お嬢さまが、ちびっ子可愛い悪役令嬢   作:デチャウ

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第四話 その十一 ワンコとカバと王子様

「アルスト王子殿下、あの、そろそろ降ろしてもらえません?」

「降りるの?」

「ぜひ、お願いします」

 

何故に疑問形? なんでって不思議そうな顔しないで。

 

それでも優しく体を傾けて私の足が地に着いたのを確認して解放してくれた。

 

「名残惜しいな、透香……」

 

また、透香と呼ぶんだ。まだカマをかける。わたしの何が知りたいの?

 

「アルスト王子は、透香と話したいのですか?」

「君に、合わせてくれるのかい?」

「透香は、わたしの中の一人格にすぎませんよ?」

 

「でも、透香はギフトじゃなく人だよね? それもこの世界でないところから来た」

 

「ちょっと、待って、待って! いったいどこまで知ってるんです?! あなたも転生者?」

 

びっくりして、つい質問してしまった。王子は……

 

あー! 口をポカンと開けてる。演技じゃなくて心底驚いていらっしゃる。

 

もしかして、わたしやっちゃった? 単なる当てずっぽうでカマかけられて見事に、ハメられた……バカなのわたし……

 

「あの……アルスト王子殿下。今のは無しって言ったら忘れてくれます?」

 

首が大きく横に振られた。

ですよねー

 

「……ふ、ははっ。……あはははは!」

 

最初はこらえるような低い笑い声。それが次第に、抑えきれない歓喜へと変わっていく。

アルスト王子は片手で顔を覆い、指の隙間から、まるで最高の宝物を見つけた子供のような爛々とした瞳で私を射抜いた。

 

蛇に睨まれた、憐れなルナリア(カエル)です。

 

「透香、まさかストレートに『白状』してくれるなんて。……ああ、最高だ ……忘れる? 正気かい? 僕が待ち望んでたピースが、想像以上の形で現れたんだ。手放す選択はないよ」

 

 なんかヤバい発言キター!

 

頭が良くて、武に秀で、優しくて人の裏まで気が回り、誰へだてなく平等に扱う理想的な王子様。お母さん、そう設定したはずなのに、どうして腹黒ラスボス王子みたいになってるのよ。どこでバグったの!!

 

「ちょっと、待って! アルスト王子殿下。ねっ! まずはちょっと落ちつきましょう、お互いに」

 

「ああ、ごめんね。怖がらせちゃたかな? 安心して、透香。君を傷つけたい訳じゃないんだ」

 

 先程までの、優しい笑顔に戻ってるけど、目が違う。もう隠すつもりも無く真っ直ぐと見つめてくる。

 

「ねえ、透香。君は、この歪な世界をどう思うの?」

 

 肩を掴まれて、顔を覗き込まれる。

 

「僕はね、ギフトの優劣に支配されるこの世界がゲームにしか見えないんだよ。それもとびっきりつまらない類いのね」

「ゲームですか?」

「考えてみて、僕らは単にスキルが発現するんじゃなくて、ギフトに管理され統治されているんだよ。世界は人の意思じゃなくシステムに生かされてる。僕らは盤面の駒なのさ」

 

 ゲームキャラが自分の在り方に疑問を持ってるの? 想定外だわ。

 

「君は、この世界の秘密を知っているんだろう。ギフトとは何? この世界をどう管理したいんだい? 教えておくれよ」

「あの、それは……」

 

 まさか自分の作ったキャラにゲームシステムの説明要求されるとか考えたこと無かったわ。

 

 これどうすればいいのよ。誤魔化すのも不誠実だし正直に話すのもピンチな気がする。困った……

 

 ヤバヤバ状態に助け船ならぬ、ビクンと邪魔者の波動。わたしのシックスセンスセンサーが危険を告げる。

この小さな気配は、さっき酒樽を転がしてきたあいつだ。

 

「邪魔が入ったみただね。どうする、僕がやろうか?」

「いえ、用があるのはわたしのようですし、相手がわからないと今後も困るので頑張ってみます」

「僕を頼って欲しかったのに、でも気をつけて、多分風使いだよ」

 

 風使いって、風よ吹けーってやつ??

