お嬢さまのお屋敷にやってきてから、ひと月が経ちました。
朝のお屋敷、お嬢さまを起こしにお部屋へと向かいます。
「おっルナリア 今日も元気だね!」
「おはようございます 朝、早くからご苦労様です!」
「あっルナリアちゃん 後で食堂においでクッキーあげるよ」
「わーありがとうございますぅ!」
ヤバい、わたしが爽やか。充実してます。
チートスキルは、ダメダメでしたが、特級メイドとプラムの検索能力は看板に偽りのなしです。
家事前半は言うに及ばず、身の回りのお世話に接客は完璧。
さらにAIプラムによるスケジューリングと財政管理で、お屋敷は超効率化。
もうね、帳簿なんて言ってる場合じゃないです。時代は、ネクストステージです。サステナビリティでエージェンティックでアジリティなレジリエンス
が必要な世界とハルシネーションです。もちろん意味は知りません!
結果、お屋敷内でのわたしの評価は爆上がりです。
なんでも知ってる万能メイドさんです。
なんでもは知らないわ、知らないことがないだけよ。
言って見たかっただけです。
そういうわけで、舞い上がってます。
だって前世では、引きこもり同然でゲーム作ってただけだし。お外、怖い怖いな人だったのに、今はみんなに笑顔で挨拶されてるのよ。
こんな奇跡、まさにこれ転生物のカタルシスよね。
生きててよかった
イヤ死んでよかった?
イヤ死ぬのダメ、絶対!
『 透香、朝からテンション高すぎ。うるさい!』
《精神抑制プログラムで駆除しますか》
『プシューってやっちゃって』
やめて害虫扱いは
さあ仕事 仕事っと
「お嬢さま。朝ですよ。起きてください」
カーテンを開けてっと
「うん おはようルナリア」
セシリア様 意外と寝起きがいいのよね。
寝る時もベッドに入ったら5分かからないで寝ちゃうし、朝もスッキリ。
ガウンをかけてあげて水差しから洗面器に水を注ぎながら
「今日は庭師さんからバラのお花をいただきましたので」
注いだ水にバラの花びらを浮かべてあげる
「いい香りね」
洗顔が終わったので、ハーブティーを一杯。
給仕が運んでくる朝食のためのテーブルセットの準備っと
「お嬢さま今日はいかがなさいます」
「今日の予定は?」
「午後からダンスとマナー。あと、地政学の予定です」
「そうね午前中は少し書き物をして.その後蔵書庫で調べ物をするわ」
「はい かしこまりました」
給仕のノックの音が聞こえてきた――
うん実に優雅、エクセレント アンド エレガント!
これぞ貴族だよね。
で驚いたことにセシリアお嬢さま意外と常識人。ちゃんとお嬢さましてる。
習い事だけでなく自主的に書き物したり、蔵書庫で本を読んだりと、ほんと勉強家。
そんな子に育てた覚えないのにってね。
『でも透香が作ったんでしょう』
ルナリアAIの素朴な質問
(それはそうだけど自分で作ったゲームキャラでよも、サブの「悪役令嬢」の設定なんて雑にしか決めないものよ)
『ふーん、でも推しキャラだったんでしょう』
「推しキャラ」とかルナリアAIの語彙が上がってる
ちょっと偏り多い気がするけど……
わたしがラーニング元だから仕方ないよね
(推しキャラのゲーム開始前の日常設定なんて、作ってたら愛が重すぎて怖いって)
《この世界のセシリアが透香のゲームキャラと、同一であるとの証明も検証不可能です》
そう その可能性もあるのよね。
(でもね、ここまでいい子なら意外とこのまま破滅ルートとか無いんじゃない)
ええそうです。まさに今、フラグ踏みました。
セシリア様がまともなんて思ってた、そんな時期がわたしにもありました。
フラグ即回収とばかりに嵐はすぐにやってきました。
朝食のあとのお嬢さまの自室
お嬢様はというとお書き物に勤しんでます。
わたしはその側でちょこちょこと花瓶の位置を調整してニッコリ。
午後の予定を反芻してどこにティータイムを挟もうかと思案中。
そんな午前のほのぼの空間に呪詛の声。
音の発信源はもちろんお嬢さま。
ノートを書きながらブツブツと小声でうめいてる。
「あーでも違う」
「ウーンこうじゃないわ」
何やら思案中のご様子
ついには、ウーウーと小さく唸り出す。
心配になりお嬢さまの顔を横からそーっと覗き込んだ。
縦ロールに隠れて見えてない俯いた顔が突然こちらへ横向きにグルン!
