お嬢さまが、ちびっ子可愛い悪役令嬢   作:デチャウ

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第六話 その三 お母さまの目の前ですわよ

「「よくぞおいでくださった、次代様。マリー殿下もお待ちです。さあ中へどうぞ」」

 

 入口の扉を開けてくれた阿吽仁王像みたいな二人のシスターに息ぴったりに歓迎されて中に通される。

 

 外から見たとおりに中は天井がむっちゃ高い石造りの大聖堂です。

 

 左右には重厚な石柱がそびえ立ち、見通すのが困難なほど奥まで続いてます。

 

 机も椅子もない御影石のフロアには、奥までびっしりと人々が(ひざまず)きこうべを垂れてお祈りしています。

 

 左右の壁際には修道女(シスター)がこちらも奥までびっしりと並んで立っています。

 

「お嬢さま、並んでるシスターのみなさん。何か個性的な方が多いですね」

「魔族も多いし、でかいのに小さいの傷に眼帯、刺青に鉄仮面に鉤爪……シスターじゃなくて、ついてそうなのもいるな」

「神のもとに平等なのですわ。多分……お母様らしいわね」

 

 救いを求める人々、個性的なシスター達、装飾はされているものの石肌剥き出しの大聖堂はどこか世紀末感が漂ってます。

 

「次代セシリア公女殿下帰参!!」

 

 案内してくれてる「最後尾」のプラカード持ったシスターが、再び大音声でそう告げる。

 

「「「「ウォォォォォー!!」」」

 

 シスター達の野太い歓声が聖堂に響く。

 

 祈りを捧げていた人たちがゴゴゴゴ!と海が割れるように左右に分かれていき、聖堂の奥へと道を作る。

 

「最後尾」シスターの先導で後ろに着いて聖堂の奥へと歩みを進める。

 

「次代様!!」 ダン!! 「セシリア様!!」 ダン!! 「次代様!!」

 

 そう繰り返し叫びながら床を踏み鳴らす、シスター達。

 

「お嬢さま、お母様は幽閉されているんじゃないんですか? どう見ても君臨されてません?」

「わたくしに聞いてもわかるわけないでしょ! 落ち着くのよ、ルナリア」

 

 涼しげに歩くシャムロックの背中に隠れるようにオロオロとお嬢さまと二人で着いていく。

 

 聖堂の奥は教会ですから、当然祭壇がありました。

 

 でも奥の祭壇、えらく高い場所にありますね。

 

 階段上のスロープには、金で縁取りされた赤い絨毯が敷かれ壇上の祭壇へと続いてる。

 

 で、両脇には一際アクの強そうなシスター達が並んでる。

 

 四天王とか七大聖とか十二神将とか絶対呼ばれてますよね。

 

 その祭壇の階段前まで来て「最後尾」シスターが横のシスター達の間に退きました。

 

 お嬢さまを真ん中にして三人並んで祭壇を見上げる。

 

 月と日と地球?を串刺しにした十字架。この世界の聖教会シンボル。

 

 その大きな金色のシンボルの下、祭壇の最上段。

 

 権威と威圧を示す為だけにデザインされた不必要なほど豪華な黄金の玉座。

 

 その玉座には白銀の修道服を纏った女性が鎮座してます。

 

 足を組み、肘掛けに片肘を突き頬を乗せ不遜に構える黒目黒髪の美しい女性。

 

 その醸し出す雰囲気は、祭壇の頂、威圧の玉座、そんな権威が霞むほどに、ただ、ただ、偉そうです。

 

 その一言、圧倒的に偉そう、誰が見ても偉そう、偉そうの塊。偉そうが服を着て座ってる。

 

「デッカい、お嬢さまだー!」

 

 思わず溢れた感想に、お嬢さまがお尻つねってきた。痛いです。

 

「よくきたわね。セシリア。大きくは……なってないわね」

「お母様も、相変わらず偉そうでセシリア安心いたしましたわ」

 

 なんか、にこやかにデスり合ってますね。仲良し親子です。

 

「さあ、そばに来て顔を見せてちょうだい。そこだと小さすぎて見えないわよ」

「お母様は本当に、変わらないですわね」

 

 忌々し気にお嬢さまが祭壇に登っていく。

 

 あと、数段というところで、お母様こと聖女マリー殿下が指差すようにお嬢さまに手を向けました。

 

「ヒール!!」

 

「モキュー!!」

 

 お嬢さまが魔法抗体反応で愉快な声をあげる。

 

 マリー殿下が立ち上がり、腕を天に突きあげた!

