お嬢さまが、ちびっ子可愛い悪役令嬢   作:デチャウ

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第四話 その九 聖女とハンター兄妹

 お嬢さまが、ユニコーンの槍をクエルク様に向け放ちました。

 

 見事なフォームからの正確無比な一投です。

 

 実の兄に向けてとか、危ないからダメですう〜。

 

 クエルク様に迫る槍。眉ひとつ動かさないクエルク様。

 

 当たる! って思った瞬間、シャキンという音とともに、スレイプニルの二本のマニュピレーターが展開されました。

 

《亜空間ゲート展開を観測》

プラム、解説ありがとう。

 

 ユニコーンの槍がマニュピレーターの間に発生した亜空間に飲み込まれました。

 

 それと同時にクエルク様の横に展開したもう二本のマニュピレーターの間から、飲み込まれた槍の穂先がせり出してきます。

 

 出てきたユニコーンの槍の柄をクエルク様が難なく握り、槍の穂先を眺めました。

 

「うむ、見事な槍ではないか! これを我が眉間に向けて投げるとか、相変わらず常識が無いな。ハッハハ! 我が妹よ、この槍、ありがたく頂戴しよう!」

 

「どういたしましてですわ、兄さま! いつも忌々しいお馬さんですわね。たまには、ちゃんと眉間で受けて欲しいですわ!」

 

《わー! セシリアさまだ。お久しぶりー》

 

 あら、スレイプニルは話せるギフトなのですね。

 

 お嬢さまに向かって全力でマニュピレーターを振っています。クエルク様が必死で避けていますよ。

 

 見た目と違って天然系なのですね。

 

「痛いわ! スレイプニル」

《マスター、どうしたの?》

「……もう、いい!」

 

 微笑ましい? 兄妹の再会を横でじっと見ていたリリィ・レインが、思わず「プッ!」と吹き出しました。

 

「アワワ! みなさまの仲良さそうなご様子が、つい微笑ましくて、ごめんなさい」

「ハッハハ! これは、恥ずかしいところを見られてしまったな。常識を知らぬ妹ですまない」

 

「いえ、そんな、とても綺麗で可愛らしい方ですね」

 

 クエルク様が馬上から頭を低く下げ、リリィ・レインの耳元に小声で何やら囁いていますね。

 

《集音開始します》

 

「見た目に騙されてはいけない。我が妹は、危険だから虎とかそういう類いのものと思って接しておくれ」

「えっ! そんな!」

 

 さすがはクエルク様。お嬢さまのことをよくわかってますね。適切なアドバイスです。

 

 びっくりして顔を上げたリリィ・レインの頭から帽子が外れ、夕焼け色の髪が広がりました。

 

 肩のあたりで切り揃えた髪には、片側だけ編み込みが一房。

 

 透き通る白い肌。でも健康的。淡いブルーの瞳とピンクの唇。その場の空気までが和む、柔和で優しさに満ちたまさにヒロインフェイスです。

 

 そんな顔を至近距離で見せつけられたクエルク様が、思わず顔を引いて赤面されました。

 

 さすが、ヒロイン。破壊力は抜群ですね。これ、フラグ立っちゃいましたか? 

 

あと、その外れやすい帽子に顎紐をつけるのおすすめします。

 

 そんなラブコメフィールドに、飢えた虎じゃなくてお嬢さまが侵入です。

 

 ガオーです。わたしは、まだ旅行鞄3個と格闘中で、たどり着けていませんけどね。

 

 二人のもとに着いたお嬢さまは、扇子で口元を隠したままで、まずはレアな赤面クエルク様をじーっと観察。

 

「フッ」と吐き捨てるように小声で笑います。

 

「ミイラ取りがミイラになったのかしら? 未熟者ね」

「おっ、おまえな!」

 

 クエルク様が慌てて顔を引き締め直します。

 

「おまえじゃなくてよ。あなたの可愛い妹、セシリアですわ。お久しぶりです、クエルク兄さま!」

 

 そう言い放つとクエルク様のリアクションなんて待たずに、すぐに隣のリリィ・レインの方に向き直りました。

 

 突然向き合われて驚くリリィ・レインにもお構いなく、優雅にカーテシーを決めます。

 

「わたくし、北方の守護を預かるアーネスト公爵家が長女、セシリア・フォン・アーネストと申します。初めまして、『南の聖女』リリィ・レイン」

 

 お嬢さまが、早速圧をかけにいきましたよ。抜け目ないですね。

 

「あ、あの、ご、ごめんなさい! いえ、申し訳ございません。リリィと、いえ、リリィ・レインと申し上げます。セシリア様」

 

 めっちゃ深い礼を決めて小さく震えています。

 

もう、膝に顔がついてますよ。体柔いな。

 

 でも、さもありなんです。こういう場合、身分の下の者から名乗るのが基本だもんね。

 

