さあ、ウィンターバケーションです。
休み自体は年末一週間の年が明けて一週間の合わせて二週間ですが、なんせ交通事情がよくないので、その前後の一週間は自由登校なんですって。
二週間じゃアーネスト領に帰った途端に戻らなきゃならないものね。
お嬢さまは、休み前に宣言したとおり、お嬢さまのお母様に会いに行って、その後に魔族帝国に乗り込むとのことです。
お嬢さまの、お母様は「北の聖女」と呼ばれた治癒魔法使い。
でも、七年前の魔族との戦争の際に、聖女に禁止されている『過剰治療』という治癒魔法の悪用をした罪で教会に幽閉されて反省中とのことです。
いま、目指してるのは、アーネスト領の東の外れ、東の公爵領や王国領と接する地点にある幽閉先の聖教会。
「急ぐなら、俺に乗ってけば早いぞ」
「まあ、それは素敵ね。丁度頼んでいた物もできたから完璧ね。ルナリア、あれをコチラに」
「はい、お嬢さま。こちらが『ゴートマン騎乗セット』です」
お嬢さまが、ゴートマンの背中が乗りやすそうと前々から準備していた、鞍と手綱、それと背中のツノにつける背もたれです。
お嬢さまが、百枚近くもデザイン画を起こした、クローバーと山羊のツノをモチーフにしたアラベスクを職人が丹念に革に彫り込んだ至高の一品です。
「心を込めて貴方の為に作りましたのよ。気に入っていただけるかしら?」
「スゲー! めっちゃいいなコレ! テンション上がるわ!」
いや、お前皇子だろ。鞍掛られてなに喜んでるんだよって、非常にツッコミ入れたいんですが……
「おっしゃ! 二日で着いてみせるぜ!」
列車で四日かかるところを二日とかね。イヤな予感がします。
案の定でした。
山羊だから、崖とかヒョイヒョイと登って地形無視の最短コースです。せめて道を通って……
お嬢さまは大喜びですけどね。
「すごいわ! ゴートマン! 崖ジャンプ!」
「メェェ!」
「タスケテ……」
そうです!
ゴートマンにお嬢さまが騎乗して、帰省の荷物や帝国でのドレスとかなんやらと荷物も多い。
荷物は全部、ゴートマンの後ろのツノ縛り付けての旅です。もちろん
荷物の間に雑に挟み込まれて括り付けられてます。
多分これ、グリモワールの時にスマキにした、意趣返しですね。根に持つお嬢さまの倍返しです。
さすがは、悪役令嬢です。
「タスケテ……」
一日目は、誰も来たことないような山の上での野宿となりました。
シャムロックが、薪を集めてきてすぐに火を起こしてくれました。
わたしは、荷物の間から這い出してお料理です。
夕食を済ませて、横になってるゴートマンにお嬢さまと二人で毛布を被ってもたれかかって焚き火を囲んでます。
「ねえ、お嬢さま。お母様の公爵婦人ってどんな方なのですか? 攻めてきた魔族の皇帝を禁呪で撃退したりとか豪快なイメージなんですよね」
「おう、俺も知りたいな。親父様の話じゃスゲー綺麗だったけど、とんでもなく偉そうでおまけに強かったって言ってたな」
シャムロックが喋ってるってことは、人面山羊状態よね。ホラーです。寝れなくなるから絶対見ない!
「そうですわね。『北の聖女』とか呼ばれてますけども、お母様の本来のクラスは
あー、またとんでもないのが出てきちゃった。秘孔とか突いちゃう人なの? 乙女ゲームの世界に出てきちゃいけない人種じゃないですか。
「わたくしも、基本の型だとかって言って妙な動きの演舞を毎日やらされてますわ」
「あの、毎朝やってる格闘イメトレですか?」
「そう、あれよ。あとは、あまり言いたくないけどわたくし虐待されてましたのよ……」
「なんだと!」
シャムロックが、怒気のこもった声をあげた。
お嬢さまが、辛そうに焚き火の火を見つめる。
「毎日、毎日、嫌がるわたしにヒールを掛けるのよ。その度にわたしは「モキュー!」って叫び転がるの……そしてそれを楽しそうに見てるのよ!」
それって、この間リリィさまも「なんか身体が調子良くなるんですよ、あとモキューって癖になりますね」って言ってヒール連発してましたよね。
あの、優しさの塊、マジ聖女のリリィさまでさえあの調子です。さながら聖女系には、
「「へー」」
「な、なんですのその反応は、わたくしがこんな辛い告白をしたというのに!」
「お嬢さま、お辛いでしょうが、ルナリアがハッキリと言いますね。お嬢さまの魔法抗体反応は癖になります! ゾクゾクします。愉快なんです!」
「何ですって?」
お嬢さまが、なんですとって顔してる。
「やめられない、止まらないです」
「ゴクリ……やめられない、止まらない……」
「そうです。(キッパリ)」
お嬢さまが事実を知って石になりました。カチンコチン令嬢です。
