「……学舎に集う新しき若人たちに幸あれと思うところでありまして、また」
「学園長の新入生に向けての挨拶を、終わります」
何か、途中で切られたみたいですが、話が長かったから致し方ありません。
さあ、いよいよお嬢さまとリリィさまの新入生代表挨拶です。
晴れ舞台ですおふたりともがんばれ!
特級メイドルナリアが、朝から気合い入れておふたりを仕上げましたからね。めっちゃ可愛いんですよ。
ただひとつ不安なのは……
お嬢さまとリリィさまが並んだ際……
どうしてもですね。お嬢さまが幼すぎるのですよ。
頭ひとつ分は違う身長差。
リリィさまはピンクのミディアムで片方に一房編み込みのワンポイントなナチュラルなストレートヘア
お姉さん、どこ行くの? って声をかけられそうなリリィさま。
お嬢さまは、言わずもがなのツインにまとめたボリューミーな黒髪縦ロール。
お嬢ちゃん迷子かなって? 声かけらそうなお嬢さま。
並ぶと、同じ歳には絶対見えません。
「新入生、代表挨拶。セシリア・フォン・アーネスト、リリィ・レイン」
司会の声で、おふたりが壇上に上がってくる。
わたしは、会場の後ろにいるので、前には3年の生徒が並んでます。
ヒソヒソとささやく声が、聞こえます。
「南の聖女と北の狂姫」
「どっちも、綺麗ね」
「同学年には見えないわね、クスッ」
概ね、予想通りの反応でございます。
まあ、それでもおふたりともつまったりもせず、練習どおりに挨拶を終えました。
ても、お嬢さまは、続けて話始める。
「最後に、ひとついいかしら?」
お嬢さま、なにをなさるつもりです?
「わたくし、この学園でお友達をたくさんつくりたいと思ってますの、たがらどなたでも気軽に声かけてくださいな。お待ちしてます」
屈託のない笑みを浮かべて軽く腰を落としてカーテシーを決めて壇上から降りて行きました。
会場がざわめいていますね。
普通公爵家令嬢に声を掛けること自体が、同格以上の身分でなければタブーですからね。
言われた通り声を掛けるのが正解なのか否か、判断にみなさま困ってますね。
お嬢さまって、上から目線で人を試すの大好きですよね。
「続きましては生徒として学園に通われてはおりますが、本日は来賓として国王陛下代行アルスト・オライオン・ド・ロメリア第一王子より祝辞をいただきます」
金髪碧眼の王子様の登場に女子生徒の羨望の黄色い声があがる。
壇上でにこやかに軽く手を振って、皆の視線を集めるように会場を見渡す。
人心掌握術とかも、王族教育で習ってるんでしょうね。
「新入生のみなさん、学園にようこそ! ともに学べること嬉しく思うよ。まずは、国王陛下よりの祝辞を……」
国王陛下の書状を広げ読み上げてる。
前の女子生徒からは、アル王子かクエルク様のどちらがいいかなんてトークが囁かれてます。
「ひゃっ!」
お尻を触られた? 痴漢?
後ろ向いて確認したら、小さな次元ゲートからマニピュレーターの指がツンツンしてる。
スレイプニル?
次元ゲートからもう一本手が出てきた。小箱と手紙が握られていた。
まあ、受け取れってことでしょうね。
手を差し出して受け取る。
マニピュレーターの指がちょいちょいと曲げらてる。
なんでしょう?
しゃがんで次元ゲートを覗きこむ。
ニュッと馬の顔が出てきた。
「――!」
びっくりした! さすがに周りの人もざわついて引いてますよ。
「マスターからの伝言なのだー」
ロボ馬に似合わない可愛い声で喋り出した。
「さっきの小箱をリリィちゃんに渡して欲しいのだ。用心のためって言ってたのだー。頼んだのだー」
「承りなのだー!」
「マネしてもカワイくないのだー」
「だまらっしゃい!」
ニヒヒって笑いながら馬面が引っ込んで次元ゲートも閉じた。
お嬢さまとリリィさまはステージ横で職員達と一緒にいました。
リリィさまがお嬢さまを持ち上げて壇上を見せてます。お子様か!
「リリィさま、リリィさま。」
「あっ、ルナリアさん。どうでした? わたし達うまくできてました?」
「バッチリでしたよ。リリィさまは」
お嬢さまは、蹴ろうとしないの。駄々っ子感がマシマシですよ。
「お嬢さまは、余計なこと言ったから減点です」
「ムキー!」
ドタン!!
