偽典・蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ106期小話 作:マーケン
人に何かを教えるのは難しい。教えるには自分の理解力が人の3倍は必要だと言われている。もっともこれは明確な解法があるものの場合だ。
なら私も答えを持ち得ないものについて、誰かを正解を導くにはどうしたらいいのだろうか?
正しい方法は分からない。もしかしたら正しい答えなんてものはそもそもないのかもしれない。だから私にできるのはただ一緒に悩んで迷って答えを探すことしかない。
「それで、今日はどこに行くの?」
新しい曲の歌詞が出来たということで気分転換にと街に出ようと、つまりはデートしようと誘い、そのプランをマイカちゃんに一任していた私は、いよいよ迎えたデート当日、市内へのバスの中そう尋ねた。
お澄まししていればクールで可愛らしい顔つきのマイカちゃんは眉間に皺を寄せてジト目で私を見つめ返してくる。誘ったクセに計画を一任するとは何事だと批難しているようだ。
「先ずは映画を観ます」
「うんうん。デートっぽいね」
「それ、誰から影響受けたんですかね?」
全くもって心当たりはないけれどこういう言い回しで相手の反応を見るというのは存外楽しいものなのだと、今更ながらに去年までいた直属の先輩の気持ちを理解した。花帆先輩はよく遊びに行くということをデート、デートと楽しそうに言っていた。
「スクールアイドルの端くれ。世間の話題は抑えておきたいですし、ちいかわを観ます」
公開して少し経ったから今なら空いているだろうという計算らしい。
「ちいかわってキャラクターだけのものだと思ってたけどストーリーがあるなんて私知らなかった」
「同感です。SNSの反応を見るにどうやらダークファンタジーの様ですね」
「あのビジュアルで!?」
「ええ。そうとしか思えません。それで映画を観たあとは近江町市場に行ってお昼にしましょうか」
「そう言えばこないだ小鈴が手伝いに行ってたってね」
「はい。なのでちょっと様子を見がてら、ですね」
「海鮮の写真とか美味しそうだったもんね」
実際、もう少し足を延ばせば値段を抑えられるお店もあるのだけど立地が良いのはこちらなのだ。それにお世話になっている人達もいる。
「ところでそれぞれ行くところは理由があって選んでいるようだけど、マイカちゃんが行きたいから行くってのはないのかな?」
「いや、そもそも百生部長が誘ったんですし」
「それは置いておいてさ。必要だから、誰かがそうしたそうだからっていうんじゃなくて、マイカちゃんが自分の気分でどうしたい、何したいっていうのを選べるようになって欲しいんだ」
受動的に、自動的に、自分という個性を均して過ごしていたマイカちゃんは選ぶ、人を付き合わす、ということが殆ど無い。だからこれも一つの練習だ。
「作詞と同じ、自分を出力するっていうことだよ」
「それでしたらーーーーー」
「あ、帰るってのは無しね。戦略的撤退以外は敵前逃亡だから」
「ちょっと動きながら考えます」
ますます表情を歪めてマイカちゃんは黙りこくった。
今更2人にで沈黙の時間があっても気不味いということはない。
マイカちゃんのエスコートが楽しみだな、とバスの揺れに身を任せて私は目を閉じた。
今日明日は結女体育祭に行きます