お嬢さまが、ちびっ子可愛い悪役令嬢   作:デチャウ

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第四話 その六 列車防衛線と謎の黄門様

か お嬢さま、ついに学園入学ですね。おめでとうございます。

 

 と言ってもまだ、移動の途中なんだけどね。

 

 あと、『機動指揮車快天号』乗り心地が悪くておしり痛いです。

 

 なんで指揮車? まあ事情があって乗ってるんだけどね。

 

 北方の最果て、ノクスリア魔族帝国と刃を交える国境線。

 

 普通なら武骨な砦を築くべきその最前線に、我がアーネスト公爵邸は堂々と鎮座しています。

 

 あえてどこからでも見晴らせる高台を選び、敵を挑発するようにゴージャスな権威を誇示する、まさに難攻不落の「見せつける要塞」なのです。

 

 全方位に喧嘩売ってますね。

 

 まあ、戦闘民族どもの考えかたはさておき、なんせ北の外れなんで学園のある王国の王都まで遠いんです。

 

 列車で5日近くかかります。

 

 列車と言っても中世に蒸気機関はまだないのですが、ここはほらファンタジーですからね。

 

 血の盟約で得られるギフトの中にエンジナリーと呼ばれるギフト群が存在していてこれがまんま、運輸・産業機械類なのです。

 

 その中の列車と総称されてるギフトは蒸気機関車なんてもんじゃなくて謎テクノロジーの空中浮遊列車なのです。

 

 これに連結すると馬車でもなんでも一緒に浮遊して運んでくれる流通の要、とっても便利というかご都合主義の庶民憧れのギフトなのです。

 

 運行時は、ギフトとマスターが融合して走らせるので見た目は正面に顔がついた機関車。もうイメージできたと思うから説明省略です。

 

だけどね、そんなにスピードは出ないみたい。体感で時速50から60Km程度かな。おまけギフトとはいえ、マスターも一緒なので、休憩も交代もするし、貨物も一緒で各駅停車で停車時間も長い。

 

 まったり、のんびり?な旅なんです。快天号じゃなきゃね。

 

《機構及び規格・運輸規則のマニュアルのインプットが必要ですか?》

(うーん、興味はあるけど今はそれどころじゃないからまた後でお願いします)

 

《警告:400メートル先の茂みから火矢3・実弾系狙撃スキル2 照準(ロックオン)されました。

 

「ちょこざいな!」

 

わたしの視界の右上の"AUTO P"(自動予知)のインジゲーターが作動の点滅を繰り返しわたしの身体が自動で刀を振るとライフルの弾や火矢が真っ二つになって足元に落ちた。

 

すごいわたし、カッコイイです。戦闘メイドです! 戦うヒロインです。

 

走る列車の屋根の上で片膝ついて刃先を斜めに構える。

 

意味はないけど、なんか強そうなポーズでドヤってみたかっただけなんだけどね。その瞬間、自動予知が点滅でわたしの身体が勝手に斜め後方を切りつけ矢を打ち落とす。

 

痛ったー! 身体、変な方向に伸びた……

 

『透香、これがざまぁ?』

(近いけど違います!)

 

「……聞こえる、ルナリア」

「お嬢さま! バッチリ聞こえてますよ」

 

耳に装着したインカム状の魔道具っていうか完全な無線インカムからお嬢さまの声が聞こえる。

 

 生成するのにナノマシンは使うけどできたもの自体は単なる機械だからお嬢さまでも使えるみたい。

 

「あと12分で別働隊が野盗の後ろから強襲するわ。それでフィニッシュよ。まだ、頑張れる?」

 

「大丈夫だと思います。周囲の騎兵の皆様も頑張ってくれてますし、矢とか鉄砲ならなんとかなりそうです」

 

そう言いながら体が反応して銃弾を切り裂いて矢を打ち落とした」

 

「すごーい! ママー見て! あのメイドのおねーちゃん。剣で矢をバンバン落としてるっ」

「こらっ! ダメよ顔出しちゃ!」

 

後ろの車両に逃げてる乗客の歓声が耳に入ってきます。

 

メイドのおねーちゃん、がんばるからね。

 

「いいこと、ルナリア。野盗だって馬鹿じゃないからどこから襲ってくるかわからないのよ。気をつけて」

「はい」

 

「……それと、もし敵と向かい合ったら、即、切りなさい。いいわね、これはマスターとしての命令よ。必ず従いなさい」

「はい、了解です。お嬢さま」

 

そう言ってジャンプして空中で矢を薙ぎ払って着地です。

 

……今回、王都まで行くついでにアーネスト家に依頼のあった列車を襲う野盗の討伐の最中なのです。

 

 それって、学園入学を控えた公爵令嬢に、ついでに頼む仕事じゃないですよね。

 

 でも、お嬢さまが、「義を見てせざるはアーネストの恥」とか論語のパクリみたいな家訓を持ち出してノリノリ受けてましたから、仕方がないです。

 

指揮官(コマンダー)はお嬢さまがやっています。それと作戦に当たってるのも15から17歳くらいまでの新兵さん。

こちらはお屋敷にいる近衛の方達じゃなくてアーネスト領を守ってる軍人さん。

 