「グエッ」
ほら、足バタバタするから、リリィさん耐えられず落としちゃったじゃないですか。
「リリィさま、クエルク様よりこちらを預かって参りました」
お嬢さまを助け起そうとするのを邪魔してお渡しします。
「クエルク様からですか? なんでしょう?」
リリィが小箱をカパッと開けてすぐ閉じた。
「ルナリアさん! ゆ、指輪です!」
「気が早すぎますわね、兄さま」
お嬢さまが復活しました。
「あと、こちらが手紙です」
まあ、箱の作りがどう見ても装飾品用の作りでしたから指輪でも驚きもしませんけどね。
リリィが手紙を開けて読んでいる。
「必要になるかもしれないから持っておけですか? 使うかは、そなたに任せる? でも、指輪なんてどうしましょう?」
「このタイミングで兄さまが送ってよこすということは……」
お嬢さまが、何か察した表情です。
「以上。国王陛下よりの祝辞とする」
壇上では、アル王子が国王の書状を、読み上げ終わったみたいですね。
「今年の新入生は、実に面白い子達が集まっているからね。楽しい一年になりそうだよ」
アル王子が言葉を崩されて喋り出した。
「南に現れた奇跡の聖女に、北では最上位AAA+++のギフトの出現」
こちらに視線を移す、つられて聴衆の視線もこちらに向く。
「リリィ、手を隠して!」
お嬢さまの声に、訳もわからずリリィが後ろに手に回して隠す。
「南の聖女に北の公爵令嬢。おふたりを次の僕主催の舞踏会に、招待するよ」
会場から、驚嘆と黄色い声が上がる。
王子主催の舞踏会、要は婚約者の選定会です。
お嬢さまは、かろうじて拒否しようとすれば、それなりの理由をつければできるでしょうけども……
平民出身のリリィさまには、いかに聖女ともてはやされいても、拒否権なんて存在しません。問答無用です。
衆人の視線が集まる中、お嬢さまは腕を組んで、真っ直ぐに王子を睨みつけてる。
リリィさまは、メッチャ動揺してます。
あ、けどすごくイヤそうな顔してますね。
アル王子、昨日ので性格の悪さ露見してますからね。ざぁまあです。
リリィさまが、目を、閉じて大きく息を吸って静かに吐いた。
再び開いた目には、決意の色が宿ってます。
ゆっくりと背中から手を出して、左手を胸に掲げる。
会場を照らす魔法光にキラリと反射するものに、衆人の視線が集まる。
リリィさまの左手の人差し指に光る指輪がはめられていた。
左手の人差し指といえば、言わずもなく婚約指輪ですね。
クエルク様予見してたのですね。侮れない方です。
輝く金の指輪は、内にダイヤが並び真ん中に大きなブルーダイヤが輝いていた。
ダイヤの白に青そして黄金の黄色。
間近にいる生徒達がそのカラーを見て口々に囁く。
「あの、色ってアーネスト?」
そうです。白と青そして黄色。我がアーネスト家の象徴。ガン◯ムカラーの公爵紋章の色です。
例え王国といえども、アーネスト家の婚約者に横槍を入れるなんて、できませんものね。
早いもの勝ちです。さすがクエルク様。
「おや、聖女様は予約されてたか残念。では、舞踏会には、婚約者同伴で招待するよ」
朗らかに、王子が壇上から答えてますけども、少し離れたところから犬歯剥いて威嚇してるスイフト様の殺気がバンバンきてますよ。嫉妬に狂った負け犬ワンコです。
「さて、レディセシリアは、どうかな?」
アル王子が今度は、お嬢さまに声をかける。
お嬢さまにしても、王家のお誘いを断るには、それ相応の理由は要りますよね。どうお答えなさるのですか?
心配するわたしの横で、お嬢さまがパーッと花咲くような幼い笑顔を作る。
「セシリア、王子様にお誘い受けちゃいましたわ。ねえ、ルナリア舞踏会って美味しいものがいっぱいあってすご〜く楽しいって本当?」
「お嬢さま、舞踏会は立派な
「うーんとね。セシリアがんばる! 立派な『れでぃ』になれるもん!」
完璧です! お嬢さま、見事な幼女です。
ほら、皆々様から
「ねえ、あんな幼気な少女を……」「なんにも知らないのにお可哀想」
「王子そんな趣味あったのか……」
「ロ◯コンじゃね」「ロリ◯ン王子だ」「ええ〜、ショック!」
みなさま.歳がほぼ一緒なのも忘れて王子を非難する声を上げてます。
プッ! アル王子さま、大丈夫ですか? 変な汗出てますよ。
「えーと、レディセシリアは、美味しいものいっぱい用意するから、保護者同伴で来てね」
「わーい! アルストお兄ちゃん、ありがとう♡ いっぱいおめかしして、立派な『れでぃ』になっていくね!」
「うん、そうだね。楽しみにしてるね」
アル王子が、なんとも言えない顔で壇上から去っていくのを見て、お嬢さまがコッソリ舌を出す。
「つ、続きまして、生徒会長挨拶。クエルク・フォン・アーネスト」
「相変わらず心配をかける、妹だ!」
「マスター! 頭痛薬と胃薬どっちかがイイ?」
「両方もらおう。スレイプニル」
薬を一気に飲み込んで、クエルクが胃に手を当てながらステージに向かった。