「では皆々様、ごきげんよう。これにて失礼いたしますわ♡」
オッホホホ、と高笑いが続きそうなほど満足げですね。
セシリアお嬢さまが、神殿を後にする。
その背中を、そそくさと追いかけるわたし――ルナリア。
とりあえず、落ち着いてわたしの今の状況を整理してみる。
転生した『AI搭載メイド・ルナリア』の中はというとーー
脳内なのかプロセッサ内かは不明だけど、VR空間にアバターとして存在してます。
わたしの他にあとふたりの三人が、このVR空間にいます。
三人とはまずはルナリア(外)を動かしてるAI人格のルナリア。
ニ頭身でデフォルメされたルナリア(ネコ耳付き)。カワイイ。
そして制御役のAIのプラム・プロセス。
四角い頭に四角い胴体、アナログメーターでできた目。
ブリキのロボットのオモチャというか、キーボードに「ロボット」って打って変換されるあの絵文字
ウンウン。ビジュアル誘導はゲームには大事だよね
で、最後が、このルナリアの中に囚われた薄幸の美少女(前世享年23)であるわたし――透香
ウサ耳ニ頭身ルナリア
ウンウン。ここまではイイね。
襟首紺の白Tシャツ。ピンクジャージの7分丈パンツ。お約束のスリーストライプ入り。
これって高校の時の体操服じゃない!
(プラム! ビジュアルは大事ってさっき言ったよね)
《前世の最後のビジュアルから、忠実に生成しております》
ううー最後まで身なり気にしてた乙女の純情を少しは汲み取ってよ。
《23歳が乙女の定義に入るか分析いたしますか》
年の話はするなー!!
プラムの説明だと、
《本来の人格はひとつです。「透香」の意識がAIに馴染めてないので、一時処置として人格を分離してます》
だそうです。
……??
なるほど、わからん!
そんな状態。
なんてほのぼのと説明してる場合じゃなかった。
今現在、そのVR空間は――絶賛パニック中です。
そう、それはほんのちょっと前に起こった。
セシリア様の後ろについて、もうすぐ神殿の出口ーーそこで、事件勃発です。
何者かに指でツーッと背骨をなぞられたような、感覚。
「ひっ」
外ではルナリアが小さく声を上げ。
(ひゃああああっ!?)
って、VR空間で、わたしが大声で悲鳴を上げた。
赤色ランプが点滅、ビービーと非常ブザー。完全な臨戦態勢。
《量子干渉感知》
《他者のギフトによるスキル干渉と認定》
《透香意識体上に抗性防壁展開申請……認証》
わたしを前に突き出して、ルナリアとプラムが後ろに隠れる。というか背中から押さえつけてくる。
ちょっと!?
なんでわたしが前でタンク役なのよ!?
(プギャッ!?)
きた!
弾いてはいるけど――チクチクする!地味に痛い!
(いたっ、いたたた!)
小さな「*」記号が無数に飛んでくる。
防いではいるけど地味にチクチク痛い
(なによこれ?!)
『解析開始するね、カタカタカタ……ピーン』
《敵性ギフトによる analyze 行為を確認》
《analyze の略を視覚化したシンボルと推定》
説明ありがとう。"analyze"の略?
………………!!
って、それ「*」そういう意味なの!?
アスタリスクじゃなくて、ア◯ルなリスクなの! 危な汚い……
(イヤーーッ!!)
その瞬間。よりにもよって、お下劣な「*」が、オデコに直撃した。
『……トウカ?』
一瞬だけ、そう呼ぶ見知らぬ男の声が聞こえた。
(黄門様が……オ、オデコに……!?)
(キャーーッ!!)
貼り付いた「*」マークを引き剥がし、全力で放り投げる。
《抗性防御成功》
《ブロック率 99.99999%》
《0.001秒のハッキングを確認》
《データ漏洩:「透香」個体名流出を確認》
《ただし名称のみ。実害ゼロと判定します》
(個人名流出も立派な情報漏洩ですよー)
背中から出てきた二頭身ルナリアが、わたしの顔をじっと見てから、自分のオデコを押さえて一言。
「透香……エンガチョン!」
どこで覚えてきた、この娘!?
* * *
「ルナリア、どうかいたしました?遅れてますわよ」
「あっはい、お嬢さま」
そんな内側の大騒ぎなど微塵も表に出さず。
外では何事もなかったかのように、静々とセシリア様の後に続き神殿を後にした。