お嬢さまが、ちびっ子可愛い悪役令嬢   作:デチャウ

24 / 39
第四話 その十 串焼き王子様

 王都の駅前、ボッチで置き去りにされた憐れなメイドです。

 

 普通なら途方に暮れるシチュエーションですが、特級メイドのルナリアちゃんには無問題です。

 

(プラム、学園への経路と所要時間を教えて)

《徒歩での所要時間2時間24分です。ルート表示します》

 

 視界の中に地図とタイマーがAR(拡張現実)で表示されました。

 

 ナビゲーション標準搭載の安心安全のAI搭載特級メイドのルナリアさんです。

 

 ……にしても、結構遠いな。観光がてら歩くのも……まあいいか。

 

「仕方ない。歩きますか」

 

 声に出して、面倒な気持ちを追い払い出発です。

 

 トボトボと、ナビに従い学園へと歩きだす。

 

駅前の広場を抜けると「王都最大の市場」との解説がナビに表示される。 

 

広い巾の道の真ん中には露店が立ち並び市が開かれてます。左右には立派な石造りの商家が軒を連ねてる。

 

甘い香りの漂う揚げパイの店、フルーツ生搾りのジュース屋さん、こっちのなんか粉物屋さんからは焼けたソースの香り。

 

活気と食欲をそそるいい匂いに満ち溢れてる市場。 

 

 先程問題は無いと言った舌の根が乾いてませんが大問題てす。

 

 わたし、お金持ってません!!

 

便利道具(ギフト)に給金なんか払う人いませんものね。

 

 襲いくるグルメの数々に成すすべなく、涎を飲み込んで足早に通り過ぎなければならないとか、苦行すぎ! なんの修行って話です!

 

泣きっ面に蜂とばかりに、さらなるトラブルの予感。

 

《当躯体に対する監視及び追跡行為を検知。センサー展開します》

 

 ピコン! と頭に小さな赤いツノが2本生えた。

 

 ルナリアさん最新装備の『シックスセンスセンサー』です。センサーが空間を把握しだす。

 

《後方12メートル追跡者数2 その他該当被疑者配置データを送ります》

 

フムフム、その他の追跡者(チェイサー)は、この感じはアーネストの隠密がひとり。ちゃんとわたしにもついているのね。

 

 んーと、あとひとつは、小さいですね。人ではない感じ、ギフト?

 

シックスセンスセンサー優秀すぎ。某国エージェントなら感涙モノの便利グッズです。

 

《照合完了、2名のうちひとりが該当データ有り。神殿と列車での接触の仮称ネーム『黄門様』です》

 

あやつか! 列車で腰に回された手と至近距離で見た金髪碧眼の整った顔を思い出す

 

 それにドキッとした感情まで蘇ってきたので、思わず首を振ってナイナイします。

 

ちょっとドキドキが残ってるけども、ここは冷静に対応を考えないとね。

 

なんて余裕があるのも、ホログラムの光学迷彩で隠してますがセシリア鋼の長刀『スーパーストロングソード』(命名:セシリア様)略してSSS(スリーエス)という物騒な一品を背中に装備しているからです。

 

 はっきり言ってこの刀最強なんですよ。

 

この刀を装備したらわたしの戦闘力がFからAAA+++の最上級に跳ね上がったんです。

 

 封印されし我が力がついに解かれたかと心舞い上がりました。

 

 でもプラムの解析で驚愕の事実です。

 

《セシリア鋼と当躯体を構成する特殊量子は相性が良く、心臓を貫けば即座に核融合反応にて、星ごと消滅できます。この星、最強の兵器です。良かったですね》

 

最終兵器ルナリアちゃん爆誕です。

 

 そんな物騒なもの抑止力にもならないので封印されし力は永久に封印です。

 

余談はさておき、脳内対策会議をまずは開催。

 

守護対象(セシリア)不在の今ならば被害は最小で済みます。相手の真意を探るに適したシチュエーションです》

 

プラムの正確な状況分析。続いてネコ耳ルナリアどうぞ。

 

『なにか、食べたい!』

 

うん、そうだね。わたしも同意。欲望に忠実です。

 

脳内会議の結果、相手の真意を伺い、あわよくば奢ってもらう――合理的な作戦に決まりです。

 

だってね。ちょうど目の前に串焼きの露店があるのです。

 

 焦げた肉の匂いと甘めのタレの香り、もう動けません。歩けません。

 

グー!

 

ヒャア! お腹鳴らしてしまった。店主がこっち見てる。恥ずかし。

 

「お腹、空いてるの?」

 

突然耳元で甘い声。驚いて逃げようとしたら。背中にピッタリと体を寄せられて腰からお腹に手を回されてるし、横顔が耳元に触れるくらいに寄せられてる。

 

距離近い。息かかる。お腹触るな! 落ち着けわたし!

 

冷静に相手の真意を探るって打ち合わせしたじゃない。

 

ここは、精神年齢的にお姉さんなんだから、余裕を持って対処よ。

 

「奢って!」

――!!

 

ネコ耳ルナリアの方に、先に口を使われちゃった!

