あと突貫で書いたため短めです…。
〔一〕
2008年10月14日。関西国際空港にて。第21期竜王戦七番勝負第一局の開催地がオランダの首都たるアムステルダムに決まったため、パスポートを作った上で連盟関係者と保護者代わりとして月光九段がついてくることになった。師匠たちは行きたがっていたが、その日には師匠の公式戦が被っており、泣く泣く断念していた。
「結理くん、帝位戦お疲れ様。これから竜王戦になって、連続のタイトル戦になるけれど、体調管理とかは大丈夫かい?」
「はい。そこは師匠に強く言われていることですので、自分にできることを徹底しています」
「それなら良かった。清滝さんから『結理を頼んだ』と言われているのもあるし、私個人的にも結理くんを心配しているからね」
やっぱり月光九段は信用できる。理事会の人間は「何故タイトルを獲れなかった!」「やはり『名人』を超えるのは難しそうか…」「期待外れかもしれんな」という叱責しか飛ばさなかったため、もう理事会を信用するのは無理だろう。もうこの人が新しく理事会を率いてくれればいいのに…。
「結理くんは初めての飛行機旅となるだろうけど、緊張はしてないかい?」
「はい!大丈夫です!むしろ楽しみです!」
「そうか。最近休めてないと清滝さんから聞いているから、少しは休めると良いのだけれどね…」
そこも把握されているよなぁ…。現在時点で今年度成績は54局49勝5敗。今回の竜王戦第一局で55局目である。この時点でオーバーワークと言っても過言では無いと言えるのだが…。
「君の調子がこのまま好調をキープしたら80局超えてもおかしく無いからね…少しは休んだ方が良い。そうでも無かったら目隠し将棋でもしようかと思ったけども…今の君には休息が大事だ。盤外の活動にも時間を費やしているのだから…」
「ありがとう…ございます…」
飛行機に乗り込んでから、月光九段から休むよう言われたため、そのまま僕は眠ることにした…。
「君のような若き才能が使い潰されるのを見ているままではいけないな…『名人』や神代くんにも話は通しているし…そろそろか…」
眠る直前、そんなことを呟く月光九段の声が聞こえたような気がした。
〔二〕
2008年10月16日。第21期竜王戦七番勝負第一局。冠位保持者は間宮竜王。冠位挑戦者は僕、天宮 結理七段。現在のオランダ国王陛下が日本文化好きであり、快くアムステルダム宮殿の一室を貸し出してくれたため、今回の会場はアムステルダム宮殿となった。8時42分、僕が下座に座る。それから8分後、間宮竜王が上座に座る。振り駒の結果、奇数局の先手は僕、偶数局の先手は間宮竜王に決まった。
「定刻になりましたので、第21期竜王戦第一局を開始致します」
『お願いします』
戦型は角換わりで進んだ。互いに矢倉に囲い、細かい攻めを繰り返す。1筋・2筋への攻撃をしたところで1日目が終了。封じ手は間宮竜王がすることになった。僕ならば大規模攻勢の布石をするところだが、果たして…?
