触イベントとか、急すぎる……
「ルナリア、どうしました。何か書いていましたの?」
紙を持って固まっているわたしに気づいて、お嬢さまが声をかけてきました。
「ヒャい!」
びっくりした!
「いえ、お嬢さま、今回の学年首席についてのお知らせなのですが……」
「なんですの?」
「読みますね。『今回のテストにて、セシリア・フォン・アーネスト、リリィ・レインの両2名が共に満点の回答に付き、今学年の代表は異例だが2名とする』です」
それを聞いたお嬢さまが、すぐさま机に向かうと一冊のスクラップ帖を取り出しました。ペラペラとページをめくって手を止めます。
「ありましたわ、これですわ!」
そう言ってスクラップ帖の1枚の新聞記事をこちらに向けました。タイトルは『南に聖女現る!』。
「この記事の聖女こそが、さっき言ってた『リリィ・レイン』ですわ」
そうなのです。南の聖女「リリィ・レイン」。
彼女こそわたしが作った乙女ゲーム『聖女と薔薇の刻証 ~Rose et Sainte~』の正規ヒロイン。
こんなに早く接触することは、なかったはずなのに――
「いいわね。こんなに早く会えるなんて嬉しいわ。しかも一緒に学年代表とか、お近づきになるチャンスだわ!」
お嬢さまが、なぜか攻略キャラを見つけた主人公ムーブです。
おかしいですね?
学年代表が二人とか、目立ちたがり屋の自己承認欲求モンスターのお嬢さまは嫌いそうなものなのに。
「お嬢さま、学年代表ふたりとか、お嫌じゃないんですか?」
「なんで? ふたりいれば仕事は2倍できるし、嫌な仕事はやってもらえるからいい事ずくめじゃない。」
「それに、わたくしこの娘『リリィ・レイン』狙ってますのよ。まずは、お友達になることからですね」
まさかのお嬢さまがヒロイン攻略?
「あの、お嬢さま、その南の聖女様に何か思い入れがあるのですか?」
「あっ、そうねルナリアは知らないのね。大きな声では言えないけどね……我がアーネスト家には絶対無敵と言われる、秘伝『無限転生陣』という究極の戦術があるのよ」
いかにも「秘密ですわよ」みたいなもったいぶった小声ですが、自慢気に耳元で囁きます。自慢したかったのですね。
「その戦術には、優秀な
「でもアーネスト家は現在、聖女だった
お嬢さま、お母様が聖女で幽閉とか、すごい秘密をサラッと流さないでください。
「リリィ・レインは商家出身で貴族でもないみたいですし、あわよくばこの娘をうちで雇えないかなって思ってますのよ」
なんか色々驚愕の話ばかりですけど、とりあえずお嬢さまにお聞きしたいのは……
「お嬢さま、その『無限転生陣』って戦術って、治癒能力者の他に転移魔法が必要ですか?」
「あらよく知ってるわね。セバスにでも聞いてました? 転移魔法の方は兄様が得意だから大丈夫よ」
……。
あっ! もうわかっちゃいました。
『無限転生陣』それって、ゲームでいう『ゾンビアタック』ですよね、絶対!
倒れても何度でも蘇生を繰り返し、相手のHPを削り切る戦術。
可能でも、現実でやっちゃいけない戦術ですよ。人としてどうなのってレベルです。
でもアーネスト家の誇る戦闘民族どもなら嬉々としてやりそうだな。
イッテー。足取れちゃったぜ。治療ヨロ! とか笑って言いそう……
やだなあ、見たくないなー
『フラグ立ててどうするの?』ってプレートを、VR空間でネコ耳ルナリアがこちらに向けました……