お嬢さまが、ちびっ子可愛い悪役令嬢   作:デチャウ

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第四話 その十二 聖女様の説得

「あっ、コラ! それ俺が取っておいたヤツだろ!」

「へーんだ。スリフト様がいつまでも食べないからですよ。早いもの勝ちです」

 

パクリ!

 

「あー、アル王子またわたしの持ってるの食べた!」

「早い者勝ちだろ」

「ムー!」

「メイド、アル王子とか、不敬だろ」

「スリフト、透香は、いいんだよ」

「殿下も、お人形遊びがすぎますよ」

 

かれこれ、一刻以上も三人で歩いてすっかり表面上は仲良しです。

 

というより、互いに腹の探り合いに隠し事が多すぎて、真面目な話ができないのでおちゃらけているというのが正解。

 

「あー殿下。学園の門ですよ」

 

スリフト様が、門まで走って行って嬉しそうに駆け戻ってきた。マジワンコ騎士です。愛犬スリフトです。

 

ついに、学園に到着です。長かったー。

 

「王立サピエンティア・プラム学園にようこそ、透香」

 

アル王子が、手を取れとばかりにこちらに(てのひら)を差し出す。

 

その手のひらをパーンと叩いて、手を挙げて逆にハイタッチをアル王子に要求してやった。どうよ!

 

「なんだ、抱き上げて欲しかったのかい。気が回らなくてすまない」

 

そう言って、ハイタッチの手に指絡めて体を寄せてくる。どんな思考回路でその結論に辿り着くの、近い、近いってば!

 

「ナニ、してるの?」

 

下からの視線、懐かしい声!

 

「お嬢さまー」

 

 アル王子の手を振り解いて、お嬢さまにダイフです。

 

 あー懐かしい、愛おしい、尊いです。お嬢さま成分が充填されていきます。スリスリ。

 

「これは、これは、アルスト殿下。わたくし、アーネストが長女、セシリアでございます。お久しぶりですわ」

「そうだね、久しぶりだね。レディ・セシリア。学園に入学おめでとう」

 

 お嬢さまが、わたしをくっつけたまま、カーテシーで王子に応えます。

 

「それよりも、本日は、()()()()のギフトを、わざわざ学園まで送っていただきまして感謝の言葉もございませんわ」

「あーそうか、僕は駅前に置き去りにして行ったから、いらないんだと思ってしまったよ」

「そんなわけありませんわ、わたくしのギフトは優秀ですからちゃんと帰ってきますもの」

 

 あーいい匂い。お嬢さま。お嬢さま。クンカクンカ。

 

「いつまでくっついてるの! この駄メイド!」

 

 怒られちゃった。エヘヘ。でも、本当にわたしも、捨てられたかと思いましたよ。寂しかったですよ。

 

 なんだかお嬢さまとアル王子の雰囲気が悪げですね。なぜでしょう?

 

「そうだね。彼女はとても優秀で美しい。どうだい、彼女を僕にくれないかい。セシリア・フォン・アーネスト。キミより僕の方がうまく使ってあげられるよ」

 

 アル王子さま、あからさまに喧嘩を売ってらっしゃる。

 

 うちのお嬢さまは売られたら、絶対に買うし倍返しですよ。覚悟できてます?

 

 お嬢さまは……恐る恐るお顔を覗きこむ。めっちゃ笑顔!おまけにこっちを向いたー。

 

「ルナリア、どうしましょう。アルスト殿下が、是非あなたを所望とのことですわ。こんな名誉はなくってよ。ルナリアどうしますか?」

「えー! 嫌に決まってますよ。アル王子ってば隙あればすぐにくっついてるし、イジワルなんですもん。お嬢さまの方が断然いいですよー」

 

わたしが後ろからお嬢さまの肩に手を回しお嬢さまがその手を取る。

 

 ユリユリモーションの茶番です。そのまま、ふたりして、ズルい笑顔で王子のほうを向いて見せつけるようにニッコリ。最後にふたりでイーッて顔でお断りです。

 

「はっははは! コイツは手厳しいお嬢さま方だね」

「おい! いくらなんでも不敬だろ!」

 

ワンコ騎士が再び「ガルルル」スリフト様になって吠えてらっしゃる。

 

「あら、不敬罪で手打ちにでもされてしまうのかしら? 恐ろしいわ。スリフト様、でも剣はお持ちですの?」

 

