偽典・蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ106期小話 作:マーケン
せっちゃんことセラス・柳田・リリエンフェルトは花粉でむずむずする鼻を余所に、ふと重大なことに気付いてしまった。
せっちゃんって言ってくれる人おらんくね?と。
ついこないだまでは幼馴染みである花ちゃんこと日野下花帆先輩が呼んでくれていたけど、卒業してしまった今、誰もせっちゃんと呼ぶ人がいない。
せっちゃんこと、なんて言って誰も呼んでくれないとか余りにも寂しすぎる。女性声優の初期の渾名がある程度経つとから誰も使わなくなるくらいの寂しさだ。
「かくなる上は後輩に呼ばせるか」
いや、だがしかしセラス"先輩"呼びはそれはそれで需要があるのだ。主に私の。
「どうされました?セラス先輩」
「せっちゃん、ね」
「はい?」
思い立ったが吉日。善は急げと私は早速部室に来ていた新入生を捕まえた。
先週は体験入部第一陣が終わり、順次第二陣、第三陣進めている。主に三年生が対応しているので私や泉は店番もとい部室番を交互にやっている。
そんな所に入部届を持ってきてくれたのが赤毛の似合う錦上マイカちゃんだ。
「せっちゃんことセラス・柳田・リリエンフェルトですから、是非せっちゃんと呼んでね」
「いきなり新入生に課すハードルではないとおもうのですが?」
ちょっと遠慮気味に、でもしっかりと自分の意思を伝えるあたり覚悟が出来ているようで何より。
「では柳田で」
「もっとハードル上がった!」
「呼び捨てでも愛を込めてだよ」
ぐぬぬ、と言いたげな表情をして迷っているマイカちゃん。結構表情に出やすいタイプなのかも。
まだまだ後輩ちゃんのことを知らないから少しでも交流機会は増やしたいと思っていたのだ。
「あーあ。花ちゃんは呼んでくれたのになぁ」
「日野下花帆先輩が?」
「そうだよ」
この子は自己紹介の時に花ちゃんのことが気になっている、と言っていたので試しに名前を出すと見事に食い付いた。
「・・・柳田」
「そっちかーーーい」
「注文が多いですね。とにかく入部届持ってきたので受理お願いしますね」
マイカちゃんはそう言って入部届を私に突きつけるとそそくさと部室から出ていってしまった。
「やってしまった」
後輩が出来るということにテンションが上がりついついやってしまった。
ノリが良い、とかボケ担当、とか言われるが実際人との距離の掴みかたを誤魔化しているだけだと自覚している。私はこういう感じだから合わせてくれよな、と相手任せにしているのだ。悪いクセだ。
「せっちゃん先輩、マイカ捕まえましたけど、この子入部届だしました?」
どーしよー、と思っていた矢先にマイカちゃんと腕を組んで令沢葵ちゃんが部室にやってきた。
「グッジョブ」
とつい反射で軽いノリを決めてしまう私であった。