『「三日三晩寝ずに働けないバフ師は無能だ」と追放された俺、前世の敏腕コンサル知識を思い出す。~極悪バフでゾンビ化していた聖女様を引き抜き、世界最強のギルドを設立します~』 作:うずつるぎ
何はともあれ金が必要だ。
冒険者ギルドを後にした俺たちは、まず街の外れにある中古防具屋『鉄槌の亭』へと向かった。
当然すべきは資金調達。ティナの才能を発揮するためのコーディネートだ。
店の扉を潜ると、カウンターに座る偏屈そうなドワーフの店主が鼻で笑った。
「なんだ、その鉄くずを売りに来たのか?」
鉄くず――店主が指差したのは、ティナが抱えるボロボロの重装鎧だ。
「査定を頼みたい」
「フン、傷だらけの安物だ。銀貨3枚ってとこだな」
雑にコインが三枚、カウンターを転がる。
相場の半分以下。典型的な「足元を見る」交渉術だ。
だが、見るからに一文無しの俺たちでは交渉の猶予も……。
「ら、ラルスさん。これじゃあ売ってもお金には……」
「あぁ……いや」
待てよ。
俺の【神の眼(コンサルタント・アイ)】なら、あるいは。
焦るティナを片手で制し、俺は鎧の表面に視線を走らせる。
「……ほう」
情報の「裏」を読み取った瞬間、俺は微かに口角を上げて、店主を見返した。
「店主、嘘はいけないな」
「嘘だぁ? 言いがかりはやめて欲しいもんだぜ」
やれやれと首を振る店主を前に、オレはティナの鎧の裏側に指を添える。
「この鎧の関節部、これには『蒼霊鋼(ブルースチール)』の破片が組み込まれている。磨耗に強く、魔法伝導率も高い素材。……それを見逃すはずがない。そうだろ?」
「なっ……!? なぜそれを……!」
店主はガタリと椅子を鳴らして立ち上がり、目を剥いた。
冷や汗を流す店主を前に、俺は冷徹に続ける。
「さらにこの大盾。表面の傷は深いが、芯材の劣化は最小限だ。修繕すればまだまだ使える。……今すぐ査定結果を改めろ。でなければ他の店に持ち込むが、どうする?」
「う……ぬぅ……」
店主はしばらく俺と、そして俺の指摘した箇所を交互に見た後、がっくりと肩を落とした。
「……チッ、商売上がったりだ。わかったよ、相場にオマケして手を打とう」
「交渉成立だな」
「流石です! ラルスさん!!」
ティナがぱぁっと笑顔を咲かせ、ぴょんと背後で跳ねた。
身長が高い子だが、仕草は小動物のように愛らしい。
「あんた、何者だ?」
「ただのコンサルタントだよ」
「は?」
さて、軍資金は確保した。
俺は中古防具屋で杜撰に並べられた武具を眺める。
俺自身の見識と【神の眼】を使えば、埃(ほこり)に埋もれた「お宝」を見つけることも可能だろう。
「さあティナ。君の新しいユニフォームを選ぼう。まずはこの小型の円盾と、軽量の胸当てだが……」
「……あ、あの、ラルスさん」
俺が装備を手に取った矢先、震える声が割り入った。
見ればティナは、またしても身体のラインを完全に覆い隠すような、分厚い鉄板の重装鎧を抱えている。
そしてにへらと、遠慮がちに口角を引き攣らせた。
「私、やっぱり……こっちの方がいいです。さっきみたいな……」
「却下だ」
俺はティナの手から即座に重装鎧を取り上げた。
途端、彼女は「あぅっ」と身を縮め、バッと身体を覆ってしゃがみ込んでしまった。不思議な子だ。
「ティナ、君の強みは機動力にある。そんな鉄の塊を着るのは、高性能スポーツカーに重石を載せて走るようなものだ。……今の予算で、君の才能を最大限に活かせるのはこれだ」
俺が提示したのは、魔獣の皮を加工した『白銀のインナースーツ』だった。
身体にぴったりと密着し、防御力よりも関節の稼働域と魔法抵抗を極限まで意識したデザイン。
ティナはみるみるうちに顔を真っ赤にし、顔を両手で覆い隠した。
「えっ……!? そ、そんな、こんな……ハレンチですっ!」
なるほど。
この世界の基準でそうでもないと思うのだが、確かに露出は多い。
彼女の言い分も理解できるが、これはあくまで仕事着だ。
「恥じる必要はない。合理性を追求した結果のデザインだ」
「そ、そういう問題では……!」
「君が『一撃も食らわない』という俺の理論を信じるなら、これを着るべきだ。……それとも、またあいつらに『臆病な重装騎士』と笑われたいのか?」
「うっ……。そ、それは……」
ティナは言葉を詰まらせ、視線を床に落とした。
やがて震える手でスーツを受け取る。
「ま、待っててください……っ」
彼女は逃げるように試着室へと消えていった。
「ティナ。そろそろいいか」
数分経ったが返事がない。
女性の着替えは時間がかかるとは言うが、いささか不安が過る沈黙だ。
「まさか倒れてるのか?」
「……も、もう、いいですよぉ……」
隙間風のような声が聞こえたような。気のせいだろうか。
「……おい。開けるぞ」
「へ? や、やっぱりまだ──」
俺は勢いよくカーテンを開いた。
そして試着室に見たのは──俺の想像を遥かに超える、一人の「完成された美女」だった。
試着室の隅で、長い手足を折りたたむようにして三角座りをしているティナ。
プラチナシルバーのボブカットが赤らんだ頬にかかり、瑠璃色の瞳を不安げに揺らいで俺を見上げている。
そしてなにより。
白銀のインナースーツは彼女の豊かな肢体を、無慈悲なほどに強調していた。
重装鎧に押し潰されていた巨乳がその存在を主張し、引き締まったウエストから、モデルのように長い脚のラインが完璧な曲線を描いている。
「…………」
えっっ。
「あ、あのぉ……ラルスさん?」
「ろ」
俺は、言葉を失った。
エロい。いや違うそうではない。
その「造形美」に圧倒されただけだ。
しかし……これほどまでのポテンシャルを、あの薄汚れた鉄板の下に隠していたのか。
「……ろ?」
不味い。ティナが不審げに首を傾げている。
今世の俺は少し煩悩すぎるな。
「そ、そんなに見ないで欲しいです……私、デカいし……こんな、変な身体……」
ティナはおずおずと俺を見上げた。その瞳には自尊心の低さが透けて見える。
変とはなんだ。デカい女なんて最高じゃないか。
「んん゛……あー……」
俺は一つ呼吸を置き、こめかみを掻いて、真っ直ぐに彼女の目を見て言った。
「……その、なんだ。正直に言おう。ティナ、君は……今の姿の方が、何百倍も魅力的だ」
「え……?」
「重装備で自分を隠していた時よりも、今の君の方がずっと綺麗だ」
不安に揺れる彼女の瞳が、止まった。
やがて、その透き通る頬が、耳まで真っ赤に染まっていく。
「……あ、ありがとうございます。……あ、あの、ラルスさん。実は、私……自分の身体が、ずっと嫌いだったんです」
ティナは膝を抱えたまま、ポツポツと語り始めた。
「背も高すぎるし、動くたびに目立つのが嫌で、もっと……他の女の子みたいに、小柄で可愛らしく居たかったんです。重装備を着ていたのは、そんな自分を隠したかったからで……」
「……そうか」
それは、彼女がずっと抱えてきた「呪い」だったのだろう。
自分の本能(回避能力)を封じる重装鎧は、彼女にとっての「殻」だったのだ。
だが、殻はいつの日か破れる。
ティナは赤ら顔で俺を見上げた。
その照れくさそうな笑みは、今日一番の柔らかな笑顔だった。
「でも、ラルスさんに……そう言ってもらえて、すごく……嬉しいです」
「自信を持て。コンサルタントの審美眼に狂いはない」
「はい。私……この格好で、頑張ってみます……!」
買い物を済ませた俺たちは、店を出た。
日は既に傾き始めている。
「よし。今日は解散だ。宿をとって、しっかり休んでおいてくれ。明日の朝、ギルドで落ち合おう」
「はい! ラルスさん!」
元気に手を振って去っていくティナの背中を見送りながら、俺は夕暮れの自由都市を歩く。
行き交う冒険者共はクエスト達成のチラシを片手に協会へ駆け込み、嬉しそうな顔で、仲間と共にその日の成果を金として受け取って帰っていく。
明日のクエストは決まっている。
俺はクエスト掲示板を眺める。
この時間になっても受注されず仕舞いの売れ残り。
『キラー・ビー』の討伐。
他の冒険者が「リスク」と「パフォーマンス」を天秤にかけて敬遠するクエスト。
だが、俺とティナの「回避特化型コンサルティング」なら、損害ゼロ、利益率100%で完遂できる見立ては既に付いていた。
「さて、俺は俺の『理論』で市場を独占させてもらうとしようか」
俺は口元をわずかに歪ませ、夜の街へと歩き出した。