お嬢さまの話だとアーネスト軍は身分に関係なく簡単な体力検査程度で入れるらしい。

 

「アホでもなれる冒険者よりは難しいわよ」

とのと。‎‎

 

でもその後の5ヶ月間の新兵訓練いわゆるブートキャンプはとっても厳しいとのことです。

 

「3年前に受けてみたけど辛かったですわ」

「なんでお嬢さまが、軍事教練受けてるのです??」

「何を言ってるのかしら? ルナリア、あなたどこか違う世界からでもいらしたの?」

 

「えっ?!」

 

なるほどです。わたしの頭の中が、お花畑だったみたいです。この世界は情勢も治安も思った以上によろしく無いんです。

 

隣国間での戦争や小競り合いは頻繁に起きる。王国内でも各諸侯間の紛争は絶えず、野盗や強盗、泥棒、人さらいは日常茶飯事と治安が悪い。

 

おまけに、ギフトがもたらすオーバーテクノロジーで個人間の力の差が極端に歪。

 

そんな世界だから、貴族の子息ともなれば、ひと通りの戦う術も嗜みのひとつとのことです。

 

 ただ軍事教練なんかまでやってるのはアーネスト家ぐらいなのも間違いではないみたい。

 

そんなわけで戦うお嬢さまは、ちゃんとアーネスト軍の将校さんでもあるのです。

 

今回、一緒の兵士の方々の話だと、指揮に関してはめちゃくちゃ上手くて、個々の能力を120パーセント引き出してすり潰す天才だとか言われてるそうです。

 

 あと、あの体格なんでコンバットの方は襟首つまんで投げて終わりとのことです。

 

 まあね、お嬢さまらしいです。

 

説明してるうちに、戦場は激戦状態、潜んでた野盗が騎馬ならぬでっかい狼に騎乗して襲ってきた。

 

 野盗が乗ってるだけじゃなくて狼単独も含めて30匹くらいの群れが襲ってきてます。

 

「来ましたわよ。列車右側方 敵15 ウルフ28 左側方敵18ウルフ38 6000メートル 敵主力40

 

「側面騎兵、ギフト使用許可 防衛開始 10分後敵主力とエンカウントまで列車にとりつかせないで」

「右騎兵隊、了解」

「左騎兵隊、了解」

 

「別働隊、時間合わせ。600秒 4・3・2・1 スタート」

「別働隊、了解 展開開始」

 

なんか軍隊ですー。こちらは、相変わらず列車の上で剣舞披露中です。

 

お嬢さまがどこにいるかというと、列車に連結されたアーネスト家特製の機動指揮車両『快天号」の中で作戦指揮中なのです。

 

中世の騎馬戦メインなんだけど、敵も味方もオーバーキル能力のギフト持ちがいるから戦況状況の把握が勝敗を左右するのです。

 

で、圧倒的な軍事力を誇るアーネスト軍の戦術は 『目』と呼ばれる索敵スキル持ちの戦闘には絶対参加しない隠密偵察部隊が戦況を観測して指揮者に送信。

 

その情報を元に作戦指揮官(コマンダー)が戦況を指揮車の中でオーバーヘッドディスプレイを介して俯瞰的に把握して各部隊を動かす。

 

中世どころか近未来戦闘形式です。

 

他にも、お嬢さまが自慢たっぷりに色々と解説してくれたんだけど、みせられたオーバーヘッドディスプレイってメカじゃなくて脳みその被り物にカタツムリみたいに眼球がニューって生えてて怖すぎて細かいこと覚えてないです。

 

「右側方、10秒後 援護掃射いきますわよ! 退避」

「右側方200m先警戒!」

「ビンゴだ、コマンダー! 狼野郎撃破」

「お見事よ! てもわたしの口はひとつしかないから!無駄口厳禁!」

「イエスアイマム!」

 

右側の騎兵が敵からスッと離れる。

 

ズダダダダダ!! と炸裂音が響き、指揮車の上にいる、マシンガンとかバルカン砲みたいなギフトを持ってる兵隊さんが、野盗と狼と地面を蹴散らしていく。打たれた野盗の腕がちぎれて血が噴き出してるのが見えた。

 

ヒィィー!!

 

その惨劇を見て初めてここがゲームじゃなくて殺し合いの戦場なんだって…… そして今、戸惑いも無く野盗を殺す指令を出したのが、お嬢さまなんだって……

 

ダメだ、これ理解が追いつかない、現実が受け止めれません。こんな簡単に人を殺していいの?

 

心がフリーズしても体は自動的に迎撃し続けてる。

 

怖い、怖い、怖い……

 

「左側方、小河川ありよ! 飛び越えて」

「了!」

「機関車両にインキュベーター!? えっルナリア!」

「副長! スイッチ!」

「了! コマンダーチェンジ!」

「ルナリア! ルナリア! 返事して!」

 

リアル戦場無理です! こんなに簡単に人が……ありえない。

 

その時、列車の側面から目の前にヒュンと人の影が舞った。敵の野盗の潜伏スキル持ち!