(ひっ! ホラ――)
その虚ろな目線はそのままで、書きかけのノートにグルグルと激しく殴り書き! そのままノートを頭上に掲げて真っ二つに引きちぎっちゃった。
「アワワワ!?」
驚いて、尻もちで後退り。
「まずい……まずいのですわ!!」
絶叫お嬢さま現る。
「お嬢様どこか具合でもお悪いのですか?」
気を取り直し立ち上がって、そう聞いてみる。
「具合なんて悪くないわよ!気分は最悪だけどね」
えらい剣幕だ。
「とにかく午後の予定は全てキャンセルよ!」
「対策会議するわよ、ルナリア!!」
「えっええ――何の会議ですか? お嬢さま」
「それは後で説明してあげるから、まずはセバスを呼んで先生方にそのようにお伝えして謝罪しておくように指示なさい」
「セバスさまですね、探してまいります」
慌ててドアに向かおうとすると
「そんなの探す必要無いわよ。どうせどっかで聴いているんだから、セバス! セバス!!」
すると間をおかずドアがノックされた。
「セバスでございます。セシリア様」
お嬢さまがほらねっって顔でドアの方向を顎で指す。
わたしはドアに近寄り、戸を開ける。そこには軽く会釈してるダンディ執事長
「ルナリア、さっきの件セバスに伝えてちょうだい」
セバス様が頭を上げこちらに向く
「ルナリア、報告は迅速かつ手短にだ」
わたしはドアの外にかけてある「静かに!」って書かれた連絡用の小型の黒板を手にする。
「お嬢さま マズイ 今日はお休み 謝って」
――と書いてセバスの前に無言で掲げる。
「うむ承知した。そのように対処する」
「では失礼いたします セシリア様」
お嬢さまは手のひらをヒラヒラと振り、下がりなさいと促す。
「ハッ」と小さく答え、踵を返したセバス様が廊下を数歩進んだかと思ったら、すでに姿も気配も消え去っていた。
(アーネスト家って、どんな秘密機関なのよ)
《魔族領との最前線の土地柄もあるかと推測します》
「そんなところで呆けてないでこっちにいらっしゃい」
「はーい」
呼ばれて犬のごとくお嬢さまのもとにフリフリと戻って
「それでお嬢様何がマズイのでございますか?」
「何もかにもないわよ あなたが原因に決まっているでしょう」
「はい?わたしですか――」
わたし、なんかしでかした⁉︎
「ふぅ」
呆れ顔で小さくため息をつくとわたしに一冊のノートを手渡してきた
渡されたノートを開くとそこには
「大賢者降臨!?」
「血の盟約AAA +++の奇跡」
「あのお騒がせ公爵令嬢セシリア様が大者!!
」
なんてニュースペーパーやゴシップ紙の記事がスクラップされていた。
そのあとのページには「血の盟約」の儀式でのセシリアに関連する、市中の噂などの調査報告書がびっちり貼られていた。
そのほとんどがお嬢さまを褒め称える証言だったけど、中にはとんでもない暴言も綴られていた。
領民38「あんなのが賢者、アーネスト家終わりだろ」[処分済]
領民103「**に刃物ってこのことだろ」[処分済]
(なんか剣呑な鉤括弧内の文字は見なかったことにしよう)
「わかるかしら、あなたの出現はここまで噂になってましてよ」
そして次はこれっともう一冊のノートをわたしに向け手渡してきた。
次は「入学のしおり ようこそ王立サピエンティア・プラム学園へ」のスクラップ
その後に学園に関する記事や書類がまとめられていた。
「そして、これにこれにこれ」
と、どさどさと渡されるノートの束。
「魔法実習の対応と対策」
「スキル披露会の対応と対策」
「ギフト体系学対応と対策」etc
お嬢さま手書きの様々なタイトルのノートだった。
それらをパラパラとめくってみる。
お嬢様、字が綺麗
《王立学園内の講義内容及び各種行事についてまとめられてますね》
パラパラ……
色分けしたり定規で線を引いたり几帳面ね。
《それらに対する分析及び対応・対策方法の検討が主内容ですね》
そしてどのノートも最後のページには、自作なのかセシリアのデフォルメされたキャラが腕で×をだしてる朱色のハンコが押されてた。
カワイイ。 お嬢さま器用ね えらいえらい。
《自己保身の為の隠蔽捏造の計画書と断定》
内容はちっとも可愛くなかったです。
「と・に・か・く このままじゃマズイのよ」
「学園に入学した後、噂とおりに評価賞賛を浴び、高貴なるアーネスト家の威厳を保てるような手立てを、ここひと月、ずっと考えましたの」
(しおらしく勉学に勤しんでると思ってたのに)
「でもダメ。どんなに考えてもわたくしの素晴らしさを皆に伝えられる未来が見つけられないのよ。何故なの、ルナリア!」
《隠蔽捏造を目的とした誤魔化し対策のみですから当然の帰着点と分析》
実に悪役令嬢らしい悪知恵を巡らせてたのね
「とにかく原因があなたにあるのだから、あなたが責任とって何とかなさい」
最後丸投げきた――!
だいたい原因だって、お嬢さまの対ナノマシン抗体が悪いんですよーだ!
口尖らせてたら、指でつままれた。
「言いたいことでもありまして、ルナリア」
「
「そっ! ならいいわ」
もういいです……
……でもね たとえ方向は間違ってても、ひと月も何とかしようと必死に調べて考える努力は素晴らしいと思いますよ。お嬢さま。
「大丈夫ですよ お嬢さま、1人で思い悩まず2人で考えれば……多分……大丈夫です」
「考えるのはあなたよ」
容赦無さがさすがです。お嬢さま。
そんなわけで、午後はお嬢さまの理想の学園生活対策会議です。
《隠蔽捏造誤魔化しの密談が表現として適切です》
……プラム、空気よんで。