 

「ほっーほほほ!! 『モキュー』いただきました!」

 

 マリー殿下が声高らかに宣言。居並ぶシスター達がそれを反復する。

 

「「「「「モキュー!いただきました!」」」」」

 

 何、コレ??

 

「ああ、力が満たされる……!!」

 

 マリー殿下が恍惚の表情を浮かべる。見るもの全てを惹きつける神々しいまでの妖艶さです。

 

「祈りに訪れた信者の皆々様、次代を担う我が娘の帰参につき本日の治癒の儀式は取りやめる」

 

 祈りを捧げている人々に落胆の色が広がる。

 

「安心おし! 儀式はやめても治療せぬとは言っておらぬぞよ。我は今絶好調である!!」

 

 マリー殿下の後ろから眩いばかりの聖光が溢れ出す。

 

「ゴージャスグランドエリアヒール!」

 

 聖光が聖堂いっぱいどころか、多分溢れ出して聖堂の外まで照らしてますよねこれ。

 

「おお! 動くぞ治った!」「ああー体が満たされる」「目が、目が見える!」

 

 信者達から歓喜の声が上がり、聖女に感謝を捧げ平伏していく。

 

 聖堂中の溢れんばかりの信者が全て平伏し、シスター達も聖女の奇跡に膝を折りこうべをたれる。

 

「ヨシ、お終い。さあ、奥にいらっしゃい」

 

 マリー殿下に促されてわたし達は祭壇を後にする。

 

 後ろの扉が閉じた途端、聖堂で溢れんばかりの大歓声が上がってます。声が野太く凶暴なのがちょっと怖いんですけど。

 

 

 聖堂の奥はシスター達の居住棟になってるみたいでそこかしこで若いシスターが筋トレしてます。

 

 なぜ筋トレとか、もうツッコミません。むしろ祈りとか捧げてたらおかしいレベルの筋肉シスターだらけです。

 

 階段を何回か登り、たどり着いた先に黄金の扉が出てきました。

 

『聖女マリー殿下幽閉職務室』

 

 わけがわからないプレートが付いてます。

 

「さあ、入って、入って!」

 

 素早くわたし達を、招き入れるとドアの外をキョロキョロっと警戒してドアを締め鍵をガチャリと閉めた。

 

「あー疲れた」

 

 マリー殿下が靴を脱ぎ捨てて奥の薄草色の床に寝転がった。

 

「畳?」

「あら、よく知ってるわね。わたしの先祖の故郷の東の外れの外れの国の床材よ」

 

 わたし達も習って裸足になって畳に上がる。編み上げブーツだったから、臭ってないよね。ちょっと心配です。

 

「なんか、うまそうな匂いの床だな。干し草で編んでるのか? 割と落ち着くな白択」

 

 山羊男はそういう感想なんだ。へー。齧っちゃダメですよ。

 

「お母さん疲れたわ。セシリアヒールしていい?」

「良いわけないでしょ! 何回痛いって言えばわかるのですか、虐待ですわよ!」

 

「だって、身体がスッキリして魔力もモリモリ回復するんだもん。それにキュートなセシリアちゃんも見れるしね」

 

 マリー様が足をバタバタさせて拗ねてる。やっぱり大きいお嬢さまだ。

 

 (でも、プラム、あのモキューに、魔力回復なんて効果あるの?)

 

 マリーさまだけじゃなくてリリィさまも同じようなこと言ってたので、少し気になるよね。

 

《ナノマシンリサイクルシステムにおける分解工程の省略化が可能です》

(また、難しいこと言い出す!)

《面倒なので、ダイレクトリンクで知識をインストールします》

(今、面倒って言った? プラム、最近わたしの扱い雑すぎない?)

 

 ピコーン、と脳内にデータが流れ込んできました。

なるほど、要するにこういうことです。

この世界における『魔力切れ』とは、魔力が減ったのではなく、使用済みのナノマシンが分解されずに体内に残留し、目詰まりを起こしている過剰状態。

そこをお嬢様が「対ナノマシン抗体」で『モキュー!』と一瞬で強制消去(初期化)するため、一瞬で魔力が全回復するのです。

 

お嬢様はただの愉快なモキュー玩具じゃなくて、超レアな『魔力リセッター(ヒーラー)』じゃないですか!

