お嬢さまが、ちびっ子可愛い悪役令嬢   作:デチャウ

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第二話 そのニ 夜の独白とかもうできない身体です

 夜中に、そっと部屋を抜け出して、父様(とうさま)の書斎に入る。しばらく誰も使っていない部屋。

 

 そして、わたしの落ち着ける場所。

 

 大きな書机の立派な革張りの椅子に座る。

 背もたれをキコキコと鳴らして、肘掛けに手を掛け、上を見上げる。

 

 変わり映えのしない天井。あたりまえだよね。

 

 机に目をやれば一冊の本。

 

 隣接するノクスリア魔族帝国の初代皇帝の伝記――

 兄さまと夢中になって読んで、憧れた本。

 

 初代皇帝といっても、そんなに古い話じゃない。

 まだ、20年もたたない王の話だ。

 

 人族よりももっと小国に分かれて争っていた時代。

 

 最弱の部類の獣人族の若き王が、覇を成し、魔族を統一に導いた英雄譚。

 

 人族からすれば敵対する魔族の英雄譚。でも、兄さまもわたしも心を躍らせた覇王の物語だ。

 

 兄さまは、偉業を成し遂げた強き王の姿に心を躍らせた。

 

 でも、わたしはそれとは違う王に惹かれた。

 

 王は、誰よりも強いわけでもない。

 

 それでも、数々の強敵を知恵や機転を利かせて制してきた。

 

 とりわけ統一が進む後半は、武力での直接衝突はかなり少ない。

 

 物語には直接書かれてはいないけど、智略や謀略なんて絡め手を相当使って敵を下したことが、端々から読み取れる。

 

 人によっては、卑怯で小賢しい王と言う者も多いけど、わたしには違って見えた。

 

 この王様は、戦争や争いが嫌いなんだ。幼いわたしは直感で理解した。

 

 徹底して、戦わず勝つ方法を考え、それを見事なまでにやってのけた英雄。

 

 その姿に憧れ、わたしもそうなりたいと心に決めた。

 

 幼き日の憧れと決意は、今もなおわたくしを突き動かしている。

 

 わたくしは、女だから力では男性には敵わない。ましてや、生まれつき小柄なわたくしは、同性にさえ劣っている。

 

 じゃあ、知の方はといえば、勉強は嫌いじゃないし、悪くはないと思いたいけれど、神童と呼ばれる兄さまには勝てた試しがない。

 

 だから、血の盟約で最上級なんてギフトが当たった時、心の中で、ついに神様がわたしに微笑んだ。そう思った……

 

 魔法完全耐性で、スキルが伝えられない。

 

 すまなさそうに伝えるルナリアの顔が浮かんだ。

 

 手に入ったと思ったものが、するりとこぼれ落ちた。

 

 悔しくて情けない思いでいっぱいになる。

 

 自分の決意が揺らぎかける。

 

 でも、ダメだった。

 

 諦めようとすれば、あの7年前の戦火が――父の姿、母や兄、逃げ惑う領民、そしてアーネストの受けた裏切りと屈辱。

 

 それらが、消えぬ怨嗟の中から、ただ一つ見出した希望を呼び起こす。

 

「わたしが、人族を統一して、この大陸をも統一して戦争をなくす!」

 

 少女の夢物語と笑われようが、これは譲れないのよ。

 

 これは多分、わたしにかかった我が身を滅ぼす呪いなんだろう。でも、止まらないし止めたくない。

 

 いつの間にか椅子から立ち上がり、窓を見ていた。

 

 窓に映る自分の顔に、先ほどのルナリアの情けない表情が重なる。

 

「酷い顔ね」

 

 同時に、ドア越しに聞こえた、部屋から追い出したメイドの声。

 

「何にもできなさそうだけど、絶対守ってみせます」

 

 間抜けな宣言。わたくしの何も知らないくせに……

 

「まったく駄メイドですわね」

 

そう言ったのに、どこか期待してる自分に気づいておかしくなった。

 

「ふふ、おやすみなさい、ルナリア」

 

 * * *

 

 ――ごめんなさい、お嬢さま!

