『「三日三晩寝ずに働けないバフ師は無能だ」と追放された俺、前世の敏腕コンサル知識を思い出す。~極悪バフでゾンビ化していた聖女様を引き抜き、世界最強のギルドを設立します~』   作:うずつるぎ

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ホワイトギルドの産声

 リアナを勇者ギルドから奪還して、約一ヶ月。

 

 治療院での集中ケアと、俺の前世の知識を絡めた「徹底した栄養管理と質の高い睡眠」という名のホワイトな生活。 

 その甲斐あって、リアナはかつての慈愛に満ちた美しさを完全に取り戻していた。

 

「――穢れし魂に、安らかな眠りを。『ホーリー・パージ』!」

 

 ダンジョン第26層。

 実体のないアンデッド――『レイス』の群れが、リアナの放つ純白の光に包まれ、塵となって消えていく。

 

「ふぅ……。ルーくん、これで全部浄化できたよ」

「あぁ。絶好調だな、リアナ」

 

 桜の花弁を思わせる薄ピンク色の髪をなびかせ、聖印を胸に掲げるリアナの肌は、一ヶ月前が嘘のように瑞々しく輝いていた。

 

 聖女の復活。

 それは俺たちのパーティーに、「アンデッド特攻」という強力な市場競争力をもたらした。

 物理攻撃が効かないゴースト系を浄化できるようになったことで、依頼達成の幅は劇的に広がったのだ。

 

「こっちも終わらせたわよ」

「り、リアナさんの魔法のおかげで楽チンでした……!」

 

 闇に包まれたダンジョン内部の廃都市の奥から、魂の潰えたデュラハンの籠手が転がってくる。

 音の方へと視線を向けると、ルオンとティナが涼し気な様子でこちらへ戻っていた。

 

「よし。今日はそろそろ引き上げよう」

 

 攻略を終え、俺たちは地上へと続く螺旋階段を登る。

 そして地上から差し込む黄金色の陽光を浴び、冒険者協会へ戻ると、ロビーの空気が一瞬で沸き立った。

 

「おい、見ろよ。ラルスのパーティーだぜ……!」

「またゴーストタウンの難関依頼をクリアしたのか。すごいな……」

「俺も美少女どもに囲われてぇよ……頭下げたら入れてもらえねぇかな」

 

 羨望、期待、そして畏怖。

 冒険者協会に居る誰もが、熱に浮かされたような熱烈な視線を俺たちの帰還に向けていた。

 いまや俺たちは、自由都市アエテルナで「最も勢いのあるパーティー」として名を馳せているのだ。

 

 現在の俺たちの評価は、ランクB。

 この都市では、攻略最前線を往く者を『ランクA』、その後ろに続き、最前線に届き得る実力者を『ランクB』と定義している。

 そして、最前線でボスを討ち、道を切り拓く先導者こそが──最高位の『ランクS』だ。

 

「ルーくん、人気者だね」

「まったくだな」

「やっぱりまだまだ恥ずかしいです……」

「視線が鬱陶しいのよ、アイツら」

 

 すぐにでもAランクに昇格すると目される俺たちの周りには、「自分も入れてくれ」と色目を使う冒険者が後を絶たなくなっていた。

 

 ♦♦♦

 

 そしてその日の夜。

 俺たちはいつもの宿屋併設の酒場の丸テーブルでジョッキを傾けていると、ふと、ルオンが、焼いた肉を串から外しながら聞いてきた。

 

「ねえ、ラルス。そろそろメンバーを増やすとか、考えないの?」

「最近色々お話聞きますもんね! 人が多い方がラルスさんにとっても都合が良さそうです!!」

「増員、かぁ……」

 

 ルオンの言葉に、目を輝かせて身を乗り出すティナ。人差し指を白磁のように滑らかな顎に当てて、薄暗い木目調の天井を見上げるリアナ。三者三様の反応を前に、俺は首を横に振る。

 

「今のところ、その予定はない。パーティーが一定人数を超えれば『ギルド』としての法人登記が必要になる。そうなれば、毎月の利益の一定割合を協会に上納しなければならない。……今は経費を抑え、少数精鋭で全員の装備を最高級に整えるのが最優先だ」

「な、なるほど……さすがはラルスさんです!」

 

 感心したように何度も深く頷くティナ。

 と言ったものの、俺の言葉の裏には、もう一つの本音があった。

 

(必ずゼノンを見返してやらなきゃ気が済まない……)

 

 ギルドを大きくして目立つよりも、このままの人数でゼノンの記録を抜き去り、ヤツに決定的な「敗北」を突きつけてやらねばならない。

 そのためには、今の少数精鋭で最前線に踊り経つ方がコストパフォーマンスに優れるだろう。

 

「だから今はまだ──」

「──よし、決めたっ」

 

 とその時、隣に座っていたリアナが不意に立ち上がり、指先を俺の額へと向けて。

 

「ルーくん」

 

 ぺしんっと、リアナが俺の額にデコピンをかました。

 

「……痛っ!?」

 

 反射的に額を抑えて見上げると、リアナは両手を柔らかなくびれを描く腰に当てて、ひまわりのように明るく、それでいて有無を言わせぬ笑顔で言った。

 

「ギルドを作って仲間を集めよう? 私はそうした方がもっとみんなが楽しくなると思うな」

 

 リアナはそう言って、優しくも拒絶を許さない笑顔を向けた。

 

「楽しくなる、か……」

 

 そうだ。

 俺は俺一人の力でここには居ない。

 ならば、俺の目的を追うことも大切だが、仲間のことを想うことも大切だろう。

 ギルドの規模としてもゼノンの奴を越えられるならそれに越したことはない。

 

 俺はリアナの方を見て、大人しく頷いた。

 

「…………はい。わかりました」

「よろしい」

 

 この「お姉ちゃんモード」のリアナには、前世の経営学を動員したとしても、弟に過ぎない俺は絶対に勝てなかった。

 

「……ぷっ。アンタ、案外弱いのね。意外と可愛らしいところあるじゃない」

 

 ルオンが肩を揺らして笑い、ティナも「えへへ、ラルスさんの弱点発見ですね!」と楽しそうにしている。

 

――こうして、俺は翌日、協会へ正式にギルド『白銀の黄昏』の申請を出し、仲間募集の張り紙を掲示した。

 

 ♦♦♦

 

 数日後。

 募集要項を見たという最初の「応募者」と、街の広場にある噴水前で落ち合うことになった。

 

「ど、どんな人が来るんでしょうか……」

「アタシたちの足を引っ張るような奴なら、即不採用ね」

「みんな、固くなり過ぎだよ。笑顔笑顔」

 

 ティナとルオンが身構える中……。

 

「……ん?」

 

 活気に溢れ、色とりどりの旗が揺れる街の人混みを縫って、何かが、高速でこちらに向かってくる。

 

「ラ、ラ、ラ、ラ……ラルス殿ぉぉぉー!!」

 

 現れたのは──忍者か密偵のような装束に身を包んだ、小柄な少女。

 彼女はゴムボールのようにぴょんぴょんと跳ねながら、俺の目の前でピタリと止まり。

 

「拙者、張り紙を見て参り申した! ラルス殿の噂、かねがね聞いております! ぜひとも、マフユを末席に加えてくだされーっ!」

 

 少女はキラキラと琥珀色の瞳を輝かせ、子犬のように激しくマフラーを振っている。

 

 新たなトラブル……もとい、新たな「人財」の予感に、俺はこめかみを指でトントンと叩いた。

 

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