 

 本当にブワッ!って風がきた。しかもこれ、スカートめくりにきてない?

 

「きゃっ!」

 

 咄嗟に抑えたけども、どう大丈夫だった?

 

 王子と目が合う。すまなそうに逸らした! 見られたのね……チックショー! お嬢さまみたいな嫌がらせしやがって、許すまじ!

 

 気配の方に、一気に距離を詰める。そこらへんに置いてあるものを風で飛ばしてくる。でも、風だとわかってれば避けれる。

 

 でも、めくりにくるのはやめて! さすがに抑えなきゃならないから動きが鈍る。

 

 思ったより相手が遅い? 気配の動きがなんか鈍臭い気がする。何コイツ?

 

 あの路地の影にいる。すぐに路地に回り込む。当然に攻撃くるから路地の壁を蹴飛ばして三角飛びで避けて一気に距離を詰めた。

 

「へっ? ぬいぐるみ?」

 

 ぬいぐるみがパタパタと宙に羽ばたいてる。黒い羽付きのカバ?

 

 

「ふん! ちょっとはやるようね」

「カバが喋った!」

「カバじゃないわよ、バカ! 見ればわかるでしょ。ドラゴンよ、ドラゴン」

 

 なんか、カバのくせに偉そうな自称ドラゴンだわ。でもこれなら捕まえられそう。

 

 ジリジリと、近づいてみた。パタパタと逃げようとするけど遅い。楽勝だわ。

 

 手を伸ばして、キャッチと思った瞬間、カバドラゴンが振り向いて火を吐いた。

 

「アブッ、危なっ!」

 

 間一髪で跳びのいいたけど、結構な火の勢いです。普通に危ない火力じゃない。

 

「うまく避けたわね。戦闘力Fのくせにやるわね」

「危ないわね! 火を人に向けるなってマスターに言われてないのカバドラゴン!」

「カバって言うなバカ! うちのマスターは優しいからちゃんと言ってますー でもあなたギフトだもん。セーフでーす」

「ぐぬぬ……」

 

 なんかカバドラゴンに口で言い負かされてるんだけども、悔し〜。

 

 《戦闘力解析完了です。B+ こちらが不利です》

 

 口で負けて戦闘力も負けてるの、情け無い。

 

「ほら、向かってきてもいいのよ。戦闘力Fのメイドの()()()()

 

 オバサンって、見た目なんてまだ十代です。中身だってまだオバサンじゃないです。失礼にも程があるわ。あのカバドラゴン。

 おまけに戦闘力Fってバカにして。

 

 あっ、相手の戦闘力が見えるんだ。

 

 ふふふふ、いいこと思いついた。泡吹かせてやる。

 

「よく言いました。乙女をオバサン呼ばわりした罪は万死に値するのです。誰に喧嘩を売ったのか分からせてあげます」

 

 《装備SSSの偽装ホログラム解除》

 

 背中の『スパー(S) ストロング() ソード(S)』が顕になる。さっと手を背中に回して柄を握りSSSを抜き放す。

 

 リーン

 

 この刀特有の鈴の音に似た鞘走りと共に漆黒の刀身が解放された。

 

「さあ、覚悟はいい? カバドラゴン」

「何、カッコつけてるのよ。戦闘力Fのメイドさんが……えっ! ちょっと何これ……」

 

「戦闘力AAA+++! 嘘! ありえない、ありえないわ」

「レベルに頼るから見誤る。自分の愚かさを呪いなさい。覚悟!」

 

 シュン! カバドラゴンの首筋の横を掠めるように突く。

 

「ヒィィ!」 

 カバドラゴンが固まってから、ブクブクブクと泡吹いて気絶した。

 

 落ちるところを、ヒョイと受け止めて捕獲完了です。

 

