野盗を制圧の
わたしも、列車の屋根から降りて、列車を守ってた騎兵の皆様と一緒に野盗本隊が捕らえられている場所へと向かいます。お嬢さまは処理のためすでに向かわれてるとのことです。
アーネストの兵隊さんが集まってる場所が見えてきた。
近づくにつれて鼻を刺すのは血の匂い。
先程列車の上で嗅いだ野盗の少女の血溜まりと同じ、咽せ返る血の匂い……
お嬢さまを発見、その手にはお兄様へのプレゼントにと持ってきたユニコーンのツノで作ったの槍を携えていた。
「はい、退いて! 荷物が通るよ」
数名の兵隊がそう言って小さめの荷車を運んできた。荷台の上には厚手の布に包まれた、丸太状の荷が何本も積まれてた。
それが丸太なんかじゃないのは、荷台から垂れてる赤い液体が雄弁に語ってた。
こんなに簡単に殺し合いが行われる世界なんだって再認識させられる。
前世で培った命の大切さやその平和だった世界で植え付けられた、価値観と心がそれを否定する。
わたし、ついていけないかも……
そんなセンチメントなこと考えてたのに、お嬢さまってば、会ったとたん叩かなくてもいいよね。
正しくは……
パーン!
お嬢さまがわたしを見つけるな否や、走ってきて思いっきりわたしのほっぺを両手のひらで音が出るくらい勢いよく挟み込んだ。
「マスターの命令も守れないなんて、アンタどこまでポンコツギフトなの。コノッ!」
ほっぺ潰されて口がタコになってるのにさらにほっぺグリグリしないでー!
絶対ブサイクになってますよね、わたし。ほら、周りの兵隊さんも吹き出してるじゃないれすか。
「ひょめんなぴゃい」
「なに、それバカにしてらっしゃるの?」
ほっぺ押さえられてるからちゃんと喋れないんですってば、わかってるくせに、お嬢さまのばーか!
「本当にあなた、わたしのギフトなの? マスターの命令に逆らえるほうが驚きなんだけど、ギフトとかじゃなくて、実はそこらへんのアホの子なんじゃないでしょうね!」
「ヒョウヒンヒョウメイのあなたのびいふとルナヒハれすー(正真正銘のあなたのギフトルナリアです)」
「まだ、バカにして!」
お嬢さまがさらにグリグクほっぺ押してくる。ほっぺに跡残るから潰れちゃて後で赤くなるからもうやめてー
「とにかく、あなたみたいな弱いのが、敵に情けかけようなどとすることが戦場を舐めすぎですわ」
子供だとでも思ったかは知らないけど、命をかけて向かってきてる相手には本気で答えなさい。それが戦場の礼儀です」
ピシャリと怒られて返す言葉もありません。わたしのほうがよっぽど世間知らずのガキでした。
「なんにしろ、無事でよかったわ」
お嬢さまが抱きついて体を寄せる。
ほっとしたような声の後、周りに聞こえないように小声で問いかけられた。
「ねえ、ルナリア。あなたもしかして壊れるのが怖いの?」
そう聞かれて咄嗟に首を縦には振ったけども、わたしは違う意味で愕然とした……
そう、お嬢さまは死ぬのがじゃなくて壊れるのがってわたしに聞いた……
わたしはこの数ヶ月間お嬢さまに人として向かいあってた気でいたけども、お嬢さまにとってはわたしは人ではない物だったんだという事実に愕然とした。
そう考えると色々と納得もできた。ユニコーンの時わたし転ばせて逃げようとしたこと……
そうだよね……単なる道具なんだもんね。しかも壊れても自動で治るんだもんね。仕方ないよね。人じゃないんだ……わたし。
「どうしたの、ルナリア? 悪かったわよ。あなたが壊れることが怖いなんて思っていなかったのよ。ここまで人に似てるんだから、そんな感情を持ってるかもって想像できなかったのは、わたくしの落ち度ですわ。今後は気をつけますわね」
お嬢さまの優しい言葉が追い打ちになる……
(ルナリア、ゴメン! もうダメ泣いちゃう……)
《いいよ、透香泣いちゃおう》
上を向いて堪えたけど無理でした。
「うわぁぁん」
もう堪えきれず涙がどんどん溢れ出す。道具のくせになんで泣けるのかなわたし……
「ちょっ! ルナリアどうしたの、大丈夫?」
お嬢さまが、びっくりして
「ごめんなひゃ……ヒック、ウワァァン」
「ちょっと、本当にどうしましたの、何処か壊れたのですか?」
機械が泣いちゃダメですよね。ごめんなさい。もう人の透香なんてこの世界にもういないんですよね。ここにいるのは、道具の中に押し込められた単なるわたしの人格データーなんですよね。
わかればわかるほど涙が溢れて止まらないんです……
* * *
昨日、ギャン泣きして目の下が
それでもまあ、そこは大人ですし、いつまでも悲劇に浸ってはいられません。スパッと切り替えて、ギフトのお仕事を全うしなければ、居場所さえ無くなっちゃいますからね。
昨日の夕食後に、お嬢さまになんで泣いたのか聞かれました。
実はルナリアの中にあなたを『悪役令嬢』に仕立てた犯人が入ってますとも言えないよね。
「ちょっと血飛沫舞う修羅場に遭遇して情緒不安定でセンチメントでアンニュイな気分なので、涙腺機能のメンテナンスとリフレッシュで悲しかったんです」
「今日はもう寝なさい!」
苦し紛れにそう言い訳をしたら、お嬢さまがうわぁって顔で即座にそう返されました。
そのまま『快天号』の寝る拷問装置の異名を持つ狭小三段ベッドに押し込まれてしまい現在朝のシャワー中。
「腰がイターイ!」
車両備え付けの簡易シャワー室で伸びしながら悪態を吐く。
でも拷問装置で寝るのも早4日目です。今日の午後にはお嬢さまと王都の土を踏むのです。
もう一度、大きな伸びをしてっと、「痛っ!」肘ぶつけた。快天号のくせに何一つ
さて、身なりを整えて、今日も一日ガンバルぞー!
