偽典・蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ106期小話 作:マーケン
戻った日常とは現実を直視することに他ならない。
夏休みの宿題、はまだ大丈夫。最悪やらなくても生きていける。だけど新曲はできなければスクールアイドルライフは終わりを迎える。まあ大袈裟に言っているだけだけど。
ただ期日に間に合わせる、というのは創作において案外馬鹿にできない。拘った結果、いつまでも完成しない、世に出せない。そんな作品が星の数ほどあるのだ。
競技大会ルールとしてのスクールアイドルは3年間という限られた時間しかないのだ。エタルことは許されざる蛮行なのだ。
まぁ、みおんちゃんだけなら付きっきりで作業しているだろうけど、セラス後輩がいる。しばらく2人に任せていざとなったら手伝う。去年のさやか先輩のお手伝い禁止事件をつい思い出してしまう。
「小鈴、ちょっといい?」
「どうしたの吟子ちゃん?」
徒町は徒町で全員曲の制作を中心に動いている。
元々制作途中で止まっていた曲をベースに各々のユニットで編曲し、それをぶつけ合って一曲に纏めるというのが今回の手法だ。ただ、ちょっと行き詰まってて部室で頭を悩ませていたところに吟子ちゃんがやってきた。
「ちょっと今度のFes×LIVEのことで調べ物しててね」
「というと?」
吟子ちゃんは語った。
卯辰山や鼓門と違って徳光海岸は蓮ノ空がライブするには遠いし、金沢と連想できるほどの知名度は鼓門ほどはない。それなのになぜそこでライブをするようになったのか?
その理由を探して過去の活動記録を調査したところ、理由は分からないながらやるようになったのは恐らく2021年からだと判明した。あの目立つフォトスポットの#LOVEが設置されたのと同じ年だ。
「で、その当時のことを知っている先輩に聞いてみて欲しいなって」
「つまり?」
「大賀美沙知先輩」
2021年はなるほど。101期生が入学した年なのだ。
大賀美沙知先輩は私達と入れ違いに卒業していった先輩なので本来はそこまで接点がないのだけど、昨年度沙知先輩が蓮ノ空を訪れた際に関係が生まれ徒町は修行をつけてもらったのだ。Bloom Garden Partyにも手伝いに来てくれたし、大変お世話になっている大大先輩なのだ。
「でもなんで私が?」
「私達の中だと一番関係が深いでしょ小鈴は。それこそ直接指導してもらってたし」
「それもそうだね。連絡取ってみるよ」
このやりとりのあと私は沙知先輩にメールを送ったところ、返事が来たのは夕食を食べた後だった。
「すまないね。ようやく時間が取れたよ」
「いえ。お忙しいところ恐縮です」
長くなるから電話で、ということだったけれど答えはシンプルなものだった。
フォトスポットが新しく出来たから便乗したという、ただそれだけのこと。けれども、やったことのない場所でのライブを一から組み立てる苦労話。沙知先輩とそのさらに先輩のドタバタ劇がすごく楽しそうで、便乗した、のひと言に沢山の想いが込められているのだと実感した。
「・・・小鈴にも後輩ができたんだねぇ」
「はい。スクールアイドルクラブに今年は3人も後輩ができました」
「うん。ああ。スクールアイドルを存分に楽しんでくれよ」
「はい。沙知先輩もまた蓮ノ空に顔出してくださいね!」
それはどうしようかな、なんてはぐらかされたけど沙知先輩が嬉しそうな声をしていたのは分かる。
育み、旅立ち、時には羽休めには立ち寄れる、そんな蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブをこれからも繋げていきたいと徒町はそう思った。