 

碧眼が驚きの色でこちらを見ている。

 

「プッ! ククク」

 

笑われてる。さすがに恥ずかしくて、頬が熱くなってます。

 

「ご主人、串焼きを三本いただこう」

「毎度あり」

 

「はい、笑ってごめんね。お詫びのしるしにね」

 

金色の髪の向こうの優しい目、そんなものは眼中に入りません! 差し出された串焼きを受けっ取って口に運ぶ。

 

噛み締めれば、口内に広がる肉汁……

 

うーん、美味しい! 

 

しまった!

 

 大人のお姉さんの余裕どころか、あっさりと餌付けされてしまった。

 

 恐る恐る、彼の顔に目を移す。

 

なんか本気でびっくりしてる。ナンデ?

 

「本当に、食べられるんだ!」

 

「ものを食べるとか、このアーネストのギフトどう見ても怪しいです。離れてください! 殿かっ……」

 

 隣にいたもうひとりの口に遮るように素早く指が当てられた。

 

「スリフトは、本当にそそっかしいね」

「あっ! いや、すまない。アルスト……」

 

 もう一人の彼がちょっと申し訳なさそうに口籠った。

 

 こちらはすごく実直そうな感じの方ですね。

 

 体格はかなりの筋肉質。短髪の銀の髪。意志の強そうな目と口が如実に剣士や兵士の雰囲気です。例えるなら忠実なシベリアンハスキーですね。

 

 でも、素直ないい人なんだろうな。いまだに横でわたしの腰に手を回してる距離感バグってるこやつより、よっぽどわかりやすいわね。

 

 攻めやすそうな方からいきましょう。

 

 けど、ふたり並んだ時点で、正体わかっちゃったんだけどね。ふたりともわたしのゲームの攻略キャラですもの。

 

もっとも横のキャラは設定とだいぶ性格が違う感じで確証持てないんだよね。

 

 お母さんそんなふうに設定した覚えはありません。

 

 でもここはアドバンテージを利用して揺さぶって本音を引き出したいところです。

 

「スリフトが、失礼な物言いしてごめんね。悪気はないんだ許してくれるかい?」

 

また、顔近づける。こんな攻撃に怯んでたまるかです。

 

「いえ、お気になさらず。怒ってなんかいませんけど……」

 

そう言って、スリフトと呼ばれるワンコ騎士に視線を送る。バツが悪そうにこちらを見るのを確認してから

 

「でも、お詫びのしるしに彼の分もいただきますね」

 

そう言って、二本目の串焼きをつまんで、スリフトワンコに見せびらかすように一口パクリ。

 

「あっー! オレの肉!」

 

 めっちゃ悔しそうな顔しないで、本当に食べたかったのワンコ騎士?

 

「んー! 美味しい! ありがとうございます。アルスト殿下とスリフト・アルメリア様」

 

 知らせていない正体を指摘されて、スリフトの雰囲気があからさまに、変わる。

 

 片手が腰の剣の柄に伸び、殺気が迸る。

 

素直ですね。正体言い当てられて、怒っちゃいました?

 

もう一段煽ってみようかな。って思ったら、突然右手を取られた。

 

「アルスト殿下!?」

 

 手を引き上げられて、わたしの食べかけの串焼きの残り肉をパクリ。

 

「「なっ!」」

 

わたしと、スリフトが同時に驚きの声をあげた。

 

わたしの中でネコ耳ルナリアが肉取られてシャー! ってなってますけど……

 

「肉取られたくらいで、怒るなよ。これで僕も共犯だよ。どうする、ス・リ・フ・ト」

 

からかうように、言い放ってイタズラな目をスリフトに向ける。

 

 その態度にスリフトが諦めたように、剣の柄から手を離してやれやれって感じで肩を竦める。

 

「もう、いいですよ。まったく、そんなおかしなギフトのどこがいいんだか? アルスト殿下、ご自分の立場を少しは、考えてくださいよ」

 

「いつも悪いね、スリフト」

 

特にすまなさそうにするでもなく、さらりと言い放つ。

 

ほんと、食えない王子ですね。肉モグモグ食べてるけど。

 

「もう、バレているみたいだけど、改めまして僕がアルスト・オライオン・ド・ロメリア。この国の第一王子だよ」

 

顔を近づけてきて、耳元で小声で甘く囁かれる。

 

「よろしくね、『透香』」

 

向こうの揺さぶりの方が一枚上手みたいです。どうしましょう……

 

落ち着け、わたし!

 

(プラム、神殿でのハッキングで漏れたのって名前だけだよね?)

(肯定、個体名『透香』以外の流出は記録されてません》

 

 と、いうことは、アルスト王子は何かを勘繰ってカマをかけているって可能性が高いのか。

 

ギフト(わたし)なんかの何を知りたいのかな?

 

 『ギフトの中に異世界人がいますよー』なんて本当のこと言ったところで王子に何かメリットがあるとも思えないけどね。

 

 第一、信じてもらえるとも思えないしね。

 

 なるほどね。これよ、これ!

 

 本当のことを言えば、逆に信じないからごまかせる。嘘じゃないからわたしも動揺しない。

 

 いい案じゃない!