さすがお嬢さまです。人を怒らせる才能の塊です。スリフト様の剣をわたしが切ったのも隠密経由で筒抜けだったみたいですね。

 

「くっ! この!」

 

スリフト様、真っ赤になってる。羞恥半分、怒り半分ですね。こっちにも、お嬢さまといっしょにイーッだです。

 

「スリフト殿、よければコレをお使いください。不敬な妹ですまんな」

 

クエルク様が、笑顔で「ユニコーンの槍」をスリフト様の前に差し出す。

 

「あっ! でもこれは妹がわたしにと作ってくれた大事な槍なので、間違っても『アーネストの腐れギフト』なんぞに、切られぬようにお願いしますよ」

 

兄妹揃って煽りまくりです。でも笑顔のクエルク様は目がひとつも笑ってません。

 

隠密から聞いたのでしょうけども、例えわたしのことでも、アーネストの名を侮蔑されたこと。この兄妹に取っては、それが王家でも許さないんだ。

 

最初の悪い雰囲気の納得がいきました。

 

「スリフト、どうする?」

「王子……」

 

あっ! ダメ……

 

アル王子なら、笑ってうまく場を終わらせるものだと思ってました。

 

公爵家とはいえ家臣に舐められて王家が、引く理由なんてないものね。

 

「僕の使っていいよ。僕はこっちの方が得意だからね」

 

ギュと拳を握って見せる、もう片方の手で腰の剣をスリフトに放ってやる。

 

「殿下、恩に着ます!」

 

 スリフト様が、受け取った剣を腰に構える。クエルク様もユニコーンの槍を八相に。

 

 入学も待たずしてお嬢さまが兄妹揃って王族に反旗です。乙女ゲームが始まる前にバトルゲーム開始の危機です。

 

「やめてくださーい!」

 

場違いな突拍子もない大声で間に踊りでたのは、そうです、そうでなくっちゃです。

 

乙女ゲーム『聖女と薔薇の刻証」の正ヒロイン。

 

『南の聖女』リリィ・レイン。

 

さすがです。ここで、来なきゃヒロインじゃありません!

 

柔らかなピンクの髪に、どこまでも慈愛に満ちた美しく優しい御尊顔でございます。

 

「喧嘩はダメです! 戦いからは何も生みません! 愛こそが全てを救うのです!」

 

 聖女様、あの愛って……今関係あります? 本気で止めてます?

 

 それでも真剣な顔して間に立ってるから大真面目なのね。

 

「女! 邪魔立てするなぁぁ!!」

 

 スリフト様、それ悪者! 悪者のセリフです!

 

「いいえ、どきません! 話し合えばきっと分かり合えます! 剣を収めてください! 言葉は、争うためではなく、理解し合うために神様から授かったもののはずです。拳を交える前に、まずは心を開いて語り合いましょう。みなさん、本当は優しいはずです! 憎しみなんて捨てて、手を取り合えば、きっと!……」

 

 定型句のように定番のセリフが矢継ぎ早に出てきます。

 

 素晴らしいお言葉が続き、皆を説得しようという強い意志はひしひしと伝わってきます。まさに聖女です、王道ヒロインです。

 

 ご高説に、アル王子は苦笑気味で楽しそう。クエルク様は、顎に手を当てて完全に観察中。

 

スリフトワンコは、感動して涙を流してらっしゃる! 触らないでおこう。

 

お嬢さまは、顔も笑ってませんし真剣に耳を傾けてます。人の話は聞くのよね。従わないけど……

 

「争いは、憎しみの連鎖を生むだけです。憎しみは、誰も幸せには致しません。互いに相手を思いやる優しさそれこそが大切なのです」

 

真剣にそう思っていらっしゃるのですね。リリィ様でも、逃げてー

 

 パチパチ!