「さー寝よ寝よ。明日も早いぞ」
人面山羊と石化少女とのホラーな一夜でございます。
* * *
「イヤー! 無理です、死んじゃいますー!」
二日目も断崖絶壁からの大ジャンプで始まった過酷な旅。
なんとか午後には、一つ目の目的地「北の聖女」が幽閉されている教会に到着です。
「おー、デッカい教会だな」
シャムロックが獣化を解いて、教会を見上げてます。教会は、自治領なので魔族でもウェルカムです。
シャムロックも学園以外じゃ隠す気もないのね。
「王国にある三大教会のひとつですからね。見上げてないで行きますわよ。あとルナリア、いつまでも荷物といっしょに休んでない!」
「休んでるんじゃなくて、荷物にくくりつけられてるんです。解いてくださーい!」
ようやく荷解きされました。
ルナリアさんはAI搭載の精密機器なんですから、もう少し丁寧に扱ってください。
「お嬢さま、教会の入り口に人がすごい並んでますよ。何かやっているんでしょうかね?」
「さあ、なんでしょう? ルナリアちょっと聞いてきてちょうだい」
人の列に近づくと
「最後尾は、こちらです! 並んでください!」
「あのー。ちょっといいですか?」
「はい、どうなされました?」
優しそうな、シスターです。
「これは……」
「ちょっと、待ってくださいね」
微笑みながらそう言ったシスターが、列の人に近づいた。
なんかガラの悪い男の前に立ち、人差し指を立てる。
へ、シスターが、ファッ◯ュー?
「ホアタッ!!」
変な掛け声と共に人差し指をドスっと男のミゾ落ち突き立てた。
みぞおちに、めり込んでますよ!
「なべばあ!!」
突かれた男が変な叫び声を上げてその場で固まった。口をパクパクさせてるけども息も出来ず動けないみたいです。
「横入り厳禁です。トットと最後尾に並び直しなさい」
そう言って、襟首を掴むとそのまま引きずって戻って来ました。男は身体が棒のように固まったままです。
シスターが首の後ろに指を突き立てると、男の身体が弛緩して、ゼーハーと空気を求めて呼吸を再開した。
「次やったら、頭飛ばしますよ!」
「ひぎゃあ! ご勘弁をー!」
なんか昔見た世紀末アニメを思い出すわ。
「で、なんの御用でしたでしょうか?」
再び、シスターに優しく問いかけらました。
「ひぃ! ビシッ(直立不動)」
ビビってます! ガクブルルナリアちゃんです。
「あ、あの、これはなんの行列なのでしょうか?」
「あら、治療にいらしたのではないのですか?」
「治療ですか?」
「そうです! 全てを癒し全てを破壊する、『北の聖女」マリー殿下の治療と救いを待つ人々の列です!」
シスターが、ドンと自分の胸を叩き誇らし気に声を上げた。その声に呼応するかのように行列の人々からも野太い声が上がる。
「「「我らが聖女殿下に栄光あれ!」」」
うーん、なんか怪し暗黒教団みたいだけど、お嬢さまのお母様発見でいいのかな?
「すいません、北の聖女様にお会いしたく我が主人セシリア・フォン・アーネストが参ったのですがお取次をお願いいたします」
シスターの、目がキラリンと光った。
キョロキョロっとあたりを見まわして、お嬢さまを見つけた途端、ヒュンっと消えたかと思ったらもうお嬢さまの横に立ってた。
片膝を折ってお嬢様に跪く。
「どうぞ、シスター。顔をお上げになってください。マリー・フォン・アーネストに娘のセシリアが会いに来たと伝えていただけますか」
「合点承知!」
「おっ! はえー!」
となりのシャムロックが、呑気に声を上げる。
シスターが消えたと思ったら、お嬢さまを抱えて、もう教会の入り口の近くを走ってる。
「なんなんですか、あのシスター! シャムロック、追いかけて!」
「了解! メイドさん」
今度はシャムロックが消えたと思ったら、わたしが抱えあげられた。
「きゃっ!」
ビューンって感じた後には、追いついてお嬢さまと目が合った。
お互い小脇に抱えられてる状態ですけども……
教会の入口に着いてシスターがお嬢さまを解放してわたしもシャムロックに降ろしてもらう。
「聖女殿下に進言つかまつる!!」
門の前でシスターが、どっからってくらいデカい声を張り上げた。
「次代セシリア公女殿下が、お越しくださいました!!」
「ウオォォォォオオ!!」
門の内から女性達の声なんだけども妙に迫力のある音が響く。
「お嬢さま、わたしの後ろに隠れてもダメですよ」
「メイドさん、俺の後ろに隠れんなよ」
シャムロックを先頭にして、わたしとお嬢さまが数珠繋ぎで後ろに隠れる。
「開門!!」
教会の重厚なドアが、勢いよく開かれた。
シャムロックよりもデカい筋骨隆々の
阿とか吽とか系です。
……もう逃げていいですか?