 アルスト王子の拍手が後ろの方で聞こえたので、振り返ってどんなもんですってSSSを振り上げて自慢です。

 

 あれ? アルスト王子の後ろに、人影が……

 

 スリフト様じゃないですか。でも、様子が変、雰囲気が違う。もしかして……

 

 アルスト王子に向かって刀を振り上げてるわたし……

 

 スリフト様ってば、ワンコ騎士どころか軍用犬の顔してますね。

 

「ゴクリ!」

 わたしの喉がなって嫌な汗が出てきました

 

 スリフト様が腰の剣をゆっくりと抜きました。

 

「この、アーネストの腐れギフトが!!」

 

 本気のピンチです。 危険が危ないです。

 

 あと、わたしが腐ってるのは大正解!

 

 スリフト様が剣を抜き、こちらを真っ向から見据える。その姿はもはや荒ぶる軍用犬、「グルルル」スリフトです。

 

 対する私の視界も、「戦闘モード」へと強制移行した。

 

《SSS装備中のため、戦闘力評価を正しく算出できません。結論:圧勝です》

(圧勝って! 自爆前提の『AAA+++』を基準にしてどうしろと言うのよ、プラム!)

 

 なんだか最近ポンコツ度に磨きがかかってません?

 

「せいッ!」

 

 スリフト様が一気に踏み込んで上段からの振り下ろし。

 

 分厚い西洋刀が、その重量と衝撃で敵を叩き潰す一撃を放つ。

 

 自動予知による反撃プロトコルが発動する。

 

 ――リーン!

 

 澄んだ鈴音と共に切り上げ、すぐさま刃を返して次撃に備える。

 

 ヤバいです。タイミングバッチリです。スリフト様を()っちやいました?

 

 恐る恐る目線をむけると、スリフト様の両足が地面から浮いてる?

 

「アルスト王子……!?」

 

 アルスト王子が、片手一本で、フル装備のスリフト様を吊り上げていた。どんな超人筋力なのよ、この王子。

 

 結果として、スリフト様の剣は私の頭上で止まり、私のカウンターも空を切っていた。

 

「お見事だね、透香。でも僕も、スリフトをまだ失いたくないんだ。ごめんね」

 

 アルスト王子が楽しそうに笑い、吊り上げていた手を離す。

 

 スリフト様がドスンと着地した瞬間、彼の剣が中ほどからポロリとズレ落ちた。

 

『SSS』で、刀身ごと断ち切っていたのだ。この刀、なんでも斬れるのよね。

 

 ゴンッ!

「いったぁぁーい!」

 

 落ちてきた剣の先が、私の頭を直撃した。重いのがゴツんときた。

 

 たんこぶができたらどうしてくれるの。

 

「俺の、俺の自慢の剣がぁ……!」

「セシリア鋼って、本当に何でも斬れるんだね。驚いたよ」

 

 頭上で響く、スリフト様の絶叫と王子の笑い声。

 

「まあ、ここはお互い痛み分けってことでいいかな。透香、立てる?」

 

 差し出された王子の手を取り、私は立ち上がる。

 

 なんだか上手く言いくるめられた気がするんですが……まあ、いいです。

 

 私は背中の鞘尻を少し浮かせ、円をなぞって『SSS』を鞘口に走らせる。滑り落ちるように納刀。そのままホログラムで刀の存在を消去した。

 

「見事なものだね。誰かに習ったのかい?」

「お祖父様直伝です。えっへん! ……あッ!」

「ふーん。お祖父様、ね」

 

 あああ、またやってしまった!

 

 私の正体、もはや「ギフト」の設定を通り越して、人間くささがフルオープンのマッパです。無念。

 

「じゃあ、学園まで出発だね」

 

 スカートの砂をパンパンと払い、いざ出発……と思ったけれど。

 

 何かを忘れている気がする。……??

 

 ポン、と手を叩いて思い出した。

 

 カバドラゴンだ!