 

 お嬢さまが拍手する。

 

「……終わりましたか?」

 

 空気が、凍る。

 

 お嬢さまのたった一言で、場の温度が一気に下がった。

 

 お嬢さま。いえ、セシリア公女殿下が、静かに一歩前に出る。

 

 その笑顔は、先ほどまでと同じはずなのに、まるで別物だった。

 

「……リリィ・レイン、南の聖女さま」

 

「は、はい!」

 

「素晴らしいお言葉ですわ。耳に心地よく、誰もが否定しづらい。そして、とても“便利”でいらっしゃる」

 

 褒めている。言葉だけなら。でも、その声音には一片の温度もなかった。

 

「ですが、」

 

 一歩、さらに踏み込む。

 

「それで? 貴女は、何を賭けてその言葉を口にしているのかしら」

 

「え……?」

 

 リリィ様の表情が揺れる。

 

「誰も幸せにならない? 結構。ではお聞きしますわ。

誰の不幸を、どこまで引き受ける覚悟がおありで?」

 

 ぐ、と言葉に詰まるリリィ様。

 

「理想を語ることは、罪ではありません。けれど、」

 

 お嬢さまの瞳が、真っ直ぐにリリィを射抜く。

 

「現実に干渉する以上、それには『覚悟』がいるのですわ」

 

 ひえっ、怖い。

 

 これがお嬢さまの『本気モード』。悪役令嬢の真骨頂でございます。

 

「わ、私は……ただ、みんなが……」

 

「“みんな”とは、誰のことですの?」

 

 被せる。逃がさない。

 

「王家も、貴族も、平民も、敵国も。すべてを救うおつもりで?」

「それとも――都合の良い範囲だけ?」

 

 完全に詰め将棋です。チェックメイト寸前。

 

「そんな!」

 

 リリィ様、涙目。

 

 うん、これはちょっと可哀想。

 

痛っ。 腰のあたりにちくってなんかきた。横を向くと腰の横に小さな次元ゲート。そこから槍の穂先が出てる。

 

あっ! 用があるからってユニコーンの槍で突かないでください。スカートちょっと切れてますって危ないなもう。

 

向こうで、クエルク様が声を出さずに口を動かす。口パク?

 

ふむふむ、「追い込みすぎだ……」はい、「敵にまわってどうする……」ふむ、「つもりだ、このバカ!」

 

わたしは頭の上で大きく丸を作って応える。すぐさまお嬢さまの耳元に小声でクエルク様のお言葉を伝えます。

 

「クエルク様からの伝言です。敵にまわってどうするつもりだこのバカ。これ以上、追い詰めるなスカボンタンとのことです」

 

お嬢さまがクエルク様をきっと睨む! ビビるクエルク様。仲良し兄妹です。

 

お嬢さまの口調が、取ってつけたように変わる。

 

「それでも、あなたの言葉は、わたくしの心に刺さりましたわ。荒んだわたくしの心に必要なのは、この清らかな穢れのない言葉なんですわ。ありがとう、リリィ レイン。いえ、南の聖女様」

 

お嬢さまも、目をしばたいてる。ここからのごまかしは苦しすぎます。

 

「わかってくださったのですね。セシリア様!」

 

ブッー!! セーフなのこれ? イケてるのアレで?

 

リリィ様、マジ聖女です。お嬢さまも、バカにされてるんじゃないかと逆に疑ってますよ。

 

「素晴らしい! リリィレイン、君はなんて素晴らしい!まさに心に響くね」

 

拍手しながら、アル王子がリリィではなくて、こちらに近づいてきた。わたしの横までくる。だから近いって、くっついてこないで。

 

アル王子が、軽く肩をすくめながら皆に聞こえるようにわたしにつぶやく。

 

「彼女は“そういう役割”なんだろう?

世界を綺麗に見せるための」

 

 その言葉に、リリィ様がびくりと反応する。

 

「役割……?」

 

「うん。君の言葉は正しいよ。正しすぎて、現実には馴染まないだけで」

 

 さらっと、ひどいこと言ってるこの人。

 

「でもね。僕は嫌いじゃない」

 

 にこり、と笑う王子。

 

「そういうのが一人くらいいた方が、物語は綺麗になるからね」

 

 うわ、この人やっぱり腹黒い。そして近い。

 

「リリィよ、まったく、無粋で腹の中に何か隠しているもの達ばかりで嫌になるな」

 

そう言って、隠し事が全身に詰まってそうなクエルク様がリリィに声をかける。

 

「クエルク様、わたし……」

「いいのだよ、リリィ。君の思いは、何も間違ってなどはいないのだから」

 

リリィの顔がパッと輝きます。わたしのいない間に攻略進んでる?