 

 でもわたしの体は心より早く自動予知により相手を切り伏せようと反応している。

 

目の前に着地した敵は、……女の子!

 

 それもお嬢さまと変わらないくらいの子が手を持って、こっちを襲ってくる。

 

 でもわたしの刀の方が早い!

 

 ダメ!刀を返して峰打ちにしなきゃ!

 

 あれっ? 刀を返せない。

 

"敵と向かい合ったら、即切りなさい。いいわね、これはマスターとしての命令よ。"

 

《透香、無理です! マスターの命令は、最優先です》

 

それでも強引に刀を返そうとして一瞬動きが鈍った。

 

えっ間に合わない、わたしが切られる……

 

今まで、切られる恐怖に怯えてた野盗の少女の顔が勝利を確信して醜悪な笑みを浮かべた。

 

そこに思いがけない介入が起こった。

 

目の前の醜悪な笑い顔の左目にスッーと剣の刃先が飲み込まれていく……

 

次の瞬間、笑い顔のまま硬直した女の子を、止められなかったわたしの刀が袈裟懸けに切り裂いた。

 

女の子の胸元から血が噴き出しさらに左目からシュッと剣が抜かれるとその目の後からもブシュ! と血が飛び数滴わたしの顔にかかる。

 

わたしの手から血だらけの刀が落ちた、体が崩れそうになる。

 

でも崩れなかった。イヤ崩れた体を支えるように両肩を掴まれ崩れることは許されなかった。

 

「なぜ、戸惑った! 君は、死にたいのか!」

 

転がる死体に釘付けにされてた目がその知らない声で解放され、震えながらそちらに目線を移す。

 

そこには、金髪碧眼の男の顔があった。

 

「戦場にいる覚悟がないのか……ならなぜ君はここに立っているんだい?」

 

男の深い青色の目が戸惑いを浮かばせこちらを見る。

 

まだ若い、ここにいる新兵達と変わらないくらいのあどけなさが残る顔なのにどこか風格のある整った顔……

 

……?

 

「誰、あなた?」

 

ちょっと冷静になったら、コイツ肩掴んでたはずなのにいつのまにか片手を腰に回されて半分抱きしめられてるじゃない。

いや違うか、崩れそうなわたしを支えてくれたのか。あ、ダメどっちにしても近すぎる! 離れて!

 

ちゃんと立てます。アピールして体を解放してもらう。

 

刀を拾い上げようとして下を向く、自分が野盗の女の子の死体から出た血溜まりに立っているのをみて、恐怖が再び戻ってくる。

 

わたしが殺した……イヤ先に彼の剣で絶命してた? としても、わたしも確かにその体を切り裂いた。体が震えだす。

 

そんなわたしに気づいたのか、彼は無造作にその死体を列車から蹴り落とした。

 

 ヒィィ!ひっくり返った瞳孔、開きっぱなしの目がこちらを見つめながら列車から転げ落ちていった。

 

もうダメ、恐怖と罪悪感、嫌悪感で力が抜ける。倒れそうになったところをふたたび彼に抱き止められた。

 

「君を2度も抱きしめられるなんて光栄だな。今日はついてる」

 

ニッコリと微笑む顔はこんな状況じゃなかったら即落ち3コマ並みの破壊力だった。まさに王子様スマイル。

 

「ルナリア……ルナリア! 返事なさい!」

「あっ、はい、お嬢さま!」

「フゥー よかった」

 

ようやくインカムで呼びかけられてたことに気づいて返事をした。

 

「状況は終了したわ。お疲れ様。あとお説教もたっぷりあるけど、それよりも一緒にいるその男はなに?」

「えっ……うーん? 命の恩人でしょうか……?」

「まあ、いいわ、お礼を言うかは別として、軍の作戦行動中の無断介入者なんだからそこに拘束しておきなさい」

 

お嬢さまの通信が終わったとたん、腰に回されてた手を引き寄せられわたしは完全に彼に抱きしめられた。

 

「僕を拘束してくれるんだろ。フフ、嬉しいな」

「あわわ……イヤ、違くて……」

 

ダメ、ナニコレ、腐女子のオタク女子にこれはダメ。耐性ないからキョドちゃう。けど待ってわたしだって享年23歳のお姉さんなんだからこんな若い子にトキメクとか犯罪だからね。落ち着けわたし!

 

見透かされたようにクスッと笑われる。

 

「いつまでも、こうしていたいけど、おっかない兵隊さんがくるから、そろそろお暇させてもらうとするよ」

「なっ?ちょっと」

 

「君は面白いね。本当に、どこからきたんだい"透香"」

 

「えっ! えっ?」

「学園で会えるの楽しみにしてるよ、またね♡」

 

最後にキュッと抱き寄せられて近づく顔にドキッとする。逃れようとするよりも早く、彼はパッと身体を離すとピョンピョンと客車の方に消えちゃいました。

 

 

「お嬢さま、逃げられちゃいました……」

「こ、この、駄メイド!」

 

なんなのあいつ……それに透香ってなぜ……

《量子配列合致しました。神殿でのアナライズスキル実行犯です》

 

あいつが、下品な黄門さまだったのね。一発殴っておけばよかった……

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