 

 よし、方針は決まったわ。異世界電波ちゃん作戦決行よ!

 

 あと、いつまでもお腹を触らせてる訳にはいかないわよね。お肉食べたし、恥ずかしいものね。

 

 まずは、王子のバグった距離感から逃げ出しましょう。

 

 王子の手から逃げるように体を横に滑らせる。

 

「あれ?」

 

 逃げるはずの王子の手がわたしの腰を逆に押し出す。頭上で掴まれてた手にリードされる。

 

 アン・ドゥ・トロワとばかりの、見事なアルスト王子のリードです。

 

 逃げるどころか、その場でターンを決めさせられる。

 

今度は真正面から抱きしめられてる!!

 

「うまいね。ダンス」

 

 そう言って、人を食った余裕の笑みを浮かべて、顔を寄せられた。

 

「ちょっ! 近い!」

 

 思わず顔を引こうと背中を逸らす。

 

結果……。

 

 わたしは、アルスト王子の腕に支えられ、大きく背中を逸らし至近距離で見つめ合ってます。

 

何故こうなる!!

 

夕暮れの王都のメインストリート。

串焼きの匂い漂う露店の前で、金髪の王子と銀髪のメイドが優雅に舞踏会のフィニッシュを決める。

 

思わず周りの人々から拍手が上がってます。

 

「え、何かの余興?」「ねえ、あれ王子様に似てない……」

 

ザワザワとした、周囲の声が耳に入ってきた。

 

――ドォォォォン!!

 

 背後で、スリフト様が腰の剣を鞘ごと地面に突き立てた。

 

 その音と殺気みなぎる表情に、わたしと王子だけで無く周りの人々の視線も集まる。

 

「殿下ぁぁぁぁぁ!! よりにもよってアーネストのギフトと、衆人環視の中で何をやっているのですかー!!」

 

あちゃー! この忠犬ワンコ騎士、またいらない事を言っちゃった……

 

「殿下って今言ったわ」「本物の王子さまじゃないの」「なんでこんなところに……」

 

いけない! 騒ぎになりそう。

 

ぐいっと手を引かれる。

 

「逃げるよ。透香!」

「あっ、はい!」

 

思わず返事返しちゃった。

 

でも騒ぎになるのも得策じゃ無いからね。

 

 手を取り合って逃げるのは釈然とはしないけど、とりあえずここは一旦逃げましょう。

 

 その時、ビクン! とわたしの頭のツノが何かを感知した。悪意が向けられてる?

 

同時に道端の酒屋に積んであった小ぶりの酒樽が倒れて転がってきた。

 

 しかも明らかにわたしにだけ向かって!

 

転がる酒樽、跨ぐには大きいし、飛び越そうにも、数が多い。避ける場所も無い。

 

《回避パターン解析、剣撃必須です。ホログラム解除。抜刀してください》

 

ちょっと、こんな街中で刃傷沙汰になっちゃうの?!

 

 それって大騒ぎにならない。捕まったりしない。大丈夫?

 

そうは思うけど、酒樽も当たれば痛そうだしな。

 

 仕方ない、覚悟を決めて背中の刀に手を伸ばす……

 

「つかまって」

 

抵抗する間も無く、アルスト王子にお姫様抱っこされてる!! 厚い胸板が押し付けられる。ひゃー! 何してるのこの王子!

 

驚いてる、わたしの目前で、転がってる酒樽が不自然にバウンドして真っ直ぐわたしに向かってくる。

 

「しっかりつかまっててね」

 

目の前に迫った樽を、王子が片手で掴んだ。

 

 酒樽の木材に指めり込んでる。服が破けそうなくらい腕の筋肉が隆起してる。

 

大人一人でも持ち上げられるかどうかってサイズの酒樽、それも慣性のついた樽を片手で? 信じられない。 

 

その酒樽を次にバウンドした酒樽に投げつけて回避、最後にバウンドした酒樽は、回し蹴りが炸裂です。

 

ビューンと飛んでって四階ぐらいある石作りの商家の屋根にぶつかって粉砕されてる。

 

「あの小さいのは、どうやら君に用事があるみたいだね」

 

こともなげに、アルスト王子が涼しい顔で言う。王子も気づいてたんだ。こちらを監視してた、小さなギフトの気配……

 

王子がポケットからコインを取り出して顔の前で確認する。

 

 ゴールドです。確か一枚で庶民なら半年は楽に暮らせるとの金貨を無造作にポケットに入れてるなんて、さすが王子様です。

 

 物欲的にトキメいちゃいます。

 

そのコインを無造作に指で後ろに弾いちゃった。

 

王子が軽く振り返る。

 

 コインはヒューンとスリフトワンコの元に飛んで片手で受け止められた。

 

「悪いね、スリフト! 先に、行ってるよ。酒樽の弁償と、あと、おやつの調達よろしくね」

 

「殿下ー!」と呼び止める声も気にせず、わたしを軽々と抱き上げたまま、速度を上げた。

 

アルスト殿下、もう色々とバグってます、規格外です。なんか勝てる気がしないです。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。