 寝てないです。

 

 何せ頭の中に女の子3人詰まってるからね。

 1人でもキャッキャッと女子会できちゃうんですよ。

 

 まあ相手はロボとAI娘なんだけどね。

 それならお前だって女の子って歳かよってセルフでツッコミ。

 

 まあそんなわけで、今は1人で自室。

 

 ルナリアは、新しいビクトリアンスタイルのメイド服が気に入ったのか、姿見の前で1人ファッションショー中。

 

 くるっと回ってスカートの裾を指でつまんで、にっこり。

 フリルふわふわ太ももばっちりのフレンチメイドとは、安心感が違うよね。

 

 脳内会議の方では、私がおしゃべり担当。

 

 だってお嬢さまの部屋を追い出された後、よく考えたら行くところがなかったんだもの。

 ドアの前で泣きつく覚悟を決めた、その時。

 

「――執事長のセバスだ」

 

 ……どこから出てきた?!

 

 執事長っていうからおじいちゃん想像したのに、セバス様ってばロマンスグレーの短髪に口髭。眼光がどこか鋭くて、執事長っていうより軍人さん。

 

「部屋まで案内する。こっちだ」

 

 口調も軍人さんだ。

 

「先ほど、職務上仕方なく、部屋でのやり取りを聞かせていただいた」

 

 えっ!あれ聞かれたの!? ドキッとする。

 

《センサーに盗聴の形跡なし。A+以上の潜伏スキル保有者と推定》

 

 やっぱりダンボール箱に隠れる系じゃない!

 

「スキルが使えない事情は把握した」

「安心しろ。このことを口外するつもりはない」

 

 ちょっと安堵。

 

「ただ、お前がセシリア様を守ると言ったのを聞いて」

「盗み聞きを隠しておくべきではないと思っただけだ」

 

 えっ!さっきの声に出てたの!?恥ずかしい!

 

「着いたぞ。ここがお前の部屋だ」

 

 セバス様にお礼を言おうと向き合うと――

 

「セシリア様には、お前のような者が必要なのかもしれんな」

 

 そう言って、セバス様が目を細めて少し微笑んだ。

 

 その笑み反則!

 

 あんな執事がいるとか、アーネスト家侮れないわ。

 それにしても渋いおじ様だったな。声もダンディだったし。

 

(ねえ、プラムもそう思うでしょ)

《好感度の高いタイプと統計上分類いたします》

 

(そうよね、あの声で「待たせたな!」とか言ってもらいたい)

 

《ところで透香、一つ質問があります》

(なーに? プラム)

《透香の記憶野には、この世界をゲームとして作ったというログがあります》

(確かにあるわよ。んで?)

《軽いですね。で、今後どう振る舞うつもりですか》

 

 ……少し、考える。

 

(正直ね、最初は転生ものの王道どおりに救おうと思ったのよ)

(破滅エンド回避、チート全開でね)

《ゲーム脳ですね》

(うっさい)

 

(でも今日、セシリアを見て思ったの)

(あっ、この子、ちゃんと生きてるって)

(考えて、選んで、怒って、笑うんだってね)

(それを「知ってる未来」で縛るの、違う気がするんだよね)

 

《では、どうするのです》

(んー、それよね……)

 

(そうよ、ゲームなんて忘れる!)

(セシリアの選択を隣で見て、メイドとしてできることをする)

(決めたわ! セシリアと一緒に、わたしも全力でこの世界を楽しむ)

 

《いい案ですね》

 

 なんかAIって必ず肯定から入って、まずは褒めるよね。

 でも今は感謝!

 

「疲れたー。もう寝るー」

 ルナリアAIが姿見の前から帰ってきた。

 

 うん、私たちも寝ようか。

 

《わたしは睡眠を必要とはしません》

 いいな、それ。

 

(じゃあみんな、おやすみー)

 

 ――おやすみなさい、セシリア

 

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