「『名人』とのタイトル戦とは違った感覚だな…」
「名人」との戦いでは盤上真理に伴う最善手を求められるが、間宮竜王との戦いではいかに相手を倒し切る手を模索できるかを求められる。間宮竜王はとにかく戦いが好きな人であり、いかに受け切るかが鍵を握る。
「師匠から受け継いだ『鋼鉄流』、ここで使うときが来たか…」
そして2日目。封じ手を聞いたとき、僕は呆然とした。
「封じ手は、1六桂です」
それは、僕が一番「ない」と思った一手。可能性が無い訳ではない。その手が一番勝利に繋がらないと思った一手だったのだ。僕は呆然したと同時に怒りを覚えた。「名人」との将棋はこんなモノではなかった!戦々恐々とした思いと、プレッシャーを背に抱えて戦ったあの七番勝負は「文字通り」命を懸けた戦いだった!僕の指す手が段々と強くなるのを感じる。そんな手で僕に勝とうと思っていたのか?ふざけるな!「名人」は緩手など決して許してくれなかったぞ!その勢いで、僕は間宮竜王に一切攻撃の手を許さず、投了に追い込んだ。
「天宮七段、まずは一勝おめでとうございます。今回の対局はどこが勝負の分かれ目だったのでしょうか?」
「はい。封じ手であった1六桂が気になりました。そこから私が主導権を握ることができたため、そこが勝因だったのかもしれません」
悪い意味で興奮してしまっている僕は、少々強い言葉で返してしまう。
「間宮竜王お疲れ様でした。どこが敗因だったのでしょうか?」
「そうですね…。封じ手で天宮七段の虚を突く作戦だったのですが…そこから形勢が天橋七段に傾いたのは、私の作戦負けだったかもしれませんね…」
あの封じ手が作戦と言われても、あまりにも杜撰だと言わざるを得ない。…負けてたまるもんか。
〔三〕
それからと言うものの、僕の快進撃は続いた。
第二局。群馬県草津にて。僕のダイレクト向かい飛車で間宮陣を粉砕し、間宮竜王の攻撃を一切許さずに圧勝。2勝0敗。
第三局。大分県別府にて。間宮竜王の一手損角換わりで進行したが、間宮竜王の詰めろに対して僕が限定合駒に成功。その後の僕からの攻勢に耐えかねて間宮陣が崩壊し勝利。間宮竜王をカド番に追い込む。3勝0敗。
そして、第四局。奈良県橿原にて。
「むぅ…」
「……」
間宮竜王の先手で始まり、横歩取りで進んだ本対局。間宮竜王は果敢に攻めるものの、僕は師匠から受け継いだ「鋼鉄流」で完璧に凌ぐ(師匠が教えてくれた訳では無い、僕なりに師匠の指し方を理解したのだ)。間宮竜王の攻めが途切れたタイミングで僕が攻勢に出る。同時に僕は「あぁ、これが『名人』だったら話は違ったのだろうなぁ」と思ってしまった。間宮竜王が弱い訳では無い。「名人」と比較してしまうと、大概の棋士が異なって見えてしまうのだ。僕の将棋に対する熱量が「名人」のそれと似ている、ということなのだろうか?
「負け…ました…」
「…ありがとうございました」
いつの間にか間宮竜王が投了していた。やはり僕が本当の意味で戦えるのは「名人」だけなのか…?
第21期竜王戦七番勝負結果
冠位保持者:間宮 彰竜王 0勝4敗
冠位挑戦者:天宮 結理七段 4勝0敗
天宮七段の竜王奪取(初獲得)
こうして僕は史上初の小学生タイトルホルダーになったと同時に、八段に昇段した。
〔四〕
僕が竜王になったからといって、対局は待ってくれない。12月8日。玉将戦挑戦者決定リーグ最終局。現在5勝0敗の僕は、現在4勝1敗の生石盤王と対局することとなった。
「竜王獲得おめでとさん、坊主。どうやら盤王戦で戦うことになりそうじゃねぇか」
「ありがとうございます。とはいえ相手は『名人』なので侮れませんよ」
僕は盤王戦挑戦者決定トーナメントでも勝ち進んでおり、挑戦者決定二番勝負にて全勝側として1敗側の「名人」と対局することとなっている。
「全部相振りの番勝負ってのも悪くねぇと思わねぇか?」
「それはアリですね!是非とも盤王戦で戦わせていただきますよ!」