 

《この世界の戦争の常識を覆す『ゲームチェンジャー』です》

 

(絶対に調子に乗るから、お嬢様には黙っておこうっと……)

 

 

 わたしが、考察してる間に結局ヒール打たれてお嬢さまが、モキューと転がってました。

 

 

「で、今日はお母さんに転がされたくてきた訳ではないわよね。目的はなに?」

 

 お嬢さまが起き上がってマリー様に向き直る。

 

「そうですわ。七年前の帝国との戦争でノクスリア魔族帝国皇帝にかけた『過剰治療』について知りたいのよ」

「なるほどね。それで魔族帝国の皇子まで連れてきてるのね」

 

 シャムロックがちょっと動揺したそぶりをみせながらもお嬢さまの隣に腰を下ろした。

 

「なんだよ。バレてたのかよ。初めましてアーネストの魔女殿。シャムロック・グラリスだ」

「初めまして、マリー・フォン・アーネストよ。お母さんって呼んでも良いのよ」

 

「何言ってるのよ、お母さま!」

「あら、違うの?」

「えっ違うのか?」

 

「ゴートマン! この間違うって言いましたわよ」

「じゃあ、あらためてで良いんじゃね。俺は好きでもない女を背中に乗せないし、お嬢さまも好きでもない男の背中には絶対乗らないだろ」

 

 お嬢さま、ぐうの音も出ないで言い負かされて顔真っ赤ですよ。メッチャかわいいですね。プラム、スクショ撮っておいてよ!

 

 《当躯体の記録はアカシックにリンクしてるので消失することはありません》

 

「なっ、何をおっしゃってるの。わ、わたくし伴侶になる殿方は世界の……少なくともこの大陸の王になるくらいの器がなければいけませんのよ。オホホホ……」

 

 顔が真っ赤通り越して沸騰状態です。テンパっちゃって何言ってるかご自分でもわかってませんよね。

 

「なんだ、そんなことか。わかったぜ、約束だ。俺がお前にこの大陸を献上しよう。だからおまえを俺にくれ」

 

「それは、み、魅力的な、お、お、お話しで、ですわね。わ、わたくし……プシュー!!」

 

 あーあ、オーバーヒートしてお嬢さまがヘニョちゃいましたね。まずいですわね。

 

「はい、お嬢さま。冷たいお水ですよー。ごっくんしましょうね」

 

 ヘニョってるお嬢さまを抱き起こして冷却水注入と、おっ、戻ってきましたね。ハローワールドです。

 

「お嬢さま、殿方にここまで言わせてヘニョっている場合ではありません。公爵令嬢として、いえ、悪役令嬢としてビシッと決める場面ですよ」

 

「そうですわね、ありがとうルナリア。で、誰が悪役令嬢ですってー!」

 

 ほっぺつねらないで、お嬢さま!

 

 お嬢さまが、姿勢を正して正座して、シャムロックの方を向き直る。

 

「コホン。シャムロック・グラリス皇子殿下、わたくしへの過分なお気持ち大変に嬉しく思います」

「お、おう……」

 

 シャムロックも見よう見まねで正座してお嬢さまの前に座り直しました。でも初めての正座でグラグラしてますよ。

 

「そのお気持ちに応えるために、このセシリア・フォン・アーネストが、まずは貴方を『次期皇帝シャムロック・ノクスリア・グラリス』にしてみせましょう」

 

 そう言って、お嬢さまが手をついて深々と礼をした。

 

 慌ててシャムロックも礼をしようと前屈みになるが慣れない正座ですからバランスを崩す。

 

「危ない!!」

 

 わたしの叫びに呼応してお嬢さまが頭を上げた瞬間。

 

「きゃっ!」

 

 バランスを崩したシャムロックがゴロンと転がって見事にお嬢さまの膝に頭をのせて仰向けになった。

 

 お嬢さまに膝枕ですと、ラブコメですかラッキー主人公ですか! シャムロック許すまじ。

 

 お嬢さまが膝の上のシャムロックを覗き込む。

 

 シャムロックが見つめ返してる。見惚れてる。ついっと手を伸ばしてお嬢さまの頬に触れて少しだけ引き寄せる。

 

「素敵な提案だ。一緒に天下取ろうぜ!」

「よろしくてよ。覚悟はいい?」

「ああ、最高だ!」

 

 お嬢さまもシャムロックの頬に手を当てて二人とも見つめあって笑い出す……

 

 お嬢さま、よかったですー!

 

 なんか嬉しくて涙出そうです。でも嫉妬の炎もメラメラです。

 

「なんだ、チューはしないのかお子ちゃまどもめ!」

 

 マリー様に突っ込まれて、お嬢さまが慌ててシャムロックをつき飛ばす。

 

「お母さま!」

「なんだよ、これからだったのに」

「しません!」

 

 顔を赤らめてる娘を嬉しそうにマリー様が眺めてる。ひとしきり眺め終えるとお嬢さまの前に座った。

 

「おめでとう、お披露目は正式な場で改めるとして、聞きたいのは皇帝にかけた『過剰治療』のことだったね。良いわよ、話しましょう」

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