 

「何よ! やっぱり戦闘力Fじゃない! その刀がチートなだけじゃない、ズルメイド!」

 

 見れば、上空にパタパタとカバ(自称ドラゴン)が浮かんでいらっしゃる。

 

「おっしゃる通りチート武器ですよ。勉強になったでしょう、カバドラゴン」

 

 ちょっとは言い返さないと後味が悪い。

 

「カバって言うなバカ! だいたい、オバサンメイドがどうしてアルスト王子と仲良くしてるのよ!」

 

「どこをどう見たらこのピチピチなメイドがオバサンに見えるのよ。あなたの目はガラス玉かなんかですかーだ!」

 

「殿下、あんなアーネストのギフトのどこが良いんです? ぬいぐるみと同レベルで喧嘩してますよ……」

「可愛いよね。彼女は純真なんだ」

 

 外野の好き勝手な言い草に、羞恥と照れで顔が熱くなる。おのれ、カバドラゴン(八つ当たり)です。

 

「ふん、頑張っても無駄よ! 王子様もスリフト様も、ぜーんぶリリィお姉ちゃんのものなんだから! いーっだ、バカメイド!」

 

 捨て台詞を吐きながら、カバドラゴンは透けるように消えてしまった。

 

 私並みに迂闊な子! 「リリィ」の名前を出したらバレバレじゃない。

 

「リリィレインの関係者……でしょうか」

「たぶん、彼女のギフトなんだろうね」

 

 ほら、王子たちにも完全にバレている。でも、おかしいな。私のゲーム設定では、リリィのギフトはもっと可愛い「ピンクのドラゴン」だったはず。

 

 王子の性格といい、この世界の「ズレ」が気にかかる……

 

「逃げちゃったけど、いいのかい?」

「ええ。あれだけヒントを残していった残念な子ですから、すぐに見つかるでしょう」

「そうだね。――透香に負けないくらいにね」

 

 またさりげなく手を取って、顔を近づけてくる。それに、イジワル。

 

 私は半歩下がり、小指で口の端を引っ張って返してやった。

 

「いーっだ!」

 

 イジワル腹黒王子様め。

 

「へぇ、そういう仕草なんだ。さっきのギフトもやってたから、なんだろうと思ってたよ」

 

 ……あれ? この世界には「あっかんべー」の文化がないのかしら。だとしたら、あのカバドラゴンはなぜ知っていたの?

 

「おい、不敬だぞアーネストのギフト!」

 

 うわ、ワンコ騎士スリフト様、真面目すぎて面倒くさい。剣を折られたのを根に持ってるでしょ。

 

「スリフト、いいんだよ。僕と彼女の仲なんだから」

「いつそんな仲になったんですか!」

「これからなる予定だよ」

 

 会話にならない。隙あらば手を握ろうとするし、私の評価の中で「魅惑の王子」から「怪しい人」へ絶賛格下げ中である。

 

「そういえば、スリフト。買い出しは済ませたかい?」

「ああ、バッチリだ」

 

 スリフト様がちょこちょこと離れてガサゴソして、色々と抱えて戻ってきた。

 

 隠していた骨を掘り返してきた犬、まさにそんな感じだ。やっぱりワンコじゃないですか。

 

「肉に魚介、揚げ物に菓子、フルーツ! に各種飲み物、至れり尽くせりだぞ!」

「じゃあ、改めて学園に帰りましょうか、透香さん」

 

 アルスト王子が、腕を組めと言わんばかりに横へ並ぶ。

 

 王子様、スキンシップしないと死んじゃう病なの? ならお可哀想に……なんてね。

 

 私は王子の腕の間をすり抜けるように手を伸ばし、スリフト様が持っている串焼きを奪取した。

 

「串焼きゲットです!」

 

 してやったり。そのまま手を引こうとした瞬間、ヒョイと手首を捕まえられた。驚く間もなく上に引き上げられる。

 

 王子が、私の持っている串焼きをアムリと一口。

 

「透香が選んでくれたから、とても美味しいよ」

 

 美味しかったなら、何よりでございます。腹黒王子さま!

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