 ましてや、公爵家が相手ならまずは膝をついて礼をし、発言を許されてからでなければ名乗ることも許されないのです。

 

 知っていて、あえて聖女を持ち出して先に挨拶。でもリリィ・レインには、様や殿なんて敬称もつけません。

 

 とても意地悪。悪役令嬢です。

 

「まあ、そんなかしこまらないでくださいまし。頭をお上げになって、リリィ・レイン」

「あっ、ありがとうございます。セシリア様」

 

 恐る恐る、リリィ・レインが顔を上げました。

 

 めちゃくちゃ困惑していますね。正直、泣く一歩手前です。

 

 そこを容赦なくさらに近づいて、怯えるリリィ・レインの両手をガッチリと自分も両手で握りしめます。

 

 さらに顔を近づける。

 

「わたくし、お会いできるの本当に楽しみにしていましたのよ」

 

「聖女の強力なギフトと、そこから生まれた数々の奇跡のニュースに心を躍らせてましたの」

「あっ、ハイ! あっ、いえそんな……」

 

 戸惑うリリィ・レインにお嬢さまが、さらにグイグイいきます。

 

「それに、試験も満点取られて、一緒に学年代表をできると知った時は運命を感じましたわ!」

 

「ぜひわたくしとお友達になってくださいまし!」

 

「そんな、セシリア様。わたしなんかが、公爵家のお嬢さまとなんて滅相もございません」

 

 ブンブンと首を振って戸惑うリリィ・レイン。

 

 お嬢さまが、下から目線でウルウルとした瞳で覗き込みます。

 

 お願い♡フェイスです。

 

 あざとい! 同い年でも、一回り小さく幼い容姿を利用した相手の庇護欲を最大限引き出す仕草。

 

 ご自分の武器を完璧に把握してますね。

 

日々、鏡の前で研鑽してる賜物でございます。

 

「あ、ありがたいお言葉です。わたしなんかで、よければ是非よろしくお願いします。セシリア様」

 

 ほら、断れない! はめ込み完了です。

 

「様なんて、いらないわ。気軽にセシリーって呼んでくださいな。それでね、あのね、わたくしもリリィと呼ばせてもらってもいい?」

 

 言葉使いまで幼なげにして、もう! 

 

 でも目が獲物を前にした猛禽類ですよ。

 

「えっ! さすがに、それは……」  

 

「フッ、妹は領内では同年代の者も少なかったからな。わたしからも頼む、是非友達として接してやってくれぬか、リリィよ」

 

 クエルク様、さりげなくフォローに入るのね。

 

もちろん、目は猛禽類です。

 

「はい。本当にわたしなんかでよろしければ、あの、お友達になってくださいね。セ、セシリー……」

「ハイ、もちろんですわ! リリィ!」

 

 お嬢さまが、リリィに飛びつくように抱きつきを決め、リリィの顔が驚きと共にほころびました。

 

ヒロインどころかチョロインです。

 

 ハイハイと、大輪の白百合のホログラムを周りに展開してお嬢さまをアシストですね。

 

 お嬢さまが、リリィの背中でVサインをクエルク様に送ります。

 

 スレイプニルの4本のマニュピレーターが親指を立てて返します。

 

 兄妹揃って「聖女ゲットだぜ!」みたいな顔をして笑っています。

 

 腹黒聖女ハンターです。リリィ逃げて!

 

「さて、いつまでも王都の駅前を危険地帯にしてもおけぬな」

 

 そう言うと、クエルク様が持っていたユニコーンの槍を一閃。

 

 槍の軌跡が火花を散らし、空間に裂け目が開きました。

 

スレイプニルのマニュピレーターが裂け目に差し込まれ、それを押し広げます。

 

 何も無い空間にぽっかりと次元の入り口が開かれました。

 

 スレイプニルのマニュピレーターが優しくリリィを抱え上げ、クエルクの前に騎乗させます。

 

「リリィよ。少しの間、窮屈させる!」

 

 クエルクの手綱を持つ手がリリィを後ろから、優しく包むように添えられました。

 

 リリィの頬が再び赤らんでいますね、可愛らしい。

 

「では、学園に帰るとしよう。行くぞ、スレイプニル!」

 

 クエルクが、スレイプニルの横腹を踵で軽く蹴ります。

 

《了解なのー、マスター!》

 

 四本のマニュピレーターがお嬢さまの襟首とリリィの鞄、そしてわたしの前の旅行鞄を拾い上げます。

 

 大きく(いなな)いて、マニュピレーターにぶら下げられたお嬢さまの「ヒィィィ」という絶叫を残し、次元の入り口に消えました。

 

 次元の裂け目が閉じられ消えます。

 

何事もなかったように静寂に包まれた広場……

 

 えっ?  

……??    

エッー!!

 

 あの、わたし、忘れて置いていかれました……

 

 ガクリ、とその場に膝をつきます。わたしの顔を小馬鹿にするように秋風が吹き抜けていきました……

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