……ココロはポッカリ穴空いたまんまだけどね。
兵員の皆さまに、ほら餌だ! とメイドらしく笑顔で給餌して。みんなで楽しい朝食です。
ブーブー、ブヒブヒと皆さま楽しそうに文句言いながら食べ終わる。
お嬢さまは隊員の皆さまとご一緒に訓練です。わたしはお片付けや雑務で午前中を過ごして……
今は昼食後にお嬢さまと、快天号を抜け出して列車のラウンジ席で紅茶を給仕してます。
「到着まで、後、小一時間ですわね」
「はい、今のままの速度ですと、1時間18分ちょうど午後二時半に到着予定です」
プラムの演算結果をそのまま受け売りでお伝えです。
「駅にて、兵員のみなさまとは、お別れになります。その後は、クエルク様がお迎えに来てくださってる予定ですね」
「まあ、兄さまがお迎えにきていただけるのですね。……面倒くさ」
お嬢さまが片肘ついて、車窓を眺めながらいかにも面倒そうな顔をする。
あれ、御屋敷のみなさまの話では、すこぶる仲が良いご兄妹とのことでしたが?
「お嬢さま、何かご不満でもございましたか?」
「別に不満があるわけじゃないのよ。ただね、クエルク兄さまはね、心配性でいつもわたくしのすることに口うるさいのよ。お母様が屋敷にいなくなってからは、特にひどくなったのよね。はあ、憂鬱」
「愛されていらっしゃいますね」
お嬢さま、そんな嫌そうな顔してこちらを見ないでください。まあ、心配するほどのことでは、なさそうですね。
「お嬢さま、車窓の外もだいぶ家々が連なって来ましたね。王都ももうすぐですね」
「ええ、でもまだまだですわ。王都はこんなものじゃなくってよ」
車窓の風景にワクワクしてる田舎者丸出しです。
「列車の方は、約40分で王都ロザリアに到着致します。みなさま、お降りの準備をお忘れなく」
そう言いながら、カランコロンとベルを鳴らして車掌が通り過ぎて行った。
「お嬢さま、着替えもありますので、そろそろ戻りましょうか」
「そうですわね。わたくしの王都デビューですもの着飾ってまいりましょう!」
***
賑わう午後の王都、その中心たる駅前広場。平穏を謳歌する人々のただ中に、それは忽然と現れた。
石畳から立ち昇る光が巨大な魔法陣を描き、ゆっくりと回転を始める。異常を察して飛び退いた人々が遠巻きに息を呑んで見守る中、空間が、まるで布地を切り裂くように火花を散らし「縦」に裂けた。
その裂け目から、ぎらつく金属の指が這い出す。四本の無機質な腕が空間の端を掴むと、物理法則を無視してカーテンのように強引に左右へと押し広げた。
ぽっかりと開いた虚空の闇から現れたのは、漆黒の馬躯。
だが、それは生き物ではなく、重厚な装甲を纏った金属の塊だ。前脚の後方からは二対のマニピュレーターが突き出し、今なお空間をこじ開けている。
現代人の視点で見れば「四本の多機能アームを備えたロボット馬」と形容すべき異様な存在。その背には、同じく全身を鎧で固めた一人の騎士が、静かに王都の喧騒を見下ろしていた。
ギフト、機動神獣スレイプニル。
アーネストの「至宝」の一角が、次元の狭間から平然とこの地に降り立った。
「久しぶりに、セシリアに会えるな……」
「マスターセシリアさまに会えるのうれしい?」
「嬉しいどごろか胃に穴が空きそうだ…… スレイプニルよ! 胃薬と鎮静剤をもて」
「常備してるのだ。安心なのだ。マスター!」
スレイプニルと呼ばれた。ロボット馬のマニピュレーターが薬と水を楽しそうに差し出した。