 

「だが、リリィ。妹も決して悪気があって、君を追い込んだわけではないんだ。そこは、わかって欲しい。理想と現実はいつも相反するものだからね」

 

さりげなく、セシリア様もフォロー細やかですね。

 

「はい。クエルク様、わたしもセシリア様のお言葉には刺さるものはありました。わたしの覚悟が足りないこと気づかせていただきました」

 

ふたりとも、いい雰囲気です。

 

「やれやれ、一歩リードされちゃったかな。でも僕は、透香も南の聖女も諦めるつもりはないんだけどな」

 

アル王子が、顔を手で隠しながら小声でぼそりとつぶやく。多分、わたしとお嬢さまぐらいにしか聞こえてないよね。

 

お嬢さまが、王子の底知れなさを感じて不安気に見つめてる。多分、わたしも同じ顔してる。

 

クスッと笑い。隠してた顔を見せる。もうただの陽気な顔

 

「ても、あの聖女は好みじゃないな、ここは、我が親友殿の出番だね。真実の心は、紛い物に勝るかもだよ。ねえ、透香」

 

「スリフト、いつまでそこで呆けてる。聖女様が悪の手に落ちちゃうぞ!」

 

スリフトワンコがハッと我に返って、あたりを見回す。リリィが視界に入った途端、走り出す。

 

「リリィ レイン、先程は汚い口をきき、すまなかった。このとおりだ許してくれ!」

 

全力の前屈みで謝ってます。

 

「あっ、いえ、その……大丈夫です。全然、気にしてませんから」

「本当か、そなたは本当に優しいのだな。先程の話は、本当に心に響いた。人とは互いに愛し合い高め合うものなのだと本当に感動した」

 

本当の連続攻撃に、リリィは、タジタジだ。

 

「そなたが気に入った。いや、愛してる! リリィ レイン、俺の理想の人だ。女神さまだ。俺と結婚を前提に付き合ってくれ!」

 

……?

リリィー 大丈夫?

 

「あっあの…… いやです。ごめんなさい! 無理です!」

 

「そう焦らずともいいぞ、聖女リリィ・レイン殿。今すぐには返事せずとも良い。ゆっくりこれから育んでいけばいいのだから」

 

 話が通じてませんよ。大丈夫あの、ワンコ?

 

「話にならんな、行くぞ、リリィ」

 

クエルク様がスリフトワンコから隠すようにマントを広げてリリィの肩を抱く。

 

「はい、クエルク様。ありがとうございます」

 

「興も冷めたし日も暮れた、これ以上茶番に付き合っていられんな。失礼する、王子殿下」

「続きは、まただね。クエルク・フォン・アーネスト」

 

アル王子が軽く手を挙げ応える。束の間、王子を見つめて、礼を残しクエルクが踵を返した。当然のようにリリィが着いていく。

 

ポツリと取り残され固まってるワンコ。

 

「ねえ、アル王子。スリフト様大丈夫?」

「透香は優しいな。でもスリフトは最後の最後まで諦めない面倒なタイプだから大丈夫だよ」

「何それ、褒めてるの貶してるの?」

「もちろん、貶してるんだよ」

「ぶっ! 逆。逆」

 

「仲良すぎない、あんた達」

 

お嬢さまが、ジト目でみてらっしゃる。

 

「いえ、お嬢さまそんなんじゃなくてですね、コレは……」

「気が、合うんだよ僕ら」

 

ニヤリとお嬢さまに、笑い返す。さっきの仕返しですね。大人げないですよ、王子さま

 

「まあ、いいわ。あげれはしないけど、アーネストは寛容ですわ、王子さま」

「それは助かるよ。保護者公認だ」

 

「さっ!わたし達もお暇いたしますわ、ごきげんよう。王子殿下」

 

深く優雅にカーテシーを決めて、お嬢さまが踵を返す。わたしも当然着いていく。

 

もう日も暮れて薄闇の中、アルスト殿下がつぶやく。

 

「役者は揃ったのかな……なら舞台の幕を開けよう」

 

星もまばらな空を見上げる

 

「透香、君はどんなふうに踊ってくれるのかな」

 

宵闇の天に唾を吐く。落ちるより早く体を躱して歩き出す。

 

「スリフト、そろそろ帰るよ」

 

固まったままのスリフトを片手で持ち上げて、アルストもその場を後にした。

 

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