この対局は僕が勝利した。盤王戦挑戦者決定二番勝負でも僕が勝利し、第58期玉将戦と第34期盤王戦の挑戦者は僕、天宮 結理竜王となった。玉将保持者は「名人」、盤王保持者は生石盤王である。
「結理…対局数がありえんぐらい増えとるが…大丈夫か?」
「正直キツいですね…免状のこともありますし、時間を練って解消はしていますが…マズいかもしれません…」
現時点での対局数は74局。竜王になったこともあり、僕は「アマチュア棋士免状」に署名する必要がある。ただでさえ理事会の人間はタイトルホルダーになった僕を忙しなく働かせるものなので、最近は学校にほとんど行けてすらいないのである。
「やっぱり月光さんと共に動くときか…結理、ワシらに任せとき。どうにかしてみせるわい」
「師匠…?」
年が明けた2009年1月上旬。玉将戦第一局まで対局が無い僕は、相変わらず免状署名に駆り出されていたが、急遽臨時総会が開かれることとなった。師匠や月光九段、更には「名人」までも動いていた。
「今の理事会の不明瞭な資金移動や、天宮竜王をはじめとするタイトルホルダーへの過剰な労働、若手奨励会員への記録係強要…これをどう説明するつもりですか?」
「そんなのはデタラメだ!証拠は一体どこに———」
「証言や音声記録等が完全に一致しておるわい!もう言い逃れは出来んで!」
「クソッ…」
その結果、今の理事会は解散。新会長に月光九段が就任した。師匠は普及担当理事補佐となっていた。どうやら月光新会長は師匠にもう少し上の役職に就いてほしかったらしいが…。
「結理くん。君はまだ義務教育が残っている学生だ。少なくとも成人するまでは極力業務量を減らすことにするよ」
「結理にはのびのびと育ってほしいからな!」
「ありがとうございます…師匠…会長…!」
もう僕はこの人たちに足を向けて眠れないな…。
〔五〕
その後、僕は快進撃を続ける。
第58期玉将戦七番勝負結果
冠位保持者:「名人」 1勝4敗
冠位挑戦者:天宮 結理竜王 4勝1敗
天宮竜王の玉将奪取(初獲得)
第34期盤王戦五番勝負結果
冠位保持者:生石 充盤王 1勝3敗
冠位挑戦者:天宮 結理竜王 3勝1敗
天宮竜王の盤王奪取(初獲得)
玉将戦と盤王戦、どちらも番勝負を制し三冠王となった僕は、タイトル3期獲得により史上最年少にして史上初の小学生九段となった。また、これによりタイトルホルダーが西の僕(竜王・盤王・玉将)と東の「名人」(名人・帝位・玉座・棋帝)の2人だけになった。
「将棋大賞最優秀棋士賞受賞、天宮 結理竜王」
そんなこともあり、長年「名人」が獲得していたその賞は僕が獲得することとなった。「名人」を差し置いて自分が獲得するというのは少しモヤモヤしたが、今回優秀棋士賞を獲得していた「名人」が、「今年度は結理くんが獲得するのが相応しいよ」と後押ししてくれたこともあり、僕は晴れやかな気持ちで受賞することとなった。
2008年度タイトル戦並びに一般棋戦結果
・タイトル推移
名人戦:「名人」(防衛)
棋帝戦:「名人」(防衛)
帝位戦:「名人」(防衛)
玉座戦:「名人」(防衛)
竜王戦:間宮 彰竜王→天宮 結理竜王(奪取)
玉将戦:「名人」→天宮 結理玉将(奪取)
盤王戦:生石 充盤王→天宮 結理盤王(奪取)
・一般棋戦及び新人棋戦優勝者
毎朝杯:天宮 結理竜王
星雲戦:天宮 結理竜王
公共杯:天宮 結理竜王
SB杯:「名人」
新鋭戦:天宮 結理竜王
第36回将棋大賞(表彰対象:2008年度)(一部省略)
最優秀棋士賞:天宮 結理竜王
特別賞:なし
優秀棋士賞:「名人」
敢闘賞:生石 充九段
勝率一位賞:天宮 結理竜王(0.906)
最多勝利賞:天宮 結理竜王(87勝)
最多対局賞:天宮 結理竜王(96局)
連勝賞:天宮 結理竜王(31連勝)
名局賞:第49期名人戦第七局
「名人」VS天宮 結理七段(当時)
王位戦は藤井王位の防衛劇がさすがでしたね!
王座戦も波乱の展